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なぜアメリカはイスラエルを支持するのか

 2008年末イスラエルはガザに攻撃を加え民間人を1300人以上も虐殺した、明らかにこれは国際法違反の戦争犯罪行為であり、国家間紛争といえども他国から非難されるべき酷い行為だ。事実、国連、アラブ諸国、EUの所属国など世界の国々はこれを厳しく批判している。これだけ批判があれば貿易制限などの国際圧力につながり、それによってイスラエルはこんな酷い行為はできないはずだ、またパレスチナ難民の帰還権を認めるなど本当に意味で和平に前向きになるはずだ。

 1948年に建国されたイスラエルという国家の存在は今や当たり前のように思っている人も多いが、実際には常に世界中からその国のあり方自体の大方針が問われてきたと言うべきだろう。だがイスラエルはそれらの批判に応じず、表面でだけ和平と言いながら、実際行ってきたのは自国領土の拡張とパレスチナ人の殺害だけだったろう。

 それを支えているのが、アメリカの強い支持だ。アメリカは世界でただ1国のみ強くイスラエルを支持している。超大国アメリカの影響力は絶大で、イスラエルを非難する世界の流れを妨げている。このアメリカのイスラエル絶対支持の方針は、黒人大統領として平和的・協調的外交を行うと期待されているオバマ大統領でも同じだ。オバマは「イスラエル自衛権を認める」としか言わず2009年にイスラエルがガザで行った虐殺を支持している。これはどう見てもおかしい。

なぜアメリカはかくもイスラエルを強く支持するのか。

<テーマ:なぜアメリカはイスラエルを支持するのか>(講師:高橋和夫
 この疑問に対し放送大学番組「現在の国際政治〜9.11後の世界」第3回放送「アメリカの中東政策」(講師:高橋和夫教授)で、上記が直接的に説明されているのでここに記す。この放送は誰でも無料で視聴できるものであり年間4回程度繰り返し放送されている。元番組を見たい方は放送大学HPで放送スケジュールを確認してほしい。

(1)イスラエル支持はアメリカの中東政策の中でも矛盾している

アメリカの中東政策の歴史的展開>
 アメリカが中東に深く関与するようになったのは第2次世界大戦後であり、イスラエルを強く支持するようになったのは1967年の第3次中東戦争後である。3期に分けその目標と様相を示す。
1:冷戦期(1945〜1989)
(目標1)ソ連の封じ込め(冷戦の中東での展開)
(目標2)石油の確保(アメリカの石油の大量消費国であり中東からも輸入する必要がある)
(目標3):イスラエルの安全保障(理由?)
実際の様相はこの3つの政策に整合性がなくアメリカの中東政策は右往左往していた。イスラエルの安全保障を保とうという政策はアラブ諸国との衝突を招き石油確保を難しくした。一方石油確保のためアラブ諸国との融和にもアメリカは努力した。


2:冷戦後(1990〜2001)
(目標1)石油の確保
(目標2)イスラエルの安全保障
ソ連の崩壊で目標は2つになった。しかしそれが矛盾しているのは以前のまま


3:9.11後(2001〜)
(目標1)テロ組織の壊滅(アフガニスタンにいるアルカイダの壊滅)
(目標2)大量破壊兵器の拡散の阻止(核兵器がテロ組織に渡る事を憂慮)
(目標3)石油の確保
(目標4)イスラエルの安全保障
2001年の9.11テロの後、アメリカを脅かすアルカイダが中東地域にあり、アメリカの世界に対する安全保障政策が、アメリカの中東政策と重なるようになる。

(2)なぜイスラエルの安全保障がアメリカの中東政策の柱なのか?

 答え:それがアメリカの国内問題だから。イスラエルの安全保障を熱く求めるユダヤ・ロビーとキリスト教原理主義の存在がアメリカ国内にあり、アメリカの政策は中東諸国との関係ではなく国内のそれに動かされている。

理由1:ユダヤ・ロビー(イスラエル・ロビー)という存在

 アメリカは1948年イスラエル建国後即座に承認した。当時のトルーマン大統領は選挙で選ばれた大統領ではなく選挙に不安を抱いていた。トルーマン大統領はアメリカ国内のユダヤ人の支持を求めてイスラエルを承認した。アメリカでは国連でのイスラエル非難決議が議題にあがるなどイスラエルの危機の時には、イスラエル支持を訴えるデモがいつも見られる。


アメリカのユダヤ人に詳しい佐藤雅行教授(独協大)のお話>

Q:アメリカのユダヤ人の政治力は実態としてどれ程か?
A:その中心はユダヤ・ロビーと言われる団体だ。その中で最も強力なのがAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)。
 その力量はアメリカの高名な学者が全連邦議員の70〜80%がAIPACの臨むことなら何でもすると言っているので示される。実際AIPACは連邦議員の70〜80%を味方に巻き込み、自分たちの望む通りの法案審議を導いてきた。力量を示すもの2:イスラエルへの援助関連の法案。アメリカの世界各国への経済援助・軍事援助の20%強は世界人口の0.1%に過ぎないイスラエルに集中している。これがその実力の証拠だ。力量を示すもの3:歴代大統領が国際的に孤立をしているイスラエル支援をし続けていること。1982年以降安保理決議に出されたイスラエル非難決議に32回も拒否権を発動し葬った。


Q:なぜそんなに影響力があるのか?
A:ユダヤ・ロビーの力の源泉は3つだ
(1)情報提供能力とそれによって築いた議員とのコネクション:ユダヤ・ロビーにはアナリストが多数所属する。連邦議員(アメリカの国会議員)が国会審議で必要な情報をたちどころに提供する、議員は独自の調査を省きロビーの情報を利用するのが当たり前の習慣になっている。ロビーは法案や演説原稿作成にも参加している。ロビーは年間2000回も議員と会合をし130件の法案作成に関与している。
(2)集金能力:ロビーの多くは資金調達機関だ。集めたその資金を軍事・外交関係の議員に集中的に配分している。集金力の源は古来からのユダヤ人の集金ネットワークと全米屈指の大富豪が多いことだ。2003年で全米トップ100の金持ちの34%はユダヤ人だ。
(3)議席追い落としキャンペーン:ロビーは全議員の親イスラエル度を得点化し、非イスラエル的な議員には態度を改めるよう申し入れる。それでも言う事を聞かぬと選挙で反対候補を立て追い落とす事を行っている。これを長年やった結果、非イスラエル的議員は姿を消した。


Q:ユダヤ・ロビーは絶対なのか、破れた事例は?
A:無敵と思えるユダヤ・ロビーだが度々これまで敗北をしている。例:2000年春、イスラエル製ファルコン戦闘機の中国への輸出問題。イスラエルには多大な利益だが、アメリカにはファルコン戦闘機に含まれるアメリカの軍事情報の持ち出しになる。アメリカ議会は強く反対しアメリカ政府はイスラエルに売却案件を破棄するよう説得をした。
 つまりユダヤ・ロビーといえども絶対ではない。ロビーの力は強いがそれだけでアメリカの中東政策が決定される訳ではない。ロビーはアメリカの政治決定の様々な要因の、強力ではあるがその一つに過ぎない。ロビーの力は、職業的な反ユダヤ主義者が言うような国際政治を動かすという絶大なものではない、さりとてロビーのスポークスマンが言うような控えめな姿ではない。実像はその中間にあると言うべきだ。


(上記の参考データ)アメリカでのユダヤ系人口2%にすぎぬ→投票の重さ4%(投票率の高さによる)→その結果のユダヤ系下院議員の数5.9%→上院議員11%→アメリカの世界への軍事・経済援助中のイスラエルの割合20%(2006年)。大統領選挙での状況:大統領選挙人の多い上位10州とユダヤ系の多い州→ユダヤ人は人口の多い州に多く多くは重なっている→選挙が接戦になればなるほど候補者はユダヤ系人口が大事になる



理由2:イスラエルを支持するキリスト教原理主義団体という存在

 アメリカでイスラエルを支持する存在にキリスト教原理主義がある。彼らは特定の宗派ではない、一般にキリスト教右派キリスト教保守主義とも呼ばれる。


アメリカのキリスト教原理主義に詳しい中山俊宏教授(津田塾大)のお話>

Q:キリスト教原理主義ってどういう人ですか?
A:アメリカから古くある存在。聖書を文字通りそのまま信じる人たち。進化論を否定する。ただ幅があり進化論の解釈で神の意志を認める立場のものだ。

Q:アメリカは世俗的な国だと思うのですか?
A:アメリカ国民は先進国の中で最も信仰心の厚い国民と言える。近年特に宗教への回帰が見える。60年代以降同性愛、女性の地位向上など旧来の価値観が変わり、既存の価値観が脅かされたと感じた人が回帰している

Q:キリスト教原理主義アメリカに何人位いる?
A:宗派で分類できない。研究者の共通見解として人口の40%程度が妥当だろう。

Q:キリスト教原理主義はなぜイスラエルを支持するのか?
A:聖書を信じる事から。彼らは今のイスラエルを聖書の中の記述と重ねあわせて見ており、イスラエル国家の行動を聖書の実現と見なして、その支持をアメリカ議会に働きかけている。

Q:政治的活動が活発になったのはいつ頃からか?
A:キリスト教原理主義が政治場面に現れたのは1970年代以降だろう。保守主義が自分たちの補強のためキリスト教原理主義を取り込んだ。本来キリスト教原理主義者は政治に関心がなかったが、保守主義者が政治活動に取り込むため中絶問題を具体例にあげて活動し、成功した。保守レーガン政権誕生に貢献する影響力を示した。
 当初イスラエルは目立つテーマではなかったが、1990年代入ってからイスラエル支持が言われるようになり、ブッシュ政権以降政治的影響力を発揮するようになった。ただし完全にアメリカ政治を支配している訳ではない、影響力のある一つの団体とみなすべき。

(3)結論(ロビーは陰謀論でも無力でもない)

 アメリカの強固なイスラエル支持は、アメリカの国内の政治の結果だ。それは「イスラエル・ロビー(ユダヤ・ロビー)」と「キリスト教原理主義者」という2つの強い政治的影響力をもつ集団の政治活動の結果だ。イスラエル・ロビーの力は絶大だが、あくまでアメリカの政治的要因の一つであり絶対ではない。従って「ユダヤ人が世界を支配している」などといういわゆる陰謀論ではない。しかしイスラエル・ロビーのいうように大人しい、普通に人権を守るだけの自然な存在ではない。


web上で読めるイスラエル・ロビー分析

 講義中でも触れられたイスラエル・ロビー分析をした政治学ミアシャイマー&ウォルトの見解は2006年英国高級誌に論文が掲載され、2007年にはアメリカで書籍となり、2007年末には日本でも講談社から翻訳・出版されている。これらの概要は以下のweb記事で読むことができる
◆元論文「The Israel Lobby」John Mearsheimer and Stephen Walt, 23 March 2006, London Review of Booksm Vol.28 No.6、
要約 (http://www.lrb.co.uk/v28/n06/print/mear01_.html)全文(http://ksgnotes1.harvard.edu/Research/wpaper.nsf/rwp/RWP06-011
◆その紹介記事「米アカデミズムが警告した「イスラエル・ロビーの脅威」2006/03/28 成沢宗男(http://www.news.janjan.jp/column/0603/0603271488/1.php
「論文の主な内容は、以下の4点に要約されよう。(1)ホワイト・ハウスと議会がイスラエル・ロビーに牛耳られ、米国が反対するため、イスラエルは国連や国際社会からのあらゆる批判から免除されている。(2)イラク戦争の決定においてイスラエルイスラエル・ロビーの圧力が唯一の原因ではないにせよ決定的であった。(3)米国はイスラエルに他国を圧する援助をしているが、イスラエルは米国の利益に沿う忠実な同盟国と言えず、米国の価値と相容れない矛盾した存在だ。(4)米国のイスラエル支持は反米テロリズムを激化させ対テロ戦争への勝利をより困難にしている。」
◆論文の日本語訳(個人ブログ)「ミアシャイマーとウォルトのイスラエルロビー批判論文の日本語訳part1〜part8」(http://blog.goo.ne.jp/princeofwales1941/c/1b69900c82ac358bba454e40e83ce46d
田中宇氏の受売りになるが、彼ら(米国のユダヤ人)はイスラエルをわざと滅亡させようとしているように思われる。アラブ諸国の憎悪に包囲されたイスラエルという国には未来がないことを考えて、余力のある今の内にイスラエルをわざと滅亡させ、イスラエルユダヤ人の未来を切り開くことがその目的だろうと想像する。具体的には世俗的なアシュケナジーが欧州に移住し、アラブ諸国などを出身地とする非世俗的なスファラディパレスチナでアラブ人と共に暮らすか、あるいは中近東・北アフリカなどで別の安住の地を探すことになるのだろう。」
◆論文を読んだ人(安部芳裕氏)のメモ(http://d.hatena.ne.jp/rainbowring-abe/20060714
「・中東地域での米国の政策の要点は、ほとんどすべてがイスラエル系圧力団体の活動に由来している。
イスラエルロビーは、米国とイスラエル国益が本質的に同一であるとアメリカ国民に信じこませた。
・AIPACの成功は、国会議員と議員立候補者のうち、AIPACの政策を支持する者には“資金”を与え、反対する者にはその対立候補に“資金”を与えて、敵対者を懲らしめることができるという能力に起因する。
・AIPACが米国議会に圧力をかけた結果、議会では米国の対イスラエル政策が、たとえ全世界に重大な影響をおよぼす場合ですら議論されない。
イスラエルロビーのために、米国はイスラエル占領地の拡張を可能にする元凶となってしまい、パレスチナ人に加えられている犯罪行為の共犯者となってしまった。
イスラエルが占領地の拡張やパレスチナ人への人権侵害をおこない、国連で問題になっても、イスラエルロビーがホワイトハウスと議会を牛耳っているため、イスラエルはあらゆる批判から免れている。
・米国はイスラエルに特待的な援助をしているが、イスラエルは忠実な同盟国として行動していない。
イスラエルを支持することは、反米テロリズムを激化させ、対テロ戦争への勝利を困難にしている。」
パレスチナ問題をよく知るジャーナリスト土井敏邦氏による本の要約(1)〜(10)
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080322.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080418.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080419.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080427.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080430.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080515.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080614.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080627.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080807.html
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080910.html



(参考図書)

イスラエル・ロビー(ユダヤ・ロビー)などを知る参考書には以下のようなものがある
イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策1&2 ジョン・J.ミアシャイマー&スティーヴン・M.ウォルト 講談社 2007=番組内でも述べられている政治学国際権威による信頼性の高い書
神の国アメリカの論理:宗教右派によるイスラエル支援 上坂昇 明石書店, 2008=アメリカのキリスト教原理主義の様子
・カーター、パレスチナを語る:アパルトヘイトではなく平和を ジミー・カーター 晶文社 2008=イスラエル・ロビーと対立すると議員は続けられないと述壊
ホロコースト産業:同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち ノーマン・G.フィンケルスタイン 三交社 2004=イスラエル・ロビーの文句のつけ方


◆佐藤雅行教授(独協大西洋史)著書には以下のようなものがある
・「アメリカはなぜイスラエルを偏愛するのか」ダイヤモンド社, 2006
・「アメリカ・ユダヤ人の政治力」 PHP新書, 2000
・「アメリカのユダヤ人迫害史」 集英新書 2000
・「アメリカ経済のユダヤ・パワー」 ダイヤモンド社, 2001


◆中山俊宏教授(津田塾大)著書には以下のようなものがある
・「アメリカにおける保守主義台頭の力学〜『アイディア』の戦略的動員」収録:久保文明編『G・W・ブッシュ政権アメリカの保守勢力』(日本国際問題研究所、2003年)
・「アメリカにおける保守主義運動の持久力とその限界」収録:山本吉宣・武田興欣編『アメリカ政治外交のアナトミー』(国際書院、2006年)
・「米国保守派、苦悩の時代へ--レーガンの不在と思想基盤の揺らぎ」雑誌「中央公論」 [2007年7月号]