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イスラエルを批判する普通の日本人は反ユダヤ主義者なのか?

反ユダヤ主義の歴史」(筑摩書房)という大部の書物を書いたユダヤ系フランス人のレオン・ボリアコフはシオニズムとは反ユダヤ主義の言い換えであると結論し、各国で反ユダヤ主義が絶えないとしている。その中には日本も含まれている。ではアメリカの反ユダヤ主義研究者は日本のどういう意見を、また日本の誰を反ユダヤ主義者と判定しているのだろうか。以下は「ユダヤ人陰謀説:日本の中の反ユダヤと親ユダヤ」(デイヴィッド・グッドマン&宮澤正典、講談社 1999年)より抜粋しつつ示す。


グッドマン教授は1946年米国生まれ、イリノイ大の日本文学専攻の教授。妻は翻訳家の藤本和子。宮澤正典は日本人のユダヤ人認識を研究をしている同志社大教授。グッドマンと宮澤はイスラエル・ロビーであるADLや全米ユダヤ人協会の支援をうけてシンポジウムなどを開いている。


グッドマン教授らは冒頭反ユダヤ主義を以下のように定義している「反ユダヤ主義という言葉はユダヤ人の国イスラエルを批判する立場を指しているのではない。(略)それはユダヤ人が日本人を滅ぼし、世界を滅亡させる陰謀を企てている、ユダヤ人は諸悪の根源であるという空想・錯覚のことを指している。」(p1、まえがき)


いわゆるユダヤ陰謀論に関するグッドマン教授らの説明は上記の定義に従っている。しかし現在の日本のパレスチナ問題に関しては、なぜか完全に上記の定義を逸脱して「反ユダヤ主義」を認定する。

1967年以前には「ユダヤ人は民族ではない」というまったく誤った意見を占有していたのはマルクス主義者だった。しかし1967年の6日間戦争(第3次中東戦争)からあと、ユダヤ人は民族とは呼べないという奇怪な見解は日本の主流の政治議論に浸透し始めた。そして1973年日本政府が中近東政策をアラブ寄りに転換したとき、左翼のこのような考えはついに政府の側からも公に承認されることとなった。


そして1973年からこの方、日本ではユダヤ人は民族ではない(略)だから「ユダヤ民族主義」というものは成り立たない、だからイスラエルのすることは全て根本的に疑わしく、うさんくさいという理屈が広く受け入れられるようになった。


イスラエルは1967年の第3次中東戦争で西岸とガザを占領し、多数のパレスチナ人がイスラエルの管理下に入った。それにより日本の左翼にとってパレスチナ問題は非常に象徴的な護符のような意味を持つものになった。(略)日本でこの種の親パレスチナ、反シオニストの思想を基礎に発言した代表者は、広河隆一板垣雄三小田実の3名である。(p305)


広河隆一氏は映画「NAKBA1948」を製作したパレスチナ問題に詳しいジャーナリスト、板垣雄三氏は東大名誉教授・文化功労者で中東研究者である。これらの人の発言は具体的な事実に基づいた正しいものだと思われる。しかしグッドマン教授らは、それはパレスチナ側に立ったもので政治的だからいけないと批判し、かつそれを反ユダヤ主義と認定している。ここでは冒頭の定義は完全に忘れ去られているようだ。かなりの厚さのある自著の中での矛盾をまったく問題にしていない。

以上見てきたように、広河隆一板垣雄三小田実などの左翼知識人が展開した反シオニズムの信条は、多くの作家著作家によって大衆にも広められた。1980年代にはそのような信条こそが常識とされるほどのゆるぎない地位を獲得する。(p319)


グッドマン教授らの批判は広河隆一に対しては、日本人からも批判があるとしているが、実はその批判者とはグッドマン教授の妻藤本和子のことでしかない。

広河隆一ホロコーストの生存者の両親から生まれたルティ・ジェスコビッツと結婚した。ジェスコビッツは「私の中のユダヤ人」(集英社、1982年)で、ユダヤ人、ユダヤ教イスラエルに極めて批判的で、長いこと彼女の態度が広河隆一の反シオニズム的態度に信憑性と威信を与えてきた。ジェスコビッツの本の批評を藤本和子が行っており(「死者を背に負う女たち」雑誌「思想の科学」31号、1983年)、ホロコースト生存者2世に典型的なものであるとしている。(p337)


グッドマン教授らの板垣雄三への批判は非常に政治的であり、批判している理由は板垣雄三パレスチナの支持者だからとしか思えない。そこには冒頭の「反ユダヤ主義」の定義は省みられずおらずその主張は到底信じられないない。同時にグッドマン教授らのパレスチナ問題の認識は事実に反しているとしか思えない。

板垣雄三は歴史科学の研究者であると自負している。しかし例えばIPTIL事務局の発行した「イスラエルレバノン侵略に関する国際民衆法廷」(1983年)などを読めば、彼の見解はアラブとソビエトプロパガンダに従順に従うものであることがわかる。(略)板垣雄三学門的探求と政治的主張に基本的な区別をつけることを首尾一貫してないがしろにしてきた。とりわけPLOの政治的立場を客観的な事実として宣伝してきたことがそうである。(略)


板垣雄三の目から見ると、パレスチナの平和を脅かすものは「アラブ社会の後進性」や「アラブ人とイスラエル人の宿命的な対立」ではなく、「シオニズムイスラエル国家の存在」や「大国による軍事的その強化」であることになる。


またイスラエルは「平和を脅かすだけでなく、アラブ世界にクサビとなって突き刺さる存在」である。板垣が正しいと信じていることに従えば「シオニズム反ユダヤ主義の一形式となる」。(p310)


グッドマン教授らは、パレスチナ問題は「アラブ社会の後進性」と「アラブ人とイスラエル人の宿命的な対立」が引き起こしていると考えているようだ。またユダヤ人は純粋な民族でユダヤ人が民族国家イスラエルを持つのは当たり前の権利であり、それに反対する者は全て「反ユダヤ主義者」であるとしているように思える。これは到底受け入れられない意見だ。日本ではこうしたおかしな意見は広まらないだろうが、同じことがアメリカではイスラエル・ロビーの宣伝・説得活動により相当な説得力を持っているように推察される。それがパレスチナ問題の解決を阻止している大きな要因だろう。