zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

歴史修正主義とパレスチナ問題とホロコーストの間

最近(2009/3/17)negative_direkt氏がホロコーストに関してのブログ記事を書いてから、歴史修正主義イスラエル批判、反ユダヤ主義ホロコースト否定の間で、これに関心のあるはてな会員の間で結構意見があがった。一応の収束をみたように思うので、とりあえず歴史修正主義に関して、自分の認識を書いておく、なおこれは南京大虐殺否定論者(歴史修正主義者)への批判で有名なはてな会員Apeman氏も既に読んでいる事項であるのを書き添えておきます。


本項の目的は、歴史修正主義とは何か、それとイスラエルはどういう関係にあるのか、それは報道機関などのメディアとどういう関係にあるのかを明確にしたいということ。できれば追記したい、不明点はコメントされよ。


(参考)イスラエル・ロビー、ホロコースト否定論とパレスチナ問題の関係について以下も参照下さい
2009-04-06 ホロコーストの「唯一性」はユダヤのプロパガンダの成果なのか?
2009-04-05 イスラエル・ロビーのひどい活動の証拠
2009-04-02 歴史修正主義とパレスチナ問題とホロコーストの間
2009-03-21 イスラエル批判をすると反ユダヤ主義と非難されてしまうという現象
2009-03-18 イスラエル・ロビーのパレスチナ問題への影響を評価する、ガザはどうなる?


イスラエルをナチと呼ぶことはいいの?

 2008年末からのイスラエルの激しいガザ攻撃で、日本でもイスラエルを批判する声がリアルでもネット上でもあがった。女性子供を見境なく殺すイスラエルのしている攻撃の様子、ガザ地区を高いコンクリート塀で囲い食料の搬入さえ制限する封鎖する様子は、それは「ホロコーストだ」「ナチだ」という批判の表現を生んだ。
 しかしすぐに、イスラエルをナチと比較することは厳しく批判された。noharra氏がその2009/1/7のブログ「ガザ攻撃をホロコーストと呼ぶことの可否」で掲載しているように、日本の歴史修正主義を批判しているジャーナリスト梶村太一郎氏も「イスラエルをナチと呼ぶな」と雄弁に語っている。


 これが示すものはやはり圧倒的な「イスラエル・ロビー」の言葉の強さ、ホロコーストを楯に取って批判することの有効性でしょう。

各国の歴史修正主義とは何か、誰を指すのか

まず歴史修正主義について確認しておきたい。


1日本では、歴史修正主義とは南京大虐殺否定、従軍慰安婦制度が日本軍強制の否定、沖縄戦集団自決が日本軍の強制であった事を否定する者。より広義には、63年前の戦争での日本の侵略を否定するもの、でしょう。この代表者が、安倍晋三であり、中川昭一であり、自衛隊高官であった田母神氏ですね。


2ドイツでは、歴史修正主義とは、ホロコースト否定、ホロコーストに関する細部検討を行おうとする者でしょう。しかしホロコースト記念碑にナチによるロマの虐殺を一緒に記せと主張する者は、それが歴史的事実において正しいにも関わらず、歴史修正主義と呼ばれる可能性が大きい。


アメリカでは、歴史修正主義という言葉はあまり使われていない。しかしイスラエル・ロビーからイスラエルの政策に反対する者に「反ユダヤ主義」というレッテルがほとんど一律に貼られる現象が起きている。歴史的経緯から「反ユダヤ主義ホロコースト否定=歴史修正主義者」の意味になる。パレスチナ人を抑圧し殺し続けるイスラエルの政策に反対する人は多く、イスラエル・ロビーから「それは反ユダヤ主義だ」との表明がなされ、アメリカのメディアはその非論理性にも関わらず、それをそのまま流す。
 従って、アメリカから見ると「反ユダヤ主義ホロコースト否定(=歴史修正主義者)」がたくさん存在するように見える。


イスラエルでは歴史修正主義者とは真実の歴史を記そうとする学者に与えられた呼称だと思われる。イスラエルでは1948年の建国の際のアラブ人の流出の事件(難民の発生)について歴史的見直しの動きがある。主流の歴史はアラブ人はアラブ人指導者の呼びかけで自主的に国外へ移動し難民になったと書かれる。しかしイラン・パペなど新しい歴史を唱えるイスラエル歴史学者が登場し、彼らは歴史修正主義と呼ばれる。


上記が私の歴史修正主義およびその周辺事態に関する認識ですが、私の記述の真偽も含めこうした事が議論され、人々に知られてほしいものです。

イスラエル・ロビー批判の重要性

イスラエル・ロビーとはAPIAC、ADL、サイモンウィーゼルセンターなど、アメリカでイスラエル支持の活動をしている団体・存在・声のことを指している。これは大変強力な存在である。「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」(講談社)、「ホロコースト産業」(三交社)などで最近はじめてその存在と強さ、問題性が公に議論されるようになった。


上記を反映した上で
イスラエル・ロビーはこれまでスルーしてきたのであればいまとりあげる必要もさしてない事柄だ
と考えるのは決定的な間違いでしょう。


なぜならイスラエル・ロビーのしている活動は言論・広報活動であり、それが欺瞞であるにも関わらず、他の者がそれを指摘し批判しない事は、そういう誤った言説・意見・風潮を容認することになるからです。
 言説には言説、情報には情報で対抗するべきでしょうし、何より嘘はいけない。嘘の情報が国民全体に行き渡り、国民がそれに基づいて判断すれば、それは誤った合意形成であり、誤った民主主義である。というのがチョムスキーの著書「マニュファクチャリング・コンセント」http://opac.ndl.go.jp/recordid/000008425304/jpn(捏造された合意)の意味でしょう。すなわちイスラエル・ロビーはあくまで民主主義の下、そのメカニズムに従って、公然と宣伝・広報活動を行っているが、その目的のための根拠(ホロコースト否定論者がいるぞ!)は決定的におかしなものだという事です。


 更にイスラエル・ロビーがアメリカの中東政策に大きな影響を与え、それによって世界が迷惑している、という関係性を理解できれば、歴史修正主義云々を超えて、非常に重要な事柄だと思います。(ミアシャイマー他の本の主旨も歴史ではなく中東政策にありますね)


これまでスルーしてきた人は、こうした世間一般に流布する情報が、民主主義に与える影響を考えその意味を問い直して欲しいものです。

ドイツのホロコースト研究・認識の未到達がもたらした弊害

ドイツ人のナチの犯罪、自分たちのおこした戦争への反省は日本よりずっと進んでいる。しかしけして完全ではない。その大きな問題の一つはホロコーストの「唯一性」の問題で、それが普遍的な惨事ではなく、ユダヤ人だけにおきた問題、ユダヤ人の特有の問題だとされることで、原爆被害と併置し一緒に戦争批判をする視点を失ったりするなど、具体的な弊害を生んでいる。


その顕著な例が2005年ベルリンに完成したホロコースト警鐘碑(記念碑)から、ロマ(ジプシー)を除くという問題であった。これについての疑問は以下を参照されたい。


>「ホロコーストのユニークさにこだわるユダヤ人が、シンティ・ロマや同性愛者の被害の可視化を阻んでいる」といった主張はおかしい(Apeman)

これは
 ◆『ホロコースト研究における 「唯一性の概念」をめぐる考察−「記憶の所有権争い」の分析を中心に−』 千葉美千子(北海道大学・メディア論・博士課程)
 http://www.hokudai.ac.jp/imcts/imc-j/imc-j-5/j5chiba.pdf


を読むとApeman氏の明らかな間違いと思える。Apeman氏は是非、千葉美千子と討論されて真相を明らかにしてほしい。私にはこれに関し専門知識がないので直接返答しかねるが、千葉美千子氏が博士課程であり、その論文が指導教官からの厳しい審査対象である事を考えると、その論文中の短い記述でも真面目に受け取るべきものと思われます。