zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

永遠の0(2013)家族を守るという口実で戦争肯定する映画

配給:東宝 公開:2013/12/21
監督:山崎貴 原作:百田尚樹『永遠の0』(太田出版刊) 脚本:山崎貴、林民夫 音楽:佐藤直紀

感想:人工的で退屈なお涙ちょうだい映画

 原作がベストセラーの「右傾エンタメ」「愛国エンタメ」小説であり、原作者が右翼の安倍首相を正面から応援する方であるため用心して見たが、退屈だった。
 冒頭から主人公が部下と丁寧語で会話し、整備兵が飛行士の腕を任務中に笑ったりと事実無視の雰囲気にしらける。続いて主人公が命を大事にするため、交戦中でも戦闘に加わらず仲間に臆病だと批判されるという「ありえない話」にますます白ける。太平洋戦争開始が日本政府や日本軍人の主体性のないまるで「台風の襲来」のような言い方で説明され、「ああこれが右翼の証拠」と逆に安堵する。続くミッドェー・ラバウル・特攻と東宝空戦映画をなぞる直線的な構成にリアリズム(現実らしさ)がなく退屈する。
 全体が1主人公久蔵がなぜ「命を大事にする」という突飛な行動を取るのか、2久蔵がなぜ特攻するのか、などの謎を田中泯などの語り手に若者=三浦春馬が聞く事で明らかにする構成だが、あまりに謎がくどく、かつ最後は一番近くにいたおじいちゃん=夏八木勲が知ってました、というありえない(堂々巡り的・ご都合主義的)展開でこうしたミステリ的面白さはない。
 久蔵が命を大事にする為戦闘に加わらないという非現実性、強制された訳でもないのに必ず死ぬ特攻をなぜ志願するのか明らかにされないこと、特攻出撃の瞬間に飛行機を交換し、妻子の世話を後輩に頼むというあまりに非現実的(よく言えば大胆)な展開などは、原作者&映画制作者は観客の感動を誘うよう構成したつもりだろうが、戦争を知る大人には非現実的かつ説明不足で感動できず白けるだけだ。
 これらの仕組みはあまりに人工的すぎる、しかし原作に既に感情移入している若者(戦争を知らないので原作を批判できない)には効果的で感動させ涙を誘うのだろう。(でもやはり大人には疑問だが)
 更に問題なのは、制作者の提示しているこの映画の感動の根源的仕組みは「久蔵さん、特攻で家族を守ってくれてありがとう」だが、それは明示的には言わないし、論理的にはあり得ない話である事だ。つまり映画のキモの部分はあり得ない幻でできているのだ。家族を守りたいなら久蔵は最後まで特攻しなければよい。なぜ特攻したか?その場にいた田中泯も「わからない」と言っている。
 これは明らかに変だ、映画は久蔵が特攻に志願した経緯をあえて語らず、戦争を知らない観客により「仕方がない」と勝手に合理化される事を期待しているようだ。映画は表向き(明示的セリフのよるもの)では特攻は外道で駄目と言っているが、暗黙には賞賛しているのだ。映画は戦争全体が正しいか悪いか言わないし、久蔵がそれにどう向き合ったか何も言わない。言わない事で肯定しているのだ。

 なぜ映画のキモ部分を暗黙や勝手な想像にしてしまうのかは、経緯を明示的に描いた場合を想像すれば判る。その場合日本が犯した戦争全体の是非や、その戦争の中で一個人がそれにどう向かうのかの問題が明らかになるからだ。実際過去の特攻映画ではそれが一つの焦点だった、過去の特攻映画では「戦争はしなければならない、しかし死ぬのはいやだ」の間で特攻隊員は苦しむ、死なねばならない理由を求めようとする。そして戦争を身をもって経験した人が監督や脚本家であった戦後の多くの映画は結局特攻はなんの意味もなかった、とまとめている。今回の映画でも、もし明示的に描けば、日本国の犯した戦争は悪い、久蔵は志願の将校であり、戦争に主体的に賛成し前向きだったとせざるをえないだろう。であれば特攻で死んだとしても「家族のため」にはならない、そんな個人的な行動ではないからだ。

 従ってこの暗黙の合理化は重要な争点だ、これによって映画は戦争全体の是非やその中での個人の問題を放棄し、全ては仕方がないで片付け、戦争や特攻を肯定してしまうからだ。

 こう分析するとこの映画は巧妙に、アジア・太平洋戦争の肯定、特攻の肯定をしていると結論せざるを得ない。原作者はこうやって観客(読者)の感動や肯定感情が特攻から戦争全体に及ぶ事を期待しているのではないだろうか?

あらすじ

2005年フリーターの若者健太郎三浦春馬)の祖母が死に、祖父(夏八木勲)がひどく悲しむ。葬儀の席で実は自分の本当の祖父は今のおじいさんではなく宮部久蔵(岡田准一)であり特攻で死んだと聞く。健太郎は久蔵の昔の戦友を訪ねどんな人物か聞くと自分の命を最優先して戦闘に加わらず海軍一の臆病者であると戦友1は言う。だがガダルカナルで部下だった戦友2(橋爪功)は腕のいい零戦乗りでありよい人という。更に他の戦友3は命を惜しんだのは家族を守るためだと言う。また久蔵の臆病を馬鹿にした戦友4(新井浩文)はそのあまりの腕の良さに考え直す。戦争の経過で久蔵は真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナルを経験、内地で飛行教官となりそして特攻隊へ配属される。そこで久蔵は特攻機の護衛を長くやり大変やつれている。特攻は下手な若者ばかりが行くのだがある日なぜか久蔵は特攻に行く。出撃間際に予科練で教え子であり久蔵を尊敬している若い戦友5(染谷将太)と飛行機を交換、交換した機内には妻子を頼むとのメモがあった。久蔵は帰還せず戦後戦友5は久蔵の妻子の面倒をみてついに結婚し今の祖父(夏八木勲)になっていた事が明らかになる。健太郎や姉、母らは感動して泣くのであった。

出演:(1941〜45年)

岡田准一(宮部久蔵・零戦戦闘員で後に特攻隊で死亡)家族を守るため戦闘に加わらず命を大事にする戦闘機乗り、松乃の夫
井上真央(久蔵の妻・松乃)受け身・役名以上の役割なし
染谷将太予科練生・零戦乗り・久蔵の教え子5)命を大事にする久蔵に惚れ込む、同じ特攻隊で同じ出撃で飛行機を交換、戦後は松乃を助け、後釜に座り結婚する
新井浩文零戦乗り・久蔵の仇役・語り手4)久蔵に反駁するが、彼があまりに腕がいいのでほれ込む、久蔵の特攻を援護しようとして機器故障で果たせず、戦後は松乃を影で助けたらしい
濱田岳零戦乗り・久蔵の部下・語り手2)真珠湾ガダルカナルで部下、頑張って生きろという教えに感動する

出演:(2005年)

夏八木勲(松乃の夫)=2005年の染谷将太、久蔵の弟子、後釜
田中泯零戦乗り・語り手4)=2005年の新井浩文
山本學零戦乗り・語り手3)=2005年の???、
橋爪功零戦乗り・語り手2)=2005年の濱田岳。久蔵は腕が立ついい人
平幹二朗零戦乗り・語り手1)久蔵の同僚、彼を「海軍一の臆病者」と言う
三浦春馬(佐伯健太郎・久蔵の孫)話の語り手、若者観客の代弁者
吹石一恵(久蔵の孫・三浦春馬の姉)ルポライターで久蔵の取材を提案する
風吹ジュン(久蔵の娘、清子・三浦春馬の母)泣くための役

三浦貴大
上田竜也
オフィシャル・サイト=http://www.eienno-zero.jp/