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あゝ特別攻撃隊(1960)悲しみの特攻隊員の心象

=特攻隊員の悲しみを焦点にやや突っ込んだ設定で表現、特攻作戦は否定
製作=大映(東京撮影所) 公開:1960.02.10 2,601m カラー 大映スコープ
監督:井上芳夫 脚本:長谷川公之 音楽:大森盛太郎

紹介記事

キネマ旬報:「太平洋戦争末期、空しくも散った特攻隊員の青春を描いた戦争映画」
allcinema:「特攻隊員の青春像を描く」

感想

特攻隊員の悲しい心情に焦点をあてた映画。予科練出の主人公たちの恋人や、妻や、母らとの関係が絶たれる経緯を通して彼らの悲しみを表現している。主人公は特攻前夜に東京に恋人に会いに行く、妻帯者の特攻隊員は特攻前夜に旅館で同伴するなど、あまりない設定になっておりやや鼻につくが、映画のテーマはその通りであろう。
 予科練出身の特攻隊員は死ぬまで人間的に生き、様々な事を考えようとするが兵学校出身の特攻隊員は非人間的に死ぬ事だけを要求し主人公らを殴り対立する、しかし最後の出撃間際には主人公らを理解すると描写されている。特攻は完全な命令と描写されており、しかもいきなり命令が下ると描写されている。主人公は恋人が爆撃で殺されたため恨みから命令に加え自分から出撃を志願する。だがこの場面では人間的な彼に同情する小笠原中尉を通して語られており、いわゆる国のため家族のためというものではないのは明らかだろう(強いて言えば戦争だから無意味でもそうしなければならないの意味)。特攻突入シーンが物語の中途で記録映像により挿入されるが、ラストシーンは基地よりの出撃場面であり、非論理的に盛り上がる特攻突入シーンではない。また戦果についても大変懐疑的なセリフが挿入されている。特攻使用機種が訓練機なのは現行機を使用したという都合と同時に、そうした残酷な事実があったという批判にも見える。2013年公開の「永遠の0」とは家族との関係、特攻志願、特攻突入シーン、戦果の扱いなどで明らかな違いがある。

 冒頭の主人公と恋人とのなれそめシーンは明るいが、全体に大変悲しげな雰囲気であり、主人公らは終始死を見つめて死が確実な自分は結婚していいのか?恋愛すべきなのか?など、内心で苦悶している。その行動は校歌やドイツ語の歌を歌うなどでけして言葉では特攻を否定しないが、その心情は明らかだろう。また死をいとわぬいかにも軍人的な小笠原中尉が特攻を命じられた直後、元気がなくなり女給相手に苦しむシーンはテーマに沿った象徴的エピソードであり、特攻への疑問や異議を描く上で効果的だろう。同じく予科練先輩の指揮官が「国を守るために特攻をあえて進言した」と述べるシーンもその言葉に自信がないと演出され、特攻が無意味である感じさせる場面となっている。
 主人公らは戦闘機乗りからいきなり特攻隊(明日の出撃)を命じられ家族の心情をおもんばかり死ぬ事を告白できない、命令が下った場面直後に主人公の母が面会しに来る場面は親子の心情を想像すればこれ以上ない悲しみであろう。また夫の特攻出撃を喪服で見送る妻のシーンも初見時にやりすぎの創作と感じたが、映画のテーマとしてはその通りであり評価は個人で分かれるだろう。主人公が恋人に会いに行き空襲に会うのも同様である。
 これらはやや唐突で不自然とも感じるが、よく映画設定を理解し主人公らに共感できれば、大変な悲しさや苦しみをうまく描く効果があると思われる。正直初見(2005年頃)では儀式化、類型化した表現とも感じた、だがこの映画が特攻があった15年後に公開されている事を考えれば、例え表現自体は唐突でもむしろ当時の観客にはよく理解される表現であったと言うべきだろう。

物語

予科練の戦闘機乗りの主人公(本郷巧次郎)は休暇で出身高校の図書館を訪れ女学生(野添ひとみ)と知り合う。主人公らは厳しい訓練を受けるが特攻が迫っており、死ぬまで自分を見つめたいとする予科練出身者は、それを無駄な事として否定する兵学校出身の教官から殴られる。突然特攻命令がくだり、特攻前夜妻帯者の同僚は妻と悲しい一夜を過ごし、次回出撃の主人公は面会しにきた母に言い出せずに別れる。威勢のいい兵学校出身の教官も女給相手に屈折した悲しみを吐きだす。主人公は特攻前日特別配慮で恋人に会いに東京へ、B29空襲下、恋人と勤労動員の工場で会い、自身の特攻と愛を告白するが恋人は爆撃で死んでしまう。主人公はただそのまま特攻へ出撃する。

出演:

本郷功次郎(野沢明)主人公、予科練出の戦闘機乗り、特攻を命じられる、野添ひとみと出身高校の図書館で知り合う、特攻前夜野添が米軍爆撃で死亡、復讐のため特攻しようとして止められ、まま出撃する
野口啓二(林少尉)予科練出身の主人公の同僚、妻がいて出撃前夜も旅館で会う、美しく愛し合う
森矢雄二(大垣少尉)予科練出身の主人公の同僚
水村晃(神原少尉)予科練出身の主人公の同僚
三田村元(小笠原中尉)主人公らの指導教官、兵学校出身で予科練出と対照的な軍人的人物、主人公らを甘いと見てその心情を抑圧しようと、しごき殴る、だが最後には理解する
北原義郎(岡崎大尉)予科練出の先輩、「特攻はいけない事だが国を守る為必要と思った」と主人公らに語るがその声に自信がない
野添ひとみ(山中令子)女学生、主人公の恋人、主人公出身の浦和高校周辺の古本屋の娘、本郷功次郎と愛し合うが、工場で米軍爆撃で死亡
吉野妙子(林の妻、芳江)特攻隊林少尉の妻、出撃前夜まで旅館で一緒
宮川和子(女給のぶ)特攻隊小笠原中尉の相手役、特攻隊が通う料亭の女給、悲しい境遇で兵士になるから子供はいらぬと言う、
瀧花久子(母、志乃)主人公の母、優しい、母一人子一人、出撃間際に偶然面会に来る