zames_makiのブログ

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映画「永遠の0」へのメディアでの批判

映画「永遠の0」の興行収入が50億円を突破し、2014年を代表する大ヒット映画となるのが間違いない、事実無視の設定による意図的な特攻礼賛(戦争礼賛につながる)作品なのは間違いない、だが雑誌・新聞での大きな批判特集はまだ出ていないように感じる。いくつか理由があろう、一つは朝日新聞が製作陣に加わっているから、既に昨年夏に宮崎駿氏により手ひどい批判が出ている事(「今、零戦の映画企画があるらしいですけど、それは嘘八百を書いた架空戦記を基にして、零戦の物語をつくろうとしてるんです。神話の捏造をまだ続けようとしている。『零戦で誇りを持とう』とかね。それが僕は頭にきてたんです:雑誌「CUT」(ロッキング・オン/2013年9月号)などからだろう。

要は、この映画は議論の余地なく馬鹿馬鹿しい、が尖閣で国民全体がナショナリズムに傾きその結果大ヒットしている、だから仕方ない。そして原作者の安倍応援そして右翼安倍首相の絶賛というあからさま右傾化作の証しを聞けば、もはや批判するのも意味がないというのが、メディア関係の感想なのかもしれない。また、どうせ商売のためのものだし、という面もあるだろう。

ただその商売面、すなわち興行収入に強い関心のある映画ライターでもこの映画を批判しているのにも驚く。以下は毎日新聞2014年1月10日夕刊掲載の大高宏雄氏の評である。大高宏雄氏は毎週この映画欄を書いてるがその80%はアメリカ映画の成績不振についてであり、個別の映画の内容に言及するのは珍しい。

映画ジャーナリスト大高宏雄氏の「永遠の0」評=情緒的で戦争の悪は描かない

「永遠の0」の大ヒットは今の時代の空気が生んだものとも言える。領土問題や歴史認識などの情報が飛びかう時代、それは、人々に形も定かでないモヤモヤ感を植え付ける。多くの人々がかつて以上に国家意識と向き合っているのだ。そこに先の戦争における日本型悲劇を描く作品が登場した。
 論理ではなく情緒性が映画を覆っている。ゼロ戦、特攻隊という悲劇の象徴が、日本人の気持ちを駆り立てる。感動、涙という日本人好みの要素満載の映画にして、人々への訴求力が圧倒的なのである。これをVFXという今日的なリアル感を伴う映像表現が、娯楽性の面から強くあおりたてる。
 私はこの映画のありように肯定、否定相半ばする感情を抱く。感動やスペクタクルを求めて多くの観客が集まった正月映画らしい興行は評価できる。ただ戦争映画の中身として情緒性によりかかり過ぎるのはどうかと思うのだ。戦争の悪を論理で暴いていく映画が、大衆性と矛盾しないような形で、そろそろ作られてもいい。(毎日新聞2014年1月10日夕刊)