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壁あつき部屋(1953)最高の戦犯映画

製作=新鋭プロ 配給=松竹 公開:1956.10.31(製作は1953年10月)12巻
監督:小林正樹 脚本:安部公房 原作:BC級戦犯の手記より 音楽:木下忠司
出演:浜田寅彦 三島耕 下元勉 信欣三 三井弘次 伊藤雄之助 内田良平 岸恵子 小沢栄

松竹オンラインで近日開始
http://shochikuonline.jp/cinfo/s/000000034a/c/00022/

社会派・小林正樹監督、初期の名作!BC級戦犯として収容された巣鴨拘置所を舞台に、勝者が敗者を裁くことに異議!!!を唱えた野心作!
 社会派、小林正樹が1953年に製作した。だが、BC戦犯たちの苦悩を描いた内容が当時の社会に及ぼす影響を考慮して公開が延期され、3年後の1956年にようやく陽の目をみた。小林は「“戦犯”と名付けられた文明と平和の下に裁かれたとされた人々が、8年もの間閉じ込められた厚い壁の中の真実を非情に描くことによって、戦争そのものがもつ狂暴な罪と、何ものによって戦争が起こり、遂行され、またその真の犠牲となったのが誰であったかを追求したい」と語っている。実際の手記をもとに安倍公房が脚本を担当。

=感想:

BC級戦犯の苦しみをもっとも切実に訴え、なぜ戦犯があるのか?誰が本当に悪いのかを考えさせる最も辛らつな戦犯を扱った映画。「貝になりたい」などの戦犯は単純にかわいそうという無責任な外部の視点ではなく、戦犯本人の視点で狂いそうな苦しみや、自分には責任はないとの思いを訴える。上官や戦争指導者などが本来追及されるべきなのに責任を免れていると(暗に)糾弾している。同時にサンフランシスコ講和条約後も戦犯が残され、戦犯が日本の独立や平和の交換条件として差し出された物と(暗に)アメリカを批判している。
 これらのメッセージは当初の脚本ではより明確だったが、特にアメリカを批判していた為削除され、今の松竹上映版ではほぼ完全に削除されている。しかし一部だけ残っており映画全体としてのアメリカ批判、日本の戦争指導者への批判の強さは観客によって分かれる所だろう。又軍事裁判のシーンではアメリカ式丸型ヘルメットにMPではなく、イギリス式平型ヘルメットにNPとなっておりアメリカへの配慮がされている。
 また戦犯が実際に殺人を犯したという意味での反省・批判の視点は非言語的だが明確で、その点でも戦犯の親族などの関係者にはつらい映画になっており興行上好ましくないと判断されたのかもしれない。この批判性は映像的に処理されており秀逸だ。
 更に加えて戦犯を何も考えずに悪人扱いし排除し、8年後には既に忘れている日本社会へも厳しく批判的である。また朝鮮戦争勃発のニュースを挟み、戦争の終わらぬこと、平和運動をする者が不当に共産主義者として不当に排除されていると嘆き、戦犯釈放運動と平和運動共産主義運動)とが矛盾しないとも訴えている。アメリカの批判的扱い、共産主義の主題を積極的に扱った点などが当時でもかなり突出しており、これらが直接松竹上層部からの上映延期になったのだろう。

 しかし逆にこうした点(戦犯自身の殺人行為への反省、上官ら指導者の批判、アメリカ批判、日本社会批判、朝鮮人戦犯の視点、共産主義運動の正当化)があるからこそ戦犯に関し優れた映画になっており1953年に上映されなかった事が悔やまれる。1956年の上映では社会から目だった反応はなかった様子であり、戦犯の存在や朝鮮戦争などが既に過去の出来事であり、映画そのものが注目されなかった為と推測され、本来の映画の魅力は評価されていないと思われる。

=ストリーメモ

冒頭、ナレーションで戦犯が8年間壁の中に閉じ込められ、忘れられたと入っている(1953年製作のため)
・石を割る音で戦犯受刑者川西(信欣三)の気の狂わんばかりの抑圧感を表現、川西は夜中首をつろうとするが同房の者に止められる。同房の山下は髭を生やし、それで首をつる縄を編むのだという。彼らは巣鴨プリズン内の絞首刑施設を覗き見し7年前死刑になった東條英機らの品定めをする。
・山下(浜田寅彦)に手紙で母が戦犯と知って自殺しかけたことが。山下の回想で、戦地インドネシア?で上官(小沢栄太郎)の不必要な命令で親切な現地人を殺したことが描かれる。
朝鮮戦争の実写、人類は最後まで殺しあうと皮肉家の西村は言う
・横田に弟が面会に来る。横田は自暴自棄・自罰的になっている。弟は戦争は財閥と軍と指導者が悪いと決然と言う、朝鮮戦争の噂話をして人民軍が勝つ、民族は自由だと言う。
・横田の回想:捕虜収容所で食料を盗んだ米兵を軍曹に促され鞭打つ。軍曹は日本人を空襲で殺した米兵を憎んでいる。死んだ米兵を焼き場に持っていくが収容所に嫌気のさしている横田は焼き場での隠亡やその無垢な娘ヨシ子(岸恵子)らとの会話に生きる力をみつける。最も死の臭いのする場所で生きる力を知る。
・しかし今のヨシ子は娼婦だ。彼女はまるで変わり、戦争でみな気が変になった、あの頃はまるで100年の昔のようだと、もはや横田にも関心はない。
・狂った川西の回想:房の壁に穴があきその穴から過去が噴出する。中国人の刺殺訓練、戦犯だと彼を攻める日本人たち、枯れる花など、
講和条約発効、刑務官が日本人になり待遇が改善される。西村らは釈放を期待するが、条約11条で出られないとわかり怒る。新聞を発行し活動すべきという者もいる(この部分は明らかにカットされており、対米批判の台詞が削られていると思われる)
・山下の妹が面会にくる、米軍基地に続く道の拡張のため元上官の浜田が土地を取り上げようとしている。土地収用を知っていながら浜田の会社で使う条件で彼らの土地をとったと言う。山下は浜田を殺してやると言う。
・山下は脱走しようとして捕まる、みんな戦犯じゃないと許は言う、
・山下の回想:終戦後米軍の捕虜になった山下らは順次裁判にかけられ死刑になる。野原での日本兵の死刑に大勢集まり殺せと騒ぐインドネシア現地人たち。日本兵は形見の人形さえ奪われ、なんの慈悲もなく処刑される。山下は原住民の食料を奪い殺したとして自白を求められ攻められ、軍事裁判にかけられる。そこには検察側の証人として元上官の浜田が山下の犯行を証言する。山下は無期懲役を宣告される(裁判官などの国籍は明示されていないが英語を喋る、裁判シーンでは憲兵はNPのヘルメットを被っている)
・横田の弟は共産党員で活動をしていて小菅に入っていたと言う、平和活動をしている者はアカと呼ばれるのだと嘆く。
・山下の脱走が雑誌に掲載され、刑務所収容者の組合はこれを釈放運動の妨げになると攻撃、記事を書いた横田を山下は絶交する
・組合大会でA級戦犯が我らは共に戦争の犠牲者だと言うが、朝鮮人の許は冗談じゃない、お前は戦争の指導者だと怒る、立った他の者は戦犯収容継続を義務づける講和条約を押し付けたアメリカに怒る。A級戦犯は退散し、共産党活動家?から平和運動は釈放運動の妨げにならないと、組合の前言の撤回要求を求める動議が出て多数が賛成する(左翼の勝利)、横田は謝ろうとするが良いと慰められる
・山下の家族が死ぬ、運動家の横田は批判的な木村を説き伏せ刑務所と交渉して山下に一時帰休を得る
・外へ出た山下は車に汚水を浴びせられ、金を求め街頭に立つ傷痍軍人の姿に呆然とする、ナイフを買う
・許は自分らは平和の代償に差し出された者、昔の上官に会ったら恨みがある、本当の戦犯に噛み付きたいと言う。しかし同房者は無理だという
・帰郷し母の亡骸を見た山下は嘆くが、同時に息子を殺したと自分を攻めたインドネシアの母親を思い出す。山下の現在の嘆きの姿と過去の攻められる姿が重なり、彼の実質的な殺人者としての罪を暗示する。山下は浜田と会うが浜田は恐怖に恐れおののく。山下は浜田を殺そうとするが、自分の殺したインドネシア人の顔とが重なり「こんな奴は殺すより腐らせる方がいい」と言って立ち去る(暴力の否定)。山下の妹はもう帰れ、生きていくしかないと言い、山下は皆の待つ巣鴨プリズンに帰る。

配役

(主人公のBC級戦犯、山下と同房の6人)

  • 浜田寅彦(山下=主人公)髭の男、インドネシアで上官(小沢栄太郎)の命令で食料をくれた親切な現地人を殺す。裁判では上官に罪を着せられ無期懲役。故郷の家族が今も元上官から食い物にされ殺そうとして脱走する、母の死を機会に故郷に帰る
  • 信欣三(川西)気が弱く狂いそうになる男、中国人を訓練で刺殺、山下に髭を剃れと言う。
  • 三井弘次(西村)口数の多い陽気な男、8年でもうすぐ刑期満了である
  • 三島耕(横田)理知的な男、内地の捕虜収容所で通訳、上官に促され捕虜を殴る、恋人が心の頼りだが娼婦をしている。共産主義者で戦争がなぜおきたかを理解しないと平和にならないと説く
  • 伊藤雄之助(許)朝鮮人、戦時中軍の運転手をしていただけで戦犯となる、なんで戦犯となったかわからないと言う
  • 下元勉(木村)九州弁の男、一方的に自分の罪を反省し、魂(人の苦しみ)を理解しろと活動家横田に言う。平和運動のビラでは魂は救えないと言う


(その他)
内田良平(横田の弟・脩)横田に面会に来る共産主義活動家
龍二隠亡焼):横田の行く焼き場の管理人
岸恵子隠亡の娘ヨシ子)親切心から花を死人にあげる、捕虜にも親切
小林トシ子(山下の妹)面会に来て元上官の悪辣さを告げる、
小沢栄(浜田)山下の上官、単なる猜疑心からインドネシア人を殺せと命令し軍事裁判では罪を山下になすりつける
林幹(A級戦犯)刑務所内で戦犯はみな犠牲者だと演説し反発を受ける