ナチの戦争プロパガンダ映画(Zハーケ)
=以下はザビーネ・ハーケ氏によるナチ期映画リスト。
- 1933〜45年のドイツ映画中の10%がプロパガンダ映画だった。他にメロドラマ、コメディ、音楽映画が大多数。観客動員も娯楽映画が多数、ただし「みずうみ」「大いなる愛」はプロパガンダであっても娯楽的で動員数多い。
- 最も効果的に政治的メッセージを直接訴える「ドイツ週刊ニュース」が代表、長時間もので編集が細かくなされ劇映画的/日本でも同様だが細かい編集はなされず時間も短い、ただニュースの編集版である長編ドキュメンタリーが最も大日本帝国の勝利を印象付ける映画になっているのは同じ
- プロパガンダ劇映画は歴史映画、戦争映画、天才映画、メロドラマ、郷土映画に分類できる。ハーケは歴史映画が大きな役割果たしたとし戦争映画はかなり映画としての価値を低く見ている。戦争末期はプロパガンダであるメロドラマ多いとするが詳細不明。/日本では、戦争映画(近々の戦争での勝利を描く)が最も評価され、歴史映画あるもいいものない評価低い、メロドラマは同様多い
- 反ユダヤ映画は少ない
- 映画形式はハリウッドに倣ったもので、娯楽的かつプロパガンダ的なもの、ハーケはゲッベルスは如何にうまく政治的メッセージを伝えるかより、映画自体の表現形式(ナチ美学)に関心あったとする。/日本ではプロパガンダの形式に政府官僚より概念的なものしか示されず絶えず監督への批判があり定まった形式はない。映画素人の官僚が評価するため言葉で演説するあからさまであまり効果的でないものに当時の評価は高い。
- ドキュメンタリー=文化映画にもプロパガンダの役割が与えられている/日本でも同様
(1)ニュース映画:最も効果的
- ドイツ週刊ニュース映画(1936〜45)…プロパガンダの最も効果的な道具、1936年ラインラント進攻時に作成開始、1939年UFAに統合、1940年週刊ニュースに名称変更、素早い編集とトリック撮影に大きく依存する、躍動的な解説と劇的な音楽、美化された戦争を提示、「ポーランド進撃」(1940)「勝利の歴史」(1941)が代表的
(2)文化映画:ナショナリズムを高揚
- 血と土(1933)…ドイツの風景・郷土を都市化・近代化批判の対照物に使う
- 永遠の森(1936)
- 飛行の奇跡(1935)…技術革新へのロマン
- 鋼鉄の動物(1935)…機械の美学の中にファシズムとモダニズムを
- 意志の勝利(1935)…ナチ党大会の記録、最高のナチの美的表現
- 民族の祭典・美の祭典(1936)…オリンピックの記録、ヒトラー多数回出演、最高のナチの美的表現
- ドイツの武器製造所(1939)
- ドイツ機甲部隊(1940)
(3)初期の3本のプロパガンダ映画:注目浴びる
- ヒットラー青年(1933)…共産主義者の労働者青年のナチへの転身、リアリズム、好評
- 突撃兵ブラント(1933)…初期のナチ運動を描写、不評
- ハンス・ヴェストマー(1933)…ナチ運動を描写、ホルスト・ヴェッセルの伝記を映画化
(4)歴史映画:大部分のプロパガンダ映画、現在の諸問題を過去の出来事に置き換えて訴える、個人のメロドラマで集団の歴史を表現する、WW1の屈辱やワイマール期、プロイセン国家など過去の戦争が主要な題材、
- あかつき(1933)…WW1にボルシェビキに迫害されたドイツ人
- 祖国なき人々(1937)…WW1でバルト諸国で戦うドイツ人
- 祖国に告ぐ(1937)…WW1で捕虜になったドイツ人飛行士
- 勲功十字章(1938)…ドイツの再軍備がクライマックス
- ドイツのために騎行す(1941)…負傷古参兵のナショナリズムへの傾斜
- 嵐の中の人々(1941)…セルビア人のドイツ人への迫害、ユーゴ進攻の正当化
- 帰郷(1941?)…ヴェルヒニヤでのドイツ人への差別、ポーランド進攻の正当化
(4.1)プロイセン映画:歴史映画中特に多いプロイセン期を描くもの。絶対主義国家や独裁者を賞賛しナチを賞賛、公共生活の全体主義化をモデル的に示す。18世紀フリードヒ王の七年戦争、19世紀対ナポレオン戦争が主題多し。
(5)戦争映画:直近の戦争を再現してドイツ史の頂点としてのナチスドイツ像を描くもの
- ビスマルク(1940)…ビスマルクの生涯
- 運命の転機[免職](1940?)…ビスマルク免職による危機、自由主義への批判
- カール・ペータース(1941)…アフリカでのドイツ植民地のための戦い
- 世界に告ぐ(1941?)…ボーア戦争、イギリスへの軍事行動の正当化
- グレナルヴォンの狐(1940)…1920年代のナチ運動の苦闘
- アイルランドに捧げた命(1941)…
(6)天才映画:男性の主体性をドイツらしさとして描く
- コッホ伝(1939)…医学者
- ディーゼル(1942)…発明家
- パラケルスス(1943)…科学者
- フリードヒ・シラー(1940)…詩人
- アンドレアス・シュリューター(1942)…画家
- フレーデマン・バッハ(1941)…音楽家
(7)メロドロマ:戦争後半のメロドラマの多くは国家主義プロパガンダになる、苦労を尊いもの・美しいもとして称える
- 大いなる愛Die grobe Liebe(1942)…Dジールク監督、レアンダー出演、戦時ラブストーリー、女性が罪から罰をうけ、愛を断念し、逸脱には罰を受け、ナチズム・全体主義に奉仕していく姿を描くプロパガンダ、これ以降メロドラマはプロパガンダに傾斜
(8)反ユダヤ映画:数は多くない
- ユダヤ人ジュース(1940)…ユダヤ人銀行家から支援された貴族の腐敗と義務感の堅い典型的ドイツ人を対照的に描きユダヤ人を批判
- GPU(1942)…ユダヤ系ボルシェビキを悪辣に描く、不評
- 永遠のユダヤ人()…ユダヤ式典や蓄殺場面とユダヤ的劇映画の編集
- 総統がユダヤ人に町を贈る(1945)…ユダヤ人収容所を健康的な労働の場として描く
(9)郷土映画:バイエルンやライン川渓谷などドイツ風景を背景に素朴な農民が自然と調和する姿を描く劇映画、人種主義を訴える
- 禿鷹ヴァリー(1940)…
- 永遠の泉(1940)…地域の抵抗運動や反資本主義
- 永遠の響き(1943)…
(10)監督たち:プロパガンダに成果大のもの