zames_makiのブログ

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朝まで生テレビ!「日本の安全保障と外交」2009年04月25日

「日本の安全保障と外交」をテーマにした2009年04月25日のテレビ朝日の長時間討論番組・朝まで生テレビ!は田原総一朗の右傾化(平和憲法の放棄、日本の軍国主義化の肯定)が極まった内容だった。

完全に右翼になった田原総一朗

 田原総一朗は、2009年現在テレビで活動しているジャーナリストではほぼ唯一の戦争を知る世代であり、一般的にはリベラル(革新支持)としてイメージされている。実際、金権政治批判、言論の自由自民党政治批判では明らかにリベラルだ。
 しかし安全保障すなわち、憲法9条の問題では今や完全に改憲論者で、即ち軍国主義者だ。ここで私が軍国主義者と記したのは強調のための嘘ではなく事実だ。田原は国際紛争を外交で解決するという日本国憲法の大方針を否定し、必要なら軍隊を使うという方針を支持している。
 軍国主義とは、紛争は出来るだけ避けるが、必要なら軍隊を使うという意味であり、これはアメリカや中国がとっている姿勢だ、同時にそれは日本が太平洋戦争に突入した時の考えでもあった。即ち満洲の権益を守るためなら英米との戦争は避けない」という1940年7月2日の御前会議での方針を意味している。歴史研究者はこの方針が、結局平和を指向せず、有利なうちに開戦すべきだとの背景から真珠湾攻撃をおこし、日本を太平洋戦争に導いたことを明らかにしている
 大きな分かれ目は(1)あくまで外交で解決するのか(2)自分からは仕掛けないが「戦争は避けず」というどちらの方針をとるかだ。自衛のための「戦争は避けず」は結局先制攻撃の正当化や、半年たった後でも自衛戦争として先制攻撃できるという論理を生んでいるのであり、自衛のための戦争は現在限りなく侵略戦争に近い。20世紀以降まともな国家であれば戦争を必要な事だと正面から肯定する事はなくなった。戦争はいつもしかたなくおきる。かつての大日本帝国も開戦の詔勅にはそう書いてある。田原総一朗軍国主義者であるというのはそういう意味であり、正しいと思う。

この番組がなぜおかしいか1:偏った出演者

さて、番組構成での田原総一朗の右傾化とは、以下を指している
 1出演者の偏り
 2議題の偏り
出演者は以下であり、番組で「平和主義を守る」という護憲・平和主義の立場の論者は共産党穀田恵二氏しかいないという酷い構成だった。こんな構成でまともな議論にはならない。こういう構成になる事を田原はよく「護憲派にも声をかけたが出演してもらえなかった」「イキのいい左派の論者がいない」と言い訳しているが、番組を見ていればそうではない。田原のこの番組では田原が絶対的な発言権を握っており、彼の気に入らない発言は認められない。例えば社民党の議員が護憲発言をすれば司会者である田原自身がその「発言を遮り」、無意味だと「批判する」、更に繰り返せば田原自身が「大声で制して妨害する」。こうした番組の成り立ちでは左派の論者は出演する意味はなく、この番組に出なくなるのは当たり前である。
 安全保障というこの議題では、田原の「朝まで生テレビ」は有名な右翼放送「チャンネル桜」(インターネット配信)と大きな差はない。「チャンネル桜」に左派論者が出ないのは当たり前のことだ。


<この回の番組のパネリスト構成>
(左派的論者)
穀田恵二日本共産党衆議院議員)=紛争は外交で解決すべきという憲法に従った論者
天木直人(外交評論家、元駐レバノン特命全権大使)=現実主義的立場から紛争は外交で解決すべきとする論者
(穏健な右派論者)
村田晃嗣同志社大学教授)=穏健な右派・現状肯定、発言は多いが問いかけばかりで安全保障に関しては論考は浅いように見える
森本敏拓殖大学海外事情研究所所長)=防衛庁出身、安全保障専門家、軍備増強を唱えるも全体としては穏健な右派学者
金慶珠東海大学国際文化学部准教授)=韓国の立場から日本の安全保障論議を第3者的に批判
(かなりの右派論者)
田原総一朗(司会者)=安全保障ではかなりの右派、非常に発言量多く議論を決定的に支配する
田母神俊雄(前航空幕僚長)=自国は自国の軍隊で守るべきとする素朴で幼稚な元軍人
山本一太自民党参議院議員)=自民党右派、
浅尾慶一郎民主党参議院議員)=民主党の右派、先制攻撃を肯定する軍国主義者、この番組での彼の主張は翌日の朝日新聞に掲載された
・手嶋龍一(外交ジャーナリスト、作家)=NHK出身だが右派に転じ田原の取り巻き的存在と化したジャーナリスト、安全保障の専門家ではない
井上和彦(ジャーナリスト)=南京大虐殺を否定するなどまともな論理思考の出来ない馬鹿
潮匡人帝京大学准教授)=自衛官出身、南京大虐殺を否定するなどまともな論理思考の出来ない馬鹿
吉田康彦大阪経済法科大学客員教授)=北朝鮮専門家?曖昧な認識だが右派的視点は明らかだった

この番組がなぜおかしいか2:偏った議題

 この出演者の面子では最初から「憲法は改正し9条は廃止」「自衛隊は軍隊にする」「集団的自衛権は行使できる」「ミサイル防衛(MD)は増強」「自衛隊全体を増強」「北朝鮮には実際の軍備で脅威を与えろ」「核武装を検討する」などという議題になってしまい、しかも最初から如何にそれを行うかという話になっていた。実際番組内では吉田氏?から「皆さんの意見はこんなに一致している」と発言があり、上記の議題を取り上げる点で差はなかった。
 しかしこれらが日本で合意されたものではないのは明らかだ、例えば日本人全体で憲法9条を守るべきとする人は今でも70%はいるし、核兵器所有に賛成の人はごく少数だろう。また自民党内でも現在の曖昧で穏健な安全保障政策の支持者は相当多数を占めると思われる。そして民主党ではもっと護憲派が多いだろう。

 すなわちこんな偏った出演者ではまともな議論にならず、討論番組としてつまらないものだった。視聴者として安全保障についてまともな意見を聞くことはできなかった、という事だ。先日、この番組に関して書かれたブログを検索してみたが、20件程度で少ない、過去にもこの番組について同様な検索をしたことがあるが、今回の検索ヒット数はけして多くない事は確かだろう。更にそれらの中には番組出演者(穀田、天木)自身も入っておりそれらが目立つ程全体数は少ないと言えよう。右派の視聴者にとってもこの番組は興味をひかないものだったようだ。


その上で偏った議題が具体的に現れていたのは次の2点だったろう。
(1)なぜ右派はアメリカは日本を守らないと言うのか?
 番組の中ほどで韓国の美人学者金慶珠氏は「この席で2時間話を聞いたが、なぜ日本の右派がいざとなったらアメリカは日本を守らないと言うのかわからない」と厳しく言った。私はまったく同感だ。
 日米安保条約アメリカは日本を守る事を宣言している。またアメリカ政府が日米安保を実行しないと明言した事実はない。歴史的に言えば日米安保条約とは昭和天皇が日本を共産主義の軍事的脅威(ここではソ連)から守るためにアメリカに沖縄を差し出して結んだものだという(豊下楢彦昭和天皇マッカーサー会見」参照)。こうした事実に対し、右派論者はいかなる根拠でアメリカは日本を守らないと言うのだろう?番組ではまったく理解できなかった。田原総一朗もこれを疑問視しない=なぜ?と問わない、この番組が偏っており、つまらない原因の一つはここにあったろう*1


(2)行き詰る右派の「強者の論理」
 私は平和主義であり、外交で紛争を解決すべきだと思う。また日本国憲法も紛争がおきたら外交で解決すると暗黙的に述べており、けして紛争が起こったら「自動的に日本が負ける」訳ではない。そして世界の国際政治の潮流は法と秩序の遵守、多国間の関係での安全維持の方向に進んでいる。そしてグローバル化が世界をより経済的・実質的に国家間の関係性を増したことにより、日本のような貿易立国には他国と戦争をおこすことは、不利益しかもたらさない様になってきている。
 しかし冒頭で書いた通りアメリカなどは軍国主義であり「強者の論理」である。それは事実だ。しかし実際は「強者の論理」は滅びつつある。すなわちいざとなると戦争を容認する「強者の論理」は、戦争自体に対する反省と批判が厳しい事(例えば現在戦争をおこすのは国際法違法だ)、世界がグローバル化した結果、戦争の弊害と関係国の関与が即座に自国に影響を与える事などから、難しくなっている。この現在の世界では、いかに理由があろうと戦争をする事自体は大変難しい、今回の朝まで生テレビの議論はこうした国際政治の前提や常識をまったく無視していた。

 それを直接指摘したのが出演した天木直人氏で彼は自分のブログで右派の「強者の論理」が行き詰っている事をこう書いている。(「護憲派は安保論議から逃げてはいけない」http://www.amakiblog.com/archives/2009/04/29/

追い込まれているのはタカ派なのだ。(略)なぜか。それは国際政治の現実がタカ派を追い込んでいるからである。タカ派の強硬な発言は、無知な世論を誤魔化すことが出来ても、国際政治の現実を誤魔化す事はできないのだ。

 「自主防衛力を高める事で日本の安全を守る」ことは当たり前だとタカ派は主張する。しかしこの考えはたちどころに国際政治の壁につきあたる。軍事力で国を守ろうとすれば行き着く先は核武装しかない。(略)しかし、多少なりとも国際政治の現実を知っている自称インテリ親米保守派は、「米国はそれを認めない。日本は世界の孤児になる」、と核武装を否定する。

(略)だから司会者は決して各論に入ろうとしない。都合の悪い質問になると、たちどころにさえぎり、無視し、矛先をそらして終わりにする。

同じことは番組内でも韓国の美人学者金慶珠氏から発言されていた。番組最後で視聴者のアンケートを見ながら「ミサイル防衛核武装も実際には難しい事が、今回話し合ってわかったはず」と金氏はまとめた。


 残念ながら安全保障や国際政治に無知な多くの視聴者は、上記2点を受け取らなかったようだ、実際私が読んだ一般視聴者のブログでこれに触れたものはなかった。
 その結果この番組の意味するのは、天木氏がブログで書いたように「このような番組は、安全保障問題を深く考えない一般国民を改憲派に導くおそれがある。番組の意図もそこにあるに違いない」と考えるのが正しいように思う。田原総一朗は自分では日本の世論のためと思っているのかもしれない。しかし彼の国際政治への理解のなさは、結果的にレベルの低い論者*2ばかりで穴だらけの議論を無意味に提示した。その結果の働きとしては「憲法9条を廃止させ日本を軍国主義に導く」政治宣伝・政治的プロパガンダになってしまっていると考えるべきだろう。

追記:軍備に関するよくある間違い(軍隊を持つのは常識ではない)

コメント欄で世間でよく見られる間違いを書く人がいたので追記しておきます。

>>軍国主義とは、紛争はできるだけ避けるが必要なら軍隊を使うという意味
>>ほとんど全ての国がとっている姿勢だ(らいら)

 これは間違いですね、ほとんど全ての国は軍事的には弱小であり、戦争で紛争を解決しようとはしていません。紛争がこじれたら「最後は戦争をやって勝てばよい」という姿勢はアメリカなど他国に対し強大な軍備を持っているほんの一部の国でしかありません。アメリカ、ロシア、中国、かつてのイラクなどですね。圧倒的多数の国にはそうした選択肢はないし、又そうした選択をとろうともしません。

日本にアメリカの情報ばかりが入る事で、日本人の国家間の紛争解決のイメージが決定的に歪んでいるのが確認できますね。アメリカは特異な国です、世界の軍事費の半分はアメリカ1国が占め現在1国だけ飛びぬけて強い軍を持っている。同時にその過去も戦争にまみれており、20世紀最も多くの戦争をした国であり、アメリカはほとんど常に戦争をし続けています。そんな国にならうべきではないし、又日本が倣う事は事実上不可能でしょう。

そしてそもそも日本はその憲法でそうした紛争解決の方法を禁止しており、日本人の圧倒的多数が今の平和主義を守りその継続に賛成している事を再度確認すべきです。


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*1:なお番組内では現状肯定派の村田晃嗣がそれは自衛隊憲法違反であり存在理由が不確かな点の派生にすぎないと答えている。すなわち現実的な問題として安保条約ではアメリカは日本を守らない、と説明した人はいなかった。

*2:参考のために記せば、安全保障や国際政治の高いレベルの論者とは ◇藤原帰一(「平和政策」有斐閣, 2006)や ◇ジョセフ・S・ナイ(「国際紛争:理論と歴史」有斐閣 2007)などを指している