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愛と死の記録(1966)原爆純愛ものより実存的テーマが主

93分 製作・公開:日活 公開:1966/09/17
監督:蔵原惟繕 脚本:大橋喜一、小林吉男 撮影:姫田真佐久 音楽:黛敏郎
出演:
吉永小百合(松井和江)主人公、幸雄を愛する少女、レコード店店員、被爆者を愛すべきか否か悩む、病院に通い介護する、家族の言う事を聞き被爆者との結婚はしないと見えるが、自殺する
渡哲也(三原幸雄)主人公、原爆症で死ぬ、4年前に原爆病院に入院経験あり、印刷工場に勤める、父母は原爆で死亡
中尾彬(藤井)幸雄の工場の仲間、幸雄に和江を引き合わせる
浜川智子(ふみ子)藤井の恋人、レコード店店員、和江に幸雄を引き合わせる
佐野浅夫(岩井・工場長)幸雄の父親代り、4年前に原爆症だと病院長から聞いてる、結婚に反対
滝沢修(原爆病院・病院長)幸雄を診断、和江に被爆者も生きるべきと説く、自分も被爆
垂水悟郎(和江の兄)金にうるさい現実主義者、被爆者との結婚に反対する
三崎千恵子(和江の母)優しい母
鏑木ハルナ(和江の義姉)優しい姉
芦川いづみ(近所の娘)和江の古い友人、被爆者で体が弱く死を意識してる

感想

原爆純愛もの、冒頭から音楽と暗い画面で予感させる、始めは明るく元気の良い恋愛ドラマだが、半ばから男の原爆症が明らかになり、早死にの可能性のある被爆者と結婚すべきか、被爆者は楽しんで生きる権利があるのか、といった主題が見え隠れする。男の死により被爆者と一般人は関係ない結婚すべきではないと見せかけ、最後に女の自殺でそれを強く否定する工夫した脚本になっている。当時圧倒的人気を持つ吉永小百合主演で演出や物語は意外性のあるものの、安定感のある(粘り強くテーマを主張する)作風、広島の実景が多用されその場での撮影も行われドキュメンタリー的な感じとして実感を持たせている。中の中。
 冒頭の男女の出会いと恋愛への発展は急だが、直後から男の健康不安(原爆症)が前面に出てきて、それが女の家族の発言で「被爆者と結婚すべきか」というテーマを提示する。男の入院と女に献身的な介護は病院内の暗いシーンが多く大ヒットした「愛と死をみつめて」を思わせる、だが落涙誘う感情的な物ではなく、すぐに男は死に「早く死ぬ危険性を知った被爆者は普通人のように生きる権利はあるのか」というテーマを提示する。自らも被爆者である病院長の発言で被爆者の生が肯定されるが、女の家族や、男の養父は被爆者との結婚を明確に否定する、これを女の自殺というどんでん替えしで劇的に「被爆者にも生きる権利はある」と主張して映画は終わる。
 単純な原爆純愛ものではない、恋愛男女の原爆症による引き裂きではなく、被爆者の生に関するテーマを打ち出し、どんでん返しで見せ場を設けた工夫した脚本で成功している。
 映像的に最初は暗く不幸な行く末を暗示し、中盤は広島の実景(広島球場、巨大噴水、プール、橋や通り、峠三吉の碑文、原爆ドーム、原爆の子碑など)を背景に入れたロングショットが多く、リアルさを出している。原爆病院から吉永小百合佐野浅夫が出てくる場面はワンカットで病院から街がわかりよく工夫されている。
 全体に結婚(恋愛)がテーマだが娯楽と悲劇性の恋愛映画というより、被爆者の結婚差別に関する深刻な物語というべきだ、テーマに関する議論はほとんどなく、ラストの自殺は唐突だが、世間的には結婚禁止が常識的な回答であるこの問題について、ありきたりな物語や議論よって肯定するよりも効果的と思える。だが、中盤から男の健康が優れず観客が楽しめる場面や高揚感のある場面展開はなく、娯楽的には面白くない。結婚に反対する親族の存在も控えめで映画内にテーマに関する激しい葛藤はなく、そのためラストのどんでん返しも意外性はあっても衝撃的ではない。人気女優による作品としてこうした点にもっと工夫があってもよかったのではないか?