zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

さくら隊散る(1988)死ぬ過程描く原爆映画

メディア:映画 112分 製作:近代映画協会、天恩山五百羅漢寺 配給:独立映画センター 公開:1988/04/30
監督:新藤兼人 原作:江津萩枝『櫻隊全滅』 脚本:新藤兼人 音楽:林光
出演:
古田将士(丸山定夫)移動演劇隊「さくら隊」主導者、文学座芝居「無法松の一生」で杉村春子と共演、広島で被爆原爆症で脱毛、発熱激しく、8/16に死亡
未来貴子園井恵子さくら隊一員、映画「無法松の一生」で奥様役を演じる、広島で被爆、翌ゝ日周辺駅から列車で神戸へ脱出、中井家へ避難、脱毛、発熱激しく、8月に死亡
川島聡互(高山象三)さくら隊一員、広島で被爆園井恵子と一緒に列車で神戸へ避難、発熱激しく、8月に死亡
八神康子(仲みどり)さくら隊一員、広島で被爆、翌ゝ日広島駅から列車で神東京へ脱出、親の家へ避難、体の不調訴え東大病院受診し入院する、戦傷医学の専門家の治療受けるが、脱毛、発熱激しく、8/27に死亡、原爆病(原子爆弾症)患者第一号となる、東大医学人の関心の端緒となり8/29広島調査のきっかけになる
及川以造(槙村浩吉)さくら隊一員、被爆せず救護のため訪問、丸山を介護する
川道信介(池田生二)さくら隊一員、被爆せず救護のため訪問
内堀和晴(八田元夫)さくら隊一員、被爆せず救護のため訪問

ナレーター:乙羽信子

証言者として登場:
江津萩枝(原作者)仲井の状況を説明、映画中でも広島を訪れる
池田生二 (さくら隊の生存者)当時を証言、映画中でも広島を訪れる
槙村浩吉(さくら隊の生存者)当時を証言

滝沢修:演劇関係者として、丸山らの人となりや芸を証言
千田是也築地小劇場からの移動演劇隊にいたる経緯など
小沢栄太郎:仲みどりとのつきあい、入牢時自分の係だったと
杉村春子丸山定夫の思い出、文学座芝居「無法松の一生」での好演を
葦原邦子:高山象三の想い出を語る
山本安英 宇野重吉 殿山泰司 河原崎国太郎 松本克平 瑳峨善兵 浜村純 他

感想

広島で被爆し死んだ移動演劇隊「さくら隊」の9人の様子を証言とドラマで見せる原爆映画、同時に各演劇人の人となりや弾圧下での演劇者の社会的状況を記すドキュメンタリーにもなっている。被爆原爆症で死ぬ4人の、被爆してから死ぬまでの経緯を細かく追い、特に原爆症で苦しむ様子を丁寧に見せて原爆の恐ろしさを映画として見せているのに大きな特徴がある。多数の著名な演劇人の証言、簡略化していながら原爆爆発時の恐ろしさを印象づける工夫した演出、荒れた映像と各演劇者の生前エピソードとの対比で悲惨な死を印象づける死ぬ過程の演出など、演出が成功している。ユニークな映画、上の下。
 映画は多くの演劇人の証言を随所にいれ、ナレーションと証言者などが現地を訪れる映像を介して説明する事で、ドキュメンタリーのスタイルを取る。しかし原爆投下以降、主要4人の人物の死の過程ではドラマを入れ、より生々しく原爆症の苦しむ様子を見せる。演劇人のドキュメンタリーと原爆映画の2面性があり、一方を当てにした者にはやや戸惑う映画だが全体としては、原爆で失われた優秀な演劇人の最後を知り、反核への動機づけとなる作りとなっている。
 さくら隊9人は全員死ぬが、5人は家の下敷きで即座に焼け死んでいる、主催者丸山定夫は優秀な演劇人で映画の多くの部分は丸山の人となりや優秀さを証言している。丸山は救護所で瀕死の状況を仲間に発見され、仲間の場所で介護されるが苦しんで死んでおり、原爆投下直後の家の様子、救護所の様子、避難した被曝者の様子、介護の様子など他の映画で描かれていない原爆被災者の様子が見えて貴重だ。同様に他の3人が翌ゝ日には列車で神戸や東京に移動しているのにも驚かされる。神戸に避難した園井恵子は映画「無法松の一生」で奥様役を演じた美しい女優であり、それが髪が抜け紫斑だらけになって苦しむ姿は見るに耐えない。また仲みどりは東京へ移動し東大で専門的治療の対象となり病状が詳しく観察され、死後標本が取られ、8月末の専門家による広島長崎の調査のきっかけ(それは映画「広島・長崎における原子爆弾の効果」のきっかけとも言えよう)となっているのには驚かされる。有名な演劇人として丸山らに感情移入した観客はこの過程で相当な衝撃を受けるのではないだろうか?
 原爆投下時の様子、直後の惨状はドラマ再現はほとんどない、しかし黒い雨に濡れる様子や、何もなくなった広島の家の様子などは簡潔だが印象深く演出されている。
 映画は仲みどりの死で幕を閉じるが最後は原爆実験の映像を無音で見せる、映画内に原爆は恐ろしい、被災者は過酷な戦後を送った、原爆反対などの台詞も場面もない、だが「予告編」では「未来に問う」としており原爆を問題視(反核)しているのは明らかだ。