zames_makiのブログ

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山田長政 王者の剣(1959)日タイ合作

=戦後最初の日タイ合作大作映画、オリエンタリズムのなさ
製作:大映(京都撮影所) 公開:1959.05.01 114分 カラー 大映スコープ
製作:永田雅一&バヌー・ユガラ(タイ製作会社アスピン・ピクチャー社長) 企画:辻久一
監督:加戸敏 脚本:小国英雄 原作:村松梢風(雑誌新潮掲載) 音楽:鈴木静一

出演:

長谷川一夫(主人公・山田長政)1645年、朱印船でタイに来る、タイ×ビルマ戦争で日本人義勇軍を率いて戦勝、タイ国王から親衛隊長に任ぜられる。幕府の日本人帰国命令にそむいてタイに残留
根上淳(大西五郎兵衛)山田長政の友人、タイに残り長政を助ける
田崎潤(有村左京)長政を仇と狙う日本人武将、次第に長政の味方になる
若尾文子(あゆ)アユタヤの日本人、長政に恋するが帰国命令で帰る

千田是也(タイ国王・アユチヤ王朝ソンタム王)穏やかな国王、長政を寵愛、病死する
市川雷蔵(オーク・ヤー・カムヘーン)国王の側近・士官、長政と親しくなるが謀反を起す側近たちに説得され長政に毒入りワインを飲ます。
中田康子(ナリーニ姫)国王寵愛のタイ一番の踊り手、褒美に長政と結婚する、非常にしとやかな性格
太田博之(シエター王子)子役、幼くして王位をつぐ、長政を慕う
舟木洋一(シー・シン親王) =カラホーム将軍と共に反乱を起す
永田靖(オーク・ヤー・カラホーム)=白象将軍、軍務大臣、それまで連戦連勝だったがビルマ軍に破れる、長政を恨み反乱をおこす、
光岡龍三郎(オーク・ロワン・モンコン)タイ軍猛将、反乱を起すが長政との一騎打ちに破れ象に踏まれる
小沢栄太郎(オーク・ヤー・シーオラウオン)宮内大臣、長政を快く思わず王の死後、長政を殺すようカムヘーンを説得し毒を渡す
その他タイ人:金田一敦子(パッタマー姫)浦路洋子(王宮の侍女) 志摩靖彦(チャオピヤ・プラクラン)羅門光三郎ビルマ将官
その他日本人:伊沢一郎(喜太郎) 倉田マユミ(おそで) 浦辺粂子日本人町の老婆) 荒木忍(松本新左衛門) 香川良介(津田又左衛門・居留日本人の頭領) 清水将夫(津田又左衛門)

(あらすじ)

1625年、御朱印船でアユタヤ(タイ)にやってきた山田長政日本人町で旧友大西五郎兵衛に歓迎される。
タイ×ビルマ戦争がおこりタイ将軍の敗北を予想した長政はタイ国王に登用され、日本人義勇軍を率いてビルマ軍に勝利する。親衛隊長に登用された長政をタイ高官がねたみ反乱を起す、同時にカンボジア軍が攻めて来る。窮地を察した長政は反乱軍将軍と一騎打ちで勝利し、カンボジア軍に対処し窮地を脱す。国王は感激し、長政にナリーニ姫を与え更に登用する。折り悪く日本からキリシタン禁止と日本人帰国命令が出て、ほとんどの日本人は帰る。長政はアユタヤに残る。
 時がたち、長政は公爵として国王の側近として働く、国王は病死し幼い王子が国王になる。しかし宮内大臣・側近は長政を良く思わず、折からの六昆での反乱(背後にはスペインの画策)に際して、王宮を離れた長政を殺そうとする。ナリーニ姫を幽閉しようとするが既に逃亡していた。説得されたカムヘーンは毒入りワインを飲まそうとする、長政は毒入りと知りつつ飲み、カムヘーンには飲むなと言う。長政はもう自分はこの国に必要ないと日本人である身を認識していた。

感想・大作・オリエンタリズム

 タイロケは、王宮の外観、タイ軍の行進、象上の一騎打ちなどに限られ、大部分は日本で撮影されている。出演者も全て日本人でタイ人は合戦や行進のエキストラのみ。日本人町のセットは映画的だがそれなり、日本人やタイ人の衣装も工夫されそれなりによい。タイ王宮内のセットは映画的な華やかさのあるものだが、それなりによい。タイの踊りはタイ式のもので研究されて演出されているが正確かどうかは不明。戦争部分は日本で撮影されており、広い平原での多人数での戦闘であり時代劇の合戦の雰囲気であり、エキストラ多数でスペクタクル性大きいがあまり面白くない。
 この作品で最も珍しいのは象の上での一騎打ちだろう。長政が象の首に象使いが背の上の輿にのり、同じ構成の敵将と槍や刀で戦う。「ロードオブザリング」での象を使った戦闘に先立つものだ。この部分はタイで撮影されていると思われる。
 タイ国王などタイ人も全て日本人が演じ、タイ人同士でも日本語を喋る、タイ公開では全て吹き変えたのだろう。各人の演技はそれなりによいが、タイ人らしさはない。長谷川一夫は知的で謙虚な勇将をそつなく演じている。若尾文子は出番が少なく控えめだ。市川雷蔵のタイ人青年士官は台詞など変ではないが実体感はない、同様にタイ人の役は演技上のリアリズムはない。目立つのはナリーニ姫を演じる中田康子の、踊りとしとやかさである。
 タイ王宮やタイ人の描写など、こうした部分のオリエンタリズム(異国文化の不正確な表現)は「ラストサムライ」などと同様かもっと酷いレベルと思われる。ただこの作品では日本人優位などの指向性を持った演出・物語性はなく単に制作上の限界によるものと思われる。長政はあくまで善意で高潔な人物と描かれているが、それを排斥するタイ人高官たちを特に悪く描く演出もない。タイ国王はあくまで尊重される。