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15年目の慰安婦論争(秦郁彦×吉見義明)

出典:ラジオ放送 TBSラジオ 荻上チキSession22 対局モード「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』の論点」
放送日:2013年06月13日(木) 放送時間:58分間
出演:秦郁彦(1932年生、歴史家)、吉見義明(1946年生、中央大教授・歴史学
テーマ:「秦郁彦さん、吉見義明さん、第一人者と考える『慰安婦問題』の論点」(対局モード)
番組HP=http://www.tbsradio.jp/ss954/2013/06/20130613-1.html
放送ポッドキャスティングhttp://podcast.tbsradio.jp/ss954/files/20130613main.mp3(数日で消える見込み)

以下はブログ主がポッドキャスティングを聞いて書いたほぼ逐語記録。第二回目が待たれる。まあ話の応酬だけ聞いてると結構盛り上がるが内容はどうだろう?これが橋下氏など日本政府や軍の慰安婦制度への責任に疑問を投げかけている人達のほぼ唯一の根拠なのだから興味深い、というより日本人として恥ずかしい。秦さんは政治面は答えないと最初は言ってるけど最後には慰安婦問題は運動団体がやらせた事と政治的発言してるけどそれいいの?

要点:一応、逐語も読むのが面倒な人のために

  • 質問:慰安婦とはどういう存在か
  • 秦:金のために親から売り飛ばされて働いた女性で、現地では自由もあり、高級取りで、90%は生還した。売り飛ばされたのだから帰れないのは当たり前、金返せば帰れるし、当時はそういうもの。
  • 吉見:金銭による拘束または甘言などで騙され連れてこられ、拒否しても帰れず使役された女性。現地では日に何十人も兵士が来る肉体酷使、自由はない、金はインフレで無意味。金を根拠に人を強制使役し拘束するのが人身売買であり奴隷である。当時日本の公娼制度は人身売買で成り立っており違法だが結果的に逃れられなかった。しかし当時の日本でも海外渡航になる朝鮮人慰安婦の場合法があり明らかに違法だ。
  • 質問:日本軍に責任はあるのか?
  • 秦:慰安所に入ったところで民法上切れるので日本軍に責任はない、軍は経緯を知らない
  • 吉見:日本軍はきた女性を調べ、性病検査などで管理し経緯を知らないはずがない。慰安所は組織的なもので建設その他軍は積極的に関与しており、経緯を知りつつ慰安婦を使役し続けた日本軍に大きな責任がある。軍自体に女性の人身売買への犯罪意識がない。

番組逐語記録

(3分間)番組構成による河野談話の紹介、慰安婦問題の経緯の説明
(3分間)荻上チキによる出演者紹介
荻上チキ&女性アナ:番組の問題の経緯説明についてどう思いますか
秦郁彦:おおむねよろしい
吉見義明:おおむねよろしい
チキ:質問メール来てます「橋下市長の発言についてどう思うか?政治的な面、歴史学的な面について」
秦:あちこち舌足らずだった、でも事実関係はほぼその通りだ
チキ:舌足らずとははどういう面で?
秦:新聞報道では「当時が」が抜けてた、今も橋下氏が必要と考えてると誤解された、その他にも
チキ:メディアでは誤報でないとしてる、会見全文読めます、吉見さんは?
吉見:ひどい、びっくりした、素直に聞けば今も慰安婦が必要と橋下氏言ってる、それを米軍に利用勧めてる、失言や舌足らずでなく彼の本音であり、その後も弁解のみ今も撤回してない、非常に不誠実な態度だ
チキ:思想面でなく歴史面は?
吉見:橋下氏が事実をよく知らないのを示している、制度が女性への強制、性奴隷だったのを否定してる、慰安婦が酷い状態で自由がなかった、そういう事実を橋下氏は知らない
チキ:メール質問です「慰安婦はいつ出来て誰が作った言葉ですか?」
秦:はっきりしない、慰安婦の言葉は日中戦争に軍の公文書中に出てくる、従軍つけたのは戦後と言われている、当時は売春を認めている、戦地における売春婦が慰安婦であり、公娼の延長線上にある
チキ:延長線とはどういう意味?まったく同じでない?
秦:内地は警察が監督、戦地は憲兵と軍医が監督、その他は同じ、同じ女性が内地で働いていて高い給料目当てに戦地に移動した、ほぼ同じ
吉見:明らかに別のもの、なぜなら内地は民間業者が運営その他全部してる、慰安婦は軍が建物作り、軍が自分で集めたり業者にやらせたりした、規則も軍が決めてる、利用者は軍人だけに限られる。公娼制度と慰安婦制度は共に人身売買が基礎に成り立ってる、が慰安婦は公娼よりもっと奴隷の性格強い、内地では少なくとも建前上は自由廃業の自由あるが慰安婦にそれもない。又当時内地では人身売買は犯罪ではないが、当時でも国外に連れて行くのは違法だ、そうした法律があり当時の刑法でも犯罪。その犯罪に大きく軍の責任が生じる。
秦:同意しかねる、内地の公娼制度が奴隷なら今のオランダの飾り窓やネバダ州の売春制度はどうなる?
吉見:それは人身売買ですか?
秦:(答えぬ)
吉見:それらも人身売買が基礎なら性奴隷と言わざると言えない、
秦:自由意思なら?
吉見:自由意思であれば言えない
秦:(語気強く)日本の身売りはどうだ!親が売るが売った形にしない、また娘には言わない、でもいわゆる身売りと言う、公娼への1936年調査で家庭事情理由が96%だ、娘は騙されたと思うかもしれない。自由意思が難しい誰が判断する?
吉見:金で女性の自由を拘束するのが人身売買だ
チキ:大正期の資料で親が騙して公娼になるという記録ありますね
吉見:売春で借金返すというシステムですね
秦:(語気荒く)ネバダ州で弾劾してみろ、自由志願ですよ(意味不明)
吉見:何言ってるの?売春で借金返すのが違法なのです、当時の判決で拘束は違法しかし借金は返せという判決でるから公娼から逃れられないのです。判決が問題


チキ:整理します、公娼制度の中で売春婦になった人には人身売買の人も自由意思の人もいた、そして慰安婦でも人身売買の人がいるという事でしょうか?
吉見:慰安婦制度は(1)人身売買が基礎(2)朝鮮では騙して連れ去る=当時でも誘拐罪、(3)一部に暴行脅迫で連れ去るもの(4)占領地では軍が村に要求して出させるもの=権力乱用、これらが基礎になってる
チキ:本人の意思に反して慰安婦になった場合の原因ですね、それ誰がさせたのか秦さん如何?
秦:朝鮮人の身の上話は5通りくらいある、本当はわからぬ、証言に誰が騙したかの主語ない、韓国の運動体が削った、たぶん朝鮮人の親が朝鮮人のブローカーに売ったのだろう、日本政府がブローカー探せばわかるはず、業者と軍が商談したのであってどっちが主体でもない
チキ:軍の責任は問われない?
秦:ブローカーまでは契約書ある、売春婦抱え主も連れてきた人も御用商人であって軍ではない
チキ:御用商人は誰でもなれる?
秦:コネやなんかでなる、誰でもなれる訳でない、民法上の関係はそこで切れるから軍の責任ではない、軍は女性がどう連れてこられたかわからない
チキ:吉見さんどうでしょう?
吉見:業者は軍が選定あるいは依頼したもの、軍属待遇でしょう
秦:(強く)違う、軍属でない、軍属なら給料払うからね
吉見:給料払わない無給軍属です、軍の船に民間人乗せられないからです
秦:嘘でしょう、民間人への便宜供与でしょ
吉見:国会答弁で答えてます、昭和43年4月26日社会労働委員会議事録「民間人は軍の船に乗せられない、戦地で宿舎提供も何か身分がないといけないので無給の軍属という身分与えました」厚生省の役人でサネモト政府委員です。
秦:その人の認識が間違っている
吉見:外務省公文書では軍従属者の身分を与えています。又軍は慰安所に入る女性をチェックしてる、契約関係や書類を調べています
秦:(強く)女は職を失うから無理に連れられたと言わないよ
吉見:いや例がある、漢口慰安所での例(軍医により本になっている)*1

「日本から連れてこられた女性が性病検査を拒否した、慰安所というところで兵隊さんを慰める仕事と聞いた、私は売春そんな経験ない、知らなかった帰らせてくれ、そう泣いて検査を拒んだ、翌日震えながら応じた、軍医は多分業者に殴られたと推測した」
秦:(強く)それどうやって立証するのか?その女性の話を信じるのか?誰かに慰安所は何する所と聞きゃあいいじゃない!
吉見:当然女性を信じます。又この女性は重い借金を負っている、これは誘拐で人身売買を意味する。結局慰安所にこういう女性が入った時こういう事態がおきたら軍は送り返ささないといけない、なのに犯罪だという認識が軍にない

チキ:そういう拒否しした場合帰る自由はあったの?
秦:親が売ったのが悪い、借金返せば帰れる
吉見:秦さんがわかってないのはその点。借金返せば解放されるという言い方は、借金理由の身柄拘束を認めれば人身売買を肯定する事になる。

チキ:メール質問です「慰安婦で戦地から帰った人はどれほどいるの?」
秦:生還率90%でしょう。日赤看護婦生還率は96%でそれよりよいはずだから。日赤は前線から離れた安全な場所だけど末期は玉砕とかあるから、慰安婦はより安全なはず
吉見:%計算したことないが看護婦より悪いだろう、なぜなら慰安所生活厳しく体壊すから、毎日数人から数十人の男性の相手をさせられる、そこで性病移されたりして、戦地で命落とした人多いだろう

(CM入る、ここまで39:30)

チキ:強制連行や軍の関与について、責任論はどうでしょう?
秦:まず吉見氏の言う強制連行があったかどうかはたいしたことない、吉見氏の言う4つの自由(居住・外出・接客・廃業)があるかないかが大事、慰安所の状況はそんなに酷くない。吉見氏の作った資料集にビルマ慰安婦への米軍の尋問書があり「兵隊と運動会や演芸会した、お金たっぷりもらった月給700円で兵隊は10円、都会では買い物した、接客を断われた、一部の人は朝鮮帰った」他地域も似たようなものだろう。雇い主より給料高い奴隷なんていない。
吉見:違う(1)女性がそう言ったかどうか不明だ、尋問は2名の業者と20人の慰安婦に行われ、誰が言ったか不明(2)戦地で女性いないので運動会や宴会に連れ出しただけだろう(3)高収入はビルマのひどいインフレを考えてない。日本軍が軍票を大量発行し1943年からすごいインフレ、1945年には無価値になってる。現地で兵士は持ってても何も買えないのでチップに渡したのだろう。又同じ証言内で女性は生活困難に陥ったとしてる、高収入でなぜ困るのか?(4)同じ証言で女性はビルマに来た経緯を「1940年5月に役務を明示されずきた、病院で兵隊に包帯まき喜ばせる仕事と聞いた=これ誘拐、多額の金銭、楽な仕事と新天地と聞いた=これ甘言」こうして拘束された

チキ:整理します、その資料にはインフレを考慮をすべき、来た理由は甘言という事ですか?
秦:甘言て、それ誰がしたの?
吉見:日本の周旋業者によってと答えています
秦:当時は朝鮮人も日本人なのよ
吉見:日本の業者が手足として地元の人使うのはよくあること。業者は軍が選定し軍の施設に入れてる、結局軍がやらせている、これで軍の責任は発生しないのですか?
秦:関係ない、朝鮮総督府の管内で朝鮮人が騙した、朝鮮人巡査もそこにいただろ

チキ:慰安所は楽しかったのですか?
秦:山川菊江賞をもらった慰安婦の回想記ある、彼女最後ビルマ行った、将軍から兵隊まで人気を集め5万円貯金できた、昭和18年だ。楽しかったが基調だ。軍もそれなりに大事にしただろう、米軍の尋問調書で3つまで自由あるじゃないか?あれでも性奴隷なのか!
吉見:自由はありません
秦:慰安婦は看護婦さんより自由があるじゃないか?
吉見:看護婦とはまったく役務内容異なる
秦:そんなの関係ない、給料高いからみんな慰安婦になりたがるんだ


チキ:強制連行はあったのか?強制連行とどういう事を言うのでしょうか?
吉見:強制は慰安所での使役実態と連れてこられた経緯が問題だろう。秦さんも認めてる金によるものは人身売買また甘言は誘拐だという事ですね、業者は軍が選定し、軍が作った場所で拘束されている。当然軍に責任がある。軍官憲による暴行脅迫による強制についても一部ある。典型例がオランダ政府の報告書の例スマラン事件8件など。これ秦さん否定できない。日本での元慰安婦による訴訟あるが裁判所は事実認定している、暴行脅迫を認定してる
チキ:それは官憲などによるものですか?
秦:錯覚だ、裁判は全部敗訴だ、訴訟で運動盛り上げる政治活動だ、大事なのは裁判所は国家無問責&時効で慰安婦訴訟を問題にしてない事、裁判所は争点でないので争わない
吉見:今問題なのは事実関係であり裁判所は事実を認めてる

チキ:最後にこの問題で若者に何に注目して欲しいですか?30秒で
秦:慰安婦問題は日本と韓国の支援団体がやらせている事だ、韓国大統領が言ってる
吉見:事実を知って欲しい、国際的には性奴隷制度だとの認識は定着してる、慰安婦への保障法案あるのでそれでの解決が望ましい
(CM)
チキ:今日は熱い議論で出なかった論点も多い、再度行いたいが如何でしょう
秦:都合さえつけば出演しますよ
吉見:時間があえば出ます
(終了)58:30


感想:

まあ秦さんのイチャモンは相変わらずで、とても学者に思えない(実際秦氏歴史学教授であった事はないようだし、彼には文献偽造疑惑がある)。彼は人の資料にイチャモンつけるのではなく、自分で文献発掘調査やブローカー等への面接調査を行い、資料に基づき慰安婦制度はこういうものだった、と示すべきだろう。秦氏の今の論はほとんどが推測であり、吉見氏見解への細部での疑問提示でしかない。
 また人身売買への認識はどうだろう?2013年の今、お金に困った親が子供をソープランドに住み込みで売り飛ばし、その経営者が借金を払うまで外出も帰宅もさせないと閉じ込めたら、それは犯罪なのか?吉見氏の説明では当時でも、朝鮮人慰安婦のように特に海外渡航を伴う場合には犯罪であり、この法的状況は変わっていないと説明されている。
 すると当時と変わったのはそれを禁止すべき事と考える人権意識があるか否かに思える。そして橋下氏や秦氏には今もそうした人権意識はなく金で人を完全に拘束する事を当たり前と考えているように見える。こう整理すると奴隷制度を克服したアメリカなどから強い批判があがるのも納得できる気がする。秦氏大阪市長が選挙資金のため自分の娘をセックスワークに強制的につかせ拒否を認めず、ヤクザが縛って連れて行くのが今も法的に正しいと思うのだろうか?橋下氏は誰もがそれに同意すると思うのだろうか?
 またそうやって出来た「自衛隊専用ソープランド」に、自衛隊が兵士は何千円で将校はいくら、行く日はココと、自分たちで規則を作り、行くときにはこれを持てと避妊具を支給し、自衛隊員を集団で定期的に行かせる事について、自衛隊に責任はない、むしろ必要だ、と橋下氏や秦氏は思うのだろうか?

*1:漢口慰安所 長沢健一 図書出版社 1983年