zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

民主党政権誕生までのテレビの政治番組はどんなものだったか(2)

・・・この記事の前半分は前日ブログに、続きは翌日ブログにあります。

5:主要なコメンテーター&キャスターのあり様(それへの論評)

(コメンテーター)

  • 与良正男毎日新聞論説委員。TBS「朝ズバッ!」に頻繁に出演。読売新聞などの自民党支持の論調も踏まえた上で、何が正しいことかを自問した上で正論を論ずる最も信頼に足るコメンテーター。通常コメンテーターは司会者と対立する意見は述べないが与良氏は強力な番組司会者みの氏と番組内ではっきり意見を違え対立したこともあり、その番組出演への考え方は強い信念に基づいているようだ。ある意味非現実な理想主義の「正論坊や」になりがちだが、多くの場合発言は納得できるものだ。テレビでは数少ないジャーナリストとしての信条を固く守る稀な存在であろう。
  • 三宅久之勝谷誠彦:代表的な右派の政治評論家。「TVタックル」と「たかじんのそこまで言って委員会」の常連コメンテーター。2つの番組での2人の立場はかなり異なり、リベラルが基本の「TVタックル」では保守の立場ながら論理をつくし自民党批判もするが、かなり極端な右派番組「そこまで言って委員会」(読売テレビ)では問答無用の右翼的立場をとっている。コメンテーターが自分の信条を守らず、出演番組によって言うことを変えてしまう典型例だろう。両者とも極端な言い方を特徴にしており発言は表面的には面白おかしいが、内容的に深いものがあるわけではない。
  • 田崎史郎時事通信論説委員自民党にくわしく、複数の番組に出ているが言うことが番組で異なる、また根本的には自民党の見方でしか政治を見ていない「自民党政治」の評論家と見受けられる。テレ朝の「報道ステーション」では、自民党批判と民主党政策の正当性を述べるが、フジテレビ「サキヨミ」では、厳しい民主党攻撃を行っている。情報豊富であり意見にはそれなりにた説得力があるが、信条のない彼はジャーナリストではなくある政治的意図を持った政治評論家に近いのではないか?出演番組よって言うことを変えるコウモリのような存在。
  • 星浩朝日新聞論説委員。テレ朝の番組に出演。現役の新聞論説委員でありメディア論的な冷めた見方のできる、やや将来を見通したコメントのできる人間と思われる。コメントは問われた事にのみ答える場合が多く、発言は控え目だ。
  • 森永卓郎:経済・雇用関係の評論家。テレ朝から日本テレビまで多くの番組に出演。リベラリズムの立場から主に民主党の経済政策を支持する発言が多い。また経済に限らず安全保障の分野でも憲法9条を守り外交による問題解決をはっきりかつ平易に解説し主張できる点が森永氏の特色だろう。更に森永氏の特徴はその主張をフジテレビなど本来彼の主張と相容れない番組でもはっきり言える事で、そこでは番組のトーンとはっきり異なった発言を行っている。その愉快な風貌と異なり番組に迎合せず自分の主張を変えないコメンテーター。
  • 池上彰:元NHK記者。政治問題も含め幅広くニュース解説を行っている。基本はリベラルだがフジテレビなどにも出演の機会が多く、強い主張や分析はなく番組に都合よく使われる形が多いようだ。しかし民主党代表選挙ではフジテレビで「岡田にしなかった民主党は最悪」と異例に強く発言、時には自分勝手な評価も行うようだ。
  • 一色清報道ステーションに出演。朝日新聞出身。経済関係が専門領域で政治関係には発言は控えめでかつ浅いコメントしかしない。この期間の政治状況では役者不足だったように思われる。

(キャスター=番組司会者)

  • みのもんた:この期間最も有名で視聴者への影響力の大きなキャスター。みの氏の政治関係ニュースの伝え方は相当に政府自民党に批判的でありジャーナリストとして正しいものだった。しかしみの氏自身は事件・問題の理解、背景知識などはかなり薄いように見受けられた、同時にその見方は庶民の目線としてわかりやすいもの、として受け取られ視聴率を高めた要因だったと思われる。即ちみの氏は政治ニュースを内容をよく理解して伝えているのではなく、その長年の司会者の勘からこの点をこういうべきだという、感覚的な捉え方で伝えていたように感じられる。 他にもみの氏番組の視聴率の高い要因は、出演する月曜〜金曜の「朝ズバッ!」では政治関係の話題をとりあげる時間が他番組よりかなり長く、また政治家の出演、政治家同士の議論が番組内で行われるなど番組の内容が情報豊富であった事が大きいだろう。そこでのニュースの解説でのみの氏の伝え方は自民党政府に明確に批判的であり、わかりやすいニュース説明とともに視聴者に強い影響力をもったと思われる。また土曜の「サタデーズバッっと」では恒常的に与野党複数の政治家を全時間出演させ、問題への見解、議論を行わせた。この番組は3年近くもほぼ毎回年金問題を長時間とりあげ、その改善を自民党議員にはっきり要求してきた。みの氏が「改善してくれませんか」と問題をまとめ、その後の与野党議員での議論では改善しますとの結論になるのは、明らかに政府側に不備のある年金問題では当然の経緯である。このため自民党議員でこの番組に出演する人は改善「しない」言い訳をして糾弾されるか、改善の言質をとられるかに陥った。その一人が厚生労働大臣であった舛添氏であり彼は後期高齢者健康保険制度の個人的な改革案を番組内で示してしまい、政府が実際にはまともに改善に努力してないのを明確にしてしまった。
  • 田口五朗NHK「ニュースウオッチ9」のキャスター。つまらないコメントを毎回行う最低のキャスター。発言内容に意味がない(当たり前の事しか言わない)かつ無感動・無責任(深刻な被害の出る事件でも田口の同情心はまったく存在せずどうでもよい口調でしか述べない)である。その低評価ぶりは私個人にとどまらず万人に共有されるレベルと思われ、久米宏は自分の番組で「あの人の言うことは頭に入らない」と評している。NHKはこの最低のキャスターを長期間登用し続けており、その理由は「ニュースウオッチ9」という番組では何も伝えない事(当たり障りがない事)をその基本方針としている為だと感じられる。
  • 後藤謙次:TBSのキャスター。尊敬された筑紫哲也氏の後任にあたり政治ニュースに独自の解釈・分析による未来予測的な鋭い指摘を行う能力では他に抜きん出ている。政治分析では十分政治評論家の能力があると思われる。しかしキャスターとしては視聴者の関心をひきつける適度な柔らかさに欠けており聞いていてつまらない。硬い夜のニュース解説番組「NEWS23」には向くが、グルメニュースなどを多く扱い柔らかな夕方の「総力報道THE NEWS」には向いていないと思われる。
  • 古舘伊知郎:「報道ステーション」のキャスター。古舘氏の特徴はそのニュースの社会のに対する本質的な意味や視聴者がそのニュースから感じるべき事を、短いコメントに感情的なものをも込めて語れる事だろう。こうした紹介の語りはニュースの内容とは直接関係ない場合が多いが、視聴者により大きな視点を与える非常に大事なものに思われる。古舘氏はこうした紹介を行う為、ニュース自体の勉強だけでなく、背景の累積的な知識・情報を自分専属の集団を使って調査し勉強しているようだ。視聴率が示しているように結果として日本で最も人気のあるキャスターと言うべきだろう。
  • 宮根誠司:昼間の情報ワイドショー「情報ライブミヤネ屋」(日本テレビ)のキャスター。局の姿勢のためか自民党よりの見方が目立つが同時にそれはかなり抑えたものでもある。その理由は宮根氏のコメントから推測できる。宮根氏は「キャスターは政治家にもっとつっこんではっきり聞き出せ、と思うが同時に自分レベルではまったくその能力がない、みのもんた氏や田原総一朗氏に任せる」としていた。宮根氏は自分ではまともなキャスターは勤まらないと認識しており、キャスターには政治関係だけでも多量の予備知識が必要でありできる人物は日本全体でも数人しかいない事が推測される。
  • 辛抱治郎読売テレビ解説委員。明確な自民党支持者。日本テレビでも主軸のコメンテーターとして出演している。言い方は明快さを越えて攻撃的である。辛抱氏が日本テレビでも主軸なのは日本テレビには政治関係でまともに差配できるキャスターが人材的に存在しない事を推測させる。
  • 田勢康弘:元日本経済新聞論説委員。控えめな自民党支持者ないしは自民党政治しか知らない評論家。
  • 田原総一朗:「サンデープロジェクト」の項を参照。もはや引退すべき老害キャスター。

6:「テレビ政治」に関するいくつかのテーマとその回答

(1)NHKは中立なのか?
→答え:明らかに中立ではなく自民党支持のデマ報道を含む世論操作を行ったが成功しなかった

 この期間各テレビ局の政治的立場はかなり明確だったが、その中でもっとも劇的な変化をしたのはNHKだったろう。
 当初NHKは政府自民党の見解を伝えるそれまでのやり方を通そうとしたようだった。2008年9月10日の自民党総裁選をNHKは通常30分の7時のニュースを1時間に伸ばし、しかも1時間すべてを使って大きく伝えた。又特別に自民党総裁選を扱ったNHK特集を放映し、自民党総裁選の話題にもかかわらずその番組中では民主党を比較対照して扱い、民主党に批判的と言えるものだった。この時点での自民党の選挙戦略は総裁選で国民的人気を集め、その人気と勢いで総選挙も勝利しようという2005年の小泉劇場の方法であったので、NHKの番組は自民党への大きな援護射撃だった。しかしこの7時のニュース番組には一般視聴者から反発の電話がかなりあり、しかも応対に出たNHK職員が「自民党の宣伝だよ、わかんないの馬鹿」と答えたため新聞記事にもなった*1。この時までNHKは7時のニュースの中でさえ解説者(NHK職員)を登場させ、問題を自民党の視点で説明する事を繰り返し、いわば自民党の代弁を毎日行ってきていた。
 しかしこれ以降、7時のニュースでも又9時のニュースでさえ、こうした解説という名で自民党視点で代弁することはまったくなくなった。また総選挙の前や最中でさえNHK特集で両党を扱うことはついになかった。私の推測ではNHK政権交代の可能性があることを勘案し、NHK特集を作るなど目立つ形で自民党を応援すると、政権交代民主党から厳しく改善を要求されることを予想して、何もしないこと即ちみせかけの中立を装ったのだと思う。

 しかしこの期間もNHKの根本的態度は明らかに自民党応援であったようだ。それは小沢一郎の秘書の逮捕報道でわかるものであり、NHKは連日検察のリーク情報を7時のニュースの冒頭であたかも確認された発表のように報道した。こうした検察リーク情報の垂れ流し報道は他の新聞やテレビでも同じものだったが、NHKは特に2009年3月25日の深夜、突如小沢一郎の秘書が容疑を認めたとの短いニュース報道を行い、小沢一郎は有罪であるとの決定的な印象を視聴者に与えようとした*2。この日小沢氏は秘書逮捕の容疑は納得できないと再度述べ民主党代表続行の記者会見をした日だった。日本社会が小沢一郎の主張に耳を傾けようとした瞬間にNHKは「秘書は罪を認めている」と強く打ち消す報道を行った。

 この報道は翌日以降読売新聞などでも掲載されたようだが、NHKが深夜に先頭をきって行った。NHKは同じ日の7時のニュースの中ではそうした報道を行っておらず、深夜突如そう報道した。つまりNHKは「小沢一郎秘書容疑を認める」を新規に取材(リーク取材)した結果ではなく、NHK内で事前に用意した(捏造した?)ものを、他局が裏づけを行えず否定される事のない深夜に放送したと推測できる。そうする事で他メディアが裏づけ取材できず、反論も出ない間に小沢氏側に決定的ダメージを与えようとしたのではないだろうか。これに対しては2009年3月30日国会予算委員会民主党長谷川憲政氏がNHKに質しているがまともな返事はなかった。

 しかし翌翌日小沢側弁護士の抗議(弁護士の知る限り秘書はそう言っていない)をうけ、NHKはこの報道を繰り返すことはなかったし、民主党輿石氏はNHKなどの報道を世論操作であるとさえ言っており、民主党小沢一郎支持は揺るがなかった*3。一方民放テレビではメディアに出回っている情報は検察のリーク情報であり信頼性の乏しい一方的見解に過ぎないとの検察OB(郷原信郎氏など)の声もあり、あまり波紋は広がらなかった。5月26日保釈された大久保秘書は容疑をはっきり否認しており*4、結局NHKが深夜流した報道は完全なデマだった。


(2)民放各テレビ局の報道姿勢(政治的立場)
2009年現在、民放各テレビ局の政治的立場は資本的繋がりのある各新聞社の政治的立場に沿うものでありそれぞれはっきりした政治的立場にたって番組制作をしている。ただ新聞に比較しテレビの政治報道はずっとおとなしく控えめであり、それと比較すれば中立的であると言えよう。

  • テレビ朝日朝日新聞と資本関係。リベラリズムを基本にした強い政治的視点で番組を作成している。今の日本では政治報道ではTBSと並んで他局は見習うべき存在だ。政治関係のニュースの時間枠そのものはTBSに及ばないが、その報道姿勢はリベラルの点ではより明確だ。テレ朝で最も政治的影響力のある番組である「報道ステーション」には朝日新聞論説員出身者が常設コメンテーターとして出ており、週1回は他の朝日新聞OBも出ている。夕方の「スーパーJ」はその日の政治的出来事に即座に適切なコメントをつけて報道する点で最も優れていると思う。朝の「スーパーモーニング」は永田町トリビアなどの企画で選挙期間中最も政治関係をたくさん扱った番組だった。しかし田原総一朗の司会する2つの番組「サンデープロジェクト」と「朝まで生テレビ」はテレ朝の姿勢とは異なる。それらは田原総一朗の支配が強く、小泉改革支持や小沢一郎批判などでは最も強い自民党応援番組になっている。又「TVタックル」は与野党政治家の激しい言葉のやりとりを目玉にしている娯楽番組なので、結果的に民主党への批判の露出度は相当高いため素直に見ている人(例えば植草秀一氏など)からは厳しく批判されている。
  • TBS毎日新聞と資本関係。中立性、正義や正当性を重んじる点で最もジャーナリズム的な立場にある。民放の中では最もニュースの時間枠が大きく、伝え方も真面目だ。リベラルな政治的姿勢より中立性のあるジャーナリズムを重んじる点でテレ朝よりインパクトは劣るが政治報道としてはTBSの姿勢の方が正しいかもしれない(例えば「報道ステーション」と「NEWS23」の比較などから)。その中でTBSで最も政治的影響力のある番組である「みのもんたの朝ズバッ!」はニュースをちゃんと伝えること、パネルを使用しわかりやすく伝える事で優れている(同じ時間でもNTVなどは芸能ニュースが大変多い)。又毎日新聞論説委員やそのOBが何人もコメンテーターとして出演しておりTBSの姿勢が反映されている。しかし夕方の番組「総力報道THE NEWS」は視聴率優先のためか食べ物のニュースなどが多く全体印象は曖昧だ。
  • 日本テレビ:読売新聞と資本関係。ニュースを扱う枠は小さく更にその中でも政治を扱う枠は小さい。このため姿勢は一見中立的に見えるが放送をよく聞けば自民党支持なのは明確だ。ジャーナリズム的精神など存在せず、自民党視点での自民党政府への異議申し立て(批判的応援)と民主党への激しい攻撃が特徴になっている。姿勢が最もよく出ているのが「スーパーモーニング」であり選挙後も早速民主党マニフェストへの強い批判を行っている。しかし日本テレビには政治番組を制作できる司会者(コメンテーター)が不足しているようでこれらは読売テレビの辛抱治郎氏に頼っている。又読売新聞の論説議員も出ていない。夜中の報道番組「NEWS ZERO」では司会者村尾信尚氏の能力にのみ頼っているため、局の姿勢が打ち出せずほぼ中立的なものになっているのも奇妙だ。
  • フジテレビ産経新聞と資本関係。ニュースを扱う枠は日本テレビより更に小さくその中でもジャーナリズム精神はほとんど感じられず話題を追うだけだ。ただ局の姿勢は明確であり「新報道2001」などで示すように自民党支持という強い視点は日本テレビとほぼ同じ。政治を扱う番組の数は少ないが、視聴者にはっきりアピールする視聴者に受ける番組作りは明確で「サキヨミ」で政治的テーマを扱う場合はかなり民主党批判色は強い。産経新聞は日本の軍備促進、中国の脅威を煽ること、東アジアの国への侮蔑などにしか関心のないタカ派的姿勢が特徴だが、それらは誰も見ていない夜中の番組「NEWS JAPAN」などにしか出ていないように思える。
  • テレビ東京日本経済新聞と資本関係。筆者は完全にフォローした訳ではないのでやや不正確だが、ニュースの枠はフジテレビより更に小さい非常に小さいものと思われる。夕方の「NEWS FINE」でも実際にニュースを扱っている時間は非常に短い。扱っていても経済関係だけであり一般的なニュースは少ない。局の姿勢としては日本経済新聞と同様と思われる、小泉構造改革への支持、規制強化による大企業への支援、経団連など大企業の代弁者になっていると思われる。結果的に自民党にはやさしく民主党には強く懐疑的な姿勢であり「週刊ニュース新書」で示されているものだ。
  • BS11毎日新聞が制作して毎日新聞論説員が多く出演しているが、必ずしもリベラルではない。出演者によって番組の主張が大きく変わってしまう。番組制作に金をかけておらず野放図な状態に見える。
  • BSフジ:「PRIME NEWS」はフジテレビ論説委員が司会ながら、番組の姿勢はあまりタカ派的(産経新聞的)ではない。金をかけず出演者だよりになっているためだろう。
  • 朝日ニュースター:大手メディアを批判してる上杉隆氏の出ている「ニュースの深層」など他のテレビ、新聞では提供しない違う視点の意見を提供している。


(3)コメンテーターと番組の関係
 コメンテーターのあり方が問題とされた事があった*5。コメンテーターは番組とどういう関係にあり、どうあるべきなのか?という議論であっただろう。この時期テレビに出演したコメンテーターは局の社員であるテレビ局論説委員は少なく、ほとんどは大学教授など番組から独立した存在だった、しかしほぼ全ての場合彼らは番組の趣旨通りにしか発言しなかった、コメンテーターが番組と対立する事はほとんどなかった。
 コメンテーターは元来、独自の意見を述べることを期待され番組制作者の意図範囲を超える多様な声を伝えることで、番組に深みを与えるものだ。典型的にはその分野の専門家であり、その分野での蓄積された議論や各自の先端的な意見を述べる事が期待される。
 しかしこの期間実際にはそうではなかった。政治学者、政策研究者、法曹などの専門家などが専門的意見を述べる事は少なかった。テレビで政策を解説や批判するのはほとんどが政治家や政治評論家であり、その意見は事実を伝える以前に非常に政治的だった、彼ら政治評論家がそれぞれ政治についてある立場をとっているのは明らかだった。
 起きたのは、政策についてその背景となる様々な情報を解説する専門家はほとんど登場せず、同じテーマが取り上げられても内容は深化せず、視聴者は同じ意見を繰り返し聞かされるだけの場合が大きかった。
 またタレントなどテーマに対し素人のコメンテーターが登場し感想を述べる場合も多かった。しかしその感想は多量の正しい情報を受けてのものではなく、番組が繰り返し流す少量の情報への感想である場合が多かった。その結果素人コメンテーターの感想は番組の制作者の狙いに従って、感想と称してより露骨な言い方をしたり、同じ事を繰り返し共鳴して話す存在だったと思う。

 こうしたコメンテーターのあり方は、結局番組内容の編集権(決定権)は製作者にあるのであり、ビデオを流し司会者(キャスター)が番組趣旨に沿った言い方で修飾して紹介し、コメンテーターは更にそれを強調するという存在だったと思う。コメンテーターの多くは多面的視点を提供せず、単に司会者の仲間である場合がほとんどだった。結論としてテレビのニュース番組の伝え方を決定するのは直接画面に見えない番組製作者にあるという事だろう


(4)小泉劇場(テレビ政治の娯楽化)はどうなったのか、テレビはそれを反省したのか
 →反省していない、小泉純一郎のような訴えかけの上手な政治家が現れればいつでも再燃する
 日本でテレビの政治への影響がはっきり認識されたのは2001年の小泉劇場以降だった。そこでのテーマはテレビが政治を娯楽化して、本来あるべき形とは異なる取り上げ方で伝える問題で、焦点は「伝え方」だった。しかし民主党政権が誕生する過程ではそれは非常に低調だった。今回のテレビ政治の最大の焦点は小沢一郎秘書の逮捕に関しての検察リーク情報をあたかも確認された事実のように伝える「内容」の問題だった。そしてそれはけして誉められたものではなかった。
 小泉劇場が再来しなかったのも明確な停止の意思があったとは思えない、日本テレビテレビ朝日は、小泉劇場的な番組を流し続けた。小泉のようなテレビの素材となる存在があれば今回も小泉劇場の再来があってもおかしくなかっただろう。小泉劇場にせよ、検察リーク情報の垂れ流しにせよ、テレビの政治ニュースの伝え方は未だけして望ましいものではなく、今後も又違う形で、あるいは同じ形で登場する可能性は大きいと言うべきだろう。


(5)政権交代でテレビは変わったのか?
政権交代でテレビは変わったのだろうか?それまでの政治的立場や、報道への取り組み方、方針などを変えたのだろうか?→2009年10月現在まで、その結論は否であり、まったく変わっていない。
 選挙の出た直後から日本テレビ、フジテレビは民主党政権に批判的な姿勢を示している。両社は政治を扱うニュースの枠がもともと小さいが、従来そこでの扱いは野党民主党に批判的だった。選挙の後でも変わらず政権交代を祝福せず、民主党政府にかなり批判的だ。この政府への批判はジャーナリズムの本来的な仕事であるが、2009年10月現在で言えば、日本テレビ、フジテレビのしている政府批判は、民主党マニフェスト検討番組(実際には批判番組)の延長線上にあり、自分達の支持しないマニフェストを守ることより、自民党が言う大企業優先の成長戦略や、経団連の要求する赤字国債を減らす事を要求しているように見える。
 つまり今の日本テレビ、フジテレビのしているのは、今の政府への批判というより、今までの自民党の政策への回帰という内容になっているように感じる。日本テレビ、フジテレビは従来からニュース番組に力を入れておらず、知識豊富なコメンテーター、見識の高いコメンテーターなどがいないまま政治関係の番組を制作しており、政権交代後の今もそれは変わっていない。即ち両社は今も物事を浅いレベルで捉え、批判論者がいればそのままそれを登場させるという格別な論考なしの民主党政策の非難という安易な姿勢なのだろう。フジテレビなどは視聴率優先の番組制作の方針から考えて、これは今のまま変わらないのではないだろうか?そうしたものは健全なジャーナリズム精神のものではない。


 NHK政権交代直後から民主党大臣の打ち出す政策を毎日大量に伝えており、従来の姿と比較すれば明らかに民主党側に変わった。しかしこの現象はまさにNHK自体のあり方が変わっていないのを示している。即ちNHKは与党の宣伝を行っているのであり、自民党と特定の関係があったわけではない、従来は自民党が与党でありNHKに大きな権力をもっていたから自民党政治家に配慮した番組を制作したのであり、今後は同じように与党民主党政治家に配慮し番組を制作すると思われる。これは公共放送として正しい姿ではない。
 言い換えれば今のNHKの政治報道の姿はジャーナリズムとして、あるいは公共放送として望ましいものではないと思われる。NHKは政府与党の発表や見解だけを伝えるのではなく、批判意見や民間の意見も積極的に伝えるべきだ。また国民の側にたって問題点を指摘し自ら掘り起こす番組を制作するべきだろう。
 NHKが変化を迫られる機会があるとすれば、原口総務大臣が計画している日本版FCCが動き出し、それが公共性の観点からNHKに対し放送内容の改善を要求した場合ではないだろうか?今の計画では日本版FCCはテレビ局を国の介入から守りテレビ局の自由を保障する側だが、日本版FCCがより踏み込み望ましい放送のあり方について見解を出し、NHKのあり方について議論し提起する存在になるべきだろう。その場合NHKは自らの公共性を明らかにせざるを得なくなるのではないか?


 TBS、テレ朝についても政権交代の後もその姿勢にあまり変化はない。両社はジャーナリズムの精神に基づき、今は発足間もない民主党政権を暖かく見守っている状態だ。今後、民主党政権が様々な政策を実行に移し、様々な問題がおきた時に、両社が今までの自民党政府に対するのと同じように批判や問題提起をできる事を期待する。


(6)総選挙にテレビは影響を与えることができただろうか?
2009年8月に政権交代がなされたが【もし他の選択がなされていて事情が異なっていたら】テレビはこの選挙に影響を与えることができただろうか、総選挙で自民党を勝利させる結果になる影響力を持ちえただろうか?こう考えた場合可能性は、それは5つのタイミングで存在したように思われる。

<1>自民党総裁選の宣伝:自民党総裁選では知識人からの批判や警告から、新聞やテレビは自民党総裁選の報道が自民党の宣伝になることを警戒した、特に総裁選終盤では麻生の勝利が見えていた事もあってテレビの扱いは抑え目なものだった。しかしその状態でも扱いは大きかったし、事実総裁選の後自民党の支持率は上がった、首相に就任した麻生氏の支持率は50%近くもあり、前任福田康夫氏の任期中の最高支持率に匹敵した。【もし】自民党総裁選がもっと逼迫したものになっていて、麻生の当選が確実でなかったら、テレビの扱いはどうだったろうか?【もし】麻生が怖気づかず首相就任直後2008年10月即座に解散していたらどうだったであろうか?
 その時点では麻生の漢字読み間違いも、発言のブレも、夜のバー通いも国民に知られておらず、逆にマンガ好きなど若者層への浸透は明らかに民主党より上だった。低迷し接近しているものの自民党の支持率は常に民主党を上回っており、その点から推測すれば選挙結果は接戦が予想される。メディアにひどく無愛想な小沢一郎に比べ麻生はメディアを利用することにはるかに積極的であり、その選挙でのテレビの扱い方が政権交代に影響を及ぼす可能性はあったかもしれない。<2>小沢一郎の違法献金疑惑報道と解散タイミング:小沢一郎の秘書が違法献金容疑で逮捕された時には検察のリーク情報をテレビなどのメディアは毎日流しつづけ、結果的に一所懸命に熱心に自民党の応援を行った。テレビでは郷原信郎氏など検察の行動を厳しく批判した知識人もいたが、大局的にはテレビは小沢一郎に批判的だった。テレビを含むメディア全体は明らかに小沢一郎を嫌っている。そして民主党支持率は下がり自民党支持率は上昇した。
 【もし】この時点で麻生がこの千載一遇の好機を逃さず即座に解散総選挙に踏み切っていたらどうなっていただろう?民主党は当初は小沢一郎の代表継続を容認していたし、小沢一郎も検察に激しく対抗し辞任を拒否していた。解散されてもそのまま小沢氏が代表のまま総選挙に突入した可能性はある。又、小沢が選挙に向けて代表を辞任したとしても選挙までの1ヶ月程度の期間では民主党=カネに汚い小沢一郎のイメージは変わらず、無党派層への支持は得にくかっただろう。この時点で両党の支持率は、どちらも低いものの自民党が上回っており選挙では接戦になった可能性がある。メディアに嫌われた小沢が代表のままでは選挙でもメディアは民主党に常に距離をおいて扱かっただろう。
 ただ週刊誌などの予想では、この時点でも民主党の優勢は変わっていないようではある<3>東国原知事自民党総裁選への出馬:【もし】自民党側が東国原を総選挙の為の広告塔と割り切り、自民党総裁代理などの名目で、実際上東国原を軸に総選挙を行っていたらどうなったであろうか?とりあえず東国原を自民党要職につけ選挙後に彼を軸に総裁選を行うなどと言い訳をして、東国原を前面に押し出して選挙戦ったらどうなっただろう?東国原氏はテレビの人気者であり、彼が「自民党を変えます」「地方を大事にします」などとキャッチフレーズを立てて選挙を戦えば無党派層には相当にアピールしたであろう。
 【もし】この時テレビが東国原の人気の高さから、それまでの様々な政治的課題を東国原に問いたださず、東国原の示す表面だけの改革ばかりを伝えていけば、選挙では大きな変化があった可能性はあるのではないだろうか。
 ただし週刊誌の予想ではこの時点では自民党の劣勢ぶりはよりひどくなっており、それをひっくり返すだけの力があったかは不明であろう。<4>鳩山由紀夫故人献金問題:鳩山氏の故人献金問題は非常に短期間でメディアの注目から外れた。鳩山氏は事件がおきてすぐに調査と会見を行い、メディアに対して懇切丁寧に説明を行い、その後メディアはまったくこれを問題視しなくなった。このメディアへの説明はあまり報道されていないが内容的には秘書が命令に反して勝手にやったものという今まで報道されている内容である。メディアはこの説明に納得しそれ以上の追及を行わなかった。
 しかし【もし】メディアが納得せず、追及を続けたらどうなったであろうか?この場合鳩山氏が代表を辞任するだけのはっきりした証拠はなく、単にメディアは鳩山氏に説明要求と疑惑を醸し出し続けることになる。これらが鳩山氏への非難のような形で継続したかもしれない。それは民主党支持者や、自民党に飽き飽きし政権交代を望む大多数の日本人にはあまり響かないものであったと思われる。従ってこの場合でも選挙結果に大きな影響を与える可能性は非常に低かったと思われる。

*1:いきさつは内野光子ブログ「やっぱりおかしいNHK7時のニュース」毎日新聞などが報道した

*2:参考ニュースにNHKニュース全文を掲載

*3:参考ニュース「民主党HP2009年3月27日」参照

*4:参考ニュース「小沢一郎秘書、保釈で容疑を否認」(産経新聞 2009年5月26日)参照

*5:例えば「テレビコメンテーターは自らの役割と意義を認識しているか (特集:テレビが作る世論)」/ 大谷昭宏 調査情報[2008年5・6号]