zames_makiのブログ

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はだしのゲン・アニメ版(1983)最も残酷表現にすぐれる原爆映画

英語題名:Barefoot Gen メディア:アニメ映画 85分 製作:げんだいプロ 配給:共同映画全国系列会議 公開:1983/07/21
ジャンル ドラマ/戦争

監督:真崎守 製作:中沢啓治 プロデューサー:吉元尊則、岩瀬安輝 原作:中沢啓治はだしのゲン」 脚本:中沢啓治 音楽:羽田健太郎 設定:丸山正雄 ナレーション:城達也

声の出演:
宮崎一成(ゲン)主人公、いたずら好きで元気な少年、父にならい町内会長息子と喧嘩、
甲田将樹(進次)ゲンの弟、いつも一緒、原爆で家の下敷きになり見捨てられる
中野聖子(英子)ゲンの姉、体が弱い、非国民と学校で虐められる、原爆で家の下敷きになる
井上孝雄(ゲンの父)下駄の絵描き、反戦・反天皇が明確、原爆で家の下敷きなり死ぬ
島村佳江(ゲンの母)優しい母、原爆直後に友子を出産するが、餓死させる
西村淳二(朴)朝鮮人の隣人、ゲンの一家に親切

感想

原作者中沢啓治氏が製作、構成に関わり、7年前の実写版では控えめにした原爆投下直後の残酷な様子の描写を意図的に行っている。登場人物を絞り、反戦エピソードをけずり、原爆投下直後の惨禍を残酷さをあえて表現した映画。画風は漫画原作とも異なりアニメ的な柔らかい描線のもので、被爆した人々の様子もアニメ的に描画演出されているが、残酷さの表現は、その長さ、内容で、他のどの映画よりも長く際立つ。原爆投下直後の人々が死ぬ様をそれぞれ見せている。広島の町も投下前の賑やかな様子と、破壊され荒野となった様子を見せている、これらはアニメならばセット製作がいらず描出が容易であるという以上に、見せたいとの意図が中沢啓治氏のインタビューで語られている。
 実写版やテレビドラマ版では、ゲンの父の反戦のエピソードが長くあり、原爆投下の惨状の描写は非常に控えられている、だがこの映画では、反戦のエピソードは大幅に短縮され、投下が物語り半ばでおこり、更に投下後の被爆した人々の惨状も描かれている。一本の映画としては更に主人公が金の為、嫌われた醜い被曝者の世話をするエピソードまでが含まれており、残酷さをあえて表現する事に拘っていると思われる。単に火傷などの恐ろしい表現だけでなく、ゲンの父親たちの骸骨を家に飾り、生まれたばかりのゲンの妹が栄養失調で死ぬなどエピソードも遠慮がない。
 漫画「はだしのゲン」を原作とする映像でも、実写、テレビドラマ、アニメで相当異なる事がわかる。

論点

  • 原作であった反戦反天皇制のエピソードは削られ、原爆投下直後の惨状と、翌日以降の被曝者の惨状の描写を行う事に重点がおかれている。描写で残酷さを忌避されるのを恐れず表現。
  • 登場人物が整理され少ない、ゲンの2人の兄は削除、ゲンと弟と両親と姉の関係のみ
  • ゲンが放射能でハゲになる描写まであり、主人公自身の恐怖まで描く
  • 原爆投下後の死体収容や、火傷の被曝者への差別など、被曝者の悲惨な様子が描かれる映像作品は他にないと思われる
  • 絵柄が原作漫画と異なり、動きは少なく、演出力としては低い
  • 父が家の下敷きになる場面の直後には母親の出産場面となり、慌ただしい、これも戦後の被曝者のエピソードを詰め込むためか?
  • 家の下敷き場面での父親の言葉、ゲンのハゲからの回復、冒頭の麦場面などで、映画全体としては悲劇で終るのではなく、希望を訴えている