zames_makiのブログ

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民主党政権誕生までのテレビの政治番組はどんなものだったか(3)

・・・この記事の前半分は前日前々日ブログにあります。

7:政治的主題をテレビはどう伝えたか、テレビの注目した話題は何か〜2008年9月10日から9月30日までのテレビの政治報道番組の様子

 福田康夫の政権投げ出しによる総裁選が2008年9月10日告示され、麻生太郎与謝野馨小池百合子石原伸晃石破茂が立候補した。テレビは新首相によって11月には国会の解散と総選挙が行われると見て、これを大きくとり上げた。この自民党内の選挙にしかすぎないものをテレビが大きく取り上げた理由の一つは、政権交代がおきるかもしれない歴史的事件である総選挙への入口だったからだろう。

 この時期すでに自民党の支持率(30%程度)、首相の支持率(20%程度)は歴代最低レベルに低くなっており、年金問題、健康保険での高齢者隔離、インド洋給油継続、ガソリンの暫定税率などで長期間あるいは連日、自民党は野党に批判され追い詰められていた。選挙で負ける可能性がある事から既に安倍晋三福田康夫は自分では解散できず、自民党が選挙での勝利に向けて何をやるかが注目されていた。そこで自民党は総裁選をテレビなどのメディアに取り上げさせ露出を増やし宣伝させて、それによって国民の支持をあげて(実際支持率は上がった)そのまま総選挙でも勝つつもりだと分析された。この分析はテレビでさえコメンテーターから流れた。

 しかしそれでもテレビは総裁選を大きく取り上げた。特にNHKは総裁選5人全てをテレビで意見を述べさせたり彼らの街頭演説(一般国民には選挙権はないのに)の様子を連日報道するなどニュースとして連日大きく取り上げた。候補者がそろった9月9日NHKは9時のニュースで小沢一郎自民党候補者の声を40分近く報道し、更に9月10日、NHKは7時のニュースを特別に60分に延長し全てを使って総裁選を扱い、5人の自民総裁選候補をスタジオに登場させ、まるで普通の選挙のように各人の政策を聞いた。(これに抗議した視聴者へのNHKの対応が問題となった*1)。同じ日テレ朝、TBSも夜のニュース番組で5候補者を出演させ同様に35分〜60分かけている。しかしテレ朝では冒頭から麻生氏の当選は確実で出来レースであろうと厳しく問うたし、TBSは街頭の声の形で、今度は投げ出すな、やるといった事を誤魔化すな、戦争しないでくれなどの厳しい聞き方をした。この扱い方は、同じ週に民主党でも小沢一郎が代表に信任されたのに対し、その扱いの小ささと、民主党ではなぜ他の人が立候補しないのかと批判する扱いが比較できる。(自民党総裁選のテレビの扱いが大きいこと、それへの批判が、しんぶん赤旗(2008年9月6日)などに掲載され、テレビ局も自民党の宣伝にならぬよう注意している(東京新聞2008年9月10日)との記事が掲載された

 候補の5人は22日まで連日日本各地を演説して周り、NHKはそれをそのまま伝え自民党の宣伝役を勤めた。しかし民放は次第に総裁選への批判色を強め、9月10日、TBS「NEWS23」は総裁選は自民党の宣伝だ、石原伸晃は「衆院選挙に立候補した」とつい本音を漏らした、これは同時に自民党の総選挙の事前選挙活動になっていると報じた。更に9月15日TBS「NEWS23」は麻生太郎がすでに圧勝の情勢で総裁選はしらけている、意味ないと報じた。実際候補者同士の論戦はあまりなく、総裁選は次第にトーンダウンし、民放はそれを伝えたがNHKは伝えなかった。

 一方この時期小沢民主党はすでに官僚改革や無駄排除による税源確保など、後の総選挙で掲げる政策を決めてテレビでも話しているが、それが大きく取り上げられる事はなかった。2008年9月22日投票され麻生太郎が圧勝した。この間9月17日に米国でリーマンが倒産し世界的金融恐慌が起きた。

  • (2)麻生太郎の対決姿勢と解散の延期(2008年10月)

 首相になった麻生太郎氏は2008年9月30日の特別国会で所信表明演説を行ったがその中で民主党に異例の逆質問を行い、民主党との強い対決姿勢を出した。同時に雑誌文芸春秋にすぐに解散して選挙で対決するつもりだと書いた*2。しかし麻生氏は世界同時不況への景気対策を口実に解散しなかった。このためテレビは本当は解散するつもりだったのではないか、いつ解散するのか?とひつこく尋ねた。

 一方新内閣成立直後から中山成彬新大臣の失言と辞任、麻生氏の高級バー通い、定額給付金問題、麻生氏の漢字読み間違いなどの失態が次次にすぐに起こりテレビはそれらを伝え続けた(主に民放において)。結局この時期のテレビの関心は、いつ解散・総選挙が行われるかの推測であり、解散日程の予想が毎日・毎週行われた。予想の多くは政治評論家によるものだった。しかしその一方総選挙後で何が問われるべきか、今の日本の国家的な課題は何かなど大きな視点はテレビにはなく、ただ目前の政治動向を毎日伝えるものだった。

 またテレビは毎週電話調査(全てのテレビはそれを世論調査と呼んでいる)を行い、麻生政権の支持率が低いこと、しかし誰が首相にふさわしいかでは小沢一郎に勝る事などを毎週伝え続け、総選挙への期待をにじませ続けた。結論的にはこの世論調査結果が解散時期を決定したと思われる。麻生氏の支持率は首相就任直後は50%近くあったがそれでも彼の予想より低かったらしく、この為解散できなかったと推測される(筆者による)。しかし麻生内閣の支持率はその後すぐに下がり(最低で13%程度)、以後小沢一郎秘書逮捕の時期に少し上がったが、ついに最後までこれより上がる事はなかった。この為麻生氏は実質任期満了まで解散できなかったのであろう。

 麻生氏は解散というメディアの期待を裏切り、一方高級バー通いや漢字読み間違いなど貶される要素も多く、当初からテレビの扱い方はおしなべて冷たくなった。その中でNHKは麻生氏が解散しないというニュースを何回もトップニュースとしながら、一方麻生氏の発言を大きく扱い続け福田政権からなんの変化もなく、当たり前のように政府自民党の主張を大きく伝え続けた。メディアの最大の関心事は「いつ総選挙があるのか?」であり続けた、それはどんどんずれていき、ついに年を越した、2009年4月ころまで常にテレビの大きな関心だっただろう。その頃になると諸日程からもはや実質任期満了まで解散がないことがはっきりしたからだ。

  • (3)国会での論戦(2009年1月〜2月ころ)

 2009年1月5日からの通常国会では、平成20年度第2次補正予算案、平成21年度予算案が審議可決された。野党民主党天下り問題、などで激しい質問も行ったが、国会での議論内容が単一主題としてテレビで大きな関心を呼ぶような事はなかった。こうしたテレビの扱いはそれ以前から特に変わるものではなった、テレビでは国会での与野党の対立・議論がそのままでは取り上げられる事はない。国会での議論がメディアに取り上げられるのは重大な方針転換や失言があった場合に限られる。こうした問題を天木直人氏は批判している。

 2009年2月、西川氏が社長をする日本郵政かんぽの宿を一括で異常に安く売却したことに鳩山邦夫総務大臣が異議を出し、東京駅前の東京郵便局の改造工事を一時中止させるなど活発に発言しテレビでも大きく扱った。鳩山邦夫氏の言動をテレ朝は批判的にあつかったが、TBS他は好意的に扱った。鳩山邦夫氏は更に西川社長の首を切るか否かで麻生首相と対立し、最終的に6月12日に辞任した。

  • (5)北朝鮮の衛星発射(2009年3月)

 2009年3月、北朝鮮から宇宙ロケットが発射されたが、ほぼすべてのテレビは「ロケット」を「ミサイル」だと断じ、かつ発射日には1日実況中継をするなどして大きく扱った。また必ずしも軍事情報に詳しくないコメンテーターの不安を訴える声を大きく扱って国民の脅威を煽った。
 北朝鮮の説明、爆発物が搭載されていない事、発射の様子、国際社会の視点などを勘案すれば、ロケット発射は北朝鮮の示威活動であったとしても、それが衛星であるのは明らかなのにテレビは視聴者に説明することもなくミサイルだとテレビ局が自分で断定して歪曲して伝えた。北朝鮮が日本に攻めてきたらどうするのか?というタカ派のコメンテーターの声を大きく伝え、冷静に議論を行う専門家の声は伝えずただ脅威を煽った。その中で自衛隊のミサイル迎撃システムが実際には北朝鮮からのロケット迎撃には不適応で不可能であるのにそれは伝えず、迎撃装置が各地に配備された映像だけを大きく伝えた。結果としておかしな自衛隊の防衛のあり方、日本の安全保障の問題状況をテレビがまともに伝えることはほとんどなかった。

 こうした事はニュース報道では激しかったが、ニュース解説の枠の中では専門家の弁として伝えられる事もあった(しかしその場合もNHKにはなかったと記憶する)。ただこの事件は政権交代の論点にはならなかった。

  • (6)小沢一郎秘書の逮捕と検察リーク情報の垂れ流し(2009年3月〜5月)

 2009年3月3日、小沢一郎の秘書が違法献金の疑い(政治資金規正法違反)で突如逮捕された。西松建設から政治団体を通して献金をうけとっておりこれが献金の報告記載に違反しているというもの。小沢一郎は容疑をはっきり否定し、秘書も否認、西松建設側の談話もなかった。しかしNHKと民放テレビ各局は毎日ニュースの枠の中で西松建設小沢一郎には賄賂の深い関係がある思わせる検察のリーク情報を、あたかも確認された事実のように流した。メディアは小沢一郎は有罪だ、賄賂をもらっているのだという印象を作った。

 しかしこの場合でも民放の伝え方は同じ系列の新聞とさえ必ずしも同じではなかった。テレビもニュース枠では小沢有罪を示すリーク情報を伝えたが、ニュース解説や情報ワイドショーではこの逮捕は、ほとんど成立し得ない罪を異例に厳しく悪質と判断したいわば民主党つぶしの国策操作だとの見方が紹介されるようになった。特に東京地検出身の検察専門家である郷原信郎氏はテレ朝などの各番組で検察を批判するコメントを何回も行った。

 その中で2009年3月25日深夜、NHKは突如逮捕された秘書が容疑を認めているというニュースを流し、小沢氏は有罪と印象づける上で決定的なニュースを出した。しかしそれは取材源は明示されず明らかに検察のリーク情報(又はNHKによる捏造)であり小沢側弁護士はそれを否定した。NHKは繰り返しそれを伝えることはなかった。
 この後、全てのメディアで従来からの小沢一郎嫌いによる批判、総選挙で勝つために小沢氏は代表を辞任すべきとの意見、政治家の金にまつわる事件への嫌悪などから、小沢一郎への批判はテレビに広く見られた*3。他方小沢氏を擁護する声はゼロではなかったがかなり小さかった。こうしたメディアの状況は5月11日小沢一郎が辞任するまで続いた。

  • (7)民主党新代表は誰がなるべきか(2009年5月)

 5月11日、小沢一郎が代表を辞任し民主党代表選挙が鳩山由紀夫氏、岡田克也氏の間で争われた。これをテレビは大きく取り上げ、選挙中には両氏をスタジオに呼んで長時間インタビューした、夜のニュース解説番組ではNHK、TBS、CXがそれぞれ30分も取り上げた。5月16日鳩山由紀夫民主党代表に選ばれると、再び鳩山由紀夫氏をスタジオに呼びその考え方を問いただした、週末の討論番組ではNHKは「日曜討論」で30分、CXの「新報道2001」で30分、EXのサンプロでは30分近くも鳩山氏個人に話を聞いた。その結果鳩山氏の理念「友愛」がテレビで注目されるようになった。これらの扱いの大きさは民主党への注目度の大きさを示していると言えよう。

 一部のテレビでは選挙前後に電話調査の結果から国民は岡田克也氏を望んでいるとし、鳩山由紀夫氏を代表にする民主党は民意に反しているとか、それは小沢一郎院政だと批判した。また代表になった鳩山氏への扱いはNHK日本テレビ、フジテレビでは相当に攻撃的であり猜疑心に満ちたものだった。選挙前後それらのテレビは両氏に厳しく民主党の政策を問いただしたが、両氏のテレビでの受け答えの内容は明快かつ明確で、民主党の政策を説明しかつ小沢氏院政ではありえないと明言した。この為それ以上の批判には発展しなかった。しかしそこでもフジテレビの「サキヨミ」では田崎史郎池上彰勝間和代を使って小沢一郎の公然とした支配だ、論点を曖昧に誤魔化した、これで悪くなったと断じた、この番組は自民党視点での悪宣伝番組だった。

 小沢氏代表辞任からの一連の経緯で、テレビでは結果的に民主党の存在が大きく取り上げられ、代表になった鳩山氏は、ついに小沢氏ではおきなかった「誰が首相にふさわしいか」の世論調査でも麻生氏を上回った。これで内閣支持率政党支持率、首相にふさわしい人物など全ての項目で民主党自民党を上回り、総選挙で民主党が勝利する可能性が大きいことが示された*4
 ここまでテレビは毎週おこなわれる世論調査を大きく取り上げてきたが、これ以降世論調査結果はテレビで大きくは取り上げられなくなった。いつは2009年1月ころから週刊誌ではすでに総選挙での民主党の圧勝が何回も予想されていた。この時期からテレビ番組製作者の側は選挙では必ず民主党が勝利(政権交代)すると考えていたと思われる。そのためテレビの焦点は「いつ解散・総選挙か」「民主党は勝てるのか」から「民主党の政策は何か」に移ったように思われる。

  • (8)麻生VS鳩山の党首討論(2009年5月と6月)

 2009年5月27日と6月16日、国会で麻生氏と鳩山氏の間で党首討論が2回行われ、これをテレビは大きく伝えた。特に1回目は扱いは大きくほとんど全てのニュース番組で扱われ、内容紹介と共に評論家の分析と勝敗に関するコメントがなされた。番組の見出しの多くは噛み合わないとし両者を批判する論調だったが、その実コメント等の論調は鳩山氏がまじめに政策を論じたのに対し麻生氏はただ批判をするだけで、鳩山氏が麻生氏を圧倒した事を感じさせた。更に2回目ではその勝敗はより明らかで、麻生は防戦一方などと司会者もコメントするものもあった。各テレビ局の政治的立場はかなり現れていた*5が、NHKは非常に慎重にあつかい、どちらにも味方していないように扱った。

 これらの番組は討論の様子を細切りにしてビデオで紹介しており、討論内容を伝える機能は十分はたしていただろう*6NHKは各50分近くの討論全体を放送し、7時のニュースでは5分で討論を5分で政治家のコメントを伝えたがそこに解説委員のコメントなどNHK自身の評価はまったく出さなかった。一方TBS「朝ズバッ」ではみの氏は泥試合だ、野次と怒号ばかりだと討論自体に非常に批判的で、彼の関心は政治家の裏金にしかなく、鳩山氏の主張をまったく理解していないのが明らかだった。みの氏は実は政治にはあまり詳しくないのを露呈した瞬間だった。

 党首討論を扱ったたくさんのテレビ番組で共通するのは、テレビ局は討論を是非またやってほしいと言うが、それを分析する局のやり方がなく局自身の評価がないこと。アメリカ大統領選での両党候補者のテレビ討論を扱うような経験の蓄積がなく、日本のテレビ局の政治報道の未熟さを示しているように思われる。評価において討論内容か、言い方か、ともかく勝敗のみなのかなどの視点がなく、何もかも曖昧なまま、ただ批判するようになってしまっていた。ただそれでも2回目討論の時には、選挙の前哨戦であり結果は麻生の負けだという印象を与える点では各番組は一致していたように思う(まったく評価を示さないNHKは除く)。

  • (8)解散日の決定まで:自民党の崩壊その他(2009年6月〜7月)

 民主党代表が鳩山氏に交代し、再び選挙はいつかが焦点(それは非常に狭い幅の中の話だが)になり、同時に様々な政治的出来事がおきた。テレビは毎日それを追うだけでかなりの時間枠をとっていた。これらの出来事は次次におこり個々の扱いは比較的小さいものだった。その中で鳩山代表故人献金問題は政治的に非常に重要な事件だったが、珍しい事にひつこく糾弾するテレビ局の姿勢は見られなかったし、そう主張するコメンテーターも登場しなかった。また東国原宮崎県知事が国政へ色目を示した事件(自らを自民党総裁候補として認めてくれと古賀選対委員長へ要求した事)は政治的話者としても芸能タレントとしても頻繁にテレビに登場する人気者の事件で、典型的な小泉劇場(テレビの視聴率獲得のための大きな扱いがもたらす政治的不公正)だった、しかしその扱いは大きかったが継続せず、またテレビおよび他のコメンテーターもあまりにあからさまだとして、最初から懐疑的ないし批判的だった。本人が強く出なかったこと自民党側も批判的だった事からテレビの扱いは拡大せず、1ケ月ほどで終了宣言がでて収束した。
(この間の政治的出来事、地方選挙、都議会選挙、その他)
・4月26日 名古屋市長選→民主党系勝利(河村たかし氏)
・5月24日 さいたま市市長選→民主党系勝利(清水勇人氏)
・6月2日 国会会期延長を決定(7月28日までとする)→任期一杯9月ころの選挙時期が決定
・6月15日 千葉市市長選挙民主党系勝利(熊谷俊人氏)
・6月16日から30日 鳩山代表故人献金問題(例、毎日新聞「5人から計120万円」→30日、調査結果の発表会見)
・6月23日から月末 東国原知事自民党総裁への色目(古賀選対委員長と会談、7月1日ころ無所任大臣として入閣の噂、7月1日には不出馬の会見)
・6月末ころから7月21日解散日の両院総会まで 「麻生おろし」(6月30日の山本拓の両院議員総会での総裁選前倒し要求、中川秀直氏の言動)
・7月5日 静岡県知事選挙→民主党系勝利(川勝平太氏)
・7月12日 東京都議会議員選挙→民主党圧勝

  • (9)選挙を前にした与野党対決・民主党政策の是非(2009年7月17日〜8月)

 これまでいつ選挙があるかが常にテレビの関心だったが、4月〜6月での地方選挙での民主党勝利、6月2日に7月28日まで国会会期延長をしたことで解散は任期一杯の9月ころと目処がついた。ついに7月17日には与党合意で解散日程が決まり、これ以降8月18日の公示日を待たず事実上選挙に向けて「民主党の政策の是非」がテレビの関心事の中心になった。

  • (9A)解散日程決定直後の週末(7月19日)=激しい与野党幹事長の議論

 解散日程が決まった直後の週末の7月19日の討論番組では与野党幹事長対談が3つの番組で開かれた。CX「新報道2001」ではで激しいやりとりがあり、自民細川幹事長は民主党献金問題など政治家の不正が問題、その政策は財源がないなどと批判し、民主岡田幹事長はこれに非常に論理的にまっこうから反論した。フジテレビ司会者は野党に政権担当能力はあるのか?どっちもどっちなどと民主党に批判的だった。NHK日曜討論」は同じ話者で同じ主題ながら国会答弁のような気の抜けたものだった。また7月19日 EX「サンプロ」は同様、政権交代が焦点だと田原総一朗が紹介し、民主党の政策である無駄排除で増税せずに諸政策が出来るのかを司会者自身が問題視した。細川幹事長がこの番組で示した民主党政策を解説したパネルは民主党の主張を間違って書いているとして問題になり、以後番組ですんなりとは表示板を使えなくなった。

  • (9B)国会解散日の報道(7月21日)=政治家の論戦の開始

 7月21日解散日、テレビ各局は自民党麻生おろしの総決算であり結末でもある自民党両院議員総会を中継し解散の1日を実況しようとした。しかし両院議員総会はわずか15分ほどで終わり内容も麻生おろしがまったくなくテレビ局側は拍子抜けだった。午後は国会内で議員が行きかう様子を流し続けた。夕方のニュースでは6党の幹事長などの首脳に長く話させて、選挙の焦点は何かを問うた。(例えば、TBSは「総力報道」で30分、NHKは7時のニュースで60分)。ここで自民党細川幹事長も選挙は政権交代が焦点だと認めた。この時点で内閣支持率政党支持率が低迷し、首相にふさわしい人では鳩山氏が麻生を上回り、民主党は既にマニフェストを明らかにしているのに対し自民党は麻生おろしの直後で党もまとまっておらず、自民党がかなりの劣勢だとの論調はテレビ各局は同じだった。

 その週の週末は6党党首の討論会が各局で行われた。7月25日の土曜日 TBS「サタズバ」は司会者がこの番組は最近は8%の視聴率があると解説、6党の政治家がスタジオ出演しどんな選挙になるか話したが、政権交代が焦点であり野党には自民党は終わりだとの自信が見えた。7月26日日曜はNHK、CX、EXなどの討論番組で6党の大物政治家が出て選挙に向けて各党の主張を行った。出たのは石原伸晃野田佳彦穀田恵二小池朝雄福島瑞穂などである。
 その中で7月26日 EX「サンプロ」は6党首脳を出演させたが、彼らに自由に話をさせず雇用問題だけを中心にした。ここで司会者田原総一朗は労働者より大企業を守る方が大事だ、日本は外需中心しかない、というそれまでの自民党の経済政策を強硬に主張した。民主党などの野党は生活中心の新しい経済構造をとるべきだと説明したが田原はそれでは駄目だと大声で”わめいた”。田原は子飼いのコメンテーター(経済記者、明らかに手下)を使い更に野党側を攻撃したが、野党の出演者はまったくひるまなかった。これは与野党の討論会ではなく、単に田原総一朗がその個人的主張(同時にそれは自民党の主張だが)や関心事を野党側にのませようとした酷く見苦しい番組だった。

 7月27日 民主党マニフェストがホテルの説明会で公開され、その日の各テレビは大きく取り上げ、翌日以降数日にわたり民主党マニフェストを検討する番組を作った。扱いはニュース番組だけでなく情報ワイドショーでも取り上げられるようになった。自民党麻生首相は財源が曖昧だなどの批判コメントをだしたが、それも合わせて伝えられた。また財務省事務次官も財源がないと批判会見を開いたがこちらは大きく取り上げられる事はなかった。この後各党マニフェストが出揃うまでのこの1週間は、民主党マニフェストの紹介&検討週間だったが、内容紹介はその項目の列挙するだけで詳しいものではなく、一方財源が曖昧だという批判面が強調されるものだった。特にNHKを代表として町の声と称して財源が曖昧と話させる場合がかなりあり、それらの声は明らかにメディアの受け売りである事を考えるとかなりおかしなものだった。

 7月31日に自民党マニフェストが発表されたが、29日ころから実質的な内容は報道されている。各局はどこでも自民党マニフェストの紹介と他党マニフェストとの比較を行った。比較は項目毎に政策を書き込む形式だった。
 しかしこの自民党マニフェストは政策の良し悪し以前に、実施スケジュールはなく、各政策の金額規模もなく、従って財源も書かれていない酷い出来のものだったが、そうした点を批判する意見はコメンテーターも含めてほとんどなかった。自民党マニフェストへのこうした批判は民主党岡田氏が討論番組の中で失格だとしたり、民主党議員から説明される程度にすぎずテレビでは正面からはそう言われる事はなかった。

 自民党マニフェストは政策においても酷かった。まず与党であるにもかかわらず従来の構造改革(郵政改革)を見直すか否か、小さな政府を続けるのか否かなどの今までの自分の政策の評価は書かれず、新規に打ち出す政策のみが中心に書かれた。その新規政策もひどく曖昧なものであり、従来からの「任せれてくれれば安心式」のマニフェスト選挙以前の曖昧な選挙を反映したものだった。しかしそうした点を批判する声はコメンテーターも含めテレビ局側にはなく、単純に項目別に他党マニフェストと並べて書かれた。
 そうした比較ではある分野では必ずなんらかの政策項目がならぶ形になり、一見それらしく見えた。テレビはそれを非常に律儀に同じ扱いで紹介した。しかし各党マニフェストをこうして比較する方法は、視聴者にかえって各党政策の差を見えにくくするものだったと言えよう。なぜならその分野で書いてある政策の規模や真剣さには各党で相当な違いがあったにも関わらず、テレビはそれ以上踏み込む事はしなかったからだ。自民党の規模も手順も曖昧な製作も民主党のかなり細かい検討の上のものと同じように視聴者に見せる結果となった。テレビ局番組でのこうした扱いは結果的に自民党側にひどく有利になったと思われる、テレビはしばしば視聴者の声として、どっちもどっちだ、どこもバラマキだ、などという感想を紹介しそれを良しとしていたように見える。それは政策を紹介する政治番組として正しい扱いとは言い難いものだった。こうした比較の仕方の典型は7月31日の自民党マニフェスト公表後のNHK9時のニュース(40分)やEX「報道ステーション」(15分)だったろう。

 マニフェストをめぐる政治家による討論では、与党側は自分のマニフェストをあまり説明せず逆に民主党の案には財源がないなどの批判を行う時間が長く、結局は全員で民主党マニフェストの是非を皆で問う形となった。討論をよく聞くと自民党政治家で自党のマニフェストを正面から主張し、それがよいものとする声はほとんどなかった。彼らの焦点は結局民主党マニフェストへの攻撃であり、討論番組での各党の発言はしばしば激しく言いあう形となった。

  • (9E)自民党支持を堅持したNTV「ズームイン」・CX「トクだね」の動向(7月27日〜)

 日本テレビ「ズームイン」は7月27日の週からニュース番組の中で「ニッポンを考えよう」と題し日本の課題を解説する10分ほどのコーナーを常設した。その実質的な内容は橋本五郎(読売新聞論説委員)、辛抱治郎などのあからさまな自民党支持の解説者を使って民主党マニフェストの是非を問うものであり、いい事ばかり書いてあるが信じられないという基本姿勢で、ひどく民主党に懐疑的だった。町の声と称して不信の声を流し、財源が不明だ、景気対策が不明だとした。経済評論家の口を借りて民主党マニフェストは実現難しい、消費税で逃げているなどとした。
 後に自民党マニフェストが発表されると番組は比較を行ったが、自民マニフェストにはまったく財源が書いていないにもかかわらずそうした意見はつけられなかった。また政策の評価は常にどっちもどっちだとするか、何も言わないという曖昧なものだった。更に両党以外の他党のマニフェストについては結局ほとんど扱わなかった。NTV「ズームイン」はこの後公示後もマニフェストの項目毎に問題提起と各党マニフェストの比較を行い続けた。

 同じ時期にフジテレビの情報ワイドショー「トクだね」もマニフェストの検討をはじめ、連日民主党マニフェストを微妙に批判的な姿勢でとりあげた。その中でも財源の点ではあいまいだとしてはっきり批判した。しかし自民党マニフェストが発表された翌週8月3日の番組では自民党マニフェストを優しく紹介し、前回までは民主党マニフェストを財源がないとさんざん批判したのだが、自民マニフェストには工程表も財源が示されていない事にがっかりしたとは述べたが、結局マニフェストとは宣伝であって所詮そんなものさとするコメンテーターの弁で誤魔化して終わってしまった。以降もこの番組で自民党マニフェストを批判することはなかった。
 

  • (9F)情報ワイドショーでの長時間討論会(7月27日〜8月22日・選挙1週間前まで)

 7月27日の民主党マニフェスト発表以後、各党政治家がそろって出演する討論コーナーがテレビに登場するようになり、7月31日自民党マニフェストの発表以降はかなり盛んになり各局で何回も行われた。特に朝の情報ワイドショーTBS「朝ズバ」やEX「スーパーモーニング」などは多かった。討論は基本的に共通の枠組で行われ6党の政治家をスタジオに呼んで30分程度討論をさせるもので、たいていは各人が自由に発言するもので時に非常に激しいやり取りが行われた。主題はほとんどが民主党マニフェストに沿ったもので民主党マニフェストの是非が問われ、自民党やその他の党のマニフェストは常にそれとの比較で語られた。

 討論全体の印象は、司会者側から質問したりまとめる場面は少なく、各政治家が相反する意見を強く主張するため議論の印象はかなりまとめにくいものが多かった。議論は対立したままなので視聴者によって勝敗や論点など、様々な受け取り方ができただろう。これは言い換えればテレビ局側の政治姿勢は現れ難いという事である。にもかかわらず、どの局でも全体に自民党の分が悪いのは明らかだった。野党側は小泉改革以降の自民党政治の失敗、格差の拡大、失業率の上昇、社会保障面の安心できぬ状況、官僚政治の汚点、直らぬ天下り、一向に直らぬ年金記録問題、アニメの殿堂などの補正予算の酷さなど、それまでの自民党政治の失敗点を指摘するだけで十分だった。一方与党側は補正予算による景気対策をアピールし将来よくなるという言い方しかできないようだった。全体として議論の勝敗の印象は野党の側にあったように思われる。

 (視聴した主な長時間討論の概要)
7月30日 TBS「朝ズバ」30分、自民党マニフェスト発表前の6党討論会。各党のアピール。社民党が安全保障で批判され、非核三原則を維持するか否か問い詰められたのが印象的だ。古川俊治蓮舫福島瑞穂山口那津男など。
7月30日 EX「スーパーモーニング」約40分、自民党マニフェスト発表前の6党政治家によるマニフェスト説明アピール討論会、まとまりがなくやたらうるさい。世耕弘成福山哲郎小池晃近藤正道自見庄三郎など。
7月31日 TBS「朝ズバ」30分、岡田克也細田博之高木陽介市田忠義など6党幹事長クラスがマニフェストを説明アピールし、相手の不足点をつくなどの討論をした。岡田氏は自民党マニフェストは30点で、自民は前回マニフェストをほぼ達成したと言うがそれなら自民の政策そのものが駄目だった、小泉改革の総括ができていない、小さな政府にするのか否かはっきりせよなど論点が明確で鋭い指摘だった。コメンテーターの与良氏からはインド洋給油への対処などで連立各党はどう対応するのかなどの質問があった。内容の濃いよい討論会だった。細田氏はその日夕方発表するマニフェストの原稿を持ち込んでいた。
7月31日 EX「スーパーモーニング」40分、自民党の公表した前回の自党マニフェストの達成度が非常に高いため野党から厳しく批判された。自民の説明はまったく説得力なく市川氏は役者不足だった。すでに年金面で各党マニフェストが比較可能に一覧表に書かれる。市川一朗福山哲郎小池晃近藤正道亀井亜紀子など。
 (週末の討論番組)
8月1日 TX「週刊ニュース新書マニフェストの提唱者北川氏により斬新さ、分かりやすさ、実現性などで評価され、自民党は全て△民主党は○2個で自民党に厳しい評価。
8月1日 EX「サタデースクランブル」15分、女性コメンテーター荻原博子による主婦視点での自民・民主マニフェストの比較検討会、まともな番組。
8月1日 TBS「サタズバ」約50分、6党政治家が討論、野党は自民マニフェストを厳しく批判、コメンテーターからも駄目だ。山本一太氏は自党のマニフェストの説明よりも民主党を財源で批判し、社民党を安全保障で連立は不可能だと攻撃した。山本氏は自民が財源を示していない事を認めてしまいやり込められる。みの氏は自民劣勢に安心したのか鳩山氏のマニフェストが正式か否かなど逆に民主党に批判的な論点ばかりを紹介した。論調はかなり激しいやり取り。山本一太福山哲郎福島瑞穂亀井亜紀子高木陽介など。
8月2日 CX「新報道2001」25分、6党政治家の討論、子供手当て、国家像などを焦点に各党マニフェストを念頭に討論。石原伸晃野田佳彦小池晃阿部知子高木陽介など。
8月2日 NHK日曜討論」6党幹事長クラスの討論、国会演説のようで少しもおもしろくない
8月2日 EX「サンプロ」6党政治家の討論、公務員改革、財源、地方分権などの項目でマニフェストの施策をアピールし討論。司会者田原氏は民主党に懐疑的で言質をとろうとした。石原伸晃長妻昭小池晃山口那津男など。
8月2日 EX「サンデースクランブル」25分、伊藤惇夫(政治評論家)やテリー伊藤黒鉄ヒロシなどによる自民・民主マニフェストの比較検討会、与野党政治家や評論家にビデオ取材、子育て、税源、安全保障などを解説、自民には批判的。
 (公示まで)
8月3日 TBS「朝ズバ」30分、6党政治家討論。どういう政策がいいのかの激しい討論、景気雇用対策、年金・社会保障について。自民党佐藤昭郎氏は年金制度は問題ないなどと説得力なく役者不足だった。佐藤昭郎、福山哲郎小池晃近藤正道下地幹郎山口那津男など。
8月5日 TBS「朝ズバ」30分、6党政治家の討論。テーマを年金にしぼる。みの氏自身が年金問題で今までの貯まった問題点をかなり厳しく与党に問い詰めた。衛藤晟一長妻昭小池晃高木陽介など。
8月6日 TBS「朝ズバ」40分、6党政治家の討論。テーマを無駄使いにしぼる。高速道路や八っ場ダムの建設の是非など無駄使いの有無について。国立マンガ喫茶天下り禁止など議論では無駄使いは明らかで自民は劣勢だった。林芳正細野豪志山下芳生近藤正道など。
8月7日 TBS「朝ズバ」30分、「6党女性論客討論」と題す。テーマを少子化、子育てにしぼる。各党は子育て支援をやっていると訴える、全員当初は口調が優しく他の討論と雰囲気が異なり聞きやすいが、コメンテーター与良氏が論点を指摘し福島氏から厳しい現状批判があって激しくなる。対立すると一斉に喋るなど通常と別の無秩序さが現れていた。与良氏の与党は対策が必要と認識しているのならなぜ今までしてこなかったか?は決定的な指摘だったろう。猪口邦子小宮山洋子高橋千鶴子、福島瑞穂亀井亜紀子松あきら
8月13日 EX「スーパーモーニング」35分、6党論客討論。年金・後期高齢者医療制度をテーマに各党マニフェストの説明を行う、キャスター赤江氏が比較的よく整理し与野党の差を明らかにしつつ討論がすすんだ。林芳夫、蓮舫山下芳生近藤正道自見庄三郎山口那津男
 (週末討論番組)
8月15日 NTV「ウェークアップ」30分、6党幹事長クラスの討論会、マニフェストを表にして比較する形で討論より自党政策の説明が主だった。細田博之野田佳彦市田忠義保坂展人亀井久興北川明
8月16日 CX「新報道20001」45分 6党幹事長クラス討論。株価、成長戦略、最低時給、財源、消費税などの論点で自党の主張をする。細田、岡田、市田、重野、亀井、北川。
8月16日 EX「サンプロ」6党幹事長クラス+竹中平蔵。司会者田原総一朗は他局ではもはや完全に過去の人となった竹中平蔵を招待し小泉構造改革の是非を各党に問うた、野党は竹中を否定したが自民は小泉改革はよいが弊害もあったとし田原の狙いははっきり明らかにはならなかった。田原の大企業優先、外需重視の姿勢が目だった。細田、岡田、市田、重野、亀井、北川。
  (公示後)
8月22日 TBS「サタズバ」30分、毎日新聞他の世論調査結果で民主の圧倒的優勢を伝え、与野党政治家に反応を聞く。民主は油断せず活動すると反応。石原氏は安全保障と教育が論じられていないせいだと言い訳をし、高木氏は連立は一致していないと激しく攻撃した。しかし司会者みの氏は珍しくアメリカ側は安心していると否定した。石原伸晃福山哲郎小池晃福島瑞穂高木陽介など。
8月22日 NTV「ウェークアップ」30分 経済面をテーマに、経済不調の原因を野党は自民党の外需頼りの改革の誤りとし、石原氏は激しく応じた。石原伸晃福山哲郎穀田恵二保坂展人亀井久興山口那津男


  • (10)党首の公開討論会(6党および2党)(8月11日〜23日まで)

 選挙の公示の前後の期間、6党の党首がスタジオなどに一堂に会した公開討論が9回も行われた。またNHKやEXは党首への個人インタビューも行った。選挙に向けて各党が主張を述べ他党に批判をぶつける点では同じだが、党首による討論は他の討論会より整然としており激しい応酬などのやりとりは少ない。司会者の多くは進行に徹し司会者側からの論点を煮詰める鋭い質問は少ないしひつこく追求する事はない。論点は財源、消費税、日米関係、インド洋給油、核廃絶など。

8月11日 NTV「NEWS ZERO」45分、6党党首討論。スタジオの机を6人が囲む討論会、党首同士で自由に応酬があり生生しいが、声を荒げるような事はなく整然とした印象だ。麻生氏は鳩山氏に攻撃的だったが他党やコメンテーターからの質問に麻生氏は「私は××と思う」としか答えず説得力がない。鳩山氏は麻生氏の攻撃にはっきり答える、が逆に応酬することは控え、一方財源はまったく問題はないと言い切った。麻生がやたら偉ぶっている様子、こうした番組に慣れていない様子が目だった。論点は財源、消費税、日米関係、インド洋給油、核廃絶など。麻生太郎鳩山由紀夫志位和夫福島瑞穂綿貫民輔太田昭宏

8月12日○ NPO主催 麻生VS鳩山2者のみの討論、討論会そのものは放送されずニュース番組の中で各局が伝えた。討論自体に目新しい論点はなく自民が攻めて民主(鳩山)が守るという枠組もまま、又大きなビジョンを語る場面はなく互いに相手の弱点をつく形になった。各局はおおむね討論抜粋のみを伝え軍配などは評せずコメントは控えめだったが、EX「報道ステーション」などは上記のような討論の有り様を鋭く指摘した。ただしここまで出ている論点では麻生の敗北は明らかだった。討論会のビデオ配信=(http://www.secj.jp/asx/secj090812-300k.asx

8月13日 TBS「総力報道」45分、6党党首討論、スタジオの机を6人が囲む討論会、後藤キャスターが司会をし話題の点を各党首に聞くなど番組形式に工夫があった。発言が交差し普通のテレビ討論に近い形式だった。自由に喋らす場面では麻生氏の発言数が少ない。後日の討論会とは異なり野党から麻生への質問は多かった。景気対策、財源、消費税、政治と金、小泉改革の評価、農業、集団的自衛権郵政民営化など。

8月17日○ 記者クラブ主催 6党首討論。討論会全体がNHKにて生放送され、多くの番組で報じられた。討論を抜粋するのみで軍配などの評定はない。報道で強調されたのは鳩山氏への質問が集中した事、安全保障で野党内で食い違いもあるというもので、政権交代が現実的だと党首が考えていると伝えている。論点自体は従来出ているもので応酬で特に新しいものはない。自民支持が基調のNTV「ズームイン」では司会者橋本五郎が質問にたったためか大きく取り上げた、橋本氏も自民が敗北し政権交代が目前だとの論調だったが、それでも同時に野党はバラバラ、財源は曖昧だとひつこく強調していた。

 (民主優勢の世論調査結果の出た後のもの)

8月22日 TX「週刊ニュース新書」45分、6党党首討論、スタジオに6人が並び討論会、司会者が20日の各紙の世論調査を紹介、自民が圧倒劣勢の雰囲気で行う。既に結果が見えているせいか議論はぶつからず落ち着いた雰囲気。麻生の発言数は少なく野党の威勢がよい。麻生氏は核兵器廃絶をリードしたのは日本だと白々しい事を言う一方「私が喋っている間は喋るな」と他人を見下ろした発言のみが印象に残った。テーマは小さな政府なのか、成長戦略、核兵器廃絶、若者の教育など。

8月23日 CX「新報道2001」55分、6党党首討論、選挙前最後の日曜、スタジオに6人が並び討論会。ビデオで問題を流した後は自由に発言の応酬をする形式で、全てのテーマで自民麻生を野党側が激しく批判する事になった。対して麻生は従来の説明を繰り返すのみで世論調査の結果のためか場の議論でリードすることを放棄していたようだ。札(カード)を上げて発言を求めるルールとした為、野党(特に福島氏)が札を何回もあげ自民党に激しく反対しているのが明瞭だった。しかし実際には司会者の差配は麻生寄りで麻生の発言数は多かった。全体に野党側は自民政権での国民の疲弊・困窮を述べる事で議論の勝敗は決したと言えよう。又テレビ局の用意した視聴者の声も自民に非常に厳しいものだった。テーマは小泉改革はやめるのか、北朝鮮問題、日米関係。

8月23日 NHK日曜討論」65分、9党党首討論改革クラブみんなの党日本新党を加えた9人が完全に丸いテーブルを囲む。全体を通じて発言は完全に司会者の指名によるひどく行儀のよいもので討論ではなく、共同演説会というべきもの。論点や発言で特に新しいものはない。世論調査の結果は触れられなかった。

8月23日 EX「サンプロ」45分、6党党首討論、スタジオの机を与野党に分けて6人が囲む。司会者田原が民主圧倒優勢の世論調査の結果を大げさに強調し、なぜ自民党が負けるのか!と騒いだ、麻生は今はもっと自民の支持は上がっていると言い逃れたが、コメンテーター星浩氏が自民支持層の自民離れが原因と解説。田原はこれでは選挙は終わった、メディアは勝ち馬に乗る為民主びいきの報道をしてるとした。この番組は選挙に向けて党首が政策を説明するようなものではなく、田原の関心のあるテーマについて党首をコメンテーターにして方向性をさぐるようなもので、あまり視聴者の投票判断には関係ないものだった。しかしそうであっても麻生の出番は少なく影が薄かった。テーマ=景気はよくなったか(自民の経済政策は借金によるばら撒き)、非核三原則の密約はあるのか、郵政民営化は今後どうする、年金記録問題。

  • (11)公示後の選挙番組=刺客の選挙区様子と民主圧倒的優勢の報道(8月18日〜8月29日)

 8月18日総選挙が公示されいよいよテレビ番組は選挙だと報じたが、既に選挙の争点に関する解説・討論などは国会解散日以降に多数行われており、テレビの状況はすでに収束にむかう選挙終盤の雰囲気だった。公示前で放送されたのは討論やマニフェスト解説が主体だったが、公示以降はそれらは減り、流れたのは(A)党首の街頭演説、(B)党首のテレビでのインタビュー、(C)選挙区での様子、(D)政見放送、(E)選挙CM(ネットを含む)、(F)世論調査の結果などだったと言って良い。
 この中で党首の街頭演説はNHKのみが連日短いニュースでとりあげたがそれが各党の訴えたい事のエッセンスであったものの非常に短く視聴者への説得力はないものだった。党首のインタビューは20分近いものをNHK、EXが流したが、1回だけであったし一方的で論点を明確にしないものなので影響力は小さかっただろう。時間的に多く占めたものは「選挙区の様子」だった。「注目の選挙区」としてそこで各候補が車で移動したり演説する様子を取材し候補者や有権者にインタビューを行った。しかし300ある小選挙区の中から取り上げられる選挙区は民主党の新人女性刺客と自民党のベテラン大物が対決する20程度の選挙区に偏っており、その他の選挙区はほとんど取り上げられなかった。これはNHK・民放各局で共通しておりテレビで特徴のない普通の選挙区の候補者の顔や訴えが取り上げられる事はまったくなかったと言ってよい。この民主刺客対自民大物の対決する選挙区の様子は、その選挙区以外の人には、自民党大物でさえ落選しかねない自民党が圧倒的に劣勢の情勢であるというメッセージを伝える意味があったと思われる。

 こうした選挙関連のテレビ番組の時間全体量は短いものだった、朝日新聞は2009年8月26日に「テレビの選挙番組半減」という記事を掲載し、2005年の小泉劇場時より各局おしなべて約半分の放送時間しか与えていない事を伝えている。

 しかし放送時間が短くても、国民の投票行動へ大きな影響を与えたものは、世論調査の結果だったろう。テレビと新聞は各資本系列毎に世論調査(実際には電話調査)を選挙期間内に2回行ない、2回とも民主党圧勝の情勢である事を報じた。これはニュースとして各放送枠の中で短く伝えられただけだが、選挙情勢を開票以前に決定づけており討論番組での論調や、保守派への訴えかけを強めた自民党の選挙戦略に影響していた。そして当然視聴者である国民もそれを知りつつ投票を行ったと言うべきだろう。

  • (11A)党首の街頭演説=麻生の右傾化

 NHKや民放のニュース枠の中で伝えられた。選挙戦開始直後は麻生氏が街頭演説を行わず支持団体回りばかりしている様子を伝えた。その後各党首は日本国中を遊説し選挙期間中ずっと報道されたが、短い演説の内容は民主党が無駄をなくす、官僚依存打破などのマニフェストに沿ったものだったのに対し、自民党麻生氏は民主党への批判が主で、特に選挙期間後半は旧来の自民支持層が離反している状況を受け、日の丸の強調(民主党での日の丸破損事件にかけるなど)、国防の強調など保守・右翼的内容が濃くなった。これらは麻生の演説を街頭で聞けば理解できるがテレビの短い時間ではそのメッセージ内容は意味不明であったろう。
 8月18日公示日 NHK7時のニュースは90分に延長し、立候補者、各党党首の街頭演説の様子を伝え、選挙の焦点は政権交代だと解説した。中継で各党首に長時間話を聞き、麻生に20分、鳩山に14分、太田に7分、志位、福島、綿貫に5づつ、渡辺秀央渡辺喜美田中康夫に3分づつ聞いた。

NHKは、8月18日以降「ニュース9」で連日「党首を追う」として各党首の遊説の様子を追った。テレ朝は8月18日以降各党首にスタジオでインタビューし、その中で自民党細田幹事長(20分)では、細田氏は司会者古舘の厳しい質問に苛立ち、ひどく対立的だった、時間が終わると細田は挨拶の済まぬまま逃げるように席をたったのが印象的だった。8月19日 民主党岡田幹事長(25分)、8月20日 公明太田・共産志位幹事長(各12分)、8月21日社民福島・国民綿貫幹事長(各10分)などは可もなく不可もない普通のインタビュー内容だった。

  • (11C)民主刺客VS自民大物対決の選挙区の様子=無視される普通の候補者

NHKBは夕方のローカル枠で争いの特に特徴はない普通の選挙区で、各候補者がどう選挙活動をしているか順に紹介する枠を持ったが、それ以外のNHKと民放、つまり結論として全てのテレビ局は、以下の民主刺客対自民大物の選挙区だけをを何回も取り上げた。これ以外の選挙区はテレビにまったく取材されなかったと言ってよい。下記の選挙区は繰り返し取り上げられており、これは放送時間の問題ではない。それほどテレビの関心は偏っていた。

 (特に多く取り上げられた選挙区)
・東京1区(海江田万里×与謝野馨)=公示前によく報道された。前回選挙での敗北から海江田がずっと以前から歩きでの演説など非常に地道な選挙活動をし続けているのに対し、与謝野が大臣であるため選挙活動をしていない様子が伝えられた、しかし後半には取り上げられなくなった。
静岡7区城内実×片山さつき×斉木武志)=もっとも派手に取り上げられた。片山が土下座をしたりして負けそうな情勢を公言し言動が派手だった、城内は前回からずっと非常に地道選挙活動をやっており有力であり、更に民主斉木にも可能性があった為であろう。
・神奈川11区(横粂勝仁×小泉進次郎)=最も大きく取り上げられた。前総理大臣小泉の息子で若くハンサムなのと、民主横粂も若く大学生のごとくまったく普通の人間の対決で異色なためであろう。公示前小泉はメディアに無愛想で勝って当たり前の雰囲気だったが、その後は答えるようになった。
・長崎2区(福田衣里子×久間章)=よく取り上げられた。福田氏が若くかわいらしいのにまともな候補者だった為と、原爆仕方がないと言った久間が地元利益誘導を公言する、古い政治家で対照的だったせいだろう。
・東京12区(青木愛×大田昭宏)=選挙後半の焦点となったもの。青木の立候補が遅く当初はとりあげられなかったが、後半公明党党首でさえ落選するという点で焦点になった。しかし青木のやっていた活動は他の民主候補と同じ地道なものであったのは興味深い。
・福岡7区(野田国義×古賀誠)=古賀は選挙前に東国原を担ごうとして有名になった人物であり、選挙相手は元は同じ自分の秘書であり、非常に近しい関係の間同士の激しい戦いであることから、物語り的に面白い為だったろう。

(その他よく取り上げられた選挙区)
・東京10区(江端貴子小林興起×小池百合子)、茨城6区(大泉博子×丹羽雄哉)、群馬4区(三宅雪子×福田康夫)、石川2区(田中美絵子×森喜朗)、兵庫8区(田中康夫×冬柴鉄三)、岐阜1区(柴橋正直×野田聖子)、北海道5区(小林千代美×町村信孝)、北海道11区(石川知×中川昭一)、北海道12区(松木謙好×武部勤)、福島2区(太田和美×根本匠)、東京17区(早川久美子×平沢勝栄)、

上記の報道の様子は、各候補のそれぞれの事情、地道な活動の様子そのものなどが主であり、候補者の訴えを伝えるものではない。又理由の選挙区ではどんな理由や背景で両者が接戦になっているかを伝えており、選挙結果に影響を与えぬ為か既に世論調査などで結果が出ている段階でも常に接戦、あるいは優劣情勢は触れられなかった。したがってこれらの番組の印象は「何かやっている」以上のものはなかった。該当選挙区の人であっても番組から誰を選択すべきかの情報は得られないものであり、あくまで出来事として伝えるものだったと言えよう。その結果全国の視聴者に与えたのは、自民大物でさえも選挙で勝てるか危ういのであり、自民党は相当に劣勢であるという印象であったろう。

政見放送は立候補者の数で割り振られておらず自民党民主党共産党のものばかりが何回も放送されていた。幸福実現党は各選挙区、比例区に立候補したが政見放送比例区のもの1回しか流されなかった。同じように社民党公明党も少なかった。
 政見放送の構成は比例区のものでは党首とアナウンサーとの対談、小選挙区では前半がマニフェストの説明、後半は各候補者の顔見せとなっていた。誰も見ておらず実際には投票行動に影響を与えていないと思われる政見放送だが、各党はそれなりに工夫して制作しており出演者は立派に喋っている。幸福実現党政見放送では大川隆法総裁が10分間演説し北朝鮮の脅威と憲法改正を訴える宗教右派の主張を熱心に繰り広げた。共産党比例区政見放送では主婦、非正規労働者、中小企業主などがそれぞれの窮状を述べ、志位委員長がそれへの解決策を述べる事で共産党の政策を訴えるという真に迫った構成だった。ただ出演者は素人で台詞として喋っているとわかる素朴なつくりとなっており、ドラマ的に迫力をもって訴えかける演出とはしていなかった。

 今回ネットCMでは自民党公明党民主党批判のネガティブキャンペーンを行った。自民党はアニメで制作し鳩山代表とおぼしき男性が金のあてなしにともかく同意をせまる「プロポーズ編」、請われるままになんでもラーメンに入れてしまい民主党には柱などないとする「ラーメン編」影絵のアニメで各政策で鳩山氏や小沢氏がぶれているとする「ブレる男たち編」を流した。公明党は、小学校の教室ので鳩山代表とおぼしき子供が悪い事をしたのに秘書がやったとしらをきる様子を流し、鳩山氏の献金問題を揶揄した。自民党のアニメは数10万の多くの視聴があり、実際ほどよい演出で面白いものだった、しかしそこで批判しているのは政策の基本的な問題ではなくブレているという印象操作や、民主党の政策は曖昧だという視点の差でしかなかった。このネットCMの存在はテレビでも取り上げられたが、ネガティブキャンペーンをすること自体が批判された。また選挙結果からみてこのネガティブキャンペーンは成功しなかったと見るべきだろう。
 幸福実現党北朝鮮の脅威を煽る恐ろしいネットCMを制作した。「脅威編」(仮称)は北朝鮮からミサイルが発射されたとのニュースに続き、各地で通信が途絶える様子を見せる。「東京編」(仮称)は前作に続き北朝鮮からミサイルが各地に落ちそれがどうやら核爆弾らしいこと、ついで東京へもミサイルが接近している事を伝え破滅的に混乱する東京のスタジオの映像が突如断絶する様子を見せる。出演者はきちんと演技をしており映画的演出で核ミサイルの脅威を強く訴える非常に危ないCMだった、同種の有名なものは既にあり、敵対党に任せれば少女が核攻撃を受けると暗示するものが1960年代にアメリカで制作され、相当な批判を受けている。幸福実現党のものはこれを更に強化し、現実を外れて脅威だけをひどく煽るもので常識から外れた危険なものと言えよう。このネットCMはメディアから完全に無視された。

  • (11F)世論調査の結果=短いが選挙を決定づけるもの

 (1回目)選挙前の最初の週末から翌週の月曜日にかけて、各テレビ局は8月18日から22日に行った世論調査(電話調査)の結果を週末の討論番組や翌週月曜日のニュース番組で伝えている。内容は民主党が300議席と圧倒的優勢というものだった。NTVやTBS(JNN)は自前の調査で民主党が300議席近くとし、他のテレビ局は新聞の調査での民主300議席の数字や、自前の民主支持率の高さを伝えている。

(NTV)8月20日 NTV「NEWS ZERO」は民主圧倒優勢と伝える。18日に行った読売新聞+日本テレビの電話調査(世論調査)の結果を報道、民主が圧倒優勢で300を越える予想、大都市102選挙区では民主が73で優勢、自民が過去4連勝している選挙区でも46は自民劣勢、小選挙区でも比例代表でも民主が圧倒優勢と伝えた。有権者社会保障に関心があり民主の政権交代がアピールしている、自民はやる事はあまりないと、選挙結果の見通しを伝えた。NTVは8月21日の「ズームイン」で短く、週末8月23日の「バンキシャ」でもこれを伝えた。翌週月曜日8月24日「ズームイン」では解説つきで詳しく伝えた。

(TBS)8月22日 週末のTBS「サタズバ」は毎日、朝日、読売、日経各新聞の世論調査結果で民主の圧倒的優勢を伝えた。翌週月曜日8月24日夕方の「総力報道」でJNN毎日新聞の調査結果で300以上の議席が見込まれ、都市部でほとんど勝つとした。更に「NEWS23」では過去の世論調査での予想と結果を見比べて世論調査が信頼性の高い事を解説した。

NHK)8月24日 NHKは7時のニュースでここ数ヶ月毎週行っている世論調査を伝え、70%が選挙に必ずいく事、変わらぬ内閣支持の低さ、選挙に関心があるのが51%、社会保障政策を重視し民主党の連立政権が望ましい、支持政党では民主党が30%で1番大きい事を伝え、全体として民主党の有利を伝えている。

(EX)8月24日 EXは「スーパーモーニング」で各新聞の世論調査結果を伝え、民主党の圧倒的有利、自民党支持者が離反しており、自民関係者は放心状態、逆に民主党はゆり戻しを警戒していると解説している。夜の「報道ステーション」でも84%が投票するつもりで民主党の支持率が15%も高い事を伝えている。

(CX)8月24日 CXはニュース枠でFNNの8月22〜23日の世論調査で民主の圧倒優勢、民主党の支持率が45%、マニフェストを参考にする。80%近い人が投票するつもりがと伝えている


 (2回目)この週新聞各社は2回目の世論調査結果を8月27日ころに掲載し、変化なく民主党圧倒優勢を伝えている。テレビではNTVのみだったように思われる。
(NTV)8月27日 NTV「NEWS ZERO」は2回目の調査結果を伝え、変わらず民主圧倒優勢と伝える。25〜27日に行った読売新聞+日本テレビの電話調査(世論調査)の結果を報道、民主が300を越える、激戦区200の中で民主が116で優勢と伝えた。各党の機関紙を紹介し自民党保守層も民主を支持している、公明党は「大田危うし」と絶対絶命の危機だとしている。

  • (11G)公示2週目・選挙直前のテレビの様相=すでに終了した選挙戦

 選挙に関して対立を明示する論争的な番組が制作されたのは、公示日18日からその週末までであったようだ。公示2週目に入ると民主圧勝世論調査結果が伝えられ、討論とか論調で視聴者の関心を集めるようなものはほとんどなかったように見える。ニュースの枠内で党首の遊説の短い様子といくつかの限られた選挙区の様子を繰り返し伝えるだけで、後は選挙を待つだけという凪の状態に入ったと言えよう。
 ただしこの段階でもNTVは「ズームイン」で消費税や投票率最高裁判事の信任投票などをとりあげ、辛抱治郎氏などの解説で20分近い長時間を割いて自民党視点の論争を提示し続けた。またNTVは8月28日お笑いタレントが司会を行うバラエティ「爆笑問題の総理大臣大田」の特別番組「選挙直前スペシャル・これであなたはどの党に」を制作し、自動で扉の閉まる箱の中で15秒で主張を行えなどと各党の政治家をお笑いの種にする特別番組を制作した。各党にマニフェストなどを説明させるが、番組の目標は一生懸命説明する政治家の慌てた様子や反論されて困る様子を見て喜ぶ事で、各党の政策を説明する事ではなかったと思える。前回優勢選挙では政治家による時代劇など「小泉劇場」の最大の推進役だったEXの「TVタックル」は選挙期間中もそれ以前と同じ討論番組を流しつづけ、こうした政治の娯楽化では低調だったのに比べ、NTVだけが目立つことになった。

 結局、この最終場面でテレビの焦点だったのは、公明党代表の太田氏が小選挙区東京12区で勝てるか否かだけだったように見える。東京12区の様子は各局でとりあげられた。選挙結果は世論調査から明らかで、コメンテーターの関心は、世論調査の結果からアナウンス効果でゆり戻しがあるのかどうか、自民党が崩壊し民主党の1党支配体制になってしまうのではないか、などにあった。
 (いくつかの例)
ニュース解説番組の例:EX「報道ステーション」8月28日 各新聞が民主圧倒優勢を伝えているとし、その理由をコメンテーター星浩氏が解説し、自民支持層が民主党に寝返っている事、従来政権与党であるので自民党を支持していた人が自民の負けを見越して民主支持に変わっているためとしている。
情報ワイドショーの例:(TBS)8月27日 TBS「朝ズバ」は民主圧勝に司会者みの氏が興奮した様相をみせる(当たり前だ)。スタジオはすでに民主勝利は確実という雰囲気で各コメンテーターが語る。8月29日 TBS「サタズバ」は明日の民主勝利は確実、調査結果は信用できる、風が吹いているというより地盤変動という大きな動きだ、というコメンテーターの話、既に民主党勝利後の雰囲気である。
選挙前日の番組:選挙前日8月29日は土曜だったが選挙を扱った特別番組は一つもなかった。通常の構成では土曜は情報ワイドショーがNHK、TBS、TXなどでいくつかあったが選挙に向けた討論は行われていない。民放の土曜の番組構成ではニュース番組の枠も30分しかなく、選挙に関する報道そのものがあまりない状態だった。その中でTX「週刊ニュース新書」では、司会者とゲストの政治学御厨貴氏のゆるい対談で、すでに自民党の敗北は必至だとし、自民党は何も悪いことはしていないのになぜこうなるという雰囲気の炉端閑話を行っている。

  • (12)歴史的事件=政権交代の伝え方(8月30日・31日)

 8月30日総選挙が実施され、各テレビ局は夜8時から開放速報の特別番組を制作した。番組内容は各テレビ局が独自の出口調査などに基づき開票が進まぬうちから、当選確実を打って伝える、それを見る各候補の喜びの声などの様子を見せ、各党の代表者の談話などを伝えるもの。ただし各局とも開票速報だけでなく政治評論家の解説や批評も多くはさみこんでいた。こうした全体構成に各局で決定的な差はなかったが、視聴率1位は大型特番「24時間テレビ」からの続き番組として1時間遅れで開票速報番組をスタートさせた日本テレビで26.4%*7だった、視聴者は開票速報もその政治的内容のよさよりも一種のバラエティ番組(娯楽番組)として受け取っているのが推測された(記事あり)。
 一方テレ朝、TBSは通常の局の姿勢通り報道に熱心な番組を制作したにもかかわらず視聴率は10%程度だった。テレビ局の当選確実の判断(逆に言えば落選決定)は多くは開票率が非常に低い状態で出しており、それまでの独自の世論調査とその日の出口調査に基づくもので、テレ朝では割り切って番組開始時=開票開始が始まった瞬間に、独自の世論調査での当選予想を流した。それでは民主党は330近くになっていた。この数字はかなり衝撃的だったがこれも視聴率には結びつかなかった訳である。この日の早い時間10時ころには民主党大勝利の大勢は決した。


 8月31日各局は政権交代を大きく伝えた、選挙結果が以前から予想され、民主党が圧倒的勝利であった為、国民多数の意思だとして各テレビ局の基調は民主党への祝福ムードだった。
 TBS「朝ズバッ!」は早朝から4時間半の特別番組を制作、全国の当選した政治家に電話で話を聞いたりスタジオに招き、東国原も出演した。極めつけは東京の小選挙区のほとんど全ての当選者をスタジオに招いて一同に会し、ほとんどが民主党である選挙の結果を見せ付けた。この企画は2005年にも行われておりその時は管直人1人を除き他は全て自民党だったのが今回は民主党ばかりになった様子を映像で見せた訳である。TBSは更に夕方「総力報道 THE NEWS」も3時間の特別番組とし当選の喜びを表す民主党議員や自民党の様子を伝え民主党の勝利を祝福した。テレ朝の夕方のニュース番組、NHKの7時のニュースも同様であり民主党への政権交代を国民の多数の意思として祝福した。普段経済しか扱わないtれび東京でさえ民主党政権で経済は上昇するとのコメンテーターの話を夕方のニュース枠の中で流した。
 もっとも象徴的だったは、この日8月31日のテレ朝「TVタックル」ではこの日から与野党の席を入れ替え、冒頭司会者大竹まこと自民党出演者に「野党の皆さん!」と嫌味を言って喜んでいた、全体の番組の政権交代祝福ムードは明らかだった。こうした与野党の席の交代とそれへの喜びと自民党への暗黙の揶揄はTBSの「サタズバ」などでも見られた。

 しかしこうした祝福の雰囲気に反するものもこの日から既に存在した。NHKではこの選挙直後で何も決まっていないタイミングで同日夜8時から各党代表による1時間の特別討論番組を制作し、ここでは敗北した自民党公明党首脳は民主党を批判し、まるで選挙前と同じような対立を見せる事になった。
 日本テレビはこの日の昼前のニュース枠の中で、日本テレビ論説委員の話で民主党政策の問題点を述べ、午後の情報バラエティ番組「ミヤネ屋」では1時間程度を政権交代関係に費やしたが、民主党の勝利よりも自民党の今後を心配する内容だった。また夕方のニュースでは(政権交代後の)人事が進んでいない、小沢一郎の二重権力ではないのか?などの不安材料があるという基調で伝えていた。なんとか政権交代に異議を唱えたいという姿勢が明確だった。
 フジテレビは夕方ニュース番組「スーパーニュース」では民主党議員に不安点を聞きただす質問攻めをしていた。夜の「NEWS JAPAN」ではアメリカから外交政策で疑問の声がある、これから難問を抱え解決できるのか?という伝え方で政権交代に否定的な姿勢を明らかにしていた。

 9月1日から9月16日の国会での鳩山由紀夫氏の首相指名までの間は、次期政権の人事の予想と、民主党議員によるマニフェストの解説、社民党国民新党との連立交渉、自民党の混迷ぶり(当面の国会での首相指名投票で誰を指名するかも決められない騒動)の報道が連日行われた。麻生政権の決定により特別国会開催まで2週間あったにもかかわらず自民党は新総裁を選ぶ事ができず、政治的な出来事がほとんどなかったためである。自民党は党の建て直しができず選挙の総括も新しい指導者による議論もおきず混乱しつづけた。

 この期間テレビでは、複数の民主党議員がテレビ各局の情報ワイドショー、夜のニュース解説番組などに出演し、マニフェストを含めて民主党の考え方を説明する事が非常に多く行われた。TBS「朝ズバッ」、EX「スーパーモーニング」、EX「ワイドスクランブル」、NHK「ニュース9」、EX「報道ステーション」などで何回も説明が行われた。一方ここでも日本テレビやフジテレビでは出演は少なかった。出演した民主党議員は、藤井祐久、蓮舫福山哲郎大塚耕平、仙石由人、前原誠司古川元久原口一博渡辺周馬淵澄夫などであり、多くはその後の組閣で大臣、副大臣政務官などになった。ともかく連日入れ替わり多数の民主党議員が番組に出演し長時間喋る機会が非常に多かった。番組側ではコメンテーターなどによる反論はほとんどなく、出演者に新政権での人事を聞いたりするだけだった。こうした構成になったのはこの間自民党側が混乱し、野党政治家で民主党政策をテレビで批判する者がいなかったためと思われる(この反論者不在の状況は10月に入っても同様である、また野党側の批判の仕方は選挙前と同じであり、内容的に論争になるようなものではない)。

 この期間でテレビのコメンテーター等から民主党に対し批判的に扱われたり質問の対象になったのは、安全補償問題で社民党との連立できるのか?、新政権が作る国家戦略局や政治主導の仕組みが不明だという、まだ出来ていない政権への無理な質問だけだった。9月7日には選挙後はじめての世論調査(電話調査)結果が出て民主党圧勝の選挙結果への高い満足と鳩山政権への高い期待が示された。

 テレ朝、TBS、NHKは来るべく民主党政権を祝福し期待する雰囲気だったが、日本テレビは異なった。この期間でもNTVは「ズームイン」でマニフェスト点検を行う連続コーナーを設け、民主党政策への異議をかもし続けた。またフジテレビは世論調査民主党マニフェストには国民は期待していないと強調した。またNHKは従来からの姿勢のまま与党=民主党の動きを伝えつづけた、批判的内容は八ッ場ダムでの地元住民など、NHKがとってきた一般人のインタビューだけだった。

  • (14)民主党新大臣による政策転換:公約破りを伝えぬ大手メディア(9月16日〜9月21日)

 9月16日特別国会が召集され、衆議院参議院それぞれで首相の選挙が行われ鳩山由紀夫氏が指名された。NHK、TBSは特別番組をつくり首相を指名する国会の様子を中継して伝えた。この日、首相指名の後、鳩山首相の初会見と大臣の呼び込みが行われ天皇による認証式の後、深夜11時すぎから各大臣の最初の会見が行われた。各テレビ局はこの日の一連の動きを歴史的な日として伝えた。「初めてのことなので失敗があるかもしれないが、国民の理解と協力を求める」この夕方の鳩山首相の初めての記者会見をEX「スーパーJチャンネル」では大谷昭宏などはベタ誉めの状態だった。

 各大臣の記者会見は、政治主導=官僚依存脱却の初めての表れとして、各大臣が省庁官僚のメモによらず自分の考えを喋るものだと注目され、夜のニュース解説番組などで各局は中継する構えだったが、会見開始が夜11時すぎと時間が遅くなった為、結局中継したのはNHKだけだった。また深夜になったため質疑応答なども短くなってしまった、結局翌日にニュースでほんの要点だけが伝えられた。

 しかしこの日にすでに起きていた民主党の最初の公約やぶりを地上波テレビは(新聞も)まったく伝えなかった。民主党代表が以前から約束していた、記者会見を記者クラブ加盟の記者に限らない公開の記者会見がこの日の鳩山首相の記者会見から行われるはずだったが、しかしそうならず既存の記者クラブだけに限られた。
これをその前日9月15日夜の朝日ニュースターの「ニュースの深層*8では、上杉隆氏がフリー記者への公開の準備がされておらず、開放されない見通しであると既に述べている。上杉隆氏は番組内で以前から鳩山氏から名指して招待されているのに、おそらく平野官房長官の意向により記者会見が公開されないことに怒りを表明していた。この事件は上杉氏のコラムやネットニュース*9では伝えられたが、大手新聞ではまったく報道されなかった*10。この記者会見を開放する問題はその後、外務省などでは実現したが、全体では2009年10月でもまだ行われていない。


 政権発足翌日のTBS「朝ズバ」では鳩山政権を祝福すると同時に「脱官僚」「公約実行」を焦点にまったなしの多くの課題がある事を述べ、この番組に何回も出演した長妻昭氏が厚生労働大臣になったことに、みの氏が感慨深いと述べた。
 任命された新大臣は次々にマニフェストに従った新政策を表明し、それが連日大きなニュースとなった。その大きさは「一つ一つが新聞1面を飾るようなものが各大臣からそれぞれ述べられるようなもの」と朝日ニュースターの「パックイン・ジャーナル」で愛川欣也氏は表現した。テレビで話題を集めたものは、八ッ場ダムの中止(県知事や地元住民の反対のコメント)、高速道路の無料化(経済評論家による反対やドライバーの渋滞の心配と馬淵澄夫議員による説明)、官僚依存からの脱却(脱却はできないとの官僚OBの声)、平成20年度補正予算の執行停止、インド洋沖の給油の中止(アメリカからの非公式な声)、外務省核密約の調査(日米関係への悪影響への憂慮)、官僚の会見禁止(知る権利への侵害だと言う記者OBコメンテーター)、中小企業への融資のモラトリアム法案(銀行など多くの反対の声と亀井大臣の圧倒的な説明)、CO2 25%削減の国際公約経団連の反対生命と旧国土省の拒否的な負担見積もり)、普天間基地の移転問題(アメリカの声)、アニメの殿堂の建設中止、消費者庁の高い家賃の移転、などなど。

 これらは従来の自公政権の常識で言えば、それぞれ大きな政策転換でありテレビでは大きくとりあげられ議論が続くようなものだが、八ッ場ダムの建設中止などを除けば賛否の議論はあまりテレビに出ることはなかった(この5日間ではなかったし、その後も似た状況。これは反論する自民党政治家がまだ体制がととのわず、反対を説く者がいなかった事が大きかろう。日本テレビなどは街の声と称して高速道路無料化、所得制限なしの子ども手当てへの反対などを行っている)

 また世論調査では、NHKや民放は10月21日の調査で内閣支持率が72%(細川政権に匹敵する高さ)、民主党支持率42%(過去最高)となり高い支持率と国民の期待、国民が民主党の政治転換を支持している事が伝えられた。

  • (15)鳩山首相の国連他での外交(9月22日〜26日)

 政権発足直後の鳩山首相は翌週国連での演説などの為ワシントンへ旅立ち、次々に外交を行った。日中首脳会談(22日)、国連気候変動首脳会合でのCO2 25%削減の演説(22日夜)、日韓首脳会談、日露首脳会談(24日)、オバマ大統領との日米首脳会談(24日)、国連安保理での核廃絶を強く訴える演説(24日夜)、G20夕食会(25日)、国連総会での経済対策の演説(25日)、メジャーリーグスタジアムでの始球式(26日)。
 テレビは各局ともワシントンに特派員を送り連日大きく取り上げた。CO2の大幅削減を宣言し外国から高く評価され、日本の外交での存在感を示した国連演説など、鳩山氏への賞賛で埋まった。核廃絶の演説に関してもテレビは非常に好意的だった。この間は鳩山氏の外交日程を伝えるだけでこの週はおわったようで、首相就任からあまりに矢継ぎ早に様々な政治的出来事がおこりテレビの側も通常の扱いではなかった、鳩山氏の帰国後、民主党新政権が通常状態で動き出しテレビもそれに応じて平常状態に戻った。

*1:参考記事「NHK総裁選報道、「自民のPRですよ」(中日新聞 2008年10月9日)参照

*2:文芸春秋 2008年11月号「私の国家再建計画」麻生太郎

*3:例えば、植草一秀ブログ2009年4月21日「テレ朝TVタックルの北野武暴言と名古屋市長選」など

*4:例えば、2009年5月17日 共同通信世論調査「首相にふさわしいのは?=鳩山氏43%、麻生氏32%」

*5:例えば、植草一秀ブログ2009年5月31日 「総選挙接近で御用メディア偏向報道が全開」

*6:党首討論を伝えるテレビの詳細は弊ブログで書いた「鳩山VS麻生の党首討論をテレビはどう伝えたのか」鳩山VS麻生の党首討論をテレビはどう伝えたのか(続)

*7:参考記事「開票速報番組の視聴率、日テレ26・4%が最高(読売新聞 2009年8月31日)」参照

*8:朝日ニュースターニュースの深層」2009年9月15日20:00放送(60分)「ジャーナリズムの新たな幕開けか!?〜鳩山政権と記者クラブ」司会:上杉隆(ジャーナリスト)ゲスト:神保哲生(ビデオジャーナリスト)

*9:参考記事 JanJan2009年9月19日「大メディアが黙殺した鳩山首相初会見の真実〜記者クラブメディアと新官房長官連携、さっそくの公約破り」参照

*10:参考記事「新首相就任会見、雑誌記者の参加認める 内閣記者会(朝日新聞 2009年9月15日)」参照