zames_makiのブログ

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はだしのゲン(1976)反戦・天皇批判の明確な原爆映画

メディア:映画 上映時間:107分 製作:現代プロダクション 公開年月:1976/01/24
製作・監督・脚本:山田典吾
原作:中沢啓治はだしのゲン
音楽:渋谷毅

出演:
三國連太郎(中岡大吉・ゲンの父)実質的な主人公、下駄の絵描き、強い反戦・平和・反軍・反天皇主義者、警察に拘留されるが帰ってくる、原爆で家の下敷きになり焼け死ぬ
左幸子(中岡君江・ゲンの母)優しい、口に出さぬが戦争には反対、妊婦で原爆直後に出産する
佐藤健太(中岡ゲン)主人公、小学生、やんちゃで口が悪い、非国民と虐められる、浪曲が上手
石松宏和(中岡進次)ゲンの弟、いつも一緒、ゲンから軍艦の模型をもらう、原爆で家の下敷きになり焼け死ぬ
岩原千寿子(中岡美子・ゲンの姉)小学生、非国民と虐められ、教師に裸にされる、原爆の家の下敷きになる
小松陽太郎 (中岡浩二・長男)中岡家の長男、学生だが軍需工場で働く、非国民と言われるのが嫌で予科練に志願する
箕島雪弥 (中岡昭三・次男)中岡家の次男、学童疎開で田舎に行ってる

島田順司(朴さん)朝鮮人、同じ町内の人、戦争反対し虐められる中岡家に同情する
曽我廼家一二三(町内会長)竹槍訓練にゲンの父をかり出し叱る、息子がゲンに怪我させられたと文句言う、ゲンの父を警察に言いつける
草薙幸二郎 (特高警察)ゲンの父を虐める、転向を勧める
江角英明特高警察)ゲンの父を逮捕する
梅津栄(広瀬先生)ゲンの先生、忠君愛国を推奨、そうでないゲンを殴る
大泉滉(沼田先生)ゲンの姉の先生、非国民だからと裸にして虐める
牧伸二(堀川・ガラス屋)傷痍軍人で片足、商売よくなくて困る、ゲンに軍艦模型をくれる、原爆で妻を失う

感想

 反戦反核・反天皇性の主張が明確な原爆映画、原爆投下直後の悲惨な場面は短く、漫画版で行った悲惨さを訴える事は控えている。むしろ原爆投下までの主人公の父親の行動で反戦を強く訴えている。この父親の反戦行動は家族には明確だが、警官には沈黙を守り、それでも逮捕拘束されるというもので、現実的な行動である。こうした控えめな反戦的行動さえ拘束されるのが1930年代の日本であり、メッセージを訴える物語のエピソードは不自然ではない。残念ながら演出は巧いとは言えず、セットも最低限で、映画の力は主役の2人の演技力に頼っている、しかしそれ故かえってメッセージが際立ち原作者や制作者の意図をよく反映する結果になったと想われる。下敷きになった父たちを見捨てる場面は生身の人間が見せており涙を禁じ得ない。金はかかっていないが感動させる映画、中の中。
 有名な漫画「はだしのゲン」の最初の映画化作であり、公開当時はまだ原作漫画の知名度は十分ではなく、この映画をきっかけに原作漫画を知った、との結果も少なくない(大瀧友織:アンケート調査で見る大学生と「はだしのゲン」所収:「はだしのゲン」がいた風景」、梓出版社、2006)。主に大人に対して漫画を知らせるきっかけになっている。
 映画の70%は原爆投下以前のゲンの一家の様子であり、反戦平和を公言する家族への日本社会の迫害が描かれる。ゲンの家の、長男、姉、母など全てのエピソードで戦争反対者への迫害と、それへの反応を通して反戦平和が訴えられている。長男は非国民のそしりを受け本心では平和を指向しながら軍に志願する悲しみ苦しみを示す。姉は温和しく自分で何かを主張する事はないが、一家の一員であるという事だけで、盗人扱いされ学校で裸にされる。ゲンの母は生活に忙しく何かを主張する事はないが、ゲンを非国民だから処罰せよとの要求には断固として反対する。これだけメッセージの明確な物語は他の日本映画にないと想われる。
 原爆投下の経緯説明はなく、投下直後の惨状の描写もほとんどない、描写の大部分は倒壊した家の下敷きになった父たちを見殺しにせざるをえないエピソードであり、意図的に原爆描写を避けたと想われる。映画は荒廃した広島の町と原爆でガラスだらけになった悲惨な死を遂げた隣人を示し、玉音放送で、再び天皇の責任(早く戦争を終わらせなかった責任、同時に始めた責任)を追求して終る。

論点

  • 明確な反戦・平和・反天皇メッセージは、有効か?、観客に受け入れられたか?→ゲンの一家の自然なエピソードで観客は素直にメッセージを受け入れたと想われる
  • 被爆者に朝鮮人の存在を描いている、同時に日本人に差別される様子も。朝鮮人は主人公らに親切にする善人と描かれている
  • 原作漫画との関係は、適切な映画化、適切な抜粋と言えるか?→原爆投下直後の扱いへの判断、この時期、資金製作規模としては適切だったのではないか。