zames_makiのブログ

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始めか終りか(1947)歴史上初の原爆映画

原題:THE BEGINNING OR THE END
メディア:映画 上映時間:112分 製作:アメリカ(MGM)配給:セントラル 公開:1950/09/12
監督:ノーマン・タウログ 原作:ロバート・コンシダイン 脚本:フランク・ウィード 音楽:ダニエル・アンフィシアトロフ
協力:軍のアドバイスマンハッタン計画の担当者、ロスアラモス、オークリッジの各研究所がクレジットされてる、実在のエノラゲイなどB29が再現飛行している?

  • 東京 日劇での入場料は100円(学生60円)
  • パンフレット惹句「日本全国民必見の映画」「原爆は如何にして廣島に炸裂したのか」

出演:
トム・ドレイクTom Drake(Matt Cochran)主人公1、若手の原爆研究員、マンハッタン計画に参加、原爆実験などに関わり、テニアン島で現地組立て中に事故で死ぬ、架空の人物
ビヴァリー・タイラーBeverly Tyler(Anne Cochran)アン、マットの妻、マンハッタン計画で秘密研究所に住む、遺書を読む
ロバート・ウォーカーRobert Walker(ニクソン大佐)主人公2、マンハッタン計画参加の軍人、シカゴ大で見学、テニアン島へ同行、エノラゲイにも搭乗し最終調整をする
オードリー・トッターAudrey Totter(Jean O'Leary)ニクソン大佐の恋人、グローブス将軍の秘書、一緒の原爆成功を祈る

ヒューム・クローニンHume Cronyn(オッペンハイマー博士)映画の説明役、マンハッタン計画の中心人物、研究所で原爆開発、原爆実験を行う
ブライアン・ドンレヴィBrian Donlevy(グローブス将軍)マンハッタン計画の軍側中心人物、多くの企業、科学者を集めプロジェクトを推進、実物よりずっとスマート
Godfrey Tearle(ルーズベルト大統領)マンハッタン計画を承認、ヒトラーが原爆を所有したら使うと確信し承認する、1945年1月死亡する
ART BAKER(トルーマン大統領)ポツダムで原爆投下を決断、後ろ姿のみ、
LUDWIG STOSSEL(アインシュタイン博士)スイスで原爆理論を知り、ナチスに先行されないようにと、ルーズベルト大統領に開発勧める手紙を書く
Joseph Calleia(フェルミ博士)核分裂反応の発見者、原爆の基礎理論を作る
Jonathan Hale(ブッシュ博士)マンハッタン計画の提唱者、ルーズベルト大統領に提案書を説明する

BARRY NELSON(ティベッツ大佐)B29エノラゲイ飛行士
Warner Anderson(パーソンズ飛行兵)B29エノラゲイ搭乗員、原爆担当
Henry O'Neill(Farrell将軍)グローブスの副官、テニアン島での現地原爆計画指揮官

参考

「Atomic Bomb Cinema」を書いたJerome Shapiro氏のHPサイトでプレスシート他の資料が読める、アマゾンでDVDが購入できる
http://www.atomicbombcinema.com/english/image_gallery/beginning/begin_end_intro.htm

感想(英語版を視聴)

マンハッタン計画と広島への原爆投下を史実に忠実に人類史上でも偉大な事業として描く大作映画、戦争ではなく科学技術開発、プロジェクト開発の経緯と偉大さを描くもの。一瞬で焼け野原になる広島を見せ原爆の破壊力と危険性を強く訴え、同時にそれが人類史上でも明記すべき偉大で肯定的な出来事と示す。後のアメリカ製原爆映画のように全面的な肯定ではないが弁解の上肯定するアメリカ視線のもの。原爆開発のため命を捧げる若い研究者を登場させプロジェクトの偉大さをより印象づける。多くの実在人物が登場し公開時のトルーマン大統領らの検閲(承認)を受けた表現になっている。セット、演出など良く出来ており飽きないが楽しくない、中の中。
 映画は冒頭グローブス将軍らが、タイムカプセルを埋めるというニュースリールの形で始まる。その中味がこの映画だという、即ち1947年原爆は始まったばかりでどうなるか、わからぬ、タイムカプセル空ける25世紀ならわかるだろうと。原爆の深刻さと偉大さを示す。
 映画は、オッペンハイマーが案内役となり、ドイツ軍の原爆開発、フェルミによる核分裂と原爆理論の発見、アインシュタインによるルーズベルト大統領への原爆開発勧告の手紙、マンハッタン計画の提案、イギリス科学者のへのアメリカへの移動、シカゴ大での核分裂連鎖反応の実験へと、非常に細かく真面目にリアルに進む。この後、ペンタゴンでの企業、科学者への計画提示、秘密研究所の建設、濃縮ウランの到着、そしてロスアラモスでの原爆爆発実験、トルーマンの決断、テニアン島での原爆調整での事故、広島への投下、帰国したニクソン大佐による死亡した若手研究者の遺言の紹介で終わる。
 シカゴ大の核分裂連鎖実験は忠実なセットと思われるが、他は研究内容がわかるような場面はなく、研究所もゲートさえまともには写らない、原爆爆発実験で使う原爆は記録フィルムで見られる球形のものではなく、通常の爆弾のような形のもので意図的に隠している。同様に広島に投下したものもウラン型原爆の特徴的ないびつな形ではなく、通常の爆弾に近いものだ。これら機密遵守に相当配慮しているだろう。
 映画は原爆を非常に危険なものと示す。原爆のキノコ雲は特撮で再現しておりかなり迫力がある、特に広島投下時には斜め上からの視点で、成長するキノコ雲を広島市街を背景に示し、その市街は燃えているのであり、B28搭乗員の深刻な台詞と共に他にない表現だ。加えてB29には原爆の臨界危険度(要は爆発にどれだけ近いかを示す)を示す計器が載せられ、メーターの針と音で危険さを示す。これが揺れや対空砲火で鳴り原爆はいかに危険か観客に印象づけてる。
 映画は観客の1感情移入と2物語を盛り上げ3計画の偉大さを印象づけるため、架空の若手科学者を設定し(アインシュタインへの誓願も含めどの場面にも登場する)妻とのむつまじい関係を見せ、かつ殺す。この科学者はテニアン島での原爆整備時に手元が狂いウランが臨界になり原爆が爆発するのを防ぐため素手でウランをつかみ、放射線で直ちに死亡する。科学者は遺書で計画の成功と原爆の不慮の爆発でテニアン島の全員は死ぬのを防ぐ為と言い、偉大な計画の為に自分の犠牲が必要だと言うのだ。
 映画には多くの実在人物が登場する、やっている事はほぼ事実に沿っているが、トルーマン大統領の描写は興味深い、マンハッタン計画スタートを決めたルーズベルト大統領は正面から写し台詞もたくさんあって普通に描写しているのに、トルーマンは出番は少なく、終始後ろ姿しかなく、声も低い。公開当時の現職大統領であるトルーマンは原爆使用に自分が前向きであったと観客に取られるのを慎重に避けたと思われる。同時に映画は、一瞬で街全体を破壊する原爆を残酷さを暗黙に示している、同時にそれが1ナチへの対抗の為2真珠湾攻撃への復讐のため3戦争をはやく終わらす為4日本でも原爆開発が行われている可能性、などを明示的又は暗黙に示して、アメリカの原爆投下を正当化している。
 ミック・ブロデリック氏が言うように*1
アメリカ政府の公式見解(原爆は強力な破壊を伴う悲惨な兵器だがアメリカには使う理由がある)を観客に納得させる映画だろう。だがそれは事実に反しており嘘である。

論点

  • この映画は歴史的事実にどれだけ忠実か、何を示し、何を隠したか
  • 長崎への原爆投下はなぜ描かれないのか?映画内の原爆実験はプルトニウム型だが、広島へ投下したのはウラン型であり、映画内でさえ矛盾している
  • 全体として映画は原爆に肯定的なのか?映画の言う「原爆利用のEND」は何を意味するのか?それはただのポーズだけか?(題名:THE BEGINNING OR THE ENDはトルーマンの原爆への言葉から、1945年が始まりならENDは何か?1947年当時アメリカに原爆を放棄・禁止する発想があっただろうか?)
  • ブロデリック氏が指摘する映画中の「日本での原爆開発の可能性」はどれだけ観客に意味があるか?→日本語版がないと筆者には判断不可能
  • なぜ後のアメリカ製原爆映画のように前面肯定的ではないのか?アメリカでの原爆への世論動向との関係は?同時に燃える広島市街や、迫力あるキノコ雲の表現はその世論動向と関係あるのか?なぜ後は迫力あるキノコ雲(特撮)を使わないのか?
  • 映画は実在のB29エノラゲイ(ENOLA GAY)、Neccesary Evil、Great Artiste号を使い3機編隊での飛行を再現させているように見える。米軍の協力状況は?

*1:◇「日本映画における広島・長崎」ミック・ブロデリック(所収:核時代に生きる私たち:広島・長崎から50年 マヤ・モリオカ・トデスキーニ編 時事通信社 1995)