zames_makiのブログ

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TOMORROW 明日(1988)静かな原爆映画

メディア:映画 上映時間:105分 製作:ライトヴィジョン=沢井プロダクション=創映新社  配給:ヘラルド・エース日本ヘラルド映画 公開年月:1988/08/13
監督:黒木和雄 原作:井上光晴(『明日・1945年8月8日・長崎』) 脚本:黒木和雄、井上正子、竹内銃一郎 音楽:松村禎三

出演:
佐野史郎(中川庄治)主人公、新郎、工員、結核で体が弱い、母は遊郭に、父は病死?、引け目あるが静かに前向きの生活を始めようとする
南果歩(ヤエ)主人公、新婦、次女、長崎医大の看護婦、温和しい、静か

桃井かおり(ツル子)長女、妊婦、夫は出征中、8/9早朝出産する、ともかく出産
仙道敦子(昭子)3女、女学生、恋人に赤紙がくる、おめでとうと言うが泣いてしまう
長門裕之(父・泰一郎)新婦の父、
馬渕晴子(母・ツイ)新婦の母、結婚式の準備で忙しい、長女の出産で徹夜する、ずっと働いている
?(長男)年下の長男、出産に興味でひつこく母に聞く、喜ぶ

黒田アーサー(石原継夫)新郎の友人、徴兵検査は肋膜で残る、軍属で捕虜監視人、英兵捕虜の病死に抗議、遊郭で女にむなしさなどを語る
水島かおり(亜矢)新婦の同僚、看護婦、妊娠してるのに、恋人=藤雄が行方不明、明日が心配
森永ひとみ(春子)新婦の同僚、看護婦、占いに凝ってる
なべおさみ(水本)新婦の親戚、市電の運転手、夫婦の小生活に満足してる
入江若葉(満江)水元の妻、夫に昼の弁当を届ける、愛してる
田中邦衛(銅打)新郎の親代わり、暮らしたの数年で薄い、昔はコック今は写真屋、卵を山口にもらいに行く、戦時下もそれなりに暮らす
横山道代(仲人)町内会の世話人

岡野進一郎(英雄)3女の恋人、医大生、赤紙がくる、駆け落ちも考える
賀原夏子(産婆)長女の出産にやってくる、酒飲み、忙しい
原田芳雄(山口)銅打の友人の農家、妻が知恵遅れの娘が、米軍上陸であらかじめ殺されると心配でならない
伊佐山ひろ子(娼婦)石原がよる行く遊郭の女、やさしい
荒木道子(高谷藤雄の母)冷たく亜矢を断わる
殿山泰司(商店主)中川に米兵捕虜にやる食料はないと断わる
草野大悟(薬売)いかがわしい街の薬売り

感想

原爆投下前日の長崎のある家族とその周辺の人々の生活を細かく描き、それが原爆で一瞬に全て奪われた事で、原爆の残酷さを示すドラマ。結婚式とその家族、そこに出席した人々の行動と思いを描く、皆が明日を信じ静かに前向きに生きようとしている。戦争による苦しみも描かれるがとても控えめである。原爆投下後の描写はない。しみじみとした味わいのあるドラマだが、観客に「一瞬で全て奪う」原爆の意味や「戦時下の生活を背景にした」登場人物への「感情移入」がないと感動は得られない、中の上。
 おそらく「日本の戦争映画は声高に反戦を叫ぶだけで低劣である」との一部の評論家の声を背景に発想されたドラマ。同時に原爆投下後の惨状を描く事の技術的難しさや、惨状故の観客による映画自体への拒否なども、原因であろう。
 多くの登場人物の小さな出来事が細かく丁寧に描かれており、好感が持てる。全体に非常に静かに明日の生活を指向しており、原爆による切断を予感させる。音楽が繰り返し哀切さを強調しており効果的に感じた。
 公開当時多くの評論家から好意的な評価を得た、新たな発想であるが、原爆の罪悪を訴求する点では、登場する日本人への感情移入が大事であり、日本人以外の観客や、ずっと後の世代の日本人観客にはあまり大きな感動は与えられないと思われる。また原爆は議論の余地なく罪悪であり、日本の戦争の意味や経過などは説明なくても了解される事も要求され、予備知識のない日本以外の観客には訴求力は低いだろう。