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ヒトラーへの285枚の葉書(2016)微少反ナチ派の英雄視

原題:ALONE IN BERLIN 映画 103分 ドイツ/フランス/イギリス 公開:2017/07/08
監督:ヴァンサン・ペレーズ 原作:ハンス・ファラダベルリンに一人死す』(みすず書房刊) 脚本:アヒム・フォン・ボリエスヴァンサン・ペレーズ
言語:英語

出演:
ブレンダン・グリーソン(オットー・クヴァンゲル)ナチ批判カードを書く、職工の親方、
エマ・トンプソン(アンナ・クヴァンゲル)その妻、協力する
ダニエル・ブリュール(エッシャリヒ警部)カード事件の専任刑事、丹念にカードを集め捕まえる、しかし最後は自殺する
ミカエル・パーシュブラント(プラル親衛隊大佐)カード事件の専任、警察に早く検挙するよう要求、過酷な処分をする

感想

平板なナチ批判映画、星3つ。ナチ批判のエピソードも小さいがそれを元に構成する映画の物語もその演出も小さく、ともかく印象が薄い。近年ドイツ人がドイツの第二次大戦についての映画を多数作っているが、この映画はおそらくそれに属するものではなくドイツ人が製作に関わっているが英米主導・英米目線の映画と思われる。理由は、1:映画内の全てのドイツ人が英語を自然に喋る、2:ドイツ人の細かい感情描写や戦時下ドイツ社会を描写するエピソードはなく、単純にナチ&ヒトラー批判の話だけになっている、3:親衛隊大佐がはっきり悪役とされており捜査・逮捕する刑事は逆にカードを書く夫婦に同情し最後は自殺する。自殺する理由は不明だが映画的には夫婦に共感したからと受け取れるようになっている。2000年代以降のドイツ人の作る戦争映画は多寡があるものの当時のドイツ人を単純に悪と割り切らぬ思い入れが入っているがこの作品にはそれがなく、演出はおとなしいがやはり英米目線には違いない。
 ナチ批判のエピソード(歴史的事実)はベルリンに住む夫婦が戦争で息子を失っ事をきっかけにナチ批判・戦争反対のメッセージを書いたカード(葉書)を町のあちこちに密かに置き続けるというもので、カードは合計300枚程度その内回収されず市民の手に残ったのは30枚程度であり社会的になんら影響を及ぼすものではない。犯人の夫婦は警察に逮捕され死刑になったがそれも大きな事件ではなく、映画ラストで刑事が自殺するのは事実のこじつけ(映画的誇張)と思われる。
 ナチ犯ならどんな小さくても映画になるという偏向は、2005年の「白バラの祈り」(1982年版もあるが)以来、ほんの小さな抵抗事件もナチ批判であれば大々的に映画の題材になっている。これは「ドイツ人も戦争に反対した」と弁解している訳で見苦しい。しかし「シンドラーのリスト」をあげるまでもなくユダヤ人を救ったエピソードならどんな小さな事件でも何度でも映画が作られ、日本でも「杉原千畝」が作られるように、こうした偏向は環境からして商業的映画ならあたり前な事であろう、だからと言ってそれを喜ぶ観客が見苦しい事に差はない。
 ナチ批判には様々なエピソードがあるようだが、その中でもこの映画のエピソードは最も小さい部類と言えよう。カードはほとんど警察に回収され結局それを読んだ専任刑事が最大の読者であって、夫婦に同情して自殺するという、締まりのない映画である。