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満蒙建国の黎明(1932)溝口健二の戦争協力

製作=入江プロダクション=中野プロダクション=新興キネマ 公開:1932.09.29 16巻 4,313m 白黒 無声
監督:溝口健二 脚色:上島量・増田真二 原作:三上於菟吉直木三十五(藤田潤一編「満蒙開拓の黎明」駿南社、1932)映画は原作を膨らましたもの(佐相) 撮影:青島順一郎 中山良夫

あらすじ(佐相まとめによる)

1912年清朝が滅ぶと幼帝とその妹、彩鳳姫は日本に亡命し、小笠原の下信州で育つ。伊東慎児(中野英治)は幼時から彩鳳姫と一緒で仲良くなる。二人は成長し、慎児は記者として上海に旅立ち、彩鳳姫も蒙古青年党(好日派)の李石常の誘いで上海へ行き、社交場の花形となる。李石常は彩鳳姫を操り、対立する奉天派(反日派)の元帥暗殺を企むが失敗、逆に彩鳳姫は間諜チャーリーに狙われる。が旧友の大村憲太郎士官に助けられる。

伊東慎児は天津派本部に潜入情報をさぐるが発見され彩鳳姫の家に偶然逃げ込み再会する。しかし彩鳳姫は李石常の指示で革命資金のため富豪黄貞恵と結婚し、慎児は嘆き酒・女・阿片に浸る。彩鳳姫は更に仕掛け爆弾やチャーリーに狙われる。更にチャーリーは彩鳳姫に毒をもるが、間一髪慎児に助けられる。慎児は馬賊となっており更に王秦が彩鳳姫を狙うも慎児が助ける。

彩子らは拠点である巴林王府につき黄貞恵と会うが互いに好きになれない、むしろ黄貞恵は人質になった妹を心配する。満州の秩序は乱れ、ついに皇軍への攻撃である柳条溝事件がおきる。

関東軍の大村は奉天軍を粉砕、慎児と再会し彩鳳姫の救出を頼む、慎児は失恋を超えて国家のため彩鳳姫を救出、彩鳳姫の建国の呼びかけに全満蒙が呼応し、ここについに満州国建国の大覇業はなった。(出典:「溝口健二・全作品解説8」佐相勉、近代文芸社、2010)

出演

入江たか子(彩鳳姫=彩子)主人公、清朝最後の皇帝覚宗の妹彩鳳姫(日本名彩子)、幼時に亡命し日本で育つ、慎児を愛すが満州国建国のため中国に渡り、敵の間諜に狙われる。建国資金のため黄に嫁ぎ不幸になるが慎二とともに満蒙建国の号令を満州全体に発する。
中野英治(伊東慎児)副主人公、彩鳳姫の幼馴染、小笠原の下で一緒、満州馬賊になり彩鳳姫を救出し満州国建国を果たす

松本泰輔(大村憲太郎)豪放な少壮士官、中国軍の軍事顧問として満州へ派遣、彩鳳姫を助ける
榊田敬治(李石常)蒙古青年党(好日派)の志士、満州建国の後ろ盾、彩鳳姫を支持し操る小阪信夫(斑第達)その部下、チャーリーに殺される
瀬良章太郎(黄貞恵)蒙古随一の富豪、彩子と結婚する
山県直代(春芳)黄貞恵の妹、中国の中間派抱き込みのため人質になる、黄貞恵を愛す
大野三郎(陸王)黄貞恵の叔父、
菅野三郎(覚宗)清朝最後の幼帝、覚宗、日本に留まる
高島登(小笠原)士気高い志士、彩鳳姫を日本へ引き取る

菅井一郎(チャーリー張)奉天派(反日軍)間諜、彩鳳姫をつけ狙う
桂珠子(秋華)彩子の侍女、実は奉天派の間諜
泉浩路(龍光県)奉天派(反日軍)の将軍、李石常と対立し彩鳳姫に命を狙われる
大原穣(王秦)中国人、覚宗や彩鳳姫を暗殺しようとする
日ノ本一男(郭虎齢)四防鎮守使、中国の中間派

メモ感想

当然ながら満州国建国を正義の立派な行動とし祝福するもの、しかし物語からは日本軍による植民地建設ではなく、満州人による自発的行動を日本軍が助けたという虚構の歴史叙述となっている。これは当時の日本の市井での語りなのか原作者による積極的な虚構なのか不明だが、日本軍部にとって日本国に対するその責任や帝国主義的行為を隠す最も都合のよい筋立てになっている。多くの活劇が挿入され、日本=中国を結ぶ恋愛が語られており、非常に娯楽的でありかつ政治的であり、宣撫的・プロパガンダ的作品であり、これが自発的に製作されたのであるか疑問に思う。