zames_makiのブログ

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普天間基地は抑止力の点でも必要ではない

照屋寛徳氏のブログ「在沖米海兵隊と抑止力」(2010年5月10日)より抜粋
http://terukan.blog44.fc2.com/blog-entry-467.html
よく要点をついている、部分的に詳細化する予定

 (前略)今日は在沖米海兵隊と抑止力について考えてみたい。
 鳩山総理は来沖時に「海兵隊の存在は、かならずしも抑止力として沖縄に存在しなければならない理由にはならないと思っていた。ただ、学べば学ぶにつけて、沖縄に存在している米軍全体の中での海兵隊の役割を考えたとき、それがすべて連携している、その中で抑止力が維持できるという思いに至った」と述べている。この海兵隊の抑止力についての認識が、普天間飛行場の県内移設の論理的支柱になっている。

 私は問いたい。米海兵隊の抑止力とは何か。米海兵隊は本当に日本の防衛のために駐留しているのか。仮に、米海兵隊が抑止力になるとして、必ず沖縄に駐留する必要があるのか。そもそも在沖米海兵隊の実態は、そして海兵隊という軍種の役割とは何なのか。疑問は尽きない。
 いったい鳩山総理は、海兵隊の抑止力について何を学び、どのような結論に至ったのか。実は、鳩山総理は抑止力について具体的に何も語っていないのだ。よく抑止力という言葉は思考停止に陥らせる「マジックワード」だと言われる。抽象的に抑止力という言葉を使うと、何となく日本は海兵隊に守ってもらっているのだから、沖縄に我慢してもらうのは当然だ、とする結論に帰着するというのだ。

●5月10日の東京新聞編集委員の半田滋記者が在沖米海兵隊は「抑止力」になっているか、という「核心評論」を書いている。半田記者は、同記事の中で在沖米海兵隊の定数や実数について触れながら、結論として普天間飛行場移設問題でアメリカが辺野古現行案に固執するのは、利便性を重視したからで抑止力とは別次元だとする。その通りだと思う。辺野古への新基地建設は、普天間の代替施設ではなく、機能が強化され、国民の血税で造られる自然への冒涜と国民への冒涜の愚策である。アメリカにとっては、喜ばしいプレゼントだが・・・。


●5月21日号の週刊朝日でも「鳩山首相は勉強のし直しを!」「沖縄、海兵隊に『抑止力』なし」を特集している。週刊朝日の特集で我部政明琉球大学教授)は、「そもそも抑止力とは、客観的な軍事力を指すものではありません。仮想敵国がこちらからの反撃を予測して、侵略しないほうが合理的だと判断させる脅威を表すものです」つまり、抑止力とは、もつものではなく、結果として生まれるものだとする。(海兵隊をおけば必ず抑止力が生まれるのではなく、様々な事情の結果相手の中に生じるもので、曖昧なものだ


●軍事ジャーナリストの田岡俊次氏も「グアム移転の後、沖縄に残る海兵隊は、第36海兵航空群(ヘリ部隊)と第4海兵連隊(歩兵部隊)です。この部隊は、歩兵1千人と装甲車数両、戦車ゼロ。正規軍とは戦えず、とても抑止力といえる戦力ではありません」と明解だ。田岡氏は「アジア・太平洋で戦乱や暴動などが起きたとき、いち早く現地へ駆けつけてアメリカ人を救出すること。日本の防衛ではなく、アメリカ人の安全保障こそが第一の目的なのです」とも論述する。

 抑止力については、我部政明教授や田岡俊次氏と同様に主張する者は多い。はて、鳩山総理は、在沖米海兵隊の抑止力について何を学んだのか。

海兵隊が沖縄にいる軍事的理由はない(田岡俊次沖縄タイムス(2001年 3月5日)

「沖縄駐留理由なし」 米海兵隊の存在検証/日本の防衛政策批判

 「沖縄の米海兵隊の存在意義を検証する講演会」が那覇市民会館で開かれた。講師の田岡俊次朝日新聞編集委員は、今年の米国防報告で「アジア太平洋の10万人体制」が削除されたことや、東アジア情勢における海兵隊の戦略的な位置づけなどを解説しつつ、「海兵隊が沖縄に駐留する理由はない」と結論づけた。
 在沖米海兵隊が削減される環境として、田岡氏は(1)米国防報告で「10万人体制」が削除されたのは明らかに第3海兵師団(在沖海兵隊の主力)がターゲット、(2)前国防次官補らによる訓練分散や、21世紀国家安全保障委員会による「在日米軍の削減やむなし」論、(3)ブッシュ新政権のパウエル国務長官は米軍の過剰な海外派兵に批判的である――ことなどを挙げた。
 また1万5000人いる在沖米海兵隊は、「軍備は18門の大砲だけで、いざ有事となっても在日米軍には紛争地域へ緊急展開する輸送能力がない。戦略上は意味のない存在だ。6ヵ月ローテーションで駐留する兵員の不満や、狭くて訓練に適さない沖縄の環境などから、海兵隊内部でも撤退論者が大多数」とし、「司令官らのポスト維持だけを目的に存在する部隊」と断じた。
 東アジア情勢については、ロシアをはじめ北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)、中国が、もはや日本の安全を脅かすほどの軍事力が備わっていないことを、兵員数や軍備を具体的に挙げて解説。その上で「共通の敵を失った日米同盟そのものが危うい」とした。
 会場からの質問に答え田岡氏は、「米国が同盟関係にある国の約7割には、米軍が駐留していない。日本政府が補助金まで出して米軍を引き留めるのは愚の骨頂」と、日本の防衛・外交政策を批判した。

『抑止力論』の呪縛はやめろ(東京新聞 2010年5月16日 社説)

東京新聞社説 週のはじめに考える:『抑止力論』の呪縛 2010年5月16日

 (略)公約守れぬ言い訳:首相は国外・県外移設が難しい理由に「沖縄に存在する米軍がすべて連携し、抑止力が維持できるという思いに至った」ことを挙げましたが、説得力はありません。むしろ、公約を守れなかった言い訳に、抑止力という概念を持ち出したというべきでしょう。(略)
 沖縄には米海兵隊で唯一の海外常駐部隊である第三海兵遠征軍が駐留し、普天間飛行場には第一海兵航空団第三六海兵航空群のヘリコプターや空中給油機などが配備されています。首相は、この航空群を名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に移さなければ、敵に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」が損なわれると言っているのですが、果たしてそうでしょうか。

 沖縄に駐留する海兵隊イラクアフガニスタンに派遣され、太平洋地域で行われる訓練・演習にも頻繁に参加しています。沖縄を空けることが多くても、この間、日本を含むいわゆる「極東」地域で抑止力が著しく低下したという話は聞きません。


 ◆沖縄県でなくても:この地域(=東アジア)の安定は、在韓・在日米軍や米海軍第七艦隊、韓国軍や自衛隊の総体としての抑止力によるものと考えるのが自然です朝鮮半島有事での海兵隊の役割は米国市民らの救出、北朝鮮核兵器確保が主とされますが、それを機動力と呼んでも、抑止力とは言いません。軍事力を強化する中国軍と米軍とが万一、対峙した場合、航空優勢制海権の奪い合いになるでしょうから、海兵隊よりも米海空軍の役割が大きいといえます。

 尖閣諸島防衛も一義的には自衛隊の役割で、海兵隊が介入するか否かは確定的ではありません。そもそも、有事には米本土から増援部隊が投入されるので、海兵隊が沖縄にいなければ抑止力にならないとは考えにくいのです。


 では、なぜ米政府に国外・県外移転が言いだせないのでしょう。それは、米政府にものが言えない外交が政権交代を経ても続いているからではないでしょうか。米軍駐留やその経費負担、不平等が指摘される日米地位協定などは占領期の残滓ともいえます。首相は「緊密で対等な日米同盟関係」を掲げるなら、県内移設の政治的困難さを明確に伝えるべきです。仕切り直して、米軍基地の適正配置を米側と緊密に協議しながら考え直すべきでしょう。

 この問題では、言を左右にする首相の資質欠如や日米同盟の危機が喧伝されますが、日本国民には悪いことばかりではありません。意図的かどうかは別にして、米軍の抑止力という問題や「沖縄の思い」に、日本全体で思いを至らせるきっかけになったからです
 沖縄では今、重い基地負担を本土による「差別」とする声が公然と出ています。実際、沖縄の海兵隊は以前、岐阜、山梨両県にありましたが、砂川闘争など日本本土での反基地闘争の激化を背景に一九五六年、当時米軍政下に置かれていた沖縄に移駐した経緯があります。もし、在日米軍が日本を含む極東の安定に不可欠というのなら、その基地負担は日本国民ができる限り等しく負うべきです。沖縄に基地を押しつけての日米安保体制維持など、空論にすぎません。
 鳩山内閣は、沖縄の基地負担軽減に向けて、全国の都道府県知事に米軍訓練の受け入れを求める方針で、大阪府橋下徹知事は前向きな姿勢を示しています。


 ◆負担の分かち合い:もちろん、地元住民の大方の受け入れ同意が前提ですが、安保体制の維持が重要であるなら、沖縄の負担を全国で分かち合うことも一つの手です。それも難しいというのなら、鳩山首相はいよいよ国外移設を求めるほかありません。抑止力論は、沖縄に米軍基地を固定する口実に使われています。その呪縛(じゅばく)から自らを解き放つことが、沖縄の過重な基地負担を軽減することにつながるのです