となり町戦争(2006)架空の戦争
114分 角川ヘラルド映画 初公開年月 2007/02/10
宣伝文句=町対町、役所と住民、上司と部下、そして男と女。今、一線を越える!
監督:渡辺謙作 原作:三崎亜記『となり町戦争』(すばる文学賞) 脚本:菊崎隆志・渡辺謙作 音楽: Sin
出演:江口洋介(北原修路) 原田知世(香西瑞希) 瑛太(智希)
…穏やかな日常の背後で町同士が行政事業の一環として戦争を行うという奇想天外な設定を日本の田舎町のディテールつきで書いた小説を映画化。“見えない”戦争にある日突然巻き込まれた青年が、淡々と業務としてこなしていく公務員の女性に淡い恋心を抱きつつも、次第に戦争の恐怖を実感していく姿を静かなタッチで描いていく。
舞坂町に暮らす北原修路は、旅行会社に勤めるごく普通の青年。平凡な毎日を送る彼はある日、ふと目にした町の広報紙“広報まいさか”の中に、不可解な一文を発見する。そこには“舞坂町はとなり町の森見町と戦争をします。開戦日は5月7日…”と書かれていた。しかし、翌日の開戦日を迎えても、町にはいつもと変わらぬ穏やかな時間が流れていた。ところがそれから数日後、北原は役場から特別偵察業務の指令を受け取る。要領を得ないまま舞坂町役場を訪れた北原は、そこで“対森見町戦争推進室”に籍を置く女性、香西さんから偵察任務の概要を説明されるのだったが…。
書評
戦争も、感情を一切出さずロボットのように行動する「香西さん」も「リアル」じゃない——。そうだ、六十数年前の自分も「僕」とおなじだったな。戦争を感じたのは出征兵士を送るときと戦死者の遺骨を迎えるときだけで、日常は、映画『二十四の瞳』にあるように「海の色も、山の姿も、そっくりそのまま、昨日につづく今日であった」な。そのあとに「しかしそこに住む人々の生活は——大きな歴史の流れにおし流されていった」とあるのだけれど、それを意識したのはもちろん「戦後」のことだった。
コンサルティング会社に委託した」という戦争は、もちろん「リアル」じゃないけれど、それだけに見えないものはないものだとしないで、「戦争の音を、光を、気配を感じてほしい」という「香西さん」の言葉は胸を刺す。
これをいいたいために三崎亜記は、この小説を書いたのだし、若い人たちはそれに感応したのだろう。
読売新聞(yomiuri.com)評者:小泉今日子(女優)
見えない死者は何を語る:怖さはその静けさだ。主人公の「僕」は、町の広報誌によってとなり町との開戦を知るのだが、いつになっても爆撃の音も血の匂(にお)いもしない。今までと変わらないのに、広報誌の町勢概況を読むと確実に戦死者の数が増えている。それでも彼女の姿勢が崩されることはない。なぜ彼女は感情を表に出さないのか。
戦争の本当の怖さは、人間から感情を奪ってしまうことでもあるのだろう。この本を読んで初めて、自分の身の丈で戦争の恐ろしさを考えることが出来たような気がする。