zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

英兵捕虜問題:英国側、なお不信感ぬぐえず(毎日新聞)

毎日新聞 2008年8月19日 地方版
中尾・岡山大准教授が指摘 /岡山
◇「早期の対話と解決を」−−中尾・岡山大准教授、新書出版
第二次世界大戦で旧日本軍が拘束−−日本側の「和解」認識とずれ
 第二次世界大戦中、旧日本軍に拘束された英兵捕虜や日本兵から聴き取り調査を進めている岡山大の中尾知代准教授=オーラルヒストリー=が、「日本人はなぜ謝りつづけるのか−日英<戦後和解>の失敗に学ぶ」(NHK出版生活人新書)を出版した。橋本龍太郎首相(当時)の日英関係や捕虜に関する寄稿文が英国・サン紙に掲載されて以降、日本では「日英は和解した」とされるが、同書の中で中尾氏は「実態は失敗だった」と結論付けている。【石戸諭】

 中尾氏は「日本にはほとんど伝わらないが、英国では(英兵捕虜の処遇問題は)日本の原爆と同様の位置付けではないか」と言う。日本側の謝罪が元捕虜には伝わっていないにもかかわらず、日本でのみ“成功”が強調されることで、両国の間でギャップが広がる心配から調査執筆を進めた。

 一部の識者やメディア上で、日英和解の象徴とされる元捕虜ジャック・カプラン氏へのインタビューも行っている。来日した際、旧泰緬鉄道敷設時の通訳、永瀬隆さん=倉敷市=と意気投合するなど友好的な態度を見せ「日本を好きになった」というカプラン氏は、中尾氏に「私は日本を受け入れた。日本も私の謝罪と補償の要請を受け入れてほしい」と語った。

 元捕虜にとって、日本語で言う「遺憾に思う/おわび」と「謝罪」は意味が全く異なるという。中尾氏は、元捕虜が謝罪にこだわるのは、戦時中の非人間的な扱いを謝ってもらうことにより、人間的な尊厳を回復したいという思いがあると指摘する。

 「元捕虜の発言を一部しか伝えず『和解成功』と喧(けん)伝するのはフェアではない。私は実際に話を聞いた元捕虜の苦しみや怒りの深さを伝えたかった」(中尾氏)。

 本書では元捕虜へのインタビューに加え、橋本首相の寄稿文に対する英マスコミ、元捕虜の反応を分析。和解が進んだと思っているのは日本側だけであり、元捕虜の不信感はぬぐえていないことを明らかにする一方、日本側もBC級戦犯裁判のやり直しや抑留された経験を積極的に英国側に伝えることを提案する。互いに「なぜ、そんなことが起きたか」を知ることが平和につながるという考えからだ。

 執筆中も元捕虜たちが次々と亡くなる現実を受け、中尾氏は「彼らが亡くなっても『水に流す』文化のない英国では問題が無くなることはない。残された時間は少ない。早期の対話と解決を」と話している。次作では、元捕虜のトラウマ(精神的外傷)に関する問題を取り上げるという。