zames_makiのブログ

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633爆撃隊(1964)不出来な娯楽戦争映画

=「史上最大の作戦」に倣う娯楽戦争映画の典型、架空の作戦での印象的勝利、演出効果のための非現実的設定、スターの起用、実際の軍用機使用、決定的な連合国視点など
原題:633 SQUADRON 101分 製作:イギリス 配給:UA 公開:1964/07/25
監督:ウォルター・E・グローマン 製作:セシル・F・フォード 製作総指揮:ルイス・J・ラックミル 原作:フレデリック・E・スミス 脚本:ハワード・コッチ、ジェームズ・クラヴェル 音楽:ロン・グッドウィン

出演:
ジョージ・チャキリス(エリック・バーグマン)ノルウェー海軍士官だが実際にはパルチザン、英軍への連絡役だが現地に赴く、ドイツの捕虜になり英軍に暗殺される
クリフ・ロバートソン(ロイ・グラント中佐)英空軍将校、秘密任務の爆撃隊指揮官、チャキリスの友人、チャキリスの妹を誘惑、いかにも英雄、最後は死ぬ?
マリア・ペルシー(ヒルデ・バーグマン)ノルウェーの凄い美人、エリックの妹、英国で自国の子供の支援をしている
ハリー・アンドリュース(デイヴィス少将)爆撃隊総司令官、いかにも英国人
ドナルド・ヒューストン(ドン・バーレット)爆撃隊員
マイケル・グッドリーフ(フランク・アダムス)爆撃隊員
ジョン・メイロン()爆撃隊員

【allcinemaの解説から】英米合作の航空アクション。ノルマンディー上陸に先駆け、ナチ占領下ノルウェイの敵空軍の重要拠点の爆破を命じられた、ロバートソン初めとする爆撃隊の活躍を描く。目的は遂行すれど最後には玉砕してしまう結末。

感想

史上最大の作戦」に倣った現実の歴史や作戦を離れた娯楽戦争映画の典型、イギリス資本であり最後に主人公らが死ぬのが珍しいが、圧倒的な英国礼賛で、娯楽スペクタクルとしての戦闘シーンが主眼で、兵士の死は実存的な苦悩ではなく娯楽を盛り上げるための単なる要素でしかない、ドイツ兵は賑やかしの為ただ殺される為だけに登場する。実在の軍用機使用による迫力は「空軍大戦略」(1969年)に先行しているが、架空の秘密作戦による興奮は「ナバロンの要塞」(1964年)でのアイデアをいただいたものだろう。兵士の生活や恋愛なども描かれるが非常に薄ぺっらで嘘くさく、戦闘場面を盛り上げるための単なる要素でしかない、全体に物語は単純・単調で退屈で戦闘場面だけの映画だ。最大の見せ場は本物の英国モスキート爆撃機が10数機登場し飛行シーンを見せるところでここは迫力がある、だが肝心の爆撃シーンなどは模型による特撮と思われる。

 秘密作戦とはノルウェーにあるドイツのロケット燃料製造工場を爆撃する事で、フィヨルド湾の奥にあり直上の崖を爆撃で崩壊させ工場を破壊しようとする作戦だ、これによりノルマンディー上陸までの時間稼ぎができると映画内では説明される。この作戦にドイツ占領下にあるノルウェーパルチザンが協力し、ドイツ軍対空砲火陣地を攻撃直前に破壊する事になっている。この作戦は英空軍によるドイツのダム破壊などを参考にした架空の作戦と思われるが、フィヨルドの状況などあまりに非現実的であからさまな嘘である。
 例えばなぜB-17などによる強力な水平爆撃ではなく、モスキート爆撃機による小規模な精密爆撃が必要かなど説明はない。モスキート爆撃機は曲がりくねった湾を対空砲火を受けながら攻撃するが、そんな砲火を避けなぜ工場直上から攻撃しないのか説明はない。ノルウェーパルチザンが協力するがノルウェーの早期解放には関係がないこの作戦に、現実にノルウェー民間人が協力するか怪しい所だ。更にノルウェー海軍軍人(実質的にはパルチザン)が英国に来て爆撃を手伝ったり、その妹と指揮官が恋に落ちたりと娯楽化の為の非現実的な設定が行われている。
 主人公のノルウェー軍士官に「ウエストサイド物語」(1961年)のチャキリスが起用されているが浅黒い彼はノルウェー人に見えず、初対面の英国軍人ともやたら慣れ慣れしく変である。その妹が英国にいていきなり英国軍基地に尋ねてくるのもあまりにおかしい。更に妹に爆撃隊指揮官が恋をするという娯楽性、捕虜になったノルウェー軍士官を自白を恐れて空爆で暗殺するというあまりに突拍子のない物語である。ここは非常に悲劇的設定になっているが、映画は指揮官や妹の心情をまったく描かず、事態を変に深刻にしただけの不出来な演出になっている。このノルウェー人に関するエピソード全体が物語を英雄的に盛り上げるための、あまりに見え透いた仕掛けであろう。
 同様に主人公ら爆撃隊が全滅したり、それは空しい事だと総司令官が言うのも、やたら兵士の死を言い募るだけの演出のための見え透いた悲劇性に見える。戦争で実際に多くの英空軍爆撃隊員が死んでいるが、映画はその死を本当に伝え、悲しみ、追悼したりするのではなく、いわば宣伝のためのキャッチフレーズのように使っているように感じられる。


 物語展開に応じて評すれば、物語は主人公のノルウェー軍士官(実際はパルチザン)の英国への陽気な脱出から始まるが、本来秘密を大事にすべきこの場面が景気づけのためにドイツ兵を殺すシーンで構成されていて変である。英空軍基地にはいかにも陽気で命知らずのモスキート爆撃隊がおり、休暇を変更し特殊任務のための訓練に入る。理由も任務内容も不明だがなぜかノルウェー軍士官は隊長機に同乗しており変だ。訓練は入り組んだフィヨルド地形をたどって最後に崖中腹を狙い爆撃するもので、英国内で行われる。急な崖なので失敗して崖に激突したりするが、搭乗員の反応は描かれず終始景気のよい音楽が流れるない。パブでは爆撃隊員の陽気な馬鹿騒ぎがある。ノルウェー軍士官と個人的にも友人となった爆撃隊指揮官は尋ねてきたノルウェー軍士官の美人の妹をいきなり誘惑する楽しげな展開だ。
 現地パルチザンが不調なためノルウェー軍士官はノルウェーへ帰還するが、帰還直後に無謀なドイツ軍検問所の突破ですぐに逮捕される。このパルチザンの現地での行動に切迫感や慎重さがまるでなくとても嘘くさい。いかにも残酷そうな女のゲシュタポが出てきてノルウェー軍士官を拷問するが、なぜか英空軍にも筒抜けで、拷問開始の時間までわかっている。ここで英空軍は作戦のためノルウェー軍士官を爆撃で暗殺するという違法な事を決定するが、英国登場人物はあたたり前のような反応だ。更にこれに殺すのが友人で恋人の兄でもある爆撃隊指揮官がわざわざ志願する。なぜ志願するか詳しい説明や葛藤などは描かれない。彼はモスキート爆撃機ただ1機でドイツ内の施設を爆撃し、見事友人を殺す。彼は自分で恋人に通告すると言うが、言うシーンはない。
 いよいよ秘密作戦の日、突如ドイツ軍の取り締まりで現地パルチザンは一網打尽になる、全滅で誰も連絡してないのに、なぜかこれが即座に英空軍に連絡される。爆撃隊総司令官は作戦中止も可と打電するが、爆撃隊指揮官はなんの躊躇もなく突入を命令する。対空砲火、ドイツ軍戦闘機の中、困難な崖でどんどん爆撃隊が墜落するが、ついに崖は崩れ目標の工場は破壊される。この主人公らが狭い迷路を通り攻撃するシーンは「スターウォーズ」第1作のデススター攻撃シーンとよく似ている。指揮官機は被弾し途中不時着し、総司令官は作戦成功だが全滅だし、どうせノルマンディーまでの時間稼ぎだと、深長な顔つきで言う。