zames_makiのブログ

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背後の人(1965)戦争の傷跡

1965年(S40)/松竹大船/白黒/93分
■監督・脚本:八木美津雄/原作:有馬頼義/脚本:津久田一正/撮影:平瀬静雄/美術:平高主計/音楽:山本直純
■出演:池部良桑野みゆき岡田英次、路加奈子、小沢栄太郎穂積隆信、清村耕次、八木昌子
敗戦から二十年。砲弾の破片摘出のため大手術を受けた主人公・池部良は、入院先の看護婦・桑野みゆきに惹かれ、求婚する。しかし彼女には重大な秘密が──。次第に明らかになる過去の事件。二人の恋愛は緊迫感を漂わせながら進行していく。

感想

戦争の傷跡を背負った男女の恋愛劇。松本清張の「ゼロの焦点」と同じ構造であり、前半は謎をとく仕掛けになる。だがこちらは謎はただちに明らかにされ、かつ犯罪者の主人公が過去を隠すための連続殺人に失敗し、死んでしまうので話しが小さく終わる。「ゼロの焦点」では謎解きと連続殺人者やその被害者の暗い行動に物語としてのおもしろみがあるが、この映画ではテーマはむしろ「日本女を強姦する米兵は殺すのが正しい」という戦争に負け、傷を受けた戦後日本の回復に焦点が当たっている。 これは映画中ではっきり語られている「戦争の傷跡」「米国製品を使えぬ者は戦後は生きられぬ」「あなたは正しい、ああするしか仕方がなかった」「俺は犯罪を逃れたいのではない、時効を迎える事で米兵殺人というあの事件に勝利したいのだ、それ以外どうでもいい」「(悪役の台詞)わしは朝鮮戦争が続くのを願った」。そして謎も犯罪者の去ったあとは暗い過去を持つ男女の恋愛劇となる。 
池辺良と桑野みゆきの中年男と若い女の愛は、両者の名演でリアルさを持って迫ってくる。池辺良の中年ロマンチストぶりのよさは彼の戦争体験が裏打ちしているのかもしれない。冒頭から戦争シーンが挿入され彼の妻の空襲での死が映像で示されている。重いテーマをシンプルにだが、名演で見せる佳作である。



上映 ラピュタ阿佐ヶ谷

1月13日(日) 〜19日(土)

あらすじ(キネ旬

北支戦線で負傷した志戸は、除隊すると戦争も末期に近い頃雅代と結婚した。だが、その雅代とは空襲で死別し、志戸は終戦二十年を過ぎた今、砲弾の破片を摘出するため、入院生活を続けていた。色彩のない青春を送り、作家志望の挫折文筆家志戸は、この病院の看護婦井浦水奈子の親切な看病で、再び生きる喜びを与えられ、快方に向った。入院中、志戸は温湿布の治療に従事する泉田正明という無口な中年の男を知った。暗い影を持つその男に、志戸は自分と同じ戦争の傷跡を見る思いで、興味をもった。無事退院した志戸は、実業家沢田の伝記を書きつづけるかたわら、水奈子に日増しに魅かれていった。だが志戸の求愛を受けた水奈子は固くそれを拒絶し「今年のクリスマスイブまで待って」と言うとその理由を語らず、志戸から遠のいていった。不信を抱いた志戸は、看護婦で水奈子と同室の緒方路子の応援を得て、水奈子が湿布室の泉田のもとへ通うのをつきとめ、水奈子とこの男の間に、男女関係ではない重要な謎があることを探知した。水奈子が北九州出身であることを知った志戸は、沢田の取材もかねて、北九州にとび、新聞社の協力を得て、驚くべき事実を知った。一五年前のクリスマスイブ、井浦家に乱入した米兵が、母親に暴行しようとしたのを目撃した長男市太郎が、兵隊を殺害し、逃走したという事件だ。そして、今年のイブで市太郎は時効となるのだった。そしてその市太郎こそ泉田正明の本名なのだ。志戸は、必死で生きて来た水奈子兄弟に同情すると、帰京し市太郎に近づこうとしたが、逃げまわって十五年過した市太郎には、あと三日で無罪という日を前に、信用出来るものはなかった。志戸と水奈子の止めるのも聞ず、二人のもとを逃げた市太郎は、疲労からついに無罪となる日を前に昏睡状態を続けていた。側で見守る水奈子、志戸の心の中も知らぬまま、市太郎は恐怖におののきながら息をひきとった。水奈子は、兄の支えになれなかった自分を責めると、志戸に別れを告げて去っていった。