zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

日米同盟に関するNHK討論番組で興味深いこと

 昨晩のNHK討論番組「日本の、これから」テーマ「いま考えよう日米同盟」は議論が活発で非常に面白かったし、活発な議論の結果「米軍基地はともかくデメリットが大きく不要じゃないのか」「冷戦も終った今中国は軍事的脅威ではなく、もう軍隊で国を守る時代ではないし、実際守れない」「日米同盟は縮小する方向で見直すべき」という意見の方向性が見えてきてとてもいい番組だった。
 何の知識も関心もない普通の視聴者でも、日米同盟は小さくした方がどうもいいらしい、と感じただろう。こう言うのは議論の内容でも、論者の言葉の調子でもそういう感じだったと分析できるからだ。一般参加者も有識者も一応かなりの論点で言いたい事を言ったのであり(勿論一般参加者にはまだ言い足りない部分があるでしょうが)その結果が、あの雰囲気(議論の行方)だったのでありよい番組だったと思う。そこで思ったことを少し書くと

(1)マスコミは本当に輿論(世論)を形成しているのか?

 こうした討論番組をNHKは毎週開くべきだ、そうすれば日米同盟は縮小方向で見直すし、普天間基地は移設でなくともかく廃止、という政治的行動を日本政府がとることが現実になるかもしれない。ただ振り返って考えるとより大きな問題はNHKはけしてこんな討論会を2度と開かない気がすることだ。実際この「日本の、これから」は2ヶ月に1回ほどしかやっていない訳で当分このテーマはやらないだろう。

 つまりマスメディアでかつ公共放送であるNHKは、一般市民の声を拾い上げ、専門家の意見を底にした、市民同士の活発な議論を広める事で、輿論(世論ではなく)を作り上げる機能を実は果たしていないことが明らかになってしまう事だ。輿論とはマスコミが毎週やる電話調査による人気投票(マスコミはそれを世論と呼ぶ)ではなく、市民が十分な知識と関心を持って議論し、広く共有された考え方の大勢をさしている概念だ。輿論と世論は旧字使用をしなくなった際に一緒くたにされたが本来は別の概念だ。かつてはこうした輿論形成を新聞が意識して果たしていたと佐藤卓己(京大・メディア論)などが書いていたが、この討論会の結果を観て、今のテレビにはそれがない事に気づかされた。

 結局、今のマスコミの討論会はアリバイ作りみたいなもので、やってもやらなくても輿論形成にはあまり意味はないのではないか?もっと何回も真面目に討論会をやって、初めて国民の輿論(世論)が形成されるのであって、今のようにいきなり電話で聞きとるものは輿論ではない。電話調査で得られる回答の大部分はマスコミの口調(問題の捉え方と着目点)のオウム返しにすぎず、賛否とは人気投票でしかないと考えるべきだろう。佐藤卓己氏がこの問題を本で書いている事を今回の討論会の経験で再確認した次第だ(輿論とは何かについてはこれを読まれたい=「輿論と世論(よろんとせろん):日本的民意の系譜学」 佐藤卓己 新潮選書 2008)。

(2)視聴者の反応で気づいたこと

 一晩たった今、上記番組に関しての感想を書いたブログをGoogleで検索しそのほぼ全て30件(その後のを含めると50件程度)ほど見てまわって感じた事を書く。

  • 1:人々の関心の高さ:夜10時から11時半という遅い時間にも関わらず反応は比較的よくすぐにブログを書いている人がいるがかなりいる。この時間でこのテーマでは視聴率は低く1%程度ではないか?*1普天間基地移設に関する報道が連日マスコミに出ている今、この問題はかなり関心を集めているというべきだろう。
  • 2:視聴者は表向きお行儀のよさを求める:視聴者の反応で多いのは「不規則発言で進行が混乱したよくない、もっと指名されてから喋れ」というもの。しかしこれは実は事情が違う。NHK自身は参加者に司会者の指名を待たずにどんどん喋ってくださいと事前に説明しているからだ。

<参加者(すたーだすときっど氏)の番組後のコメント(下記注参照)>
http://blog.goo.ne.jp/namaste_2006/e/8974ca7dbd21ad9818e36df1b270e884

あのおっちゃんがあそこまでエキサイトしていたのには、ちょっと伏線があったんですよ。事前説明で有識者ゲストは気にしなくていいです」「当たるのを待たなくていいです。音声さんが拾ってくれますから、ドンドン自由に喋って下さい」とあって、皆そのつもりだったんですけど、蓋を開けたら、有識者ゲストばっかりに三宅アナが当てて、、、過去の放送ではあそこまで偏ってなかったみたいで、放送終了後、三宅アナが平謝りでした。

 私は例え進行が多少乱れても活発な議論や内容の豊富さの方が重要だと思う。特にNHKの進行や問題設定は政府の政策路線に従うもので本来論ずべき点でないものが多い。司会に従わぬ活発な議論は議論に熱心ならば自然なものと言うべきだ。

 たが視聴者のブログを見る限り必ずしもそうではない。特に日米同盟強化に賛成の櫻井よしこ氏に賛成の立場の人に顕著だ。彼らは要は自分の支持する論者の発言が少ない事を不満に思っているだけなのかもしれない。しかしこれらの感想の背景には私と同じく満足しているからこそ何も述べない多くの視聴者が暗に存在するのであり、実は彼らが大勢かどうかは不明だ。ただテレビ局側が発言コントロールを厳しくする言い訳にはなりうるだろう。

  • 3:視聴者の受け取りの大勢は日米同盟縮小やむなし?:わざわざ視聴感想をブログに書く人はなんらかの不満があって書く場合が多い。過去の経験からいい番組だったなどと書くのはこうした討論番組(朝まで生テレビなど)ではまれである事はわかっている。それを勘案した上で言えば、この番組への多い反応は櫻井よしこを支持するような視聴者の側のぼやき的な不満であり、議論の行方が見えず結論がないと貶すものだ。しかしそれらの反応は強いものではないように感じる。

 結論として、この番組への視聴者の反応は日米同盟縮小でもまあ仕方ないかというのが多いのではないだろうか。櫻井よしこ氏に説得された視聴者はいなかったのではないか?

  • 4:日米同盟賛成する人は安全保障を知らぬ幼稚な人のみ:ブログを見て思うのは日米同盟強化に賛成する人は、典型的なネットウヨクが多く、ついで軍隊がないと不安だという幼稚な方が多いことだ。彼らウヨクおよび幼稚な方は安全保障論を知らない。今回番組では言えば植木千可子教授(早大政治学)が言っていた事をほとんど理解していない。いくつかのブログのコメント欄での応酬を見れば日米同盟強化に賛成する彼らの言い分は、単純な「外国が攻めてくる」しかない。討論会では、はっきり侵攻がありうると言った人は誰もいなかった、櫻井よしこ氏も「将来ありうる」と言うまでに留めている。

 一方番組出演者のある方のブログには短い批判の声がいくつか寄せられている、しかしそれも意見の中身のないものばかりだ。結局日米同盟強化に賛成の人はよっぽど幼稚な人か、伝統的右翼を表面的にまねているネットウヨクしかいないという事だろう。
 これが意味している事は何か?昨晩のような討論番組を重ね、安全保障に関する知識が国民にゆきわたれば、そういう幼稚な方も結果的に教育され、日米同盟強化に賛成する人は減るという事だ。更にいけば日米同盟なくてもいいじゃないか、という本当の平和主義、憲法精神の理解に彼らも目覚めるだろうという事だ

(注:すたーだすときっど氏はそのブログ「しっとう?岩田亜矢那」(http://blog.goo.ne.jp/stardustkid0627)でこの番組への出演をはっきり書いている。)

*1:後でネットで拾った結果では4.5%だった