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沖縄戦「集団自決」強制を否定する国立戦争博物館

 今まで、日本には国立の戦争博物館はなかった、現在日本最大の戦争博物館靖国神社付属の遊就館であり、そこには沖縄戦や原爆をまともに展示せず、日清戦争以降の近代の日本の戦争は全て正しい戦争だとする恐ろしく間違った歴史が展示されている。
 しかし2010年3月より千葉の国立歴史民俗博物館では、それまでなかった現代(1930年〜)の展示を新設することを決め、昨年は1年かけてそれに関するシンポジウムなどを行ってきている。そこでは最近著書「それでも日本人は戦争を選んだ」(朝日出版、2009)が評判になっている加藤陽子氏(東大・歴史学)などが、国家が歴史を展示する上で、それが間違ったものにならないよううに配慮すべきとの注意深い講演を行っていた。加藤氏は日本軍の戦争を展示する新設展示に関しての検討メンバーの一人であり公式に意見を言う立場である。加藤氏は藤原帰一氏の意見(下記参照)などを紹介し、研究者である自分でもそれが国家に都合のよいものにならないようにどうあるべきか考察する必要性を述べていた。それほど注意深くこの国立博物館による歴史の展示は検討されてきているという事だ。


 しかし下記のニュースを読むと結局、国立歴史民俗博物館は右翼(右派)に負けたようである。下記ニュースのように裁判で係争中である事を理由に博物館の展示が変更されるなら、右翼はいくらでも裁判をおこすだろう。言うまでもなく歴史は裁判所が決めるものではなく、事実を調査しそれに関し最も詳しい者(一般的には研究者)同志による議論と合意によるものだ。この1930年以降の日本の戦争の歴史の場合、既に十分な調査と合意がなされており裁判が展示に影響を与える余地はまったくない。沖縄戦の「集団自決」についてはそれが軍による強制(直接的な命令でなくても事前の関係から暗黙の命令であり、当事者にそうと十分了解されているもの)であることは、2008年の教科書記述に関する騒動を経て、2009年には研究者によって強制であると明確に記述された専門書が出ている。(「沖縄戦強制された「集団自決」」 林博史 吉川弘文館 2009

・・・・しかるにである。ああ悲しいかな役人よ、事なかれ主義よ。

参考記事:「軍関与の記述 削除 「集団自決」国立歴史博物館」

(沖縄タイムズ 2010年3月9日)「軍関与の記述 削除 「集団自決」国立歴史博物館〜検討委に慎重論」

 【東京】16日にオープンする国立歴史民俗博物館(千葉県)の新常設展示室「現代」で、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」の記述について、内部の検討委員会での慎重論や同問題をめぐる裁判が係争中であることなどを理由に、日本軍の命令や関与などを削除して展示することが8日分かった。

 沖縄戦は広島、長崎の原爆投下とともに「大量殺戮の時代」をテーマにした展示で、パネル3枚で説明される。同博物館によると、沖縄戦の「集団自決」の説明で、軍関与を明記せずに「集団自決」が強いられた―などと表記している。

 当初の説明では、日本軍の指示や命令などが住民の意思決定を左右したなどの記述があったという。内容を検討する展示プロジェクト委員の中で、住民に自決を命じたという記述で名誉を傷つけられたとする旧日本軍の元戦隊長やその遺族が起こした訴訟が最高裁で係争中であることなどを理由に挙げ、変更を求める意見が出た。同博物館は校正の最終段階で、指示や命令の記述を削除した。

 平川南館長は「社会的に意見が分かれることは今後の研究に託さざるを得ない。最高裁の判断が示された段階で内容を検討し、改善が必要であれば改善する」とした。

 常設展示室「現代」は1930〜70年代までを対象に、戦争と占領、高度成長の時代の人々の生活と文化をベースに多角的に展示する予定。国立の歴史博物館で初めて日中戦争や太平洋戦争などの歴史解釈に取り組むとして注目されている。

参考記事:「検討委員会は館外14人と館内6人の研究者」(琉球新報2010年3月11日抜粋)

国立歴史民俗博物館:軍関与の記述、削除のまま16日から一般公開 

(前略)展示内容に助言する展示プロジェクト委員会の委員からは解説文について「無難な表現を取った」と削除に同調する声がある一方、別の委員からは「軍の関与は沖縄戦の重要なポイントで触れないのは解せない」と疑問の声も出ている。

 複数の委員によると、ことし1月末に示された「最終校正」には「集団自決」の項目が設けられ、背景について「住民への軍国主義教育や、軍人からの指示や命令など、住民の意思決定を左右する戦時下のさまざまな要因があった」と解説されていた。しかし3月に提示された「決定稿」では「集団自決」の項目が「戦場の民間人」と名称変更され、軍の関与を示す文言が削除されていたという。

 同委員会は館外14人と館内6人の研究者ら計20人で構成。2009年9月を最後に会合は開かれておらず、その後は委員の専門分野に応じて個々にやりとりしている

 中村政則委員(一橋大名誉教授)は「集団自決」について体験者の聞き取り調査などから「隊長命令はあった」と自身の見解を示す一方、「大江・岩波訴訟」が係争中であることに触れ「証拠があるわけではなく『軍人からの指示や命令』と明記すると混乱を招く。無難な表現を取ったのだろう」との見解を示した。

 荒川章二委員(静岡大教授)は「集団自決の発生状況から(軍による)なんらかの強制があったことは明らか。研究者が裁判(への影響を)を気にする必要はない」と断じる。報道によって文言の削除を知ったという荒川委員は「集団自決は大勢の民間人が巻き込まれた沖縄戦を特徴付ける重要なポイント。そこに触れずに沖縄戦の展示を行うことは理解できない」と指摘する。

国家による歴史の操作を半ば肯定する藤原帰一

 上記の加藤氏の講演では、研究者でありながら国家に都合のよい歴史の操作を半ば肯定する藤原帰一氏(東大・政治学)の意見を紹介し、これに対し違和感を述べ、注意深く対処する事を求めていた。藤原帰一氏の意見は下記に掲載されている。

中京大学の紀要に掲載された長時間にわたる難しい討論であり、テーマはどういう歴史が正しいのか?歴史はどう書かれるべきなのかである。藤原帰一氏は強いものが国際政治を左右するパワー・ポリティクスを我々が克服できないのを論拠に、国家による自国にとって都合のよい歴史への改変は避けられないとし、いわゆる政治家による歴史の歪曲を否定しない立場を示している。討論者である高橋哲哉氏は日本の戦争責任問題に詳しい方で平和主義者であり、その論は自分への批判であると受け止め討論では対立している。