zames_makiのブログ

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NHK討論番組で対立を煽るおかしな質問が形成される様子

 NHKで2010年3月12日放送された「今考えよう日米同盟」という討論番組では、当初は「日米同盟が危機ですが、どうしましょう?」という表題であり番組宣伝もそれに応じたものだった。放送時にこの表題はかわり「今考えよう日米同盟」になった。また番組内では「日米同盟を深化させるべきか、否か」という質問に無理にYES/NOの2者択一をした、これには番組内で一般参加者からそれは有効ではなく、日本人の半数はわからないと答えると指摘され、少々騒動になった。NHK司会者は番組内でこれは議論のためのスタートだと答えた。しかし番組を見た視聴者の感想ブログを見ればこの質問を視聴者の一部は国民投票のようにうけとり、それで日本国の行動が決まるべきと受け取っていた事がわかる。

 こうした対立を煽ったり、番組内のアンケートで視聴者に意見を押し付ける一種のプロパガンダがなぜ行われるかの一端が以下のNHKの事前調査で伺える。NHKはひどく対立を煽るつもりこそはないが、多少の煽りはあってもこうしたひどく簡略化された2者択一の質問が番組製作で有効だと考えているようだ。またその質問が視聴者への意見の押し付けになっているとの自覚はまったくないようだ。しかし実際には大きな悪影響が出ているように私は感じる。

 以下ではNHKが番組中でする質問を決めるために事前に安全保障専攻の大学院生に尋ねた様子が読める。公開ネット上にブログを書いている安全保障論専攻の大学院生(32歳)に質問がよいかを尋ね、NHKは当初案から多少の変更をしている。(ただし本人ブログに書いてあるだけで内容の真偽自体は未確認ですが)。

◆ブログ「Road to Policy Intellectual 外交論・安全保障政策を中心に国際情勢・国内政治など、日々の雑感についての覚書きと対話空間」2010年2月7日 NHK「日本のこれから」日米同盟
http://j-forrestal.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/nhk-0be1.html

(略)NHKの視聴者参加型の討論番組に、一般の方に先かけて日米同盟ということで何故か、私の番組の企画段階から意見を求められ、私になりにディレクターの方々には見解を述べさせてもらった。もちろん、私は、NHKとはなんら関係がない。たまたま、そういう内容のブログを見つけたのでメールしてきたのだろう。(略)■アンケート内容に関してはかなり駄目だしをしたが、番組構成上、どうしても対立軸を作りたいようだ。あまり、そのような2項対立型の質問は生産性がないのだが。。。

NHK側の質問計画(1)

Q1:普天間基地の移設問題など、日米両国の関係が冷え込んでいると指摘する声が上がっています。こうした事態について、あなたはどう思いますか?
①おおいに問題だと思う、②政権交代をしたのだから多少のすれ違いは当然だ

→放映された番組では番組冒頭のアナウンサーによる質問として「日米両国の関係は心配か?」に変わった

大学院生の回答

 まず、選択肢がおかしいと思います。その理由は、政権が代われば、企業でもトップが代われば、通常、これまでの方針を検証し、見直すところは見直します。結果、多少かどうかはまさに主観によるものですがすれ違うこともあります。しかし、少なくとも相手がいることなんですね。なので、自分たちの都合ばかりが通るはずがありません。(略)
 また、これは日本のマスコミの報道によるところが大きいと思いますが、多くの日本国民は、この問題でこじれているのを知っています。ただ、アメリカでは、主要ジャーナルはじめ、TVなどでは、殆ど報じられていません。(略)アメリカ在住のアメリカ人の友人もおります。彼から話を聞くと、「日米関係は安定していて良好だ」と言ってます。つまり、一般市民の間では、日米間の認識(のずれ)が大きいと言えます。(略)

NHK側の質問計画(2)

Q2:日米安保条約では、日本はアメリカに基地を提供する代わりに、有事の際には米軍が日本を防衛することを義務づけています。そのことが、戦後の経済成長を可能にしたとも考えられています。あなたは、現在の日米安保条約の存在価値について、どう思いますか?
①メリットの方が大きい ② デメリットの方が大きい

→放映された番組では「米軍基地はメリットがあるか否か?」に変わった。又番組冒頭でアナウンサーは日米同盟は日本の安全と繁栄の礎だと断言し、日米安保50周年をクス球を割って大いに祝った。こうした断言はNHKではあまり行われておらず私は奇異に感じた。これは回答の中で大学院生が「日米安保はメリットが大きい」と断言しておりこれが番組に影響を与えた可能性がある。
→番組を振り返ると質問が「基地にメリットがあるか」に変わった為に参加者の回答は大きく変わった、普天間基地などに反対している人でも「日米安保条約の存在価値」には答えにくいだろう。しかし「基地にメリットがあるか」と尋ねられれば「ない」と答えられる。以下で大学院生はメリットがあると断言しているが同じ問題でも質問の仕方により回答は変わる例であろう。またこの大学院生自身も答え方は変わるかもしれない。

大学院生の回答

 (略)「安全保障条約の存在価値」というのは、可変的な言葉ですね。同盟は、ある時間軸の中の一点の価値だけで決まるものではありません。

 (略)多くのナショナリストや現政権でも、漠然とした一般国民の対米自立の感情を使っては捨て、言葉は悪いですが弄んでいるように思いますが、有事に限らず、上記の外交原則から言えば、アメリカという国家は、昔も今も危険な国家であって、その国家と同盟関係を結んでいるということは、アメリカを敵にまわさない、つまり無害化しているわけです。存在価値というのならそれだけで十分なメリットです。(私は対米重視のスタンスです。ですのでメリットの方がはるかに大きいでしょう。)

 私もよく友人から「アメリカは本当に日本を守ってくれるのか」という疑問を聞きます。(略)私は、こう答えます。「アメリカは日本を守りませんよ」と(略)「それは日本次第です」

NHK側の質問計画(3)

Q3:2001年の同時多発テロ以降、アメリカは「テロとの戦い」を続けています。これに対し日本は、経済的な支援にとどまることなく、自衛隊イラクやインド洋などに派遣する「人的貢献」を行ってきました。あなたはこれからもこうした「汗を流す」活動を続けるべきだと思いますか。①続けるべき、②続けるべきではない

→放映された番組ではこの質問はなかった。代わりに大学院生が回答中で触れた「アメリカは日本を守るか?」がアナウンサーの質問の形で行われた。

大学院生の回答

 より積極的に続けるべきだと思います。湾岸戦争の敗北以来、単に対アメリカだけでなく、国際社会は、人的貢献がなければ、その評価は殆どありません(略)人的貢献を日本は、外交上のカードに出来るのです。これは、大変、恵まれています。例えば、政権交代の結果、これまで、タダ同然だったインドの給油活動が、何倍もの価値がつきました。(略)(その背景は)「テロとの戦い」で必要だからです。

NHK側の質問計画(4)

Q4:今後、日本外交の基本方針はどうあるべきと思いますか?
アメリカとの同盟関係を最優先させ、それを深めるべき、②これまでよりアメリカと距離を置き、アジア諸国などとの関係を深めるべき、③その他

→放映された番組では「日米同盟を深化させるべきか、否か?」という形に変わった、その際に「その他」はなくなりYSE/NOの2者択一になった。大学院生の回答も「その他」である。NHK司会者は議論の端緒として、と説明したがNHK自身でも様々な回答がありうる事をあらかじめ知った上でこうした無理な2者択一を行っている訳だ

大学院生の回答

 ③のその他になります。
 よく言われるのが、日本外交の基本方針となっているのが、アメリカ、アジア、国連ですが、これらは、全て繋がっています。同時に並行して深めることが出来ます。