zames_makiのブログ

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イスラエルを人種差別国家と言ったイラン大統領は正しいのか?&CNNのプロパガンダの実例

2009年4月20日から3日間の期間でスイス・ジュネーブで開催された国連の人種差別撤廃に関する会議(人種差別撤廃世界会議)で、イスラエルを批判したイランのアフマディネジャド大統領の発言で会議から退席するヨーロッパの代表が出て会議が混乱している。一般に報道されていないこれ以前の事を含めて、起きたことは以下だろう。


1:2001年国連のダーバン会議で人種差別撤廃が議論され、奴隷貿易奴隷制を「人道に対する罪」とする画期的な宣言がなされた。その会議でイスラエルが人種差別国家であるとの指摘があいつぎアメリカなどが会議を中途退席した(参考記事)。宣言文には「占領下のパレスチナ人の苦境への懸念」といった言葉がありこれがアメリカなどから問題視された。


2:2009年、人種差別撤廃世界会議(ダーバン会議の続き)が開かれる事になったが、アメリカ、イスラエル、ドイツなどは最初から会議に出席しないとした。理由はイスラルへの配慮から(アメリカについて)と言われている。アメリカは当初は参加すると言われていたが、土壇場で不参加とした。理由はイスラエル・ロビーの圧力のため(4/21朝日新聞の報道による)と言われ、イスラエル外務省はアメリカに謝意を表したという。


3:2009年4月20日、会議開催。イランのアフマディネジャド大統領がイスラエルは「残酷な人種差別の体制だ」と批判し、ユダヤ系フランス人の活動家から抗議のボールを投げられた。またいくつかの西欧諸国代表が会議場から退席した。またアメリカは無益だとの声明を出した。
・・・しかし残った多くの国から大きな拍手がおきた

20日のアフマディネジャドイラン大統領の演説の主な内容は次の通り。人種差別的な国家を設立するため、パレスチナの占領地に欧州や米国などから移民が送られた。欧州での悲惨な人種差別の代償として、パレスチナに最も残酷で抑圧的な人種差別的な政権が作られた。パレスチナ自治区ガザ地区での市民への攻撃や暴力、爆撃を世界の目覚めた市民が非難している一方で、多くの西側諸国と米国が人種差別的な大量虐殺の加害者を擁護していることは全く残念だ。(毎日新聞 2009年4月22日)


4:会議に参加していない国はアメリカ、イスラエル、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドであり、西欧EU諸国28ヶ国中24カ国は参加している。


5:開催場所であり残った西欧の国の一つ、スイスは言論の自由の観点から残ったとしている。(参照swissinfo.cp下段に示す記事)。これに対しイスラエルは大使を引き上げるという脅迫を行っている。(参照CNN Japanの下段に示す記事)


6:専門家・識者はイスラエルを人種差別国家と認識している。日本の中東専門家は2009年初めのイスラエルのガザ攻撃を見て、「これからはガザのバントゥースタン(Bantustans)化が起きる」と考えている。すなわちかつての人種差別国家南アフリカで行われた人種差別政策をイスラエルがしているとみなしている。
 またかつては国連もイスラエルを人種差別国家だと認めていた。即ち国連は1970年代には「シオニズムは人種主義の一形態である」というイスラエルを人種差別国家だと認める決議をしていた、しかしそれは1990年ころ撤回されている。


7:イスラエルが人種差別国家であるのは実際正しい。イスラエルの国家の大方針シオニズムは「ユダヤ人の国家を作り、ユダヤ人以外は国民ではない」としている。また建国の過程で以前から住んでいるイスラム教徒のアラブ人の一部も結果的にイスラエル国民になっているが、彼らへの公然たる差別はよく聞かれる所だ。また2009年4月閣僚となった極右派のリーベルマン外相は「アラブ系イスラエル人はイスラエルから追放する」という政策を提案している。


8:CNNの放送やイスラエルは「イラン大統領反ユダヤ主義であり、イラン大統領こそが人種差別主義だ」と非難しているようだが、それはホロコーストを楯にとり政治的に利用しているユダヤ人の言い分であり、大いなる欺瞞(真っ赤な嘘)である。その日本人についての言い方をここここの弊ブログで紹介したのでよければ参照していただき、いかにイスラエルの言い分がおかしいか確認して欲しい。


(私の感想)

感想1:オバマは黒人だが、彼は黒人の自尊心よりユダヤ人の利益を優先したようだ。この会議は奴隷貿易奴隷制を「人道の罪」とする画期的なもので、今後この会議が進展していけば欧州諸国やアメリカの白人は、アフリカ諸国に謝罪する必要が起きる事態になるかもしれない。それは黒人のアイデンティティーをもつオバマには好ましい事の筈だ。しかしアメリカはイスラエル・ロビーの圧力に負けて、前回も今回もイスラエルの弁護だけを行い会議自体をボイコットした。恥ずべきことだ。


感想2:これを報道したCNNの放送(ヘッドラインニュース、4/21朝NHKBS1が放送)は、明らかにプロパガンダだ。それはイラン大統領が「イスラエルを人種差別国家だと非難して物議をかもしている」とし、会議場から退席する様子しか流さず、イラン大統領が批判されているという伝え方しかしていない。これは実際嘘でも捏造でもないが、物事の内のある一面しか伝えておらず、サイードチョムスキーが言う所の「プロパガンダだ。パレスチナ問題に特別には関心のない圧倒的多数のアメリカ人は、なぜイスラエルが人種差別国家だと言われるのか少しも考えることなく、イラン大統領だけを非難するだろう。

 一方日本では、4/21のNHKBS1「きょうの世界」では、BBCとABCとアルジャジーラTV(カタール)の放送を使用し、双方の言い分を示し、かつアラブ系NPOの話を紹介して「ナチはホロコーストをおこした。しかし占領や民族浄化は他でも起きている。イスラエルは入植活動と民族浄化を行う人種差別主義の国だ。その本質は建国時から今まで変わっていない。イスラエル新政権は民族浄化を公式の政策に採用した。リーベルマン外相はパレスチナ人に対する民族浄化を公言している。」という声を伝えている。


4/21夜ネットで読める各新聞の記事と比べても、このNHKBS1の放送は最も中立的・あるいはアラブ寄りと言えるだろう。こういう中立的なNHKのような報道を見られない哀れなアメリカ人が、イラン大統領を非難しても、それは彼らの責任というよりもCNNなどアメリカメディアのプロパガンダの結果だろう。


中東研究者・板垣雄三氏のコメント=ヨーロッパは偽善者だ

(4/27追記)4/25のミーダーンの公開講座で中東研究者の板垣雄三氏(東大名誉教授)はこの事件に感想を述べた。「ヨーロッパ人は反ユダヤ主義と非難される事を恐れてイスラエルを正面から批判できない。それをなんとかしたいが、私(板垣)の感想は偽善者には何を言って無駄という事だ。今回ドイツを始め、イギリス、フランス、イタリアなど主要なEUの国はアフマディネジャド大統領のイスラエル批判演説に対し退席した。彼らは退席しないと自分が反ユダヤ主義と言われると思っているからそうしたのだろうが、それは偽善だ。本来そんな事をしなくても自分たちが反ユダヤ主義を否定しているのを示せるはず。でもそうできない、形でしか示せない、というのは結局偽善だという事だ。そんな本来的にはまともでないヨーロッパの国を批判して、なんとかできるように思えない。つまり偽善者には何を言って無駄だ。すべきなのは日本人が自分でちゃんとイスラエルを批判することだろう。」(文責:ブログ記者)

イスラエルを認めているイラン大統領産経新聞2009.4.27)

よく流れている報道ではイランのアフマディネジャド大統領はイスラエルを地図から抹消すべきだ、と言い大変過激な反ユダヤ主義のように取られかねない発言をしている。しかしそれは非常に政治的な発言だろう。実際以下のようにアフマディネジャド大統領は、パレスチナ問題での2国家解決案(イスラエル国家とパレスチナ国家の2つを建設する)を支持している。
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/090427/mds0904270033000-n1.htm

2つの国家容認 イラン大統領産経新聞2009.4.27)
【ワシントン=有元隆志】イランのアフマディネジャド大統領は26日放映の米ABCテレビのインタビューで、パレスチナイスラエルとの「2国家共存」を受け入れた場合、容認する考えを示した。同大統領は「イスラエル抹殺」を主張していたが、「(パレスチナの)どのような決定であれ結構だ」と述べた。(略)ホロコーストユダヤ人大虐殺)否定発言については「より研究が必要だ」として撤回しなかった。同大統領が米テレビ番組に出演するのは異例。

スイス代表団は残る(SwissInfo.ch 2009/04/21)

4月20日に開かれた国際連合 ( UN ) の人種差別反対会議 ( ダーバン・レビュー会議 ) では、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領が演説の中でイスラエルを人種差別的だと批判したことから、欧州連合 ( EU ) の代表者が会場を退場する騒ぎとなった。(略)国連大使のダンテ・マルティネリ氏らスイスの代表団はそのまま残った。連邦外務省 ( EDA/DFAE ) の広報官はこれに関し、「スイスが会場に残ったのは、言論の自由の権利を尊重したためだ」と説明している。

イスラエルはスイス大使を召還(CNN JAPAN 2009.04.20)

「不参加」続出の人種差別撤廃会議:国連が主催する20日からの人種差別撤廃関連会議を米国がボイコットしたのに続き、オーストラリア、ドイツ、カナダなどが19日、相次いで不参加を表明した。イスラエルは20日、抗議のため開催地スイスに駐在する大使を召還した。(略)ネタニヤフ首相は同時に、会議の出席者に「人種差別主義者であり、ホロコーストナチスドイツによるユダヤ人虐殺)否定論者でもある人物がいる」と、アフマディネジャドイラン大統領が招かれていることを指摘。駐スイス大使を本国での協議のため召還すると発表した。

本音では世界の国はイスラエルを批判している(毎日新聞 2009年4月22日)

上記の報道では人種差別撤廃を訴えたこの会議は失敗のように見えるが、意外なことに会議は予定された通りの結論に賛成して閉幕した。その結論は2001年の第1回会議(通称:ダーバン会議)を肯定するものであり、その中には「イスラエル批判」も入っている。多くのEU諸国はイラン大統領演説には議場を退席したが会議はボイコットしていない。ボイコットしたのはイスラエルアメリカ、ドイツ、オーストラリアなど9カ国に過ぎない。結局本音の所では、世界の多くの国々はイスラエルの人種差別の悪業を認識し批判しているのだろう。

世界人種差別撤廃会議:「成果文書」前倒し採択 決定的亀裂避け、事実上閉幕(毎日新聞 2009年4月22日)
ジュネーブ澤田克己】国連欧州本部で開かれていた世界人種差別撤廃会議の再検討会議は21日、最終日の24日に予定していた「成果文書」の採択を前倒しして行い、開幕2日目で事実上閉幕した。初日のイランのアフマディネジャド大統領による反イスラエル演説を巡って生じた参加国間の亀裂と分裂が決定的になることを恐れたとみられる。参加国による演説などは24日まで続くが、実質的な協議は行われない。

 成果文書は、人種差別との戦いの重要性をうたうとともに、01年の会議で採択されたダーバン宣言を「再確認」した。ダーバン宣言は、「外国の占領下にあるパレスチナ人の窮状を懸念する」という表現で、暗にイスラエルを非難している。米独やイスラエルなど9カ国は、この「再確認」を問題視し、イスラエル1国だけを文書で批判するのは受け入れられないと主張して会議をボイコットした。