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ホロコーストの「唯一性」はユダヤのプロパガンダの成果なのか?

ナチスドイツがロマ民族(ジプシー)を虐殺した事件をイアン・ハンコックは「ポライモス」と呼んでいる。しかしその事件は「ホロコースト」と同じようには知られていません。又ホロコースト研究はそうした点では進んでいると言えません。これに関しロマ(ジプシー)へのホロコーストを語るのは歴史修正主義ホロコースト否定論なのでしょうか?これの回答として、ホロコーストの「唯一性」に固執するある種のユダヤ人の活動結果であることを指摘すると、それは陰謀論プロパガンダ信奉故の間違った見方だと、批判する声があります。

一方、パレスチナ問題でイスラエル批判が欧米で広まらないのは、「イスラエルを批判する者は反ユダヤ主義者だ」とする、ADLやサイモン・ウィーゼルセンターなどイスラエル・ロビーの影響が大きい(弊ブログ前記参照)。「お前は反ユダヤ主義だ」との非難は、歴史的経緯から「お前はホロコースト否定論者だ」を意味していて強力だからですね。

同じようにこのロマの問題の行方が見えないのも、「唯一性」に拘るADLなどのユダヤ人の言葉の力・社会的行動の影響が大きいのが結論のようです。その結果ユダヤ人と同じように民族的理由で殺されたのにロマ(ジプシー)の惨劇への理解・普及は進まないのだということ。これを北海道大学(メディア論)の千葉美千子氏が2007年の論文で描き出しています。


◆『ホロコースト研究における 「唯一性の概念」をめぐる考察−「記憶の所有権争い」の分析を中心に−』
千葉美千子(北海道大学・メディア論・博士課程)
 http://www.hokudai.ac.jp/imcts/imc-j/imc-j-5/j5chiba.pdf

上記論文は博士論文の抜粋と見受けられるもので密度が濃い。論文ではホロコースト研究の概観がなされ、一部のユダヤ人のそれへのかかわり方を述べている。論文はネットで全文読めるが、内容紹介のために書いたので以下記載する。なおナチによるロマ民族の虐殺はいかに理解すべきかは、はてな会員のhizzz氏のブログ「人権理念の周縁に留め置かれ続ける流浪の民」に詳しい。


(問い)

>(ロマ民族の問題は)そもそもの問題は−ヨーロッパにおいてシンティ・ロマや同性愛者が十全な権利の主体として認められていなかったことに由来している「はず」(Apeman)
>そうなのだとすると、ことさら「ホロコーストの唯一性にこだわるプロパガンダ」にこだわる理由があるのか?(Apeman)

(回答)

これは千葉美千子氏の論文を読むと間違いだと思います。以下抜粋で論文から概観します


ロマ民族に対する人種差別的動機による民族殺戮は比較的早い段階(1980年代以前)にその事実が生存者の証言から引き出されていた』(p90)

1980年代以降、ロマ民族ユダヤ人と同じように被害者として記憶されることを強く求めた(p88)


しかし『ロマ民族は戦後数十年間、強制収用所跡地での記念式典や追悼式典に参加することさえ許されなかった、しかもそれはユダヤ人中央評議会の意図に基づくものであった。その際ドイツを始めとするいかなる国々も、ユダヤ人評議会の排他的姿勢を問いただそうとはしなかった』(p89)
1986年の記憶碑に関するセレモニーでユダヤ人評議会はロマ民族を同一の被害者とする事を拒否した(p90)
また2005年の慰霊碑論争では『ロマ民族による権利主張はユダヤ人への追悼を妨げ、またユダヤ人をレイシストとして中傷する行為以外の何ものでもないとして激しく(ロマ民族支持者は)糾弾され』その結果、ロマ民族は記念碑の対象から外された(p88注)
『ナチズム犯罪をユダヤ人の占有物として刻みつけるショアの前景化に伴い、ユダヤ人犠牲者の存在は一層希薄化した』(p84)


ホロコースト評議会に代表されるような「ユダヤの唯一性」に固執する人々(は)(略)ロマ民族ユダヤ人の被害と、同一の地平に属さない存在であり続けることを強制したのである。
 ロマ民族ユダヤ人の相関関係を認めることは、ホロコーストの広義的解釈を許容し、それまでの研究構図を瓦解させる可能性を秘めていた。(略)(ロマ民族ユダヤ人と同じようにその民族的理由故に虐殺されたのを認めるのは)「ユダヤの唯一性」を薄め、かつ彼らが主張するところの道徳的資本を喪失させる恐れがあったのである。』(p88)


(まとめ)
千葉美千子氏は勿論1980年代においてロマ民族が社会的に偏見を受けていたのを認めている。しかし、千葉氏はそれよりもホロコーストの「唯一性」に拘るようなユダヤ人の言葉の力・社会的行動が、ロマ民族ホロコーストを今も認めさせない、と描き出しているわけです。そういうある種のユダヤ人の犯罪的行為の弊害と、それによって結果としてホロコースト研究が進まない事を指摘している訳です。


ユダヤ人の言葉の力・社会的行動を「プロパガンダ」と呼ぼうが「主張」と呼ぼうがかまわない、しかしそこでのユダヤ人の主体性、ユダヤ人が積極的に影響を与えている事実を見過ごすべきはないでしょう。そして、上記の中のユダヤ人の恐れる「道徳的資本の喪失」とは何でしょう?


以上から「ホロコーストの唯一性にこだわるプロパガンダ」を無視する事は、単に起きている事態を認識できないだけのように思いますね。




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(参考)イスラエル・ロビー、ホロコースト否定論とパレスチナ問題の関係について以下も参照下さい

2009-04-06 ホロコーストの「唯一性」はユダヤのプロパガンダの成果なのか?
2009-04-05 イスラエル・ロビーのひどい活動の証拠
2009-04-02 歴史修正主義とパレスチナ問題とホロコーストの間
2009-03-21 イスラエル批判をすると反ユダヤ主義と非難されてしまうという現象
2009-03-18 イスラエル・ロビーのパレスチナ問題への影響を評価する、ガザはどうなる?