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イスラエル・ロビーのパレスチナ問題への影響を評価する、ガザはどうなる?

イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」(ジョン・J.ミアシャイマー&スティーヴン・M.ウォルト 講談社 2007年)についてまとめを書いたので備忘録として書く。プロパガンダの観点からサイードの著作を引用し、結論は鵜飼哲氏の意見に沿ったものだ、またチョムスキーの「マニュファクチャリング・コンセント」を再確認する結果になった。そして希望はある
 下記は新・木庵先生の独り言の「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」(http://d.hatena.ne.jp/name727/20090110/1231597156#c)での私自身の質問に自分で答える形になっている。


イスラエル・ロビーに関する疑問>

  1. アメリカではイスラエルに対し批判的な報道はほとんどまったく見られないと聞きますがこれはイスラエル・ロビー(ユダヤ・ロビー)のせいなのでしょうか?それともジャーナリストの素養の問題なのでしょうか?
  2. アメリカでは国会議員がイスラエル批判をすると次は確実に落選すると聞きますが、ユダヤ・ロビーは選挙でどんな活動をするのですか?落選のためロビーが流す情報は本来的にはウソの情報のはず、なぜそんなに効果があるのですか?
  3. アメリカのユダヤ人の数は2%にすぎない、だがアメリカの国益に一致しないにもかかわらずイスラエル支持は強固です。それは本当にユダヤ・ロビーのせいなのでしょうか?ネット情報など様々あるのに、豊かな資本さえあれば98%の人を騙せるのでしょうか?それともロビーのせいではなくホロコーストの効果によるアメリカ人自身の宗教的迷妄さのためなのでしょうか?
  4. イスラエル・ロビーはイスラエルへの援助金50億ドルを第1の成果として誇っていると聞きます、では仮定としてユダヤ・ロビーがなくなったらどうなるでしょう、イスラエル支持そのものは変わるでしょうか?

アメリカのパレスチナ問題報道について

アメリカのジャーナリストも結局、ユダヤ資本の新聞社や雑誌社のトップの意向に沿った記事しか書けないからイスラエル批判をしない。
 それだけではなく複合的と考えます。
 (A)サイードが述べているのは、アメリカではイスラエルを批判する記事はメジャーではまったく存在しないが、それは禁止されているではなく批判は周辺化されているという事。即ち批判的記事は非常に小さな扱いになるか、小さなメディアでしか扱えない。又イスラエルを批判する記事は常にその5倍のイスラエル正当化の記事と抱き合わせでないと掲載できない、即ち相対化されるという事です。アメリカは自由の国でありイスラエル批判は形式的には存在するという事ですね。
 (B)又サイードは中東問題のジャーナリストおよび中東専門家が、非常に浅い知識と一面的問題理解しかないと分析している。彼らの多くはアラブ語が理解できず、新しい事件に対しても単に既存のアラブ批判の記事の上塗りをしているに過ぎない。又専門家自身がアラブとはイスラーム原理主義だ、という視点からまったく抜け出ていないと指摘している。
 (C)更にサイードが指摘するのはジャーナリストらには、イスラエル批判によりアメリカ政府の方向性に逆らうことへの不安があるという。それはジャーナリスト自身のナショナリズムから来ているだろうと。

 これらが示しているのはメディアが単純な金による抑圧ではなく形式的には言論の自由を守りつつも圧倒的に偏っている姿ですね。なぜそうなるかはジャーナリスト本人およびメディア経営者への圧力が大きいように私も思います。
 しかしその場合でも中東専門家(研究者)は違うのではないでしょうか?又アメリカは他国に対し情報操作(プロパガンダ)することは熱心ですが同時に自国民が情報操作されることには警戒心は強い。その法は自国民への情報操作活動を禁止している、だからメディア関係者はイスラエル・ロビーによる圧力(偏向)は公式には存在しないと言うように思う。
 ですのでメディアおよび専門家の偏りは、イスラエル・ロビーなどの圧力(金銭的背景)と同時に欧米人が自ら本来的に持っている偏り(アラブへの偏見、オリエンタリズム)による偏りも大きいと思います。

イスラエル・ロビーのアメリカの選挙への影響について

イスラエル・ロビーによってイスラエル批判をする政治家は必ず落選する
 同感です。カーター元大統領がそう述べていますね。しかしアメリカの庶民は今まで支持していた政治家がある選挙でなぜ急に不人気になったか不思議に思わないのでしょうか?確かに選挙における情報操作と金銭的裏づけには強い効果があるでしょうが、この本ではそのロビー活動の細部が説明されていないので疑問に思います。メディアもそうですがこの本はそうした細部の説明が不十分に思います。
 そしてもし親イスラエル団体が選挙に対しそれだけ大きな力があるなら、他のアメリカの政策についても大きな影響があるはずであり、アメリカ政治にもっと深刻な影響があってもおかしくないはずですね。しかしそんな事はないように感じる、またこの本の著者も述べていない。従ってイスラエル・ロビーの選挙での影響も字句の通りに限って考えるべきと思われます。
 これらから私が思うのは、やはりこれは政治家本人の資質の問題が大きいのではないか。政治家各人が問題を知っていれば、イスラエル批判をしているはずだが、やはり無知や無関心が第1の関門として大きな背景として存在しているのではないか。その上でイスラエル・ロビーの圧力があると考えます。

アメリカ世論へのイスラエル・ロビーの影響について

アメリカ世論はイスラエル・ロビーにマインドコントロールされている
 マインドコントロールという曖昧で魔法のような言葉は不適当ですが、結果的に操作されているのは確かに思えます。
 実際にアメリカの統計ではパレスチナ問題についてアメリカ国民の大多数がイスラルを支持しており、これはメディアの報道の偏りがその原因と思えます。しかしここで不思議なのは、アメリカの教育はどうなっているのか?です、また逆にアメリカ人が実は非常に宗教的でありキリスト教シオニズムがどれほどイスラエル支持に影響しているか、などですね。
 この事象で言えるのはアメリカの民主主義とは本当に民主主義なのか?という疑問ですね。即ちそれはチョムスキーのいう「捏造された合意」=アメリカの民主主義とは民衆に誤った情報が与えられた上での捏造された民主主義、であろうという事ですね。

イスラエル・ロビーの実際的効果について

>もしイスラエルロビー活動がなくなれば、イスラエルは存亡の問題になるだろう
 同意です。イスラエル・ロビーの成果は(A)アメリカのイスラエルへの毎年の30億ドル以上の援助金+軍事援助、(B)中東政策でのイスラルの徹底支持、でしょう。もしイスラエル・ロビーがなくなれば(A)はイスラエルが弱小国ではなく合理的説明がつかないので減額されるでしょう。しかしアメリカの軍事的影響保持を考えれば軍事援助は残るのではないか?(B)は最も大事な点で、アメリカの国益を冷静に考えればこれは変更し、よりアラブ寄りの妥協的なものになる可能性は大きい。それによりコストの低い外交的手段で中東諸国にアメリカの覇権を及ぼせる可能性が開かれるからです。実はこれが今オバマ政権で起きていることであり、オバマイスラエル・ロビーの支配下にありながらもこれを部分的にやろうとしていると言えるでしょう。

5結論

 上記からわかるのは(1)イスラエル・ロビーは確かにアメリカの世論形成、政策決定に大きな影響がある(2)しかしイスラエル・ロビーがなくてもアメリカ人は、やはり相当イスラエル寄りだと思われる事です。アメリカ人は宗教的、軍事的背景からやはりイスラエルを強く支持するのではないでしょうか?

 ただその状態でも素直にアメリカの国益を第1に考えれば、今のような徹底したイスラエル支持は得策ではないように思えます。この結論は同時にこの本「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」の主張ですね。即ち(3)この本「イスラエル・ロビー」の結論は、イスラエル・ロビーがあることは批判しないけれど、アメリカの利益を考えれば今の徹底したイスラル支持は得策ではない、というものでしょう。
 つまりイスラエルを支持した上でも、アラブ諸国との厳しい衝突は回避し中東外交をした方がアメリカにとってずっと効率的であり、それを選択すべきだということ。その場合イスラエルパレスチナに対しより妥協を強いられるでしょう。


 「捏造された合意」のようにアメリカの世論形成がメディアの提示した情報の結果なら、例えイスラエル・ロビーの支配下にあっても、この本の意見が議論されることで、アメリカ世論が考え直す可能性があるでしょう。もちろんイスラエル・ロビーの存在自体が焦点化される事でイスラエルに批判的な言説に光があたり、アメリカの世論が素直に現在イスラエルがしているような蛮行を許さなくなる可能性もあるのではないか。


 だからこの本はアメリカ人にとっても、又イスラエル人やパレスチナ人にとっても大変重要な本のように思われます。この本の存在から、アメリカの通常の民主主義的手続きを経て、アメリカ人のイスラエル支持はより限定的なものになり得る。それにより少なくともパレスチナ問題については、アメリカの仲介においてパレスチナ人の主張がずっと通り易くなり、より公平な和平の道が開かれる可能性はあるように感じます。


(参考)イスラエル・ロビー、ホロコースト否定論とパレスチナ問題の関係について以下も参照下さい
2009-04-06 ホロコーストの「唯一性」はユダヤのプロパガンダの成果なのか?
2009-04-05 イスラエル・ロビーのひどい活動の証拠
2009-04-02 歴史修正主義とパレスチナ問題とホロコーストの間
2009-03-21 イスラエル批判をすると反ユダヤ主義と非難されてしまうという現象
2009-03-18 イスラエル・ロビーのパレスチナ問題への影響を評価する、ガザはどうなる?