zames_makiのブログ

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自衛隊の田母神氏が論文で言いたかったこと(たかじんのそこまで委員会)

2008年11月30日田母神氏読売テレビやしきたかじんのそこまで委員会」国防スペシャに出演し、たくさん発言しました。自衛隊の最高指揮官であった田母神氏は「日本は侵略国家ではなかった」という論文を書いて更迭されましたが、その論文で本当に言いたかったことが、このテレビではかなり出ていたと思います。
 この番組は全体の企画・出演者がタカ派的(戦争を是とする考え方)で、おそらく番組視聴者には「そうだ日本には軍隊が必要だ」というメッセージを与えたと思います。


 しかし私はこの番組を見ていて、朝まで生テレビなどメジャーなテレビの討論番組では、既に発言の機会さえ与えられず、メディアから削除されている(排除されている)、安全保障に関する冷静な意見が多く聞けたのが意外でした。即ち番組中で発言機会の多かったのは、幼稚な軍備崇拝者のコラムニスト勝谷氏に続いて、新社会党の市会議員原和美氏(赤い服の女性)であったからです。 原氏は番組全体の彼女への批判的な雰囲気の中で、短いコメントでやや舌足らず気味ですがその安全保障論を説明しています。予備知識のある私にはその発言の意味がよくわかりましたが、一般視聴者には笑いやどよめきなどの背景音の雰囲気のため、原氏の発言は意味不明の言葉と受け取られたのではないでしょうか。


 そこで私はきちんと討論経緯を追い、原氏の発言を補足すればこの番組はまるで違う意味を持つ、すなわち軍隊さえあれば日本が守れると思う幼稚な視聴者に、違う見方を提供できるのでは?と思いました。このため私は番組の討論発言をテキストに直し、脚注をつけることで、番組の伝えたメッセージを見直せるものにしてみました。以下はYouTubeにあった番組放送に上記の趣旨で解説をつけてまとめたものです。


2008年11月30日 読売テレビやしきたかじんのそこまで委員会」国防スペシャ

http://www.ytv.co.jp/takajin/

(番組概要)
やしきたかじんの「そこまで言って委員会」は90分枠の討論番組、政治問題を扱いやや右派的立場である点から注目を集めている。この番組では「日本は侵略はしなかった」という問題論文を書いて更迭された田母神氏を中心にして自衛隊に関する3つのテーマについて出演者同士の激しい議論が交わされた。番組の指向性から問題設定自体がタカ派的であるが、中心テーマは日本の国防はどうすべきか(安全保障問題)にあった。
 注意すべきは出演者でこの安全保障問題の専門家、政治家はいないこと!。出演者中これらの問題に多少とも詳しいと言えるのは、宮崎哲弥氏、天木直人氏程度しかおらず、本当の意味での安全保障に関する情報提供や意見は無かったことに注意すべきだ。番組は田母神氏他2人の元自衛隊の軍人高官の意見を中心として「神戸に北朝鮮軍が攻めてきたらどうする」というやや現実を無視した性急な状態で議論が進行した。


(出演者)
司会:やしきたかじん辛坊治郎 パネラー:三宅久之(政治評論家)、鈴木邦男(右翼言論人)、天木直人(元外交官)、桂ざこば原和美(神戸市市会議員・新社会党)、勝谷誠彦(コラムニスト)、宮崎哲弥(評論家)、井上和彦(声優)
ゲスト:田母神俊雄(元航空自衛隊航空幕僚長)、松島悠佐(元陸上自衛隊中部方面総監)、川村純彦(元海上自衛隊海将補)



視聴率:15.4%(番組HPによる)視聴媒体:読売テレビは関西のローカル放送、YouTube下記で視聴した(12/3既に削除されている)
http://jp.youtube.com/watch?v=LimSaXq1VQY 10分
http://jp.youtube.com/watch?v=w2gs8Avy-7A 10分
http://jp.youtube.com/watch?v=R3om6bATEYM 10分
http://jp.youtube.com/watch?v=VYSKJgsXxIc 10分
http://jp.youtube.com/watch?v=njE_Zc3wL8Y 10分
http://jp.youtube.com/watch?v=VU-soqJ9rpg 10分
http://jp.youtube.com/watch?v=wi-YvsvsI-Q 10分


(討論テーマ)
テーマ1:日本の国益を守るのは、村山談話田母神論文のどちらですか?
テーマ2:日本の自衛隊は軍隊なのか?
テーマ3:日本と国民を守る上で妨げになっているのは何か?

テーマ1:日本の国益を守るのは、村山談話田母神論文のどちらですか?

(前ふり解説の内容)
街角インタビューでの意見聴取、日本は侵略をしたのか?=26才男:そう思わない、72歳男:そう思わない、当時はあたり前だった、72歳主婦:今の時代にはあわない、22歳女性:そう思う、学校で教わったし南京大虐殺など史実がある 23歳女:そう思う社会の本に書いてある事だ、22歳男:そう思う昔ひどい事をしたから今だに朝鮮から言われる、
 街角インタビュー結果まとめ:100人中72人が侵略国家だとした
 ビデオで紹介=田母神:日本の発展には自虐史観はあってはならない、笹川隆氏(自衛隊での教育に田母神の招いた講師):南京事件はなかった、村山談話とは:政府の公式見解であり=侵略だった+戦争責任を認める+謝罪するというもの、西村信吾氏:あれは自虐史観だ、村山談話の思想では自衛官は戦えない、日下公人氏:あれじゃ自衛官やるき出ない、雑誌WILLの記事:田母神論文国益に沿う、朝日新聞の記事:多国間の平和共存のためには自衛官村山談話を踏襲するのが国益に沿う


(パネルによる各人の立場表示)
宮崎哲弥(比較できない:文章の性質が違いすぎる)、勝谷(田母神:村山談話売国利権談合共産主義の産物)、井上(田母神:いびつな外交の正常化)、原(村山:歴史的事実である)、天木(村山:歴史国際公約に忠実)、鈴木(田母神:国家を守るが争いも引き起こす)、三宅(田母神:村山談話自民党が政権に返り咲くために生まれた)、桂ざこば(わからない)


(討論)
勝谷:田母神が世界基準だ、村山談話は談合で決めたものだ
三宅:そう談合だ、(経緯を説明)
勝谷:利権で村山談話だしたのよ
天木:田母神論文はまったくの間違いだが安全保障議論を盛んにしたのはよい。歴史は多くの情報があり、それらを総体としてまとめたのが今の侵略戦争だという認識だ
天木:日本は戦争に負けポツダム宣言を受け入れた結果、今の国際関係での地位がある。田母神論文で一番怒るのはアメリカだ、国際政治では×だ、国益にならない。
鈴木:田母神さんは中国には言わないの?
田母神:これから言う
天木:もっとやって安全保障の議論を盛んにしてほしい
勝谷:いいのは2点、歴史について論争できるようになったこと、今までできなかった。当時は戦国時代でありみなそうだったの!(*1)
*1:勝谷氏は歴史認識が完全におかしいが、この発言が勝谷氏が実は歴史議論に詳しくない事を示している。これは南京大虐殺に関する「論争の歴史」が示しているように(例えば笠原十九司南京事件論争史」を参照)、日本ではこうした議論は既に過去に長く行われてきた。むしろ日本国民全体の歴史認識としては、戦争直後は侵略であったのか疑いをもっていたのが、戦後時間が経つにつれ次第に侵略であったと認識されるようになったと言えよう(例えば吉田裕「日本人の戦争観」を参照)。吉田によれば1990年代では「日本は侵略をした」と答えるのが60%を超えている。
 また勝谷氏は当時はみなそうだったと言っており、みな悪いことをした、だから日本は侵略国家ではないと言いいたいのだろうか?当時は侵略は当たり前だったが、それを認めないというのは、純粋に事実を認識できるか否かの問題である。一方田母神氏は日本国を誉めないと自衛隊は戦えないという本当の動機を番組中で語っている。なぜ勝谷氏は田母神氏と同じく歴史で嘘をつかねばならないのだろうか?本当に醜い発言だ。

原:侵略は歴史的事実です、それは国民で共有できるもの、なぜ侵略という誤りを認めるのが自虐なのか?
鈴木:誤りだと思っていない人がいるのが問題
田母神:誤りではない、日本は権益を得て軍を出した、日本人が殺されたから軍隊だした
勝谷:通州事件とかね
井上:そう今までの日本がおかしい
原:(誤りだと認めるよう)おかしくないように議論すべき
宮崎:日本は1972年に誤りでした反省すると既にアジアに言ったので、もう謝る必要ない
田母神:戦後、資料が焼かれGHQに都合の悪い資料は焼かれたからこうなった(*2)
*2田母神論文は自分に都合のよい過去の論考の寄せ集めだが、同じ事をここでもしている。日本軍および政府は降伏直後、多くの資料を焼却したことが知られている。しかしそれは戦争犯罪などの訴追を恐れた日本軍のための行動であり、GHQのためではない。歴史事実の勝手な言い換えである。

勝谷:左翼が戦後教育をしたからこうなった
宮崎:これは三島自殺事件(*3)の呪いか?>田母神
*3三島由紀夫自衛隊の決起=クーデターを要求し、自殺した事件。ここではアメリカからの軍事的独立を要求した事件として引用されている。

田母神:私は当時はノンポリだった、あれから日本が左傾化した、三島は暴力革命であり私は否定する。
鈴木:田母神を支持してる人は田母神は三島の再来だと言ってるよ
原:田母神さんへ、憲法守ってほしい!
勝谷:いや憲法違反してるのは言論弾圧した方だ
原:公務員は国の公式見解を守る義務がある、公務員法で憲法遵守義務がある
井上:そんな事言ったら君が代反対している教師は皆クビだ
原:国旗国歌法君が代を国歌と決めたのであって、歌う事(起立)は強制していない(規定していない)
井上:え、そうなの?(*4)
*4番組ではうるさくてよく聞き取れない。君が代を歌う事を東京都などは強制しているが、法制化の過程ではそれを強制しないことが確認されている。

宮崎:いや聞きたいものだ、田母神論文のどこが憲法に反するというのか?
天木:それはまさにポツダム宣言を受け入れたという事ですよ
宮崎:なんでポツダム宣言なんだ!
天木:あなたわかるでしょう(*5)
*5:番組ではうるさくてよく聞き取れない。敗戦国日本はポツダム宣言を受け入れることで、戦勝国アメリカなどとの国際社会の秩序の中に入ったのであり、その上に今の憲法があるという趣旨である。そして日本はアメリカの占領から独立した後、早速憲法を改定しようとし、自民党天皇を元首とし軍隊を認める憲法案を何度も作った。
 しかし戦後ついに自民党はそうした憲法案を国会に出せなかった。これは戦後の日本国民の総意が現在の平和憲法の支持にあったと見るべきだろう。つまり現在の平和と繁栄は戦後の平和憲法の下に発展したものであり、その憲法を日本人は変える自由があったのに変えなかったという事である。それは言い換えればポツダム宣言を受諾した時の考え方を戦後も変えなかったと言う事だろう。田母神論文東京裁判を否定しており、こうした戦後の民主主義や平和主義の「精神」を否定している、その点で田母神論文憲法違反であろう。

宮崎:そんなに拡張しちゃだめだ
(なんのまとめもなく終了)(*6)
*6討論はなんのまとめもなく終わるので結論やメッセージは視聴者に任されている。番組の作り方としては原氏発言への否定的どよめきを流すことで原氏の意見を否定しているが、こうして発言を文章で読むとどうだろうか?少なくとも田母神論文の内容が具体的に正しいとは誰も言っていない事に注意されたい。又田母神氏自身が、論文「内容」が正しいとは強調せず、村山談話では自衛隊は戦えないと動機を語っている事に注意すべきだろう。即ち田母神氏は自衛隊のために歴史を歪める嘘をついているのである。

テーマ2:日本の自衛隊は軍隊なのか?

(前ふり解説の内容)
日本の防衛力はユニークだ、自衛隊の実力は?陸上自衛隊は年間予算1兆7325億円、90式戦車は守護神、でもね。海上自衛隊は年間予算1兆694億円、イージス艦ファンタジスタで凄く強い、でもね。航空自衛隊は年間予算1兆1262億円、F4、F15J、F2(F16J)はアジアで圧倒的に強い、KC767も新規導入した。はたして自衛隊は軍隊か?


(パネルによる各人の立場表示)
田母神:軍隊の子供、松島:軍隊らしきもの、川村:手足を縛られた軍隊
宮崎(軍隊ではない:法制度的には軍隊とは言えない)、勝谷(軍隊だ:世界が認めている)、井上(軍隊だ:軍隊でないという詭弁が日本の信頼を損なっている)、原(軍隊ではない:質問自体がナンセンス)、天木(軍隊ではない:自衛隊自衛隊だ)、鈴木(軍隊だ:しかし本当の軍隊でなくていい)、三宅(軍隊だ:核以外の兵器を全て持つ20数万の武力集団だぞ!)桂(軍隊でない:戦えない)


(討論、ここから元自衛官指揮官2人が追加して参加)
やしき:予算だけみたら十分軍隊ですね。
松島:自衛隊は今まで使う機会なかった、地震でも出て行けなかった、
勝谷:突如外国から攻めてきたらどうする
原:そういう風に攻めてこられないように、どうするか、すなわち外交が焦点です
井上:外国は軍隊を背景に外交して、武器で攻めてくる、あなたは話し合いという武器を持っているというのか!(*7)
*7、井上の言う「外国は武器で攻めてくるのにあなたは話し合いで対抗するのか?」というのは言葉の上では面白いが、実際には攻撃が行われる以前に外交交渉が行われるのであり、こんな比較は成り立たない。また北朝鮮が突然攻撃してくる事はありえない。
 原氏の言っているのは紛争を外交で解決するという事であり、現在も世界の国々が行っている常識だが、番組ではどよめきの声をかぶせてひどく否定的に印象づけられている。戦争(軍事攻撃)が政治的行動の一つの方法であり、それが国際法で禁止され国際社会が納得する理由がないと行いにくい事、非常に費用がかかり危険な手段であることを考えれば、いきなり攻撃することなどあり得ない事だ。
 北朝鮮が現在の緊張関係からいきなり攻撃することもあり得ない、それでは何のメリットもないからだ。彼らにとっては攻撃の可能性をちらつかせる事で、海外からの様々な援助を引き出すことが、キムジョンイル主席にとって最大のメリットであり、その支配体制を維持していく上で必要な事だろう。井上の言い方は国家間の関係を平和か戦争かに極端に2分化した幼稚な議論だ。ここで井上が単なる声優であり、安全保障の実際や理論(例えばジョセフ・ナイ国際紛争:理論と歴史」を参照せよ)など何も知らないまま、大声を出している事を思い出すべきだ。

勝谷:最初の1発はこっちから撃てないの?
松島:はい、多分手遅れになっている
やしき:原さんに聞きたい。神戸に外国の軍隊が攻めてきたらどうするの?(*8)
*8、この質問と井上の*7の質問が番組中視聴者に最もアピールしたのではないだろうか?しかし*7で私が述べたようにこんな質問を考えるのは実際には戦争(国家間の紛争)を知らないからだろう。ただし原氏もいきなり攻撃が行われる事はあり得ない事をはっきり断言するだけの知識に欠けているように見える。安全保障の専門家である元自衛官である森本敏拓大教授なら、今はそういう事はあり得ないと答えるだろう。(例えば「安全保障論」森本敏、2000)

原:なぜ神戸ばかりを言うの?なぜそういう仮説を立てるのか?
田母神:原さんに政治は任せられない
−中略−
川村:実力は世界トップクラス、しかし縛られている
天木:必ずしもそう言えない、非常にアンバランスな装備になっている
川村:警察と軍隊はどう違うのでしょう。軍は法の外、早い話が人を殺していい。
宮崎:そこが大事だ!自衛隊憲法で交戦権(戦闘する権利)がないので軍隊ではない
桂:聞きたいが戦争の練習してないので負けるのでは?
田母神:練習しているので大丈夫です
(なんのまとめもなく終了)(*9)
*9、討論はなんのまとめもなく終わるので結論やメッセージは視聴者に任されている。この部分の討論の印象は*7や*8の質問で支配されているように思える。しかしそれが安全保障の議論の上で大きな間違いなのは上記で書いた通りだ。

テーマ3:日本と国民を守る上で妨げになっているのは何か?

(前ふり解説ビデオの内容)
日本を守ってきたのは何?自衛隊か、核の傘か?平和憲法か?平和憲法だけが日本の平和を守ってきたとは言い切れない。自民党憲法改定の準備をして、安倍は集団的自衛権を容認する準備している。憲法で縛られ日本人の自国を守る論理はどこに?非核3原則は守られていない。対馬が韓国化しているぞ。妨げは憲法9条か、日米安保か、非核3原則か、政府の弱腰か、自衛隊の存在自体か。日本を守る上で妨げになっているのは何か?


(パネルによる各人の立場表示)
田母神(自虐史観)、松島(憲法)、川村(軍隊じゃない事)
宮崎(憲法9条)、勝谷(現実を直視せず逃避する卑怯者の目線)、井上(軍事知識のない国会議員と偏向メディア)、原(武力でしか守れないという考え方)、天木(自衛隊が米国軍の手先になっている事)、鈴木(憲法9条自衛隊の矛盾)、三宅(憲法のフィクション)、桂(国民の関心の無さ)


(討論)
田母神:自衛隊が多くなる(強くなる)事を国民が怖がっている、クーデターを起こすと言う
川村:自衛隊を縛っていることが問題。弱腰、武力を背景にしない外交ほど弱いものはない(*10)
*10現在、武力を威嚇として用いることも戦争(侵略戦争)自体の禁止と同様、国際法で禁止されている。その点で元自衛官のこの発言はたいへん危険だ。川村氏は外交官ではなくこの発言にも彼独自の根拠はなく、この発言は街の親父の妄言と同じ程度の重みしかないと考えるべきだろう。一方川村氏が自衛隊の指揮官であってこうした考え方をするなら、国際法を無視して戦争や武力による威嚇をしたい、又はして良いという事になり、平和と国際秩序を重んじる日本の自衛隊の指揮官として甚だしく不適切だ。すなわち、この発言から見えてくるのは自衛隊は今でも国際法を無視して戦争をしたがっているという事だろう。

田母神:自衛隊は一々規定されたものでしか動けないので動けない
宮崎:憲法に軍隊を書かないと規制もできない、だから憲法を変えろ!
松島:防衛庁の役人が自衛隊を縛っている
原:イラク戦争などで武力では紛争解決できないのが明らかになっている(*11)。今まで自衛隊武力行使することなかったのは良い事だ。
*11原氏の言っている事は少なくとも日本など先進国については真実だろう。それらの国は、深刻な領土争いなど大きな紛争の種を抱えておらず、また緊密な国際社会との関係を保っている。先進国の紛争は国際社会の注目を集めるので、国際社会が容認しない結果であれば、例え戦争に勝っても経済関係の途絶などの措置が取られる可能性が大きい。先進国ではそうした経済問題は戦争による利益より遥かに痛い打撃になりかねないから戦争は大きなリスクとなり非常に行いにくいからだ。一方、現在も世界で起きている紛争(戦争)の多くは開発途上国後進国)でおきている(例えば栗原優「現代世界の戦争と平和」2007年を参照せよ)。それらの国では領土や民族問題など国の成り立ちをかけた深刻な争いの種が未だに存在している場合があり、これは他の全てを押しのける大きな紛争の動機になっている。またそれらの国は他の国への経済的・政治的影響力がないので、戦争で混乱しようがしまいが国際社会から無視されていること、これらが戦争を可能にしている理由だろう。
 北朝鮮は先進国ではないが、現在の北朝鮮にとっては海外からの援助が重要であり国際関係は無視できない。海外からの援助が狙いであれば、国際社会が認める(否定しにくい)ような理由がなければ、やはり北朝鮮は戦争をできない。結果として武力では紛争が解決できないというのは、少なくとも日本にとっては正しいのではないだろうか。

井上:北朝鮮のゲリラが来たらどうする?
原:さっきからここではそういう考え方になっていますね(でもそういうものではない)
松島:戦争に負けたからこうなった
川村:冷戦時代ソ連を押さえたのは日米同盟だ
田母神:沖縄にソ連の飛行機が領空侵犯するのは自衛隊が攻撃しないとわかってるから、それよくない。だから戦えるようにしろと論文で書いた。
天木:原因が憲法か安保か、なんて現実には割り切れない。現実の外交問題として日本には多くの原発があり、攻撃されれば凄い被害が出る戦争は絶対に避けるべきだ。戦争は絶対しないという意識を持つべきだ。
松島:憲法に日本をどう守るか何も書いてない、書くべきだ(*12)
*12憲法には日本をどう守るかは書いてある。この点で憲法9条の擁護者一般に誤解が多いと竹内久顕氏(平和学)は指摘しており、そうした方は日本国憲法では憲法9条により「日本を守ること」自体が否定されていると勘違いしている場合があるという。すなわち憲法9条国際紛争自体を否定しており、紛争がおきた時には必ず降参するものと勘違いしている場合があるという。
 結論として憲法9条では『日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』となっており、「国際紛争を解決する手段」から武力が排除されている、しかし「国際紛争を解決する事」そのものは排除されていない。すなわちそれは外交であろう。
 つまりこの発言は、元自衛隊高官が憲法をよく理解できておらず、日本の紛争解決手段は武力しかないという間違った考え方しかもっていない事と、それ程国際紛争に無知であるため出てきたものであろう。

勝谷:侵略しないと書けばいい
天木:自主防衛と軍隊を持つという事は全然別の事だ、9条が最強の安全保障政策ですよ(*13)
*13天木の言っているのは、日本から戦争をしないと宣言すれば、他国も軍備を強化する根拠がなく、結果的に国家間の緊張は高まらないという事であり、その結果日本の安全も保たれるだろうという事だ。その中で憲法9条は外国から見て非常に明確な安全担保のメッセージであり、安全保障を保つよい手段だという事である。

三宅:憲法は日本が作ったのじゃないのがいけない、当時はGHQが統制してたのだぞ!
天木:違う!(*14)
*14日本はアメリカの占領から独立した後、早速憲法を改定しようとし、自民党天皇を元首とし軍隊を認める憲法案を何度も作った。しかし戦後ついに自民党はそうした憲法案を国会に出せなかった。これは戦後の日本国民の総意が現在の平和憲法の支持にあったと見るべきだろう。憲法学者渡辺治はこうした憲法改定の歴史をまとめている。(「日本国憲法改正史」日本評論社,1987年などを参照せよ)

田母神:戦争を絶対しないと同意するが、日本が戦争をしないと言ったら侵略される可能性が高まる。だから日本は絶対戦争しないとかいっちゃいけない。
天木:なんの理由も無く戦争はおきない(それまでの経緯があるのでそんな事はない)
原:その通り!
三宅:日本が攻めない訳にはいかないぞ、北朝鮮があるのだぞ!
天木:拉致と戦争は違う。
三宅:憲法は理性的な国、理想的な国を想定して書いてある、そんなのあるか!
宮崎:違う!


やしき:日本が核を持つことについてはどうですか、皆さん?
田母神:日本が核を持たないと、核をもってる国に従属することになる(*15)
*15日本の軍人の非常に危険な考え方。「核をもってる国に従属する」とは何を指すのか?ドイツはフランスやイギリスに従属しているのか?逆にアメリカの自動車産業核兵器を持たない日本の自動車産業に勝てないが、それは従属している事ではないのか?また日本はインドに従属しているのか?
 この田母神氏の考え方は、国際関係を何でも戦争を基準に単純化して見てしまう、軍人の悪しき典型に思える。現実には核兵器を所有する国々が同時に軍事的・経済的にも圧倒的に有利な国であり、世界の指導的(強制的にせよ民主的にせよ)立場にあるのは事実だろう。しかしそれだけの理由で核兵器をもつ理由になるとは到底思えない。

松島:米の核を使うか、自分で持つしかない
川村:まず非核3原則には反対、なんでもやるべきだ。同盟に頼るのは危険だ(文脈では核を持つべきの意味)
三宅;:そうだ!
勝谷:同盟じゃない依存だ
原:核は絶対持たない。ここでは武力だけが平和を守るという話になっているがそう思わない。又政治は理想を語るべきだ。
やしき:原さんに聞きたい、もしイラクフセイン政権が核兵器もっていたらアメリカに攻撃される事はなかったのではないか?
原:わからない、したかもわからないね。(*16)
*16原氏は明確に答えていないが、論理的に考えれば、イラクフセイン政権が核兵器を持っていてもアメリカに敗北していたのは明らかだろう。なぜならイラク戦争開始時アメリカは大量破壊兵器の存在を前提に戦争を開始したのであり、たとえ核兵器があっても戦闘に勝つ自信があったから戦争を開始したと考えるべきだろう。アメリカ軍は既に戦術核兵器を多数持っており、アメリカ軍の論理自体は相手が核兵器を持っていよう戦争に勝つよう準備するというものだろう。
 そしてもしイラク核兵器を持っていたら、その場合核兵器を所有する国同士の始めての戦争であり、抑止力の意味が試される事になっていただろう。つまり抑止力という考え方から言えば、イラクがたとえ核兵器を持っていても使えたか疑問が残るという事だ。イラク核兵器をもし所有していても、アメリカ軍の圧倒的優勢という戦争の行方を見越した場合、核兵器の使用は戦後の国際的非難をあびる原因となり、使用するのは大変ためらわれる難しい問題になる。
 そして更にアメリカ側もイラクのそういった判断を見越せる訳で、その上でイラク核兵器を持っていても使用できないという判断の下で、進攻を開始する可能性があるわけで、大変難しい判断になっていたのではないだろうか?
 やしき氏はこうした抑止力の論理の難しさを理解しないまま、なぜか核兵器のメリットを自分の側にだけあるように考えて日本が核兵器を持つことを提案しているようだ。そしてそれは現に核兵器をもっている北朝鮮に軍事的圧力をかけろという、この番組のへんてこな一方的な核の意味の解釈に現れてもいる。

井上:そんなわけない(攻められるわけ無い)
天木:テロリストに核が渡ったら使うかもしれないが、今は核は使えない
三宅:今ではインドもパキスタンも核を持っていて危険だ
田母神:持つぞと脅すのが抑止力だ
勝谷:そうだ!筑波に秘密基地を作って核兵器を持っているふりをすれば核抑止力が飛躍的に高まるぞ!
田母神:政治家は腹が黒い方がいい
−(中略)−
田母神:アメリカで聞いたら尖閣諸島でもめてもアメリカはどうするとは答えなかった
勝谷:そうだ!いいぞ!田母神に外務大臣をやってもらいたい
三宅:反対だ、頭の悪いやつには任せられない
川村:これを契機に自衛隊員の思想調査などするなら北朝鮮と同じだ
原:政府の公式見解を学ぶというのは大事だ
川村:あれは正しい歴史じゃない
(なんのまとめもなく終了)(*17)
*17番組視聴直後には、正式な軍隊を持つべきだ、核兵器も必要かもしれぬ、といったメッセージが番組のメッセージに思えたが、こうして内容を文字に書き出すと、なんの結論も方向性もないことがわかろう。結局、田母神氏の主張に、勝谷氏や井上氏が無責任に悪乗りし、大声で叫んでいる様子のみが印象に残る。全体に「○○の理由で、軍隊が必要なのだ」という、納得できる議論そのものがこの番組には乏しく、ただの一方的な叫び声のみが目立つ。そうなった理由は、出演者に安全保障の専門家や詳しい人がおらず、具体的な論拠やテーマを視聴者に提示できないからだと思われる。又見方を変えればこれはローカル局である読売テレビの制作費の問題と言うべきかもしれない。

(追記)田母神への自衛隊出身政治家の反応

http://east.tegelog.jp/?blogid=24?catid=164&itemid=2054
イラクに派遣された自衛官でその後政治家となった佐藤正久(自民党)氏は田母神の行動を支持し、自衛官からの意見を政治家が受け入れることが『真の文民統制』だとする、とんでもない意見を書いている。佐藤は文民統制とは政治が自衛隊の言いなりになる事だとしているこれはひどい間違いだ。自衛官で政治に意見があれば、「一市民として発言すべき」であって、自衛隊員としてその部隊の中で勝手に論をつくったり、自衛隊員の教育の中で部下に教え込んだりすべきではない。佐藤のような政治家は非常に危険だ。
以下佐藤のHPより該当部分を抜粋

常々思っていることだが、自衛官はみなモノを云わない。現役が、政治に○○して欲しい、というのは問題があるとされるが、現状は○○となっており、現場の任務に支障をきたしかねない、ということは、政治の場にしっかり伝え、政治がそれを理解しなければ、真の「文民統制」は成り立たない。