zames_makiのブログ

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地獄部隊突撃せよ(1966)戦争の娯楽化

阿片台地 地獄部隊突撃せよ(92分・35mm・カラー)
1966(ゴールデンぷろ)(監・脚)加藤泰(原)紙屋五平(脚)国弘威雄(撮)川崎新太郎(美)梅田千代夫(音)鏑木創
出演:
安藤昇(宇留木:主人公の少尉)
南原宏治(辰巳:囚人部隊の監視隊指揮官の大尉)
久保菜穂子(辰巳に惚れてる女)
ペギー潘(美雲:共産党の女兵士)
菅原文太(地獄部隊の監視指揮官)
佐々木孝丸(大野部隊長・悪人)

感想

娯楽戦争映画。最低限のセットと富士山麓の屋外撮影だけの低予算ながらアップ多用の効果的な演出で見せる低予算娯楽映画、戦闘の迫力より、やくざのような荒々しい男の衝突と、女の情念、戦場での男女の清い恋愛、などを見せるもので、架空の物語であり戦争の歴史的事実とは関係ない、演出よく見せる、中の上。
 上官の命令に反し、囚人として現地監獄部隊として戦争をしつつ、阿片を栽培するという設定の囚人部隊「地獄部隊」での男臭い立ち回り。主人公は出身がヤクザであり、ヤクザあがりで人気が出た安藤昇が演じている。地獄部隊は、吊り橋一本で外界とつながる隔離地域で阿片を栽培し、その吊り橋を菅原文太扮する鬼中隊長が守備し、台地内の囚人を南原宏治が演じる監視分隊長辰巳が監視する構造になってる。辰巳もヤクザ上がりであり、前半は兵士の格好をしたヤクザの喧嘩の様相を示す。
 一方地獄部隊は中国軍(共産党軍)と常に対峙しており、定期的に交戦、中国軍は日本民謡を流し望郷の念を誘うアナウンスを行うなど宣撫工作をしているという描写は珍しい。更に台地内には日本軍に協力し阿片を育てる地元中国人がおり、その有力者の娘は実は共産軍の女性兵士だという設定なってる。女性兵士は中国兵捕虜の命を救った主人公を助けた過去があり、阿片台地で正体がばれた後は戦場での禁断の敵味方の恋愛というエピソードを演じる。女性兵士は再度主人公を助け、ベッドシーンまで演ずるが戦闘中に死亡する悲劇の主人公である。この中国兵には香港の女優が扮しており可愛いが、日本語台詞は最低限であり感興を損ねる。
 また日本軍には従軍の売春宿があり、女たちが兵士を歓待する。その中には辰巳を慕う普通の日本女性(久保菜穂子)もおり、女の情念を演ずる。
 主人公は囚人部隊の監視や阿片裁判など全体を指揮する悪役である大野部隊長と、捕虜殺害で敵対し、反抗した為囚人となったのであり、経緯を知った主人公は監視に対し反逆を企てる。まず台地内の食糧倉庫から酒や食料を強奪し宴会を開き大騒ぎとなる。更に終盤中国軍が本格的攻撃を開始した時、大野部隊長や菅原文太が囚人部隊を見殺しにしようとするのに反抗、菅原文太を殺し、大野部隊長に後遺症になる傷を負わせ、なき中国女兵士の意志をつぎ馬賊となって、日本軍の邪魔をし続ける。
 冒頭「昭和18年夏」と提示されるのは結末が終戦ではない・これは日本軍の敗走に終わる物語ではない、との提示であろう、多くの日本製の戦争映画が昭和20年を設定し、様々事件あっても最後は日本軍の敗走で日本の戦争における悪を印象づけるものを予想する観客への親切な提示である。
 原作があり、日本軍が阿片を栽培するというのは部分的にせよ事実かもしれない。一方その他の部分は全て架空の物語であり、戦争を舞台に娯楽劇を作っている。その中では日本軍の捕虜虐殺、秘密主義、上官による部下への虐待・不当な扱い、中国共産党軍への高い評価、表向き日本軍に協力するが裏では敵対行為を支える中国住民、などが配置されており、戦争の雰囲気は出ている。
 だが、吊り橋一本で孤立する台地やケシ畑などは、セットなどではまったく描かれず、現実感に欠ける。また囚人−監視兵−吊り橋監視兵−元部隊と、地理的&構造的な積層構造も、視覚的には理解できず、全体に酷く現実感のない変なものになっている。
 少ない予算、人気のある俳優、中国戦線という設定が生み出す日本的娯楽戦争映画であり、東宝「独立愚連隊」日活や東映の娯楽戦争映画とよく似た設定になっている。