zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

散歩する侵略者(2017)焼き直しSF

129分 配給:松竹=日活 公開:2017/09/09
監督:黒沢清
出演:
松田龍平(加瀬真治・宇宙人1)宇宙人なのに真治になろうとする曖昧な存在、最後は妻の愛を認識し侵略を中止する
長澤まさみ(加瀬鳴海・真治の妻)ひたすら夫愛する献身的な存在
高杉真宙(天野・宇宙人2)冷酷に侵略計画を進める
恒松祐里(立花あきら・宇宙人3)乱暴で必要ならすぐに人を殺す
長谷川博己(桜井・週刊誌記者・ガイド)最初は取材のため宇宙人に同行しやがて暴力をやめるよう説得するが、侵略が人類の地球への尊敬のなさへの警告となる事を重んじ、残った宇宙人に代り侵略計画を続行する

感想

思わせぶりだけの焼き直しSF映画。星2つ。黒沢清を再評価するのと「侵略」の字に惹かれ見るが、監督は2流、作品は3流だった。一部の映画評論家は星5つとするなど、映画界ではおおむね誉めてるようだが、黒沢監督のみせかけで物語や意味合いとして中味のない映画に惚れ込んだ一部のファンが定着したためだろう、真面目に議論すれば誉めるべき点はほとんどない。アイデは先行作や古くさいSFの寄せ集め=宇宙人の侵入は「ボディスナッチャー」「寄生獣」の真似、地球人に化けた宇宙人が人類を審査して存続させるべきか否か審判するのは手塚治虫の「W3ワンダースリー」、結論は「愛は人類を救う」というアメリカ映画の定番だ。
 映画は宇宙人を一見フレンドリーかつ普通の人と見せかけ日常性の中に侵略という非日常を見せる事で異化を際立たせようとしたようだが、肝心な場面では宇宙人は平気で殺人を犯し、また地球人側も機関銃を撃つ、最後は飛行機からの攻撃など、あちこちでそれが破綻している。結局金がないためにこんな演出になったとしか思えず、演出に独自性やよい効果が見えない。好意的に言えば本作はハリウッドでリメイクすればまともなB級SF映画になりうる、即ちあくまで平常性を装うがその中味は異質な宇宙人の特殊メーク、リアルな地球人側の攻撃シーンを経て、最後はハリウッドお特異の「愛は人類を救う」でエンドまで見せられる。それを念頭におけば黒沢監督の本作は学生の遊びに見える。
 映画冒頭は残酷な殺害シーンで始まるがこれが効果的と誉めてる映画批評家がいることに驚く、こうした導入は何回も見て見飽きた、普通の映画経験があれば女学生が血を浴びてるシーンは全然珍しくないしこの映画での格別の演出もない。誉めてる奴は批評家ではなくただのファンに過ぎないと言えよう。恐らく誉める批評家が買ってるのは「概念を盗む」事の意味だろうが、この映画で何か真面目に言外の意味が述べられていただろうか?何もなかったし最後に結局愛で終わるようではいかにも底が浅い。
 追記:宇宙人の決断は人類を皆殺しにするか否かであり、これは侵略ではなく抹殺・虐殺である。普通、侵略とは戦争に勝利する事で相手国を支配下に置き植民地化し、原材料の供給や支配国製品の市場にあてるなど経済的・社会的な支配を意味している。侵略は相手国の社会を支配国の都合の良いように使えるようにする事を意味し、絶滅させては使用できない。SFでは宇宙人の侵攻は戦争行為でありその暴力の使用で結果的に人類が多数死ぬのであって、始めから皆殺しにはしないのが常識だろう。