zames_makiのブログ

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地獄のバスターズ(1976)戦争の娯楽化

原題:THE INGLORIOUS BASTARDS
別題名:V-2ロケット強奪大作戦(TV)、ドイツ軍用列車(TV)
映画 100分 イタリア 日本未公開・TV放送
監督:エンツォ・G・カステラッリ 脚本:サンドロ・コンチネンツァ、セルジオ・グリエコ、ロマノ・ミグリオリーニ、フランコ・マロッタ、ラウラ・トスカーノ 音楽:フランチェスコ・デ・マージ

感想

ケーブルTVで視聴。マカロニ・コンバット映画として大変興味深い。星3つ。目立つドイツ兵の殺害シーン。まともな戦闘ではなく、無理な設定でもともかく娯楽的に進める物語、やたらと派手な戦闘シーン。同じような場所で繰り返される戦闘、同じような車両のくり返し使用、軍事的に強いレジスタンス、女性へのあからさまな性的要求、など戦争映画をなんの遠慮もなく娯楽的にすればこうなるという見本である。歴史的事件、社会的事件・題材としての戦争ではなく映画の題材としての戦争をよく示す(映画の題材としてのヤクザやマフィアの描かれ方とよく似る)。この映画をヒントにタランティーノ監督が同一題名で戦争映画を作ったのはよい視点だ。ハリウッドの金儲けの為の題材としてのドイツ軍、観客はドイツを絶対的な悪だと思っているから喝采するが、実は正義は関係なくただやられる為だけある存在という真実(自己欺瞞的な観客への皮肉とも言える)、これをタランティーノ諧謔をこめ自作でよく示した。この映画はあくまで娯楽でありそうした含意は本来ないが見る側にそうした問題意識があれば、この映画でも同じ事を伝えているとも言える。映画はいい加減な物語でともかくよくある娯楽的見せ場=ドイツ軍の秘密兵器を乗せた列車の強奪へと進む。途中でアメリカ兵がドイツ軍に化けるのもアメリカの戦争映画でよくある設定だ。この映画で面白いのは、脱走アメリカ兵と脱走ドイツ兵が協力し、更にドイツ軍に化けたアメリカ兵とも混じることで、ドイツ兵とアメリカ兵の見分けが完全につかなくなる場面があることで、映画の娯楽のため(金儲けの為)ならアメリカ兵であれドイツ兵であれ誰が殺されようが、また誰が主人公であろうが同じだと言っているように見える。脱走アメリカ兵の中に黒人が混じっているのも面白い、第二次大戦のアメリカ軍では黒人は後方任務だけで戦闘には参加しておらず歴史的には間違いの設定だが、上記の混乱を際立たせるため?あるいは映画の嘘を皮肉るため?あるいは単なるおかしみのため?(途中ドイツ女をドイツ兵に化けたアメリカ兵が追いかけるが黒人アメリカ兵が加わることでばれるというおかしな場面のため?)。不明だがともかく興味深い。素直に映画として見れば派手で娯楽的だが先の知れた演出であまり楽しめない、いかにも映画的(=単なる暇つぶし)な映画にすぎない。

 この映画に刺激を受けてタランティーノが自作を作ったとすれば影響は以下の点に可能性があろう
・ドイツ兵が必然性や、まともな経緯もなくただやたらと殺される
アメリカ兵とドイツ兵が混じる、見分けがつかない。アメリカもドイツもどちらも正義ではない
・戦争映画の定番的な設定の換骨奪胎的使用
・通常あり得ぬ場所への黒人の挿入
・主人公は悪人である(=bastards)
・主人公は敵の本丸の中での絶対絶命的場面から大逆転で勝利する
・多くがやたら死ぬが主人公も死んでしまう