ストーリー・オブ・フィルムズ(2011年)
原題:THE STORY OF FILM: AN ODYSSEY
シナリオ:マーク・カズンズ 製作:The British Film Institute/Hopscotch Films Limited(イギリス) 2011年 62分×15回
ナレーション:ファン・ディエゴ・ボトJuan Diego Botto
感想
=星1つ。いわゆる芸術としての映画の歴史、各時代区分での有名監督を軸にした映画技法に注目した高級な芸術的な監督のみ扱う作家論であって、脚本家・俳優・製作者他は完全無視、また作品論ではない。西部劇やミュージカルなどジャンル映画にもまったく関心はなく、その社会的意味を認めない、ポルノやアニメなどの低俗、低予算、子供向け作品もまったく触れない、がその一方ウォーホル等一部の芸術映画は取り上げる根性の悪さ。また映画産業の発展、娯楽映画の趨勢とその消費のされ方、観客のあり方などはまったく触れず少しでも芸術論を離れた広く社会的意味の映画は無視。地域的広がりもアメリカを中心に欧州の作品のみを論じ、日本・インドも含めアジア等の国はほんの付け足し程度の扱いである。悪い意味でよく見かけられる映画史でありベタベタしたナレーションの声の聞きづらさと共にあまり見る意味はない。長い割に情報量もなく暇な初心者向けドキュメンタリーである。
結局各時代での編者のお気に入り監督の羅列であってなんの「映画史的意味」もあるとは思えない。そして編者の趣味内容もバラバラで有名な監督を入れ後は秘蔵っ子を少しと言った風で、あまりに駄目すぎる、即ちその選択に芸術的基準や構造、体系がなさすぎる。これは映画史ではなく「お気に入りリスト」に過ぎない。見れば見るほど不満のたまる映画史。第15回で映画の将来が「インセプション」(2010年)のようなものかも、というのは悪い冗談としか思えない。また「七人の侍」がアメリカのギャング映画の影響を受けている、というのは単に間違いだろう。編者カズンズは芸術としての映画と言っているが、チャップリンなどの娯楽映画を入れているし、実際には見た目の派手さ、いわゆる有名な映画監督に完全になびいており、その選択基準はめちゃくちゃである。
1=映画の誕生(1895〜1918)
副題: Birth of the Cinema→ごく初期の欧州の映画や記録映画
映画とは芸術、お金やマーケティングではなく
最初の映画スターや接写、特殊効果など技術論、ハリウッドへ。
2=1920年代(1918〜1928)
副題:The Hollywood Dream→サイレントのコメディ映画が米国で盛んに(欧州ではなく)
ハリウッドの成り立ちから、メジャースタジオの誕生=どのようにエンターテイメント産業へと成長していったか
チャーリー・チャップリン、バスター・キートン、ロバート・フラーティ、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、カール・セオドア・ドレイヤー
3=1920〜30年代初期(1918〜1932)
副題:The Golden Age of World Cinema→欧州でのサイレント映画及び技法論
1920年代は世界の映画にとって黄金時代
ドイツ表現派、ソヴィエトモンタージュ技法、フランス印象派・超現実派、
世界中の巨匠。小津、溝口、阮玲玉
4=1930年代
副題:The Arrival of Sound→トーキーの開始と多様化する娯楽映画
ドタバタコメディ、ギャング映画、ホラー映画、西部劇にミュージカルなど新しいタイプの映画。巨匠ハワード・ホークス、ヒッチコック、フランス人監督たち、
1939年の3つの偉大な映画、『オズの魔法使い』、『風と共に去りぬ』、『ニノチカ』
5=1940年代(1939〜1952)
副題:Post-War Cinema→プロパガンダなど戦争映画は扱わず、戦後の戦争の傷のみ
イタリアに始まり、ハリウッドに移る。
オーソン・ウェールズ、マッカーシー時代のドラマ、スタンリー・ドーネン
6=1950年代の映画(1953〜1957)
副題:Sex & Melodrama→この時代の主にメロドラマ
メロドラマ=“泣ける話”
ジェームス・ディーン、『波止場』、のことだけでなく、エジプト、インド、中国、メキシコ、イギリス、日本。サタジット・レイや、黒澤明や小津安二郎の映画で主演を務めた伝説の女優・香川京子などの独占インタビューを取り上げる。
7=1950年代後半から1960年代(1957〜1964)
副題:European New Wave→欧州の有名な監督紹介
西ヨーロッパの革新的な映画作家
イングマール・ベルイマン、ロベール・ブレッソン、ジャック・タチ、フェデリコ・フェリーニ、ピエル・パオロ・パゾリーニ
8=1950年代から1960年代(1965〜1969)
副題:New Directors, New Form→同じく欧州の有名な監督紹介
新しい映画作家たち=アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキー、ミロス・フォアマ
ン、ハスケル・ウェクスラー、ロマン・ポランスキー、アンドレイ・タルコフスキー、大島渚
アフリカの映画、インドのマニ・カウルに独占取材を行った。
9=1960年代後半〜1970年代(1967〜1979)
副題:American Cinema of the 70s→アメリカの有名な監督紹介
アメリカ映画
ベトナム戦争を経て、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ
10=1970年代(1969〜1979)
副題:Movies to Change the World→同じく欧州の有名な監督紹介
革新的映画作家
ヴィム・ヴェンダース、ケン・ラッセル、ベルナルド・ベルトルッチ。
11=1970年代
副題:The Arrival of Multiplexes and Asian Mainstream→香港映画と売れたアメリカSF映画
大衆文化の革新とアジア映画の流れ
香港映画(カンフー映画)、ボリウッド
SF映画=「スターウォーズ」、「ジョーズ」、「エクソシスト」
13=1990年代(1990〜1998)
副題: New Boundaries: World Cinema in Africa, Asia & Latin America
世界の映画は90年代に黄金時代に入った。→アッバス・キアロスタミ、塚本晋也
クレア・デニス、メキシコでの新たな映画
14=1990年代(デジタル技術=CG)
副題:New American Independents & The Digital Revolution→アメリカのCG映画
CG映画=『ジュラシック・パーク』『タイタニック』などアメリカ映画。
タランティーノ、コーエン兄弟。ヴァンホーベンが作品の風刺について。バズ・ラーマン
15=映画の未来(最終回)
副題: Cinema Today and the Future→編集者の勝手な好みと空想による映画の未来であり意味がない
9.11後にはよりシリアスになり、ルーマニア映画、夢の映画=デイヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』、ゲーム=『インセプション』。アレクサンドル・ソクーロフの革新的な映画。
『華氏911』『ボーン・スプレマシー』『アバター』『インセプション』