zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

夜明けの祈り(2016)慰安婦問題の深さ

原題:LES INNOCENTES 115分 フランス/ポーランド 公開:2017/08/05

監督:アンヌ・フォンテーヌ 原案:フィリップ・メニヤル 脚本:サブリナ・B・カリーヌ、アリス・ヴィヤル、アンヌ・フォンテーヌ、パスカル・ボニゼール 音楽:グレゴワール・エッツェル
出演:
ルー・ドゥ・ラージュ(マチルド)フランス人医師、妊娠修道女の出産・治療にあたる
アガタ・ブゼク(シスター・マリア)開放的な修道女、マチルドに助けを求める
アガタ・クレシャ(マザー・オレスカ)修道院長、最も宗教的で医師の助けを拒否する、自らも妊娠している
ヴァンサン・マケーニュ(サミュエル)フランス人医師、男性ユダヤ人、マチルドを助ける

感想

慰安婦など戦時の女性の性的被害を扱った珍しい映画、映画はそれ以外の多くのテーマを含むものだが、物語の進行を重視し十分それを語れているとは思えない。しかしそれでも賞賛すべきだろう。星3つ。
ポーランド修道院の修道女がソ連侵攻時にソ連兵により強姦され妊娠したが、宗教的醜聞を恐れ打ち明けないのをフランス人医師が助け、なんとか出産し更に生まれた子供も含めてなんとか生きていけるよう手助けする話。映画はとりあえず美談でありハッピーエンドであるので多くの観客はそれだけで満足するが、ここには本来多くのテーマがあり映画は観客にそれらを考える時間をほとんど与えない力足らずの作品である。
 可能性のあるテーマとは、1:戦時下の性暴力(強姦)はなぜおき、それをどう社会は扱うべきなのか、2:ソ連ポーランド侵攻をどう描くのか肯定的か否定的か連合国からそれはどう見えるのか、3:宗教的信念で妊娠を認めない女性にどう対処すべきか、宗教は被害者に何をしうるのか、4:修道女のポーランド社会における地位とは何か、それは姥捨てなのか、5:妊娠女性など性的被害女性への社会のあり方、妊娠修道女をポーランド社会はどう扱ったか、6:戦時期の孤児を社会はどう扱うべきなのか、
 1:映画は戦後早期のポーランドが舞台だが、その時点でも地域をソ連軍が占領しており、修道院も又フランス人医師マチルドもソ連兵から強姦される危機が映画では描かれる、しかしそれは単に出来事として話は進み、映画は意味づけや問題提起の機能を果たしていない。2:地域と修道院にとってソ連軍はドイツ軍からの解放を行う救世主と言えるし、その後の戦後に続く専制的な圧制者とも言える。映画はそれにはほとんど触れていない。3:修道院長は十分理知的であるのに、自ら性病で苦しんでいるのに宗教的理由で治療を拒否する。やがて治療を受け入れが、なぜ修道院長が変わったか、どう変わったかは全然描かれていない。またそれは実質的には4以降に関わる事かもしれないが、そうと気づかせるだけの丁寧な描写にはなっていない。4&5:修道女が妊娠して困っているのに関わらず地域社会に助けを求めないのは、修道院が不要な女性の捨て場所になっているのが一因と映画はあかす。地域社会にとって修道女は貞節であらねばならずそれを破れば食料などの援助が打ち切られる恐れがある。こうした問題をもっと描いてもよかったのではないのか。6:修道女が出産した子供を修道院におけば修道女の出産という宗教的醜聞がばれる、この為修道院で孤児院を開くことでこれを誤魔化すというのがマチルダらの解決策だが、同時にそこには様々なポーランドの戦争孤児が来たはずだ、更に地域社会は修道女の妊娠に当然きづくだろう、その問題に触れてもよかったのではないか。
 映画はともかく話が進み、かえって説話上の障害はマチルダがフランス医師団長に秘密で援助していたため、いつばれて打ち切りになるのではという本質的でない方向に観客の関心は行きかねない展開だった。それもまあ同僚医師が手助けして事なきを得て話は進むのだった。難しいテーマだが少なくとも3(宗教的醜聞をどう解決するか)だけはもっと丁寧に描くべきだったのではないだろうか。