zames_makiのブログ

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福島で多発している甲状腺ガンは原発事故のせいなのか?

2011年3月11日発生した福島原発事故で日本人の多くが被爆した。その被爆量は特に福島県民が多く被爆による健康被害(ガンの発生)が心配された。このため国+県により福島県民全体を対象に健康調査が行われ、特にチェルノブイリでも観測された子どもの甲状腺ガンを念頭に、18才以下の子どもについて甲状腺検査がおこなわれ、2014年8月24日にほぼ一巡(一応全体への検査が行われ)し結果が出た*1
 その結果18才以下の福島県約36万人に対し、103人に甲状腺ガンが発見され、既に58人が手術を受けた。(1例が良性、2例に肺への転移があった)。甲状腺ガンの発生割合は100万人に5人であるので、16倍から40倍程度”多く”ガンが発生した事になる。これは明らかに原発による被爆で日本人にガンが発生したと解釈するのが普通であり、それが科学だ
(反論部分の根幹は津田敏秀氏(岡山大・生命科学)の雑誌「科学」掲載論文や11月24日の市民科学者国際会議*2での発言による。参照論文は最下段参照)
 
 しかし、この結果に対して、福島県の委員会*3も、国の専門家委員会*4も「あれは原発のせいではない」として片付けようとしている。また現状まで朝日新聞その他のほぼ全ての大手メディアは、国の欺瞞に満ちた見解をそのまま放置し、結果としてその宣伝を行っている。
 現在も原子力ムラと政府そして社会全体の、放射能が怖いから放射能の被害はなかったことにしようという自己欺瞞が続いているという事だ。

 
ここで福島県民以外の日本人にも大事な事は

  • 甲状腺ガンは子どもにだけ発生するものではなく、比率は低いが大人にも発生する。
  • 甲状腺以外のガンもどんなに低線量であろうと、その被爆量に応じて発生すると考えられる。(LNTモデルと呼ばれ、ICRPも国の行政もこの考え方に従っている。復興疔のパンフ「放射線についての正しい知識を」で最下段に書かれているような「100mSv以下では放射線による健康被害は不明」ではなく、多くの放射線影響を示す多くの論文が存在する。)、
  • そして放射能は県境で止まるわけではなく、東北、関東そして日本全体にその距離や拡散時の方向に応じて存在する。すなわち日本人全体が福島原発事故被爆している。

 今も私たちは原発事故の影響のさなかにあり、御用学者や役人や国は、それに正しく対処しようとする事を「意図的に避けている」。恐ろしい事だ。

甲状腺ガンは原発のせいではないという御用学者の主張

環境省東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の長瀧委員長の主張)
会議の構成=http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01.html
主張(報告書案)=http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-13/mat01.pdf


鄯)今回の原発事故後の住民における甲状腺の被ばく線量は、チェルノブイリ事故後の線量よりも低いから原発のせいではない
→反論:「ある線量より以下では甲状腺ガンが発生しない」という知見はない、100mSvでも放射線によりガンが発生することは多くの論文により報告されている。LNTモデルを取る以上被爆線量の低さは原発事故のせいではないと判断する根拠にはならないだろう。


鄱)チェルノブイリ事故で甲状腺がんの増加が報告されたのは事故から 4〜5 年後のことであり、今回福島の検査で甲状腺がんが認められた時期(原発事故後約 3 年)とは異なるから、これは原発によるものではない
→反論:委員会はこれ以上は甲状腺ガンは増えないと断定しているように見える。チェルノブイリでは1〜3年に甲状腺ガン発生が見られ、4年以降には更に10倍近くが多発した。素直にチェルノブイリでの甲状腺ガン発生状況と比べれば、事故後4年に入る2014年以降福島で甲状腺ガンが10倍程度今よりもより多発すると考えられる。


鄴)チェルノブイリ事故で甲状腺がんの増加が報告されたのは主に事故時に乳幼児であった子どもであり、今回福島の検査で甲状腺がんが認められた年齢層(主として 15 歳以上)とは異なること
→反論:詳細不明、上記に共通するがチェルノブイリで起きた事と違えば絶対に原発のせいではないという見方であり馬鹿げている。類似だが違う現象がおきた可能性を考えるの普通である。否定せんがための枝葉末節の言い訳だろう。


鄽)一次検査の結果は、対象とした母集団の数は少ないものの三県調査の結果と比較して大きく異なるものではなかったこと
→反論:不明、「大きく異なっていない」という評価がなぜ出るのか不明


全体反論:そもそもガン自体を調べてもその発生原因が何かを判断できない。原発被爆労働した人に甲状腺ガンが発生しても、それ自体では原因が何か評価できないのが現状だ。でも普通発生しない甲状腺ガンが多量の被爆の後に「多くの人」に発生すれば、原発被爆が原因と考えるのが科学だ。科学は常に因果関係をそうした関係性で判断している。そうした科学の前提を考えれば、2つの現象がある程度相関を持って起きた時、絶対無関係であるという証明自体が難しい。福島の甲状腺ガンを原発事故のせいではないと言える根拠はほとんどないだろう。

津田敏秀氏(岡山大・医学・疫学)論文

  • 2014年8月24日福島県「県民健康調査」検討委員会発表分データによる甲状腺検診分のまとめ 雑誌「科学」(岩波書店)2014年10月=純粋なデータまとめ
  • 現実の事態を直視せず文献を無視しようとする専門家会議 雑誌「科学」(岩波書店)2014年9月=国の専門家会議への批判「欠けているのは現に今健康被害が出ている事態への対処であるという視点だ」など、津田氏の国の第8回専門家会議での出席を受けて
  • 100mSvをめぐって繰り返される誤解を招く表現 雑誌「科学」(岩波書店)2014年5月=100mSv以下ではガンは発生しないとする専門家への決定的な批判、対象=松浦詳二郎(元原子力安全委員会)、復興疔パンフなど、放射線とその影響への基本的科学が述べられている
  • 福島原発事故後の原点をふりかえる 雑誌「科学」(岩波書店)2013年12月=福島での甲状腺ガン発生に関する全体的見方
  • 100mSv以下の発がんに関する誤読集 雑誌「科学」(岩波書店)2013年12月=ICRP2007やWHO2011年報告をガンは起きない根拠とする事の否定、どのような誤読かの解説
  • チェルノブイリ甲状腺ガンの歴史と教訓 雑誌「科学」(岩波書店)2013年12月
  • 学情報の科学的条件-100mSvをめぐる言説の誤解を解く 雑誌「科学」(岩波書店)2013年11月=中川恵一(東大)への批判、医者の科学的思考の足りなさ

*1:第16回福島県「県民健康調査」検討委員会 資料の掲載について(平成26年8月24日開催)http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-16-siryo.html

*2:http://csrp.jp/symposium2014/live_stream

*3:「県民健康調査」検討委員会

*4:東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議