zames_makiのブログ

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黄色いからす(1957)引き揚げ者

=戦後9年間の家族の苦労を子供の問題から描く

感想

子供と父親との不仲が直接のテーマだが、母親は「戦後9年間の苦労」と言っており、製作者には戦後の多くの日本人の苦労を反映させていたと推測できる。母親は父親の帰還で戦後の様々な苦労がやっと救われて幸せになれると思っていたが、ないがしろにされた子供が問題をおこし、まだ戦後の苦労が終わっていなかった&あるいは苦労を回想した、と観客は思われる。
 戦時中に生まれた子供が中国から帰還した父親になつかず、母親に自分をかまってくれと嫉妬する。その現れに黒と黄色の大仏像を描き、黄色いカラスを描く。父親は人民服で帰還しており、撫順戦犯管理所からの帰還と想像される、出迎えはかなり賑やかだ。父親は元の会社に復帰するが、海外相手の商社の商慣習が変わっている課長からないがしろにされるなど苦労と危機が描かれる。だがそもそも社会復帰できない、あるいは公安警察から共産主義者として監視され、職につけないなどの設定にはなっていない。
 子供心理描写が丁寧で、二度の離反劇があり、親たちが再度子供を許し優しくするのが結末だが、子供が真面目に描かれており親子の情愛に涙をさそう。優しい主題と描き方が、映画製作会社ではない製作母体の性格が反映されているように思われる。
 出演者全てまあまあの演技であり特筆すべき良い点・欠点はない。田中絹代演じる隣家の女主人はおそらく未亡人であり、漆器製作の大本として経済的に独立し、寂しさから戦災孤児を養子にもらっていると思われるがそうした台詞はまったくなく(田中の子供が「私にも妹を産んで」と無邪気にねだるシーンでのほんの少し慌てた様子がある)、上品で親切な隣人をうまく演じている。
 ラストエピソードで子供が先生を追ってバスで出かけるシーンでは、台詞ではまったく説明がないだ、先生からもらったオルゴールを抱え、先生が乗って行ったバスに乗る事でうまく表現されている。
 まとめ=子供心理分析という「時代」的関心と、戦後の苦労の回想&喚起と、親子の情愛をかけて作られた良作。



(104分・35mm・カラー)
五所平之助の初カラー作品。戦地から引き揚げてきた父親とうまく交流できない息子の描いた絵を通して、戦後の家族像を浮かび上がらせた名篇。タイトル通り、黄色いからすが物語の中で重要な役割を果たしている。
'57(歌舞伎座)(監)五所平之助(脚)館岡謙之助、長谷部慶治(撮)宮島義勇(美)久保一雄(音)芥川也寸志(出)淡島千景伊藤雄之助、設樂幸嗣、田中絹代久我美子多々良純沼田曜一飯田蝶子中村是好、郄原駿雄、島田屯

上映 NFC

4/27(日) 1:00pm 5/22(木) 3:00pm