zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

風立ちぬ(2013)戦争アニメ、宮崎駿の戦争への態度

=愛国エンタメか、反戦アニメか、沈黙型日本愛国賞賛アニメか?
感想(2013/7/10記録)=今日は日テレで3時間の特番、すごい宣伝だ。また文藝春秋には宮崎駿半藤一利の対談も掲載。宣伝映像では物語はまったく不明だが、宣伝イメージは、「零戦設計者であるオタク若者の青春」か?主人公の好きな零戦が兵器であることや、主人公と戦争の関係は後景に追いやられ、『好きなことをやって成功するのは戦争でも良いこと』という愛国エンタメに通じる自己成就と日本への貢献(=愛国心)を兼ねる内容と想像される。堀辰雄の要素はそれをオブラートにくるための騙しの手段に見える。しかし宮崎のように戦争を知る人間であれば主人公堀越の戦争への責任を描かないこと自体がとんでもない事実隠ぺいであり戦争賞賛であり、描けば反戦的な内容にならざるを得ないのをよく知っているだろう。その上で何をしてくるのだろうか?何にせよ想像される物語は以下になろう。


推定される物語「幼い時から純粋に飛行機が好きの主人公は、東大を首席で出て、夢の飛行機設計者になる。夢中の日々、そして女性との出会い。初の試作機の失敗や軽井沢での女性との淡い恋愛を経て、主人公は成長し、やがて優秀な飛行機を設計し皆から賞賛される、同時に結婚へとゴール。設計した零戦は中国戦線でその優秀さを証明し、主人公は次の戦闘機への設計にとりかかる。やがて太平洋戦争の開始、主人公の真摯な飛行機への愛情や家族を大事にする思いとは裏腹に、社会状況は悪化し、零戦の多くが撃墜され搭乗員が死に、零戦特攻機に使われ、主人公の作った飛行機による死者がさらに顕在化する。主人公は飛行機への無邪気なな愛とそれが作った陰惨な状況という差に打ちのめされる。多くの悲惨な死の場面の芸術的描写の場面で場内は感動の嵐に巻き込まれ、出てきた観客は一様に『感動した』と語る(何にどう感動したか不明だが)。さらに物語は続く、『しかし主人公は・・・』」


「しかし・・・」以降の描き方で、3つに分かれる、(1)愛国エンタメ=しかし主人公はできる限りの事はした、それ自体は良いことだと認識する、そして戦後となり映画は主人公がYS11の設計で頑張る姿を強調し、良かったのだ!として終わる。零戦による死と設計者のそれへの責任感との切り離しが特徴でこうした健忘症は安倍晋三と同じで「都合の悪いことは忘れる」にある。(2)反戦アニメ=戦局の悪化で、主人公は自分が戦争に積極的に荷担していた事、自分の仕事が戦争を強く推進する役割だった事に気づき、自分の責任を深く反省する。モノローグで観念的な描写、あるいは印象的に特攻隊などの多くの死者の映像で描く、結果として強く戦争拒否をイメージづけて終わる。兵器製造と戦争との関係を直線的に結びつけるのが特徴。(3)沈黙して何も言わない形の愛国賞賛=戦争の経緯をただ示すだけで何も描写しない。あるいは零戦特攻機への使用の報道あたりからいきなり終戦場面に飛ばしてしまう。主人公が何だか知らないが悩むシーンを入れ、やがて沈黙のうちに決然と再び仕事に打ち込むようになる。主人公の戦争への荷担やそれの責任を映像的にも台詞的にも沈黙することで、作品のテーマ自体を視聴者の解釈に任せ、作品としてのメッセージ提示責任を放棄する(あるいは意図的に避ける)。宮崎の場合『戦争は好きじゃないけど飛行機は好き』という免罪符に使われ、無垢で無知な多くの観客の賞賛を受け、一部メディアはこれは反戦アニメだと賞賛し、一部右翼メディアは本当は愛国アニメだとする。

参考:鈴木敏夫プロデューサー談(東京新聞2013年5月9日)抜粋

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/kenpouto/list/CK2013050902000173.html

 でも、僕は食い下がった。宮崎駿は一九四一(昭和十六)年生まれ。子どものころは戦争中。だから、宮さんの言葉を借りれば、物心ついたときに絵を描くとなると、戦闘機ばかり。でも、一方では大人になって反戦デモにも参加する。相矛盾ですよね。もしかしたら、それは彼だけの問題じゃなく、日本人全体が、どこかでそういう矛盾を抱えているんじゃないか。
 まんが雑誌とかで、戦争に関係するものをいっぱい知っているわけですよ。戦闘機はどうした、軍艦はどうした、とか。でも思想的には、戦争は良くないと思っている。 その矛盾に対する自分の答えを、宮崎駿はそろそろ出すべきなんじゃないか。僕はそう思った。年も年だし。これはやっておくべきじゃないか、と。

 日本が起こした戦争をどう描くかによって、将来の日本のビジョンが見えてくる。今回、宮さんらしいなと思ったのが、国のためにいろいろやった人を描くんじゃない、というところ。それは、どの作品でも一貫していると思います。

だから日本が世界にアピールするとしたら、九条ですよね。これだけの平和は、九条がなければあり得なかったわけですから。僕はあってよかったって立場だし、たぶん宮さんもそうなんじゃないかと思います。

制作:スタジオジブリ 126分 日本 配給:東宝 公開:2013/07/20
監督・原作・脚本:宮崎駿 プロデューサー:鈴木敏夫 参考原作:モデルグラフィックス連載漫画(宮崎駿) 音楽:久石譲 主題歌:荒井由実ひこうき雲
声の出演:
庵野秀明堀越二郎:主人公、零戦設計者、また堀辰雄の登場人物と重ね合わされている)
瀧本美織(里見菜穂子:その恋人?)
ティーブン・アルパート(カストルプ:飛行機制作者)
野村萬斎(カプローニ:飛行機乗り)
【解説】宮崎駿が月刊模型雑誌「モデルグラフィックス」に連載していた漫画を自らアニメ映画化。零戦こと零式艦上戦闘機の設計者として知られる堀越二郎の半生を、堀辰雄の小説『風立ちぬ』のエピソードを盛り込みながら描く。http://www.kazetachinu.jp/