普天間基地が不要な理由。新聞の語らぬ沖縄海兵隊撤退論
普天間基地はどうすればいいのだろう?答えがあった。【INSIDER No.528《YEAR 2010》2010年の世界と日本・その2─日米安保条約、次の50年?】には、普天間基地移設問題に関する高野猛氏の貴重な問題提起がある、沖縄海兵隊の軍事的必要性には大変な疑問がもたれ、1996年には多くの撤退論が日米の軍事専門家から出ていた。高野氏は1996年の自身の記事をふりかえりつつ2010年の今の疑問として問題提起している。以下はそれへ答える私の試みであり普天間基地が移設どころか不要である理由だ。この不要との論は朝日新聞なども認識しているが日本の大新聞はなぜか書かない、彼らはこの点ではまるでアメリカの手先のようだ、それが普天間基地移設問題を解決する鍵なのに…。
1996年の沖縄海兵隊撤退論
以下で私が回答する上で依拠している1996年の沖縄海兵隊撤退論の内容は、直接には以下の3つの文献によっている。それぞれの文献が多くの文献(特に撤退論)を引用しており、沖縄海兵隊の必要性を考える上で大変参考になる。
- ◆沖縄海兵隊はなぜ必要か・軍事的側面の検討 山口昇 1996.12.8(原典:Restructing the U.S.-Japan alliance:Toward a more equal partnership, Center for Strategic and International Studies, Ralph A. Cossa(編集), 1997 )HPにて翻訳掲載=http://www.rosenet.ne.jp/~nb3hoshu/yamagutikaihei.html =自衛隊陸将補による残留論
- ◆海兵隊沖繩駐留論の再検討 植村秀樹 流通經濟大學論集 34(4), pp39-53, 2000=撤退論、山口昇氏の残留論を詳細に批判している又2000年までの撤退論の概観を行っている。著書に『自衛隊は誰のものか』(講談社現代新書)。論文はpdfで閲覧可能=http://nels.nii.ac.jp/els/110007188306.pdf?id=ART0009147722&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1263634348&cp=
- ◆陸上自衛隊「島嶼専門即応部隊」の沖縄移駐の可能性 : 在沖縄海兵隊撤退後の抑止論とセキュリティ・ディレンマ 藤中寛之 沖縄大学地域研究所所報 28, pp79-92, 2003 =撤退論、山口昇×植村秀樹の議論を踏まえ、更に撤退は抑止力をそこなうとの反論への批判。その点では透徹した撤退論と言える。抑止力というもやもやしたものを議論する上で参考になる。pdfで閲覧可能=http://nels.nii.ac.jp/els/110000485477.pdf?id=ART0000875941&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1263634380&cp=
高野猛氏の普天間基地に関する問題提起
以下は【INSIDER No.528《YEAR 2010》2010年の世界と日本・その2─日米安保条約、次の50年?】より冒頭部分を抜粋し要旨を示す、続いて高野氏の示した各設問に対し筆者が答える。
(略)これを機に21世紀的な日米関係と安保協力のあり方について全面的な見直しを始めるのが妥当だろう。普天間海兵隊ヘリ基地の移転問題の見直しは、そのための絶好の入り口と言える。(略)
日本としては、あくまで在沖海兵隊のグアム全面移転の可能性を探究すべきで、鳩山が26日のラジオ収録で「抑止力の観点からみて、グアムにすべて普天間を移設させることは無理があるのではないか」と述べたのは、全く余計なことだった。
(略)現行案とは、第3海兵遠征軍の本隊である第3海兵師団約8000人(と言っても実は米本土から6カ月交替で訓練のため送り込まれてくる部隊の定員枠)と併せて、主要な司令部機能(遠征軍と師団の司令部、普天間のヘリと岩国の戦闘機を動かす第1海兵航空団の司令部、砲兵連隊と後方群の司令部を含む)をグアムに移転する一方、第31海兵遠征隊を中心とする約5000人を引き続き沖縄に残し、その部隊が使用するヘリ部隊の発着のために普天間に代替する新基地を辺野古に建設するというものである。
そこで日本として順番に米国に問うべきことは......、
《問1》米軍内部の海兵隊撤退論は終わったのか?
冷戦終結後(1996年)に米軍内部で「海兵隊廃止」論が高まったことがあったが、この議論はすでに消滅し、近い将来に渡って再燃することはないのか。海兵隊そのものが不要ということになるのであれば、これから5〜10年の年月と1兆円にも上ろうかという費用をかけて新基地を建設すること自体が意味のないことになる。
私の答え:1996年の海兵隊撤退論を散見すると軍事的合理性からは沖縄に海兵隊がある理由はない。有事の際の実行力としても、抑止力としてのプレゼンスとしても意味はない、というのが1996年の撤退論の軸であったと思う。それが残留してしまったのは(A)日本側が在日米軍を削減する機会をまったく生かさず、米国に削減検討を要請しなかったため、(B)米国内の政治で海兵隊の政治力が強く、軍事的合理性からではなく政治的力学により残留したからであったように思える。2010年の今も、海兵隊の軍事能力など議論の前提に大きな変化はなく海兵隊撤退論は有効であり、日本側から米国に削減を要請し協議する事は可能だろう。そうした背景を踏まえて普天間基地の移設も協議するべきだ。
《問2》敵前上陸強襲作戦を行う海兵隊は時代遅れではないのか?
仮に海兵隊は存続するとして、主として「第2次朝鮮戦争」とも言うべき大規模陸上戦闘が起きた場合に水陸両用で敵前上陸強襲作戦を敢行することを想定して沖縄にこう移築してきた「前方配備=緊急展開」態勢は、朝鮮半島の緊張緩和の流れを含むこの地域の戦略環境の変化と、米軍の遠隔投入能力の飛躍的向上を考えると、もはや時代遅れなのではないか。
私の答え:1996年の海兵隊撤退論の中でも海兵隊の敵前上陸強襲作戦は時代遅れで使用する機会はない(朝鮮戦争以来行われていない)と批判されている点であり、米軍の遠隔投入能力の向上でますます海兵隊を沖縄におく必要性は低下していると思われる。もし第2次朝鮮戦争がおきても米軍が主力とするのは大規模な陸軍兵力であり航空兵力であって、大きな米兵損失率が見込まれる敵前上陸強襲作戦は行われない可能性が大きい。米軍はイラクなどと同じく圧倒的大兵力で正面から押し込みそのまま勝利すると予想するのが双方の軍事バランスから考えれば妥当だろう。もしなんらかの原因で米軍が劣勢に陥ったとしても、北朝鮮軍の背後をつくため打開策としての敵前上陸強襲作戦を必要とする可能性は非常に少ないのではないか。その場合はより大規模な航空兵力で遠隔爆撃を行う(北爆のように)のではないか?
《問3》台湾有事の際に沖縄海兵隊は必要なのか?
朝鮮戦争の可能性が限りなくゼロに近づいたとは言っても、台湾有事の可能性はまだ残ると言う人がいるが、仮にそうだとしても、台湾海峡危機の際には、米第7艦隊が介入することはあったとしても、海兵隊が陸上戦闘に加わるというシナリオはあり得ないのではないか。
私の答え:現在沖縄に配置されている31MEU(第31遠征隊)は少数・火力小であり有事の際には米国人の救出などが主要任務と軍事専門家から推測されている。米国本土から大規模な海兵隊部隊を緊急配備するにしても、同じく兵力を輸送する陸軍などと輸送機を奪い合う関係になる訳で海兵隊投入の有効性(軍事的効率性)を問われる。結局上記第2次朝鮮戦争の場合と同じ理由で、大規模戦争では海兵隊は主要な兵力と考えにくい。したがって台湾有事の際にも海兵隊が陸上戦闘に加わるという可能性は低いのではないだろうか。少なくとも現在沖縄に駐留している第31遠征隊は台湾有事がおこっても戦闘では必要とされないのではないか。
《問4》在外米人救出作戦を行う第31遠征隊は沖縄よりグァムの方がいいのでは?
朝鮮有事も台湾有事もほとんどありえないとしても、特に第31遠征隊には対テロ作戦や在外米人救出作戦の機能もあるので駐留は必要だと言う人がいるが、そのような事態は北東アジアだけでなく東南アジアでも起こりえて、東南アジアの場合には沖縄にいるよりもグアムにいるほうが近くて便利ではないのか。
私の答え:東南アジアへの近接性では沖縄の方が上ではないだろうか?しかしそれ以前に今は揚陸艦が九州(佐世保)、ヘリコプターが沖縄(普天間)に分散配置されこれが合流するための時間的遅れがあり、それらを一緒にしてグァムに配置することは現状を改善する点では有効ではないだろうか?問5と関わる。
《問5》日本に海兵隊を分散配置するよりグァムに一括配置してはいけないのか?
仮に、それでもいいから沖縄に駐留したいという場合に、陸上部隊とヘリ部隊は沖縄に、戦闘機と空中空輸機は岩国に、ヘリ空母艦隊は佐世保にバラバラに分かれていて、しかも本隊司令部はグアムにあるという4個所分散配置は運用上不便ではないか。全部をグアムに統合配置する方がかえって即応力は高まるのではないか。
私の答え:分散配置は軍事的には非合理的だろう。第31遠征隊は出動するには(3日かけて?)佐世保から揚陸艦を回航せねばならず、有事に即応する上で大変不利だろう。第31遠征隊の揚陸艦・陸上部隊・ヘリコプターを近接配置し、かつ紛争想定地域に近い場所におくのが、軍事的には合理的な答えになると思われる。海兵隊がその兵力規模を政治的に維持してきたのを考慮すればその規模を減らさぬ事を前提にすれば全部隊のグァムへの移転は米国側にとっても好意的に迎えられるのではないか?
《問6》沖縄海兵隊(31MEU)をなくすと抑止力は低下するのか?
それでもなお第31遠征隊(31MEU)を沖縄に残すとして、それは、既得権益の維持という惰性のためでないとすれば、何のためなのか。「抑止力」のためだと言う人がいて、鳩山もコロリそれに乗せられたりしているけれども、誰の何の意図にたいする抑止力なのかを明らかにすることなくその言葉をオマジナイのように唱えて済むような時代は終わったのではないか。
私の答え:1996年の撤退論の中でも抑止力について議論されている。植村秀樹(流通経済大)は少数で実効性のない第31遠征隊が削減される事で相手側が「抑止力が減った」と認識する訳がないとしている。なぜならそうした判断は軍事力の実効性を判断せず単に頭数で数えるBean Countingでありそれは低劣な思考であり、相手側がそんな低劣な思考をするならそもそも高度な想像力を必要とする抑止力は働きようがないとしている。要は米国第7艦隊など全体として米軍の沖縄でのプレゼンスは大きいのであり、少数で限定的能力しかない第31遠征隊がなくなっても抑止力が減るとは相手は考えない、と日米側としては考えるのが当たり前だろう。