zames_makiのブログ

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セントアンナの奇跡(2008)

原題:MIRACLE AT ST. ANNA アメリカ  初公開年月 2009/07/25
監督:スパイク・リー 原作:ジェームズ・マクブライド 脚本:ジェームズ・マクブライド
出演: デレク・ルーク 、マイケル・イーリー 、ラズ・アロンソ 、オマー・ベンソン・ミラー 、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ 、ヴァレンティナ・チェルヴィ 、ジョン・タートゥーロ
第2次大戦中のアメリカ軍の黒人兵
http://www.stanna-kiseki.jp/

ワーナーマイカル大宮 10/3〜10/9
9:45〜12:45、12:55〜15:55、16:05〜19:05

読売新聞 映画評(2009年7月24日)

セントアンナの奇跡」 (米・伊)人種超えるきずな
 第2次世界大戦時にイタリアの最前線に送り込まれた米軍の黒人部隊、バッファロー・ソルジャーの物語を題材に、人種や敵味方の区別、そして時空をも超えて結ばれる人々のきずなを描き出す。監督のスパイク・リーは、1986年のデビュー以来、黒人である自分の視点で黒人社会の実情を描くことに強いこだわりを見せてきた。人種間対立を描く「ドゥ・ザ・ライト・シング」、ジャズを題材にした「モ’・ベター・ブルース」、黒人解放運動指導者の激烈な伝記「マルコムX」。その仕事は、ハリウッドが白人の視点で描いてきた黒人像への異議申し立てとなり、同胞たちに覚醒を促す呼びかけとなり、ブラック・カルチャーの魅力や本質を広く知らしめる窓にもなった。

 もっとも、時を経るに従って、そうした特質を持つスパイク・リー印の映画の衝撃度は薄れた。マイケル・ジャクソンの音楽が肌の色を超えて親しまれることすら革新的だった80年代は今や昔。21世紀の米国には、ヒップホップを当たり前に聴く白人の若者や、初の黒人大統領、バラク・オバマが存在する。実質はともかく目に見える融和が進んだ分、監督が同胞たちのスポークスマン兼アジテーターになる意味はわかりにくくなったともいえる。そんな流れと呼応するように、リー監督は、90年代末から主題を黒人社会の外にも広げてきた。この作品は久々に黒人の歴史に光を当てた劇映画だが、単なる先祖返りではない。

 話の核となる4人の黒人兵は、イタリア人少年を助けたために部隊とはぐれ、ある村にたどりつく。村民には人種偏見はなく、4人はつかの間の平和を味わうが、不義な者たちの存在によって村はナチスによる大虐殺の犠牲に。だが、そこである奇跡が起こる。物語は一人の男の回想という形で進む。監督の大きな目的の一つは、もちろん、同胞の過去の苦闘を伝えるということだったろう。だが、最も際だった特徴は、人種も言語も異なる人々が結ぶきずなに、これまでのスパイク・リー作品にないほど堂々と希望が託されていることだ。米国社会の空気が変化する中で、監督がそれを実感できるようになった、ということなのかもしれない。

 むちゃな展開も少なくないが、間違いなく今の時代の気分を現出させた興味深い映画だ。2時間43分。新宿テアトルタイムズスクエアなど。(恩田泰子)