zames_makiのブログ

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沈黙を破る(2009)土井敏邦

ドキュメンタリー映画 130分 日本 製作・配給:シグロ 
公開:ポレポレ東中野 初公開年月 2009/05/02
監督・撮影・編集:土井敏邦 編集:秦岳志
特別協力: バラータ難民キャンプの皆さん、ジェニン難民キャンプの皆さん 、臼杵陽、工藤正司、小島浩介、ジャン・ユンカーマン徐京植、土井幸美、野田正彰、パッソパッソ
製作協力:「土井敏邦 パレスチナ記録の会」支援者の皆さん
http://www.cine.co.jp/chinmoku/

ロードショー公開:ポレポレ東中野
・当日料金 1,500円
・上映時間 12:50〜/15:30〜/18:30〜 ・自由席・各回定員入替制 ・ゲスト講演あり(各日15:30の回)
5月3日(日) ジャン・ユンカーマンさん(映画監督)
5月6日(水) 渡辺えりさん(女優)
5月10日(日) 柳澤秀夫さん(NHK解説委員)
5月16日(土) 岡崎美佳さんによる音楽パフォーマンス
5月17日(日) 綿井健陽さん(ビデオジャーナリスト)
5月24日(日) 佐藤忠男さん(映画評論家)


解説:パレスチナイスラエル―“占領・侵略”の本質を重層的に描く
2002年春、イスラエル軍ヨルダン川西岸への侵攻作戦のなかで起こったバラータ難民キャンプ包囲とジェニン難民キャンプ侵攻。カメラは、2週間にも及ぶイスラエル軍の包囲、破壊と殺戮にさらされるパレスチナの人びとの生活を記録する。同じ頃、イスラエルの元将兵だった青年たちがテルアビブで写真展を開く。「沈黙を破る」と名づけられた写真展は、“世界一道徳的”な軍隊として占領地に送られた元兵士たちが、自らの加害行為を告白するものだった。占領地で絶対的な権力を手にし、次第に人間性や倫理、道徳心を失い、“怪物”となっていった若者たち。彼らは、自らの人間性の回復を求めつつ、占領によって病んでいく祖国イスラエルの蘇生へと考えを深め、声を上げたのだ。監督は、ジャーナリストとして20数年にわたりパレスチナイスラエルを取材してきた土井敏邦。数百時間にも及ぶ映像を、長編ドキュメンタリー映画として完成させた本作では、イスラエル軍パレスチナ人住民にもたらした被害の実態と共に、“占領”という“構造的な暴力”の構図を、人びとの生活を通して描き出している。時に絶望的に見える抑圧をしたたかに生き抜くパレスチナの人びと、そして、「祖国への裏切り」という非難に耐えながらも発言を続けるユダヤ人の若者たちの肉声は、「パレスチナイスラエル問題」という枠を越え、人間の普遍的なテーマに重層的に迫る。

監督プロフィール:土井敏邦(ジャーナリスト)
1953年、佐賀県生まれ。1985年よりパレスチナイスラエルの問題にかかわる。17年間にわたって映像による取材を続け、「パレスチナ記録の会」とともに、2009年、『届かぬ声―占領と生きる人びとー』全4部作を完成させる。ドキュメンタリー映画『沈黙を破る』は、その4部にあたる。 ドキュメンタリー映像『ファルージャ 2004年4月』のほか、NHKや民放で数多くのドキュメンタリー番組も手掛けている。主な著書に『占領と民衆―パレスチナ』(晩聲社)、『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』、『沈黙を破る―元イスラエル軍将兵が語る“占領”』(いずれも岩波書店)、『米軍はイラクで何をしたのか』『パレスチナ ジェニンの人々は語る』(いずれも岩波ブックレット)など多数。

『届かぬ声ーパレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作 監督:土井敏邦

2009年5月23日(土)よりポレポレ東中野にて
『沈黙を破る』は、長編ドキュメンタリー映像シリーズ「届かぬ声―パレスチナの占領と民衆―」4部作の第4部に当たる作品です。本シリーズは、1993年以降、土井監督が17年間に渡って撮影した数百時間に及ぶ映像をもとに構成されています。

◆第1部『ガザ―「和平合意」はなぜ崩壊したのか―』
1993年の「和平合意」が、パレスチナ人住民の真の平和につながらなかった現実とその原因を、ガザ地区最大の難民キャンプ・ジャバリアに住むある家族の6年間の生活を通して描く。

◆第2部『侵蝕―イスラエル化されるパレスチナ―』
家屋を破壊され居住権を奪われるエルサレムパレスチナ人住民たち、“分離壁”によって土地と資源を侵蝕され、国家建設の基盤を失っていく人びとの現実とその苦悩を描いている。

◆第3部『2つの“平和”―自爆と対話―』
自爆攻撃に走ったパレスチナ人青年の遺族の証言、自爆テロの犠牲となった少女の両親や、生還した女性兵士と家族の「平和」観を通して、対話を試みるイスラエル人・パレスチナ人双方の “平和観の断層”を描く。

以上の3作で伝えた“占領”の実態が、“占領する側”であるイスラエルの若者たちにどんな影響を及ぼしていくのかを描いたのが、第4部に当たる本編『沈黙を破る』です。『沈黙を破る』劇場公開に併せて、前3作がポレポレ東中野にて特別公開されます。

映画紹介記事(読売新聞2009年5月1日)

「楽しみのため 車踏みつぶした」:ヨルダン川西岸地区などでの占領任務にあたった元イスラエル軍兵士たちの証言を、ジャーナリスト土井敏邦さん(56)が記録した映画が、2日から中野区で上映される。武力を背景とした権力が兵士自身の人間性をも破壊する実態が赤裸々に語られている。(杉野謙太郎)

 映画のタイトル「沈黙を破る」は、イスラエル国内でパレスチナに対する占領政策の実態を告白している元兵士たちのグループ名でもある。作品は130分で、元兵士4人にインタビューを行ったほか、パレスチナ住民らにも取材。イスラエル軍の攻撃により家族を失った人や、破壊された家のがれきの山を掘り続ける男性の姿が印象的だ。

 土井さんは学生時代にイスラエルキブツ(集団農場)で暮らしたことをきっかけに、20年以上、パレスチナ問題を取材してきた。「ガザ―『和平合意』はなぜ崩壊したのか―」などの映像作品や、「パレスチナの声、イスラエルの声」「アメリカのユダヤ人」などの著作がある。現地取材では、イスラエル兵士が住民を射殺したり、大勢が乗ったバスを検問で止めたりする場面を何度も見た。「権力に酔っている」と怒りを感じ、兵士の肉声を聞きたいと思ってきたという。

 「占領地で装甲輸送車でパレスチナ人の車を踏みつぶして走っていました。単に楽しみのためです。そんな私が、休暇に通常の運転ができると思いますか」。作中で元兵士は問いかける。「兵士は暴力や憎悪、恐怖心や被害妄想を抱えたまま、占領地から市民社会へ戻ってくる」

 土井さんは「20代半ばの元兵士たちの内省的な言葉に驚いた。占領は人間をどう変えるのか。人間のさがを考えてもらえたら」。中野区東中野4のポレポレ東中野で。当日1500円。

映画紹介記事(読売新聞 2009年5月1日)

http://otona.yomiuri.co.jp/pleasure/movie/090501.htm?from=yoltop

イスラエル兵が語る「人を殺めることに慣れていく」「人を殺(あや)めることに慣れていく」――これは長編ドキュメンタリー『沈黙を破る』の1シーンで語られる元イスラエル兵士のセリフだ。本作がイスラエル軍の侵攻にさらされ続けるパレスチナ問題を扱うテーマゆえに、中東の悲惨な現状を伝える(ともすれば教育的な)内容だと思う人も多いだろう。

 だが、『沈黙を破る』の本質は、戦争ではなく、占領下に生きる“人間そのもの”を軸に据えたことにある。イスラエルパレスチナ問題の言わば“占領している側”、つまりイスラエル側の衝撃的な証言を中心に構成される本作の監督は、同地を20年以上取材し、数百時間の映像を撮影し続けてきたジャーナリスト、土井敏邦。「人を殺すことに慣れていく」ように、虐殺を続けてきた元イスラエル兵士の肉声は、そんな監督が取材した圧倒的なリアリティをもって胸に突き刺さってくるのだ。

 2002年春、イスラエル軍によるヨルダン川西岸の難民キャンプへの侵攻が行われた。本作では、敵軍の包囲や破壊行為におびえ、子供の泣き叫ぶ声が響き渡るパレスチナの難民キャンプの姿を映したうえで、占領地における破壊行動を公に曝(さら)した元イスラエル兵士たちの告白へと移っていく。

「ゲーム感覚で住居を破壊する」「エスカレートしていく暴力性を止められない」「自分が怪物であったことに気づく」など、イスラエル軍の元兵士たちは、自らの人間性・道徳性を完全に麻痺させなければ困難であった占領下での任務を語る。そして、その心の闇が今だに自分たちを苦しめ続けることを吐露する場面で、戦争がもたらす傷痕の深さをまざまざと見せ付けられるのだ。

 土井監督は、さらに“沈黙を破った”青年たちを取り巻くイスラエル社会の反応も追う。元兵士たちの告白を聞いた両親、国会における政府との討論、自分の娘を自爆テロで失ったにもかかわらず青年たちを支援する父親など、その反応は実に様々。ひとつの事象を多面的かつ重層的に捉えることで、イスラエルパレスチナ問題の根深さ、そして解決の糸口を探ろうとする土井監督の意思と、ジャーナリストとしての視点の鋭さが伺える。

 2008年末から2009年初頭にかけて、再び(パレスチナの)ガザ地区イスラエル軍によって侵攻され、その時の兵士からの告白がリアルタイムでこぼれ始めてきている。いま、世界で起きている事実を知る意味でも、スクリーンで観る価値のある1本であることは間違いない。【ワークス・エム・ブロス】