zames_makiのブログ

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渡辺文樹監督対談

鈴木邦男×渡辺文樹 対談 雑誌「創」での対談、2007年ころ?)

鈴木:渡辺さんはポスター貼りをめぐって逮捕までされているし、たった一つの映画でこれだけ弾圧されたのは史上初めてですよね。僕は平成の日蓮だと思っているのですが。
渡辺:本当ですか(笑)
鈴木:左翼だってだらしない、誰も応援しようとしないのだから。
渡辺:別に自分はトラブルメーカーだと思っていないですが。一つは警察が悪いんですよ。私のことを地方に行ってもマークしているし、中には会場を借りようと名前を出したでけでもめることもある。
以前トラブルになっているからとか理由をつけるが、表現活動に対してそんな門前払いで、会場を貸さないというのは許せない。これについては損害賠償請求などで徹底して追及してやるつもりです。横浜YWCAでは地裁に仮処分申請をして、上映当日に許可されたこともありました。
鈴木:一度会場の使用許可をだしたものを「右翼が来て混乱して安全が保てない」では不許可にできない。混乱の恐れがあれば、現場で警察が取り締まればいい、というのが裁判所の判断ですね。
渡辺:仮処分申請を始めてやったのは2000年の徳島のとき。
鈴木:裁判所もその点ではいいことをした
渡辺:前例となりますから他の県でも簡単に断れない。地方自治法第245条や憲法もあるので隣の県で断ったからうちもとはできない。
鈴木:僕らもポスター貼りで捕まったことはあるけど、5時間くらい。長くてもせいぜい1日で釈放されます。渡辺さんの16日間というのはありえないですよ。渡辺さんもよくがんばったというか、馬鹿馬鹿しいというか。
渡辺:時間の無駄ですよね(笑)。でも彼らはなんでもしますよ、留置場に入ってからも、刑事の暴言・暴行、嫌なことがありました。


鈴木:2000年の徳島では、件のホールの使用許可を取り消されたので、抗議の話し合いに行ったら、また騒動になったのですね。
渡辺:徳島県が「取り消した理由を説明(書類で開示)するから県庁に来てくれ」と言ったから行ったけど、書類も何もできていない。でもって「あんたやり得でしょう」と馬鹿にしたことを言う。頭にきて「そういう話はないだろう」と職員につめよって少し触ったらバッタリ倒れた。
 あんまりわざとらしいので私も笑った。でも近くに目つきの悪い奴がいてそいつが刑事で「傷害罪だ、暴行罪だ」と叫んで逮捕されてしまった(笑)。
鈴木:普通、県庁に公安警察が、たまたまいるなんて、ありえないですね。
渡辺:こういうシステムは怖いと思った。いくらでも犯罪者をでっち上げられる。
鈴木:それでなんと3ヶ月も徳島拘置所にぶちこまれたんんですね。僕もひどいと思って会いに行った。でも釈放された後は裁判に訴えて、きっちり落とし前はつけたんでしょう?
渡辺:結局、9月には釈放されたんですが、すぐに徳島県を相手に1100万円の損害賠償請訴訟求を起こしました。その一方で、2000年の10月は徳島県での復活戦として、先に話の出た別の会場使用をめぐって、仮処分申し立てを行い、高裁の決定を受けて上映を敢行したのです。
鈴木:そんな目にあいながらも、その後もめげることなく、各地で上映を続けている。右翼が攻撃してこようが、会場使用許可が取り消されようが、一切上映はやめない。文字通り1人で体を張って、警察・右翼と戦っているわけですね。
 僕は本来渡辺さんと逆の立場だけど、思想の自由、表現の自由のために命を懸けて戦っている点では素晴らしい人だなと思うんです。今時のライターや表現者にそこまでやる人っていない、何か圧力がかかると言論妨害とか言うくせに、すぐ自主規制してしまう。


鈴木:ポスターを自分で貼って、会場受付も映写機回すのも自分でやって、コストかけないで映画を上映している。これは新しい方法ですね。
渡辺:映画の原点ですよ。ポスター貼りなんてヨーロッパでは自由にできるんです。「島国根性」をパリで上映したときなんか、街中の告知板は自由に使えました。告知板はパリ市内のあちこちにあって、糊でべたべたポスターを貼れるんです。
 日本はそういう環境作りはやらないでおいて、ポスターを貼ったらだめだ、街の美化だとか言ってるからおかしいんです。しかも違法広告なんて東京にはいくらでもあるのに、そういうのは取り締まらないで映画のポスターだけ取り締まる。
鈴木:会場側は映画の内容がわからなくても許可するものなんですか?
渡辺:検閲は禁止されていますからね。だから内容まで詳しくチェックしてから会場を貸すかどうか決めるのは違法行為なんです。書類にインチキを書いたり、有料を無料と書いたりしない限り、書類を提出したらすみやかに会場を貸し出さないといけないと、定められているんです。
鈴木:でもって警察や右翼からのクレームであわてて上映許可を取り消すんですか?
渡辺:私の映画に反対するのは、政治家と警察の2つが大きいんです。文教関係の県会議員なんて私の映画を見てもいないのに電話してくる。「どんな映画だ?」「あんた天皇に対してどういう考えなんだ?」とかね。
 だから「どんな考えでもいいだろ、こっちだって条例で守られているんだ」と言い返す。すると「そんなのは認められないからな」と言うので、「やるならやってみろ」となる、すると「よーし、見ていろ」と言って相手は電話を切るんです。
 そうするとたちまち、会場使用許可取り消し、などと行政から連絡が入る。彼らも巧妙ですから、何か理由を考えてくる。


鈴木:僕の所には、天皇をテーマにした映画を作った製作者から何回も相談を受けたことがある。映画を僕に見せて「右翼が来ますかね?」と訊いてくる。彼らは「右翼が来たらやめる」「右翼が来ないなら上映する」という考えなんです。みんな度胸がないんです。
 天皇をテーマにした映画で右翼が来ないような映画は最初から影響力がないと思った方がいい。僕は「来たっていいでしょう、話し合えばいい、それでもだめなら警察を呼べばいい」と言うんです。
 よく街宣車がくるからどうのと言いますけど、一般の映画館ではスクリーンを切ったりもできる、ああいうのが一番怖いようですね。
渡辺:スクリーンは300万円くらいもするようで、実害が大きいですよ。
鈴木:本当に映画をつぶそうと思ったらスクリーンを切るか、消火器をまくかですね。でもそれもその気になれば警備もできますね。
渡辺:街宣車でおしかけてデモンストレーションをやる場合は、逆に言うとそれ以上はおこらないようですね。彼らもどこまでなら逮捕されないと知っているようで、それ以上の実力行使はしないようです。
 会場内には警察もいるし、威力業務妨害で捕まって3ヶ月拘留されるのは嫌ですからね。私だってやるならやってみろ、何かあったら半殺しの目にしてやる、位の気持ちでしますしね(笑)。

鈴木:デモンストレーションはあくまで思想運動の範囲ですからね。
渡辺:右翼に会場に入ってもらって映画を見てもらうのはかまわない。でも公安警察は入場客をいちいちチェックしていて、怪しいと思ったら一緒に会場までついてきて近くに座って見ていたりする。場合によってはその客を「ちょっと、ちょっと」とロビーに呼び出して、「あなたどういう方ですか」とか訊いてる。私の許可もなく失礼ですよね。
鈴木:右翼だって、きちんと映画を見て議論する分には良い訳でしょうにね。でもほとんどの場合映画を見もしないで、けしからんと言うのが多いけど。
渡辺:彼らもじかに話してみると何でもないんですよ。「どういうつもりでこんな映画を作るんだ」というから、私も「別に天皇をバカにしているわけではない、問題提起のために作った映画ですから」と説明するんです。そうするとそれ以上暴力はふるったりはしない。
鈴木:右翼の人にも映画をもっと見てもらって話し合う場があった方がいいんですよね。
渡辺:今、行政は思想的なものや、危ないと思ったものは、みんな「やめておけ」となっちゃうでしょう。問題ですよね。