zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

敵こそ、我が友〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生(2007)

2007年/フランス/90分/ヨーロピアンビスタ/35mm/ドルビーデジタル
原題:MON MEILLEUR ENNEMI 英語題:MY ENEMY’S ENEMY
監督:ケヴィン・マクドナルド

9/6(土)から1日3回上映、11:30/13:35/15:40 (毎週水曜日1,000円均一 )
テアトルシネマ銀座〜9/19

ナチスの男は、なぜ裁かれることなく、長年自由の身でいられたのか。その謎から戦後史の裏側を暴く、衝撃のドキュメンタリー!

クラウス・バルビー―――先天の怪物か、戦時の産物か!
彼は、1935年に22歳でナチス・ドイツ親衛隊に所属してから、1987年にフランスでの裁判で“終身刑”を宣告されるまでの50数年の間に“3つの人生”を生きた。それもとびきり残虐で欺瞞に満ちた人生を。
第1の人生は、ドイツ占領下のフランスで、レジスタンス活動家やユダヤ人を迫害、<リヨンの虐殺者(Butcher of Lyon)>の異名を持つ、ゲシュタポとして。
第2の人生は、戦後のヨーロッパでアメリカ陸軍情報部のためにスパイ活動をしていたエージェント・バルビーとして。
第3の人生は、南米ボリビアにおいて、軍事政権を支援、チェ・ゲバラの暗殺計画をも立案したクラウス・アルトマンとして―――。

バルビーの一生は、政府や秘密組織との醜悪な関係なしには成り立たなかった。大戦後、ドイツとかつての敵国であったアメリカは、バルビーがナチス戦犯だと知りながらも、冷戦を勝ち抜くために対ソ連の諜報活動に利用した。しかし、間もなくバルビーの素性をフランス側に察知されると“ラット・ライン”を使い、彼を秘密裏に南米へと逃亡させる。“ラット・ライン”とは、まさにねずみの抜け道の如く、国外への逃走ルートを意味し、その策動にはバチカン右派の神父たちが深く関わっていたのだ!多くのナチス残党が海を渡ったその陰で、カトリック右派の聖職者たちがうごめいていた。
1951年、“アルトマン”の偽名を使い、バルビーはボリビアへ到着。1964年、クーデターでボリビア軍事独裁政権が誕生、背景にはバルビーの暗躍があった。時を同じくして1966年にチェ・ゲバラウルグアイ人に変装し、ボリビアに潜入、ゲリラ活動を開始する。反帝国主義を掲げるゲバラに対し、生涯を懸けて反共主義を貫くバルビー。対極にある2人の数奇な運命がここで交錯する。


                                                                            • -

本作は、バルビ本人の肉声はもちろんのこと、レジスタンスの英雄であるジャン・ムーラン、バルビー裁判の模様、チェ・ゲバラの演説風景や無造作に横たえられた彼の遺体などの貴重なアーカイブ映像と豊富なインタビューとで構成されている。これらの映像と新たな証言の数々は、どんなスパイ小説や劇映画をも凌駕し、我々に真実を訴える。
「戦争が終結してから60年を経た今も尚、国家や政府は得体の知れない組織や個人と関わって、成果を上げている」という監督の言葉に、本作の扱う現代社会に通ずる今日的なテーマが明示されている。/images/1304608436.pdf


(自分のためのメモ)
映画は次々にインタビュー場面をつなげてずんずん説明する欧米風の割合普通のドキュメンタリーでしたね。日本ではドキュメンタリーでも劇映画的なクライマックスのある、割合興奮を誘うものが多い(というかそう作られる傾向にある)ので私はどうもこういう工夫のない映画は好きません(というか退屈)。
 そしてフランス人にとっても、この映画は戦時中リオンで多くのフランス人を殺したフランスでは有名なナチの殺し屋の経緯を割合素直に描いたものだったと思います。バルビーは結局「色々あった」けど、1980年代にアイヒマンと同様南米から連れ戻され、死刑(無期刑)を宣告された、勝利!が映画の基調でしょう。しかし映画はバルビーの弁護士の弁(バルビーは当時の法の下で合法に活動した、結局戦争なんだから有罪ではない)を大きく取り上げて疑問を投げていたと思います。フランス的にはこの「戦時中は合法」の方が効いていたと思う。
 しかし日本人から見てバルビーが死刑なのは当たり前でしょう。だから退屈。ただ問題は「色々あった」こと、即ち戦後1950年までにバルビーが欧州全域においてアメリカの秘密機関の一部として反共活動を行ったこと。この姿を高橋氏の言うように昭和天皇に重ねて見られたか否かでしたね。
 残念ながらそこまで私の知識と認識はまだ開発されていない、やっぱり高橋哲哉氏はすごい!というのが変てこだが私の映画の感想。ただ将来そうした「反共と自己保全のために国民と沖縄を売った昭和天皇」の姿を誰か書いてくれれば分かるようになるかも?

映画評(読売新聞 2008年8月14日)

歴史の裏側えぐる力作
 「リヨンの虐殺者」と呼ばれたドイツ人、クラウス・バルビー(1913〜91)の生涯をたどるドキュメンタリー映画。歴史の闇(やみ)に葬られかけた、戦争の世紀の裏側をえぐる力作だ。

 バルビーは22歳でナチス親衛隊に入り、ドイツ占領下のフランスでレジスタンスを迫害。戦後の混乱期を旧敵国のスパイとして生き延び、さらに南米ボリビアに渡って、軍事政権樹立やチェ・ゲバラ殺害計画の黒幕として暗躍した。

 謎の多かったその半生をケビン・マクドナルド監督が徹底追跡。膨大な史料や証言を通して、ナチスへの忠誠心を終生失わず、アンデス山脈に“第四帝国”の創設を夢みていた男の実像を白日の下にさらした。

 任務に忠実なゲシュタポが、それゆえに視野狭窄(きょうさく)に陥り、ゆがんだ信念を凝り固まらせていく。容赦のない拷問、ユダヤ人孤児三十数人の強制移送、そして謀略と裏切りと暗殺。想像を絶する半生だが、そんな彼に戦後40年近くに及ぶ自由を許したのは国家間のパワーバランス、なかんずく、反共工作に彼を利用しようとした米国だった。

 個人史を追うことで時代を描き、国策という名の犯罪を暴く。地道な取材に基づいた事実の提示に、監督の矜持(きょうじ)をみる思いがした。極力予断を排し、見る者に判断をゆだねる姿勢もすがすがしい。 (中村桂子