zames_makiのブログ

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オペレーション・クロマイト(2016)仁川上陸作戦

原題:OPERATION CHROMITE 110分 韓国 公開:2017/09/23
監督:イ・ジェハン 脚本:イ・マニ、イ・ジェハン 音楽:イ・ドンジュン
注:以下では朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮ではなくDPRKと書く
出演:
イ・ジョンジェ(チャン・ハクス:潜入する特殊部隊の指揮官)元はDPRK軍軍人、思想理由で父親をDPRK軍に殺されたのでアメリカ側に寝返る、機雷敷設図を狙い侵入するが、ばれて力ずくで対決する、善人の主人公
イ・ボムス(リム・ゲジン:DPRK軍指揮官)仁川の防衛主任、ソ連軍学校で学ぶ、狂暴な悪役
リーアム・ニーソンマッカーサーアメリカ軍最高指揮官)東京にいるだけ、物にはくをつけのための役
チン・セヨン(ハン・チェソン:DPRKの看護婦)仁川の住人で看護婦、DPRKの熱心な支持者だったが、なぜか寝返る

感想

派手なアクションと付けたり的に哀切さを入れた娯楽戦争映画。星3つ。朝鮮戦争の際のアメリカ軍の仁川上陸作戦そのものを描いたのではなく、事前に機雷敷設図面を入手しようと潜入するアメリカ軍側についた寝返ったDPRK軍人の特殊スパイ部隊の活躍を描くもの。DPRKの仁川防衛主任が敵役で、徹頭徹尾暴力的で残忍でずるがしこい奴として立ちはだかり戦闘を行い、最後は倒される。これは歴史的事実ではなく、一種の架空戦記ないしは「ナバロンの要塞」や「戦略大作戦」のような類似の作戦(おそらくX-RAY作戦)を映画的に勝手にふくらませたものである。
 映画でDPRKに侵入する特殊部隊8人と現地レジスタンス(仁川に住んでいるが事前にアメリカ側についており、秘密裏に協力する民間人)は、華々しく戦闘を行いやたら数多くDPRK兵士を殺し、追い詰められてもまんまと逃亡し、最後は圧倒的に強力なDPRK軍を倒して、仁川上陸作戦を成功に導く。特殊部隊は元DPRK軍人だがアメリカ軍と緊密な連絡を取る、優秀で強力な完全な部隊だ、それがどこから来て、なぜそんなに優秀なのかの説明はない。また仁川でこれを支援するレジスタンスも、アメリカ軍と連絡をとり武器で戦う完全なレジスタンスであり、なぜそんな強力なグループが存在するの説明はない。
 当時仁川はDPRK占領下であり、港湾や軍事施設だけでなく、地域全体をDPRKが支配しておりこうした設定は非現実的である。特に特殊部隊の素地がばれて追われる身になっても容易に逃げおおせ、更にはアメリカ軍と連絡し、灯台のある島に渡ってアメリカ軍の空爆の直後にDPRK兵士を倒すという筋立てはあり得ないものだ。また仁川現地の看護婦は、当初は熱烈なDPRK支持者だったのがなしくずし的に命をかけてでも特殊部隊に協力するようになるのであり、説得力に欠けている。主人公の特殊部隊指揮官はいかにも善人だが、父親を殺されたから寝返ったようだがそれはだいぶ以前の事件であり、なぜこの時点でこんな危険な任務をするか不明だ。一方DPRK現地防衛指揮官は最初からいかにも悪役のつくりであり、この対照的な主要3人の配置はこれがでっち上げの娯楽映画だと観客にあからさまに宣言しているとしか思えない。
 このように物語はとても非現実的で架空のものだ、しかしこの架空の水準は例示したアメリカの多くの娯楽戦争映画と同じ程度のものだろう。戦闘アクションは非常に激しく現代的である一方、「DPRKに親兄弟を殺された」「戦争で家族が引き裂かれた」などの描写もあり哀切さも訴えておりそこだけ見れば真面目な映画もしれない。だが全体があからさまに娯楽的なので、2つの感情が共存しているのがとても居心地悪く感じる。
 推測だが、おそらく韓国人でもこの映画に素直に共感し楽しめる者はいないのではないか。楽しめるのは朝鮮戦争を純粋なアクション映画の素材と割り切れる悪趣味な韓国人、ないしは歴史をまったく知らない者しかいないと思われる。観客はいくばくかの居心地の悪さを感じるだろう、しかし同時に多くの観客は「これは嘘だ」と感じながらも、「DPRKは悪い、残虐だ」「なんやかや言ってもアメリカは頼りになる」と感じて帰ると推測できる(でなければおよそ興行は成立しない=映画はできても上映はできない)。そして同様に戦争に無知な日本人も「多少演出されているがおおむねこんなもの」と感じて帰るのではないか、それは一種の洗脳であり、意図せぬプロパガンダであろう。
 アメリカの戦争映画ではそうした歪曲・プロパガンダが日常的に行われるが、ついに韓国映画にもそれが及んだという意味で興味深い作品だ。