zames_makiのブログ

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オペラ「いのち」(2013)原爆オペラ

=感想:残念ながら出来事の表面だけをなぞった綺麗事に終わった原爆オペラ。爆発時の惨状とその後の原爆症におびえて生きる被爆者など、厳しいテーマを正面から取り上げたが、台詞・物語構成・音楽など全て綺麗事で、新しい感動、新しい事実やメッセージ、また音楽だけがもたらせる直接的な感動体験(あるいは苦しみの体験)などまったく提示できていない。映画でも難しいこの主題をオペラという、より具現化しにくい手法で何をしたいのか疑問を持ち、また期待もしたが残念な結果になった。被爆直後の苦しみなど、映像や物語では詳しく描けない感情も、音楽ならばもたらせると思われる体験(感情体験)も、メロディーなどの音楽や、又脚本にもその意図はなく、何もない。あるのは上っぺりな台詞だけだ。オペラの構成自体が伴奏音楽にのせて節のついた台詞を連ねる台詞オペラの形式になので、終始音楽に期待ができない。また脚本にも台詞にも感動をもたらすだけの力はなく、2時間の枠に納めるための”まあまあ”のものしかない。原爆映画では被曝直後の惨状や被爆者の苦しみは短いシーンでしか表現できず表現できていないとの批判を呼ぶが、このオペラでは第2幕をまるまるそれに当てたが、簡略化されたセットと下手な台詞という極低予算の原爆映画程度の表現力しかないのは誠に残念だ。また第3幕では被爆した女性の結婚への恐れと悲しい結末という物語だが、全体が単なる台詞劇であり、更に苦悩とある種の感動を呼ぶべき結末部分が、省略され字幕で表現されており白ける。恐らく被爆者への配慮(被曝の苦しみ=被爆者の死、を強く表現すると彼らがいやがる)のためだろうが、2015年にこの主題を何のために製作するのかという本来的な目的を見失っている。それは被爆者のためであるべきではない(もしそうならまったく違うエピソードがふさわしいだろう)。関連してこのオペラは「原爆は戦争が悪い」「日本は核兵器廃止の先頭を切るだろう」と馬鹿な事を言っているが、第五福竜丸事件の起きた50年代ならいざしらず、2015年にそのような綺麗事では済まされないのははっきりしているはずだ。それぞれ「原爆はアメリカのおこした非人道的な行為で、それ故禁止されるべきだ、しかし未だ国際社会では認められていない」「”日本政府は今も核兵器は禁止されるべきではない”と言っている、それを覆すのは日本人の民主主義の力しかない」であるべきだ。昨日「ヒロシマの証人」という素晴しい映画を見ただけに期待したのだがとんでもない駄作オペラだった。

日時:2015年7月25・26日
場所:新国立劇場 中劇場
入場料:S席 10800円(税込み)

平成27年新国立劇場 地域招聘公演 長崎県オペラ協会 オペラ「いのち」全3幕〈日本語上演〉
芸術監督:星出 豊 作曲:錦 かよ子 台本構成:星出 豊 
主催:オペラ「いのち」公演実行委員会/(公財)新国立劇場運営財団
上演予定時間:約2時間45分(1幕45分 休憩20分 2幕30分 休憩20分 3幕50分)
指揮/演出:星出豊 演出:補馬場紀雄 美術:川口直次 照明:奥畑康夫 音響:関口嘉顕 衣裳:下斗米雪子・小林利律子
管弦楽:OMURA室内合奏団 合唱:長崎県オペラ協会合唱団、長崎県オペラ協会児童合唱団 バレエ:かとうフィーリングアートバレエ

概要

戦後70年、世界の人々に伝えたい長崎からのメッセージ

『いのち』は長崎県オペラ協会の芸術監督である星出豊の台本構成、錦かよ子の作曲によって2013年8〜9月に長崎ブリックホール 大ホールで初演され大好評を博しました。長崎原爆で被爆した女性の恋愛を通じて、命と平和の尊さを描いたオペラです。本プロダクションは、2014年7月に第11回三菱UFJ 信託音楽賞奨励賞を受賞しました。

ものがたり

【第1幕】松尾医師は妻の夏子を原爆症で亡くした。彼は墓参りの帰り、僧から妻が大好きだった"つつじ"を貰い、彼女の幻影に出会ったのではないかと錯覚し号泣する。自分の過去を振り返り、子供たちに戦争の悲惨さを、そして"いのち"の大切さを思う松尾は、日本の歴史の中でも大切な事件の一つ、宗教弾圧を語る。
原爆投下の日、松尾は福岡に出張中で被爆しなかった。恩師の山田医師は長崎で診療中に被爆した。看護婦の夏子は防空壕に入る間際に閃光を浴びた。この三人の心の葛藤が描かれる。1957年、死を目前にした山田は、松尾に自分の被爆経験を語ろうと決心をする。

【第2幕】原爆投下日、浦上地区の人々は必死に裏山から逃げ道を探した。山田医師夫妻は出張をしていた病院で被爆し治療を行っていたが、自分の病院が心配になり移動する。被爆した人たちが次々に登場し、そのうちの一人の子ども、奈々子が戦争と変わってしまった人間の心を歌う。夏子は急ぎ病院に駆けつける途中、この場所を通り奈々子に会う。夏子は奈々子を助けたつもりでいたが......。

【第3幕】戦後14年初秋、山田医師の後を継いだ松尾と夏子がグラバー邸を訪れ、元入院患者たちに偶然再会する。被爆者の話をする彼らに同情するが、自分の病状を松尾に隠している夏子はあまり多くを語らずわかれた。松尾と夏子の愛は深まるが、何回求婚しても夏子は返事をはぐらかす。そして夏子は倒れてしまい、病院に運ばれる。
被爆者である担当女医岩村は、夏子の心を救うために、自分の過去と夏子の病状を初めて松尾に告白する。松尾は夏子の好きな"つつじ"の絵を持って病室を訪れ、もう一度結婚を申し込む。夏子は自分の"いのち"の短さを感じながらも、その心に変化が起きる。1960年結婚、翌1961年夏子死す。大合唱の中、梵鐘の音と教会の鐘の音が聞こえてくる。