zames_makiのブログ

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ヒロシマの証人(1968)主張明確で認識の正しい優れた原爆映画

=メッセージ性、主張が明確で、被爆者の状況認識が正確な優れた原爆映画。「原爆はアメリカが落とした」「被爆者は今も原爆症で死につつある、死の恐怖の中で生きてる」「被爆者は援護法では生活できない、もっと支援が必要だ」「原爆差別は現にある」「広島市?は被爆者の窮状を顧みることなくを原爆スラムから強制退去させようとしている」など。多くの原爆映画があるが、原爆の爆発の恐怖=大量の死を文学的に描く作品がある一方、被爆者の窮状を描く映画もある。この映画は後者の中ではその内容の豊富さ、認識の正しさ、メッセージ性の強さ、演出力、脚本の出来映えなどで最高作だろう。原爆スラムに住み、原爆症による死の恐怖におびえ、被爆者差別からのがれて細々と生きている被爆者の窮状が、起承転結明確なきちんとした脚本による筋立てと、実力ある俳優陣の演技、きちんとした演出で、観客によくわかるよう描かれている。冒頭から血液検査で容態悪化を告げられながら生活のため働かざるをえない母親の厳しい姿を見せ、ケロイドをおって外出できない若い娘や、小頭児で今も子どものような23才の娘など、多くの原爆映画が婉曲表現にしたり曖昧にしたりする厳しい姿を正面から見つめている。それらはけして怖いもの見たさの興味本位ではなく、この映画の主張である「被爆者により支援を!」「核兵器廃絶を!」の前提として踏まえておくべき事実の提示である。

 特筆すべきは映画中でABCCが「原爆によって起きるとABCCが定義した病変以外は例え多発しておてもそれは原爆症=原爆による健康被害ではない」という論文を発表している事で、これは現在の福島で子どもに多発している甲状腺ガンに対してとっている福島県の態度とそっくりであることだ。福島県は多人数の検査により発見された福島の子どもの甲状腺ガンを、『その起こりかた・数・発症時期がチェルノブイリでのおき方と違うからそれは原発事故によるものではない』としている。目の前で起きている放射能による健康被害という事実を科学的に無理な論理=嘘でないことにするやり方である。それは既に広島でABCCにより行われていたことだったとは!アメリカとそれにおもねる対米従属が本能と化したの日本政府の悪行は恐ろしい。

私はこの映画を今回初めて見たが、もっと頻繁に上映されてしかるべきなのではないか?原爆映画といえばケーブルTVなどでは新藤兼人氏の「原爆の子」ばかりが上映されるが、あれは原爆にも被爆者の状況にも非常に限定的で婉曲な映画だ。あれを放送するならば同じ時期に作られはるかに内容豊富な関川秀雄氏の「ひろしま」(1953)を放送すべきだろう。関川秀雄氏の「ひろしま」もこの「ヒロシマの証人」も上映機会が少ないのは明確にアメリカの責任を述べているためだろう。事実から眼をそらせ無意識に対米従属を行っているのは日本政府だけではないと感じる。

1968年 日本 上映時間:110分 製作:「ヒロシマの証人」製作上映実行委員会 配給:共同映画 モノクロ スタンダード
監督:斎村和彦 脚本:斎村和彦 製作:門真文一、赤城明、山口逸郎

出演:
望月優子(安芸野道子)主人公。広島病院で雑役婦をしている。被爆していないと娘にも嘘をつくが突如発病し死ぬ
高毬子(安芸野康子)主人公。その娘、広島病院の看護師、健康的な現代娘。自分の境遇にショックをうけるが、やがて受け入れ、立ち退き反対にも立ち上がる
山本学(根本晋吉)主人公。広島病院の医師。ABCCの被爆者の健康被害を過小評価する論文に反発、自分のカルテから小頭児(胎内被爆者)などを調査、反論を医師会で発表する。そのため中央から移動命令が来る
河野秋武(宗川仁)広島病院医院長、被爆者の治療に長年あたり、根本医師をサポートする。
井川比佐志(山岸宏之)原爆スラムの住人。かつて暴力団に所属した乱暴者で立ち退きを迫る”広島事務所”(広島市と思われる)の役人をなぐり入牢する。獄中で自分の行為はアメリカのした事に比べればほんの小さな事だと強く言う。
阪口美奈子(石原せつ)原爆スラムの住人?。原爆症で体調が悪いが子どものため無理して働き死ぬ被爆者、残されるわが子を「被爆していない」という理由で道子に託す
磯村みどり(谷美代子)妹が胎内被爆者の被爆者。若い娘だが1日室内で編み物の仕事をしている。その美しい顔の半分はケロイドで覆われている。?
永田靖 (千後滝昇)原爆スラムの住人?立ち退きに反対する。
大友純 (菅平吉)やくざ?死亡した被爆者の情報をABCCに売る。また康子を強姦しようとする。

あらすじ

1960年代、原爆症で亡くなる者が後を絶たない。貧しい被爆者たちが暮らす相生地区は、団地の建設計画によって立ち退きの対象となる。死の恐怖と生活苦に苛まれる被爆者たちは、やがてABCC(米国原爆傷害調査委員会)の非人道性を批判する医師たちとともに立ち上がる。被爆者を核戦争のモルモットとしてしか見ないアメリカ政府と、放射線の影響を軽視し、被爆者を切り捨てる日本政府の姿を告発し、原爆被爆のもたらす非人道性を浮き彫りにしている。