zames_makiのブログ

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オール・イズ・ロスト(2013)海洋漂流映画

=従来漂流譚を裏切る意外性とドキュメンタリー的演出の意外性に優れる
原題:ALL IS LOST 副題:〜最後の手紙〜 106分 製作国:アメリカ 配給:ポニーキャニオン 公開:2014/03/14
監督:J・C・チャンダー 脚本:J・C・チャンダー 音楽:アレクサンダー・イーバート
出演:ロバート・レッドフォード(Our Man)我らの男
【解説】大海原で単独遭難し、極限のサバイバルを強いられる男を一人芝居で熱演して絶賛された感動の海洋ヒューマン・アドベンチャー。自家用ヨットに乗りインド洋をたった一人で航行する男。ある日、大きな漂流コンテナと衝突、船体に穴が開いてしまう。運悪く、浸水によって全ての電子機器が故障してしまい、通信手段を失ってしまう。絶望的な状況の中、男は生き延びるために必要な作業を黙々と行っていくが…。
オフィシャル・サイト=http://allislost.jp/

感想

「ライフオブパイ」で海洋漂流に関心があり視聴。
ただ男の遭難と漂流の過程だけを追ったドキュメンタリー的作品で、台詞がない事、ドラマチックな設定や演出がない事、主人公が裕福で怠惰な老人であり海洋漂流物語の常識を覆す事で観客にアピールしようとした作品だ。
 結論的には結末を除いてはかなり面白かった、起伏のない物語だが、常識を覆すという点で興味を引かれた。ただそれだけに題名通り死への道のりであり息苦しい話であること、出演者一人で転換がない事、などあまり一般受けしないだろう。そして結末はとってつけたようなハッピーエンドであり、結末に意外性や創造性がないのがつまらない。結末が主人公の死であり、その死が何かを意味できれば哲学的に興味深くなるがそういった奥行きはない作品であり、常識を覆すの単一アイデアの簡単な映画だ。
 物語はインド洋をたった一人でヨットで寛ぐ男が漂流してきた大型コンテナと衝突、台風で浸水沈没し、救命ボートで漂流し何度も船舶の近傍を通るが無視され死に瀕するが、最後についに救命水上艇により救われるという話である。
 海洋漂流はロビンソンクルーソー以来、物語の蓄積があるが、この家が派それを様々な点で常識を覆している。まず主人公が老人で何をするにものろく、体力もなく観客をがっかりさせる。海上生活も疎く浸水への備えなどなく1回の衝突ですぐに無線を失いヨットの修復もできない無能な男だ。大丈夫だとの慢心で衝突後も酒を飲んだり昼寝をしたりで切迫さがない、六分儀の使い方も知らない。又もしも遭難への備えがなく、ボートに危機発信通信機も、太陽光真水製造器も、真水や食料の備えもない。最悪なのは船舶へのアピールの下手さで信号用発煙筒や打ち上げ式花火の使い方がまずく気づかれず、最後にはたき火でアピールしようと自分で救命ボートを燃やしてしまい死に瀕する。なんて馬鹿な男なのだろうと観客に思わせるがその主人公でも登場人物が彼一人だけなので最後まで見てしまうのである。
 現実には最後は主人公は死んだだろう、だが商業映画としてそれではあまりに救いがなく不快感が強すぎるので救われる事にしたのだろう、だが馬鹿馬鹿しい結末だ。
 「太平洋ひとりぼっち」や「ライフオブパイ」の主人公は若者で常に全力でゴール行動し危機にも諦めず前向きだが、現実には大多数の遭難者は事故後24時間以内に死亡しており、その原因は諦めであるという、その点でこの映画は現実に近い。また実際に大洋を進行しているヨットの多くはこうした「老人の金持ち」であり、慢心で準備を怠り、危機でものろのろしているだろう。
 台風でヨットが2回も完全に転覆&回復し、救命ボートも転覆するなどの描写は現実的で怖い。ビルのように巨大な貨物船が目の前にいながら遭難者を気づかず通り過ぎるのはもっと残酷だ。現実の遭難はこの映画のように徐々に最後に向かって進む残酷なプロセスだろう。その点で題名「全部を失う」は遭難の現実を表し正しい。
 ハリウッド的な饒舌&ドン電返し約束の過剰演出映画へのアンチテーゼとしてのユニークさ創造性を持った珍しい海洋漂流映画。ただそれだけにあまり分り易くなく、つまらぬと嫌う人も多いだろう。